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言えない子

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僕は黙って聞いていた。
いつかこんな日が来るとわかっていた。でも、気づかないフリをしていた。
リーシュが悩んでる事は気づいていた。いつも泣いてるのを知っていた。

必死に押さえている扉を見たくなかった。見えていたけど、知らないフリをして、彼女をその扉から遠ざけていた。
でも、扉は開いてしまった。中にあるものを知ってしまった。わからないフリをしていた。リーシュは、そんな想いを認められなくて傷ついている。

リーシュ、教えてあげる。僕は彼女が押さえきれず、開いてしまった扉の中から箱を取り、彼女の前で開ける。鍵は壊れて開いているが、中身は見なくてもわかる。
君の涙に濡れている顔を上げて、僕は告げる。


「君は彼を愛しているんだよ」


「それは、恋よりも優しく、切ない。見返りを求めない彼を想う君の想いだ」
泣き出しそうになる僕の想いは後ろ手に隠す。君は知らなくて良いんだ。
「・・・」
「今度は否定しないんだね」
「何故でしょう。否定、できません・・・」
「前もこんな事あったね」
「はい・・・」
リーシュは放心状態だ。自分の想いを認めるのに時間が必要らしい。

「あの時、僕は、僕を好きだと、又は彼を嫌いだと言ってほしかった。ずっとずっと変わらない。婚約者だからじゃない。僕はずっと、はじめてあったあの時から君が好きだよ」
表向きの想いは知ってほしい。そう、僕だってリーシュを愛している。でも、リーシュは僕を求めていない。

「ユージュアル・・・」
「悲しませたくない。言ったろ?僕の幸せは君が笑顔でいる事だ」
「私・・・」
「君にはやっぱり彼が必要なんだよ」
「・・・?どういう事ですか?」
「君と彼は、まるで前世の恋人みたいに繋がっている。切っても切っても切れない深い深い奥底で」
「どういう事ですか?」
「それは彼に聞いた方がいい。婚約の解消は、僕からマラクス様に伝えておくよ」
「ゆーじゅある・・・」
子供みたいに泣きじゃくり、言葉を紡ぐ事が難しくなっている。少し待ち、落ち着いた頃を見計らい、差し出す。
ずっと泣いてばかりいたリーシュはもういない。

「彼にはコレを」
「手紙?ずっと用意してたんですか?」
「・・・まぁね。僕はずっと君の気持ちを知りながら、目を逸らすように誘導してきた。僕の側で笑ってほしかった。でも、結局は泣かせてばかりだったね。次に会う時は、仕事相手として接してほしい」

僕はそう言い終わると、踵を返して、歩く。涙が滲む情け無い顔をせめて見られたくなくて!
「幼馴染です!」
「え?」
引き止められて足が止まる。振り向くなんて出来るわけがない。
「仕事相手じゃありません!ユージュアルは、私の大切な幼馴染です!これからも!ずっとです!それは変わりません」
「・・・ありがとう」
そう答えるのがやっとだった。
「でもリーシュ、君も年頃の女の子なんだから、男の服の裾を掴むものじゃないよ?」
振り替えれずに呟いた。精一杯の強がりだった。
「ユージュアルがバカな事言うからです!」
思わず振り向いた。怒っているのに、声がちっともそう聞こえなかった。振り向いた拍子に、涙が流れて頬を伝ってしまい、カッコよく去る事が出来なかった。

あぁ、君は本当に変わってない
いつだってそうだ。人の助けを必要としているのに、そうやっていつのまにか僕の心に潜む闇を取り除き、僕の方が救われている。

今もそうだ。大切だと、ずっと幼馴染で良いのだと、救ってくれた。リーシュ自体は全く気付いてない。君を助ける事で、僕は幸せになれる。

でも、彼女が求めている事は、助ける手じゃない。追いかけたくなる背中と、叱り、見守る瞳だ。
シャズと初めて遭った日にそう理解したけど、認めたくない。僕の方がリーシュを笑顔に出来ると意地になった。

「やっぱり人の心は難しいね」
「え?えぇ?」
どうやら声に出ていたらしい。理解出来ずに首を傾げながらリーシュは答えていた。
「なんでもないよ!ほら、早くシャズのところに行ってその手紙を渡してくれないかい?」
「い、今すぐですか?」
「世話が焼ける幼馴染だね?愛しているんだろう?」
「・・・はい」
「小さい声だね?ほら、行きなよ。嫌なら嫌、欲しいなら欲しいって言えない子は損をするだけだよ?」
「・・・はいっ!」

そう笑って走り去っていくリーシュの笑顔は、今までみたどんな笑顔よりも綺麗で、眩しく、そんなリーシュの笑顔を見る事が出来たのが嬉しくて、でも手放さなければいけないのがやっぱり寂しくて、涙腺が緩んで足元に落ちていった。
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