お嬢様の胃袋掴んでしまいましたが!?

近藤蜜柑

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欠壊

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一方お屋敷では
シャズがいなくなった事に対してリーシュは一言も触れなかった。
あの部屋にも行かなくなり、表情の変化も乏しい。見るからに弱っていくが、しばらくロジー達は見守っているしかなかった。

「困ったね」
「はい、旦那様。状況は酷くなるばかりです。つい先日、また倒れられてしまい、今もお目覚めになりません」
「・・・にしても、どうしてシャズ君の作ったご飯だけ欲したりしたんだろうね?」
「お婆さまの家と味が似ている。ある程度奥様と距離をとりたかったのではと、記憶しておりますが」
「本当にそれだけなのかな?」
「というと?」
「いや、何でもないよ」



ユージュアルは扉をノックしたが、反応がない。
そっと開けて入ると、リーシュはベッドで眠っていた。随分と痩せたようだ。元々拒食症だったが、それでもつい最近までは楽しく食事ができていたというのに痩せすぎだ。
ユージュアルはリーシュの頭をそっと撫でた。


その時だ。リーシュはパチリと眼を開けていきなり飛びついてきた。
「り、リーシュ!」
ユージュアルは胸が高鳴る。しかし、
「シャズさん!」
ユージュアルはサッと血の気がひいた。

「いつの間に出て行っちゃったんですか!私、わかってました!作られたお料理は人の心が宿ります。お屋敷で作られたものは心配の心で、嬉しい反面申し訳ない気持ちでいっぱいでした!」

このままでいたらリーシュの本音が聞き出せる。そう堪えてユージュアルは拳を固く握った。今抱きしめたら、シャズが抱きしめたみたいでプライドが許さなかった。
「でも、シャズさんが作ったものは、悲しみと寂しさの中にあるのに、前を向いていて、見返りを求めない。尊敬の念と愛情を感じていたんです。最初は憧れて、お友達になりたいだけだったのに、私、いつのまにか、この愛情がもっと欲しいと思っていたんです。私だけに向けてほしいって。でも、そんなの私のワガママで、シャズさんをこの屋敷に縛りつけるような事出来ません!」

「やっぱり君は・・・!
「でも、側にいる事さえ出来ないのなら!もうワガママでも何でもいいです!ずっとずっと側にいて下さい!もう離れたくないです!離しません!」

ユージュアルは耐えられなくなり、泣き出したリーシュを落ち着かせようと肩に手を伸ばす。
「・・・っ!ぼ、僕は・・・ユー!
「大好きです!」
「リーシュ・・・!・・・っ!しっかり、しっかりするんだ!!リーシュ!リーシュ!」
ユージュアルはリーシュを揺さぶる。
「あ、アレ?私、いったい。あ・・・」
リーシュの瞳から涙が一粒溢れて頬を濡らし、手の甲に落ちた。
「・・・すみません、夢を見ていたみたいです」
リーシュは眼を擦る。
「ど、どんな夢?」
聞きたくない!聞きたくない!言わないでくれ!!
自分で聞いておいて聞きたくない。ワガママだと理解しても聞かずにいられなかった。

「えっと、よく覚えていないんですけど・・・とても悲しくて、でも、とっても幸せな夢でした」
そう言いながらリーシュは俯き、眼を伏せ、頬を染めた。
「・・・・・・そう。起こしてしまったみたいだね。もう少しおやすみ」
頭を撫でてそう言うのが精一杯だった。
「はい、おやすみなさい」
ベッドに横になるリーシュにユージュアルは微笑む事しか出来なかった。


ユージュアルはそのまま部屋を出た。
リーシュから聞こえない場所まで来ると、固く握りしめていた拳を壁に叩きつけた。痛みを感じる事も今の自分には出来ない。
わかっていた事じゃないか。あの時から気づいていた。


2人は惹かれ合っている。彼と出会い、再会し、接してリーシュは変わった。
1人では何も出来ず、いつも自分が手を貸していた。誰かに助けられていたばかりの彼女は恋をして、自分で立ち上がるようになった。選び、決め、1人で歩き、助けを求めないようになった。小鳥が巣立ち、はばたくように、彼女は成長した。

プロポーズされた時はそこまで誘導した訳ではなかった。
愛情を示してほしい。もしくは、彼を嫌いだと断定してほしかった。

彼女はいま、扉を閉めている。扉に背を向けて必死になって開かないように押さえつけている。
だから、彼の作ったものを急に拒み、涙する。自分では気づかずに本能で彼を欲している。それがフとした時に漏れ出す。
きっと今日みたいな事はこの先幾度となくやってくる。人一倍嫉妬深い自分はおかしくなってしまうかもしれない。

それでも、彼女を手放したりしない。
彼と一緒になったらどちらかが苦労をするのは目に見えて想像できる。
彼女からの自分に対する想いが、彼と違う事はわかっていた。
それでもいい。自分が彼女を愛して、彼女が口では自分を選んでくれるまで。
いつか、この手を求めなくなる日がやって来てしまうのかと思うと、天を仰いだ。
庭の木は蕾が膨らみはじめていた。
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