能力持ちの全寮学校に入学しましたが、私は普通の一般人。とりあえず平穏にすごしたいんですけど!?

近藤蜜柑

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7月海 7

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「全く大丈夫か?ルピナス」
「はい。ありがとうございます。びっくりしただけです!あははっ!負けちゃった!」
フクジュ先生が手を出してくれた。先生の手は指先が長くてちょっと冷たい。薬品が染み着いた医療研究者の手だ。
違う・・・。
「あ、しょっぱい!」
「ふふっ!でしょ?」
「おもしろいっ!カスミ、海もうこわくない!」
「良かった!」
「あっ!カスミ、アレみたい!」
「アレ?」
「海がわーってなくなって、みちができるヤツ!」
「あぁ。アレは、映画だからな。・・・潮の満ち引きとかが関係するからな。長い時間の間で変化するんだよ」
「ん~そっかあ・・・。水はうらないにつかえるけど、海はパワースポットか・・・。カスミ、池とかみずうみのがすき!」
「泳がないの?」
「うん!コッチのほうが気になるのと、すきなのいっぱいある!」
「気になるのと好きなの?」
「貝がいっぱい!かわいいのさがす!」
「泳ぐよりも砂浜で遊ぶ方が好きみたいだな・・・」
「あははっ!プールには砂浜無いですからね。貝が好きなら潮干狩りとか喜びそうです!」
「あ!良いなそれ!!」

もぅ、普段は気にしてないのに、今日の夢を思い出してしまう。
みんなと手を繋いでいるのを意識してしまう。私、あの手の人を探してる。温かくてしっとりして、優しいあの手を・・・


その時、ザザザ-ッと大きな波に乗っている子に目が行く。上手く波に乗れているが、立つことは難しいみたいだ。浮き輪を持ち少し沖へ向かい、腰の高さまで来て、ボタンに思わず拍手を送る。
ボタンが気づき、こちらにやってくる。
「ありがとうございますルピナスさん!」
「びっくりしたよ!ボタンちゃんがサーフィン好きなんて!」
「意外ですか?最近出来たお友達に教わりました!やってみると楽しくて、専用のボード買っちゃいました!」
夕焼けの銅のようなオレンジから、夜の紫になるグラデーションの綺麗なサーフボードだ!
「あ、このシルエットはボタンの花?」
「はい。わたくし、元々海ではクルーザーで風を感じたり、浜辺で読書するのが好きだったんです」
「あ、イメージそっちだね!」
「うふふっ!新しいお友達が出来て、やりたいと言ったらかなり驚かれてしまいましたけど・・・でも、わたくしの世界はもっと広がったんです!」
「へー!」
「サーフボードを作ったのがバレてしまい、お父様には心配されっぱなしですけどね」
「あははっ!特注品なんだね!」
「はい!一緒にやりましょう!ルピナスさん!」
「うん!」
ボタンちゃんに手を握られる。積極的になったなぁ・・・前までのボタンちゃんならやりませんか?って聞いてきてたのに。
ボタンちゃんの手はスベスベのサラサラ。ハンドモデルみたいな白くて細い、美しい手だ。
・・・違う。

「じゃあ、教えてくれる?」
「はい!!わたくしのボードをお貸ししますね」
「うん、ありが・・・」
なんか、暑い・・・?
「ルピナスさん?大丈夫ですか?」
ボタンちゃんの声が遠くに聞こえる。目眩がしてきて、私は意識を手放してしまった。
「きゃあ!!ルピナスさん!?ルピナスさん!!」
ボタンちゃんの声が遠くに聞こえる・・・あ、冷たい、水の中?
そこで私の意識は途切れてしまった・・・




気づいたら日陰にあるビニールシートで座っている私に、誰かの手が額に触れる。目眩で目が開けられない。
そう。この人だ・・・。この手だ・・・。
「熱中症だな。大丈夫か?」
「ね、ちゅう、しよう?」
思わず寄りかかってしまう。身体が支えられない。夢を見ているのかな?
「へ!いや、そんな関係じゃないし!!」
「どしたの?」
「し、しない!スポドリ飲め!身体冷やすんだ!保冷剤もあるから!」
「んー。しない?」
「ま、まず・・・た、体調!そう!体調を治せ!ストローもある!!」
「・・・?うん?あ、おいしいや」
渡してくれたスポドリを飲む。喉からゴクリゴクリと音がして、相当喉が渇いていた事に驚く。水滴の付いたペットボトルだ。握っているだけで冷たくて気持ちいい・・・
「はぁ、水分補給ちゃんとしろよ・・・」
「ん、ねる・・・」
あ、丁度良い位置に落ち着いた。膝枕してくれてる・・・
「こ、ここでか・・・?」
「おやすみ・・・」
「はいはい・・・」
夢を見た。入試の前日に見たあの夢で、私を支えてくれた人の夢。温かくて優しい手で頭撫でてくれてる。安心もするし、ドキドキもしてる。
「・・・あんまり心配させるなよ?」
やっぱり、いっしょうなかよしになるの、この人がいいな。カスミちゃん、この人、誰だろう?
膝枕してくれてるのが嬉しくて、私はその人の着てる服をそっと握った。


日が沈みかけて夕方になった頃、ルピナスはパラソルの下で眼を覚ました。
「・・・あれ?私、どうしたの?」
「海に落ちたって、ポトスとヤマブキがサーフボートに乗せて、ボタンが泣きながら走ってきて驚いた。熱中症だって先生が言ってたぞ」
アスターが呆れながらやってきた。ルピナスは思い出してきた。
「・・・ごめん」
「謝るなよ。眠れなかったのか?」
「・・・気になる夢見て」
「ふーん」
アスターは右隣に座る。遠くでみんなが遊ぶ声が聞こえている。
「・・・さっきも見てた。あったかくて優しい手が撫でてくれてた」
「手?まぁ、オレ体温は高いけどな」
アスターは不思議そうに自分の手を見ている。ルピナスは、今日1日あの手を探していた事に気づいた。
「・・・手、出して」
「ん?ほい」
アスターは左手の手のひらを相撲取りのように出し、ルピナスも同じように出し、合わせた。まるで合掌だ。
「ふふふっ!砂ついてる」
確かにあったかい。触っていた砂も合わせてざらざらしていて乾燥気味の手だ。

みんな・・・あの夢の手とは違う。ルピナスは安心したような、残念なような気持ちになった。




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