お嬢様の胃袋掴んでしまいましたが!?

近藤蜜柑

文字の大きさ
上 下
25 / 42

そうだな。

しおりを挟む
ある日屋敷に帰ってくると、屋敷全体に重苦しい雰囲気が漂っているのに気づいた。
ロジーに聞くと、リーシュが帰ってくるなりあの部屋に閉じこもっているらしい。確かにあの部屋にいる事が多くなったのには気づいていたが、相当ヤバそうだ。
でも食事はちゃんと取るようになったし、睡眠もしっかり取っている筈だ。どうしてそんなにも落ちこむのかわからない。一体何があったんだ?

その夜、ロジーに何故かメニューを書いてリーシュが選ぶようにしては?と提案されたがリーシュも嫌がったらしいとユージュアルに却下された。ロジーにどうしたと聞いても困った笑顔を見せるだけだった。

にんじんのお粥を作って数日が経つ今も、全くリーシュに逢っていない。屋敷ならまだしも学校でさえ逢っていない。いくら通学を別にしたとはいえ、廊下ですれ違うことさえ無い。
昼休みは中庭にさえ来ない。どうやらエンス先輩と食べているらしい。先輩に一緒に中庭へ呼んだが断られてしまった。何だか避けられている様で面白くない。

「今回、先輩なんて?」
ビトリーがオレンジのパックジュースを咥えて聞いてきた。
「雨だから外に出ない」
「たははっ。心の中は雨ってか?」
「で、今に降り出すわ。ご愁傷様。だとさ」
「こえ~!」
ビトリーは笑いながら怯えた。
「・・・昨日は暑いから」
「だったな。今、冬だよな?テキトーに返してんなぁ先輩。リーシュに送っても返事無いんだろ?」 
「あぁ」
「・・・」
「何だよ」
普段お喋りな奴が黙るのは気になる。
「いやー。イラついてるなぁーと思って」
「別に」
「お前、ホントわかりやすいなぁ」
小さく笑いながらずずっと音がし、飲み終わったオレンジジュースのパックを口元から離した。
「は?」
「イラついてるとお前口数が減るんだよ」
ビトリーはこちらを見ずに答えた。
「・・・!」
「どーせ誰かさんに会うなって言われてんだろ?弁当は?」
「ロジーに渡してる」
「なるほど~。飯は食ってもいいけど、赤の他人としてすごせ、か。生殺しだろうな」
「アイツ、人懐っこいから」
「・・・・・・」
ビトリーは手を止めてじっとこっちを見た。何言ってんだ?とでも言いたそうだ。
「何だよ。その顔は!」
「・・・お前も案外鈍いヤツだったんだなぁ」
「はぁ?」
「いや、オレは味方だからな。負けんなよ!」
バシッと肩を叩かれた。結構マジだった。
「誰にだよ!」
「・・・きっと泣いてるから雨なんだろな」
「何だよ?」
「いや、別に」
ポツリと溢れた言葉は俺には届かなかった。



最近みんなそうだ。俺に隠し事でもしてるみたいにしている。ニヤニヤしながらも見守られているようで気持ちが悪い。
そのせいか?最近イライラしっぱなしだ。

昼食後から体調を崩したようで5限目が終わり、保健室へ向かう途中、移動教室であろう3年何人かとぶつかった。よろけた俺はバランスを崩して尻もちをついて転んだ。
「あー大丈夫ー?」
「んだよ男かよ!かわいい女子なら喜んでお姫様抱っこして保健室連れてったのに~」
「あの1年のお嬢様とかなー」
「スキップして連れて行くわ!」
「何処に連れて行く気だよ!」
「アハハハハハ!!」
低俗な思考に下品な会話、耳障りな笑い声が頭に響く。

「俺、保健室に行くとこなんすよ。でも、救急車呼んだ方が早そうなんで、相手してくれます?先輩」
「はあ!?意味わかんねー!」
「じゃー、人目につくのも俺が困るだけだから、裏庭行きましょーって言ったらわかってくれますー?」
「何だよ!その腹たつ喋り方は!!」
「ボコられてーみたいだなぁ!?」
「早くー行きますよー?」
「オイ!待てよ!」

「ここなら人目につかないかなー。ちょーっとストレス発散させてもらいますねー?」
「はっ!この人数を相手にやり合う気か?」
「ストレス発散させてもらうのはコッチの方!
そこで俺の意識は途切れた。フワフワと踊っているみたいだ。気持ちいい。


朦朧とした意識の中、ビトリーが俺の肩を掴んでいた。
「オイ、やめろシャズ、死んじまう!!」
「ん?あぁ・・・、そうだな」

シャズは虚な目で、怯えていそうな表情をして笑ったので、ビトリーは全身が凍りつきそうになった。長い付き合いだが、こんな顔をしたシャズは初めて見た。自分の知っている幼馴染のシャズではないか気がした。
周りにはボロボロの3年生が転がって、俺はシャズがその1人の胸ぐらを掴んでいた手を離した。既にぐったりしている。ソイツを支えて怯えながら3年は何とか歩いて帰っていった。

「い、一体どうしたんだ?」
「ムカついたからボコった。後は覚えてない」
「・・・つ、ついにキレたか。ケンカする時意識飛ばすのなんとかしろよ!お前がブチ切れる前の疑問増えるのも、やたら伸ばす喋り方とかも煽ってんだよ!!」
「悪い・・・」
「はぁー」

落ち着いたシャズは謝った。ため息を吐かずにいられない。溜め込みすぎると一気に手がつけられなくなる。悪い癖だ。さっき自分も煽ってしまっていた事に少なからず反省する。
滅多に無く、まさかここまで溜め込んでいるとは思っていなかった。自分が来なかったらと思うとゾッとする。

「言いたいことがあるなら言え!やりたいことがあるならやれ!我慢するな!!そう教わっただろ!」
こういう不満は定期的に吐き出してしまう事が大切だ。
シャズは物分かりが良すぎてしまう。不満に思っていても、それを良しとしてしまう。その不満は一つ一つは小さくても、溜め込むと大きな感情となり爆発してしまう。

「あぁ、そうだったな」
「これだけやられたら仕返しするほどバカじゃないだろ」
「どうでもいいわ。このまま帰る」
「ああ。カバン持ってきた」
「悪りぃ。あん時と同じだな」
「あん時?」
「あぁ、リーシュに逢った時」
「・・・あん時はお前自分でカバン持って行っただろ!人を小間使いにすんなよ!」
ビトリーは下を向いて震えてる拳で俺を小突いた後、力いっぱい抱きしめられた。
あの時とは状況が何もかも変わってしまった。

「何だよ。俺はこういう趣味ねーよ」
「オレだって違う・・・」
何とか親友を引き止めようと、震える身体を必死に保ち、シャズを抱きしめながらビトリーは決意を固めていた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...