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ニンジン農家先生の愛
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リーシュは玄関ホールでロジーを呼んでいた。どうやら俺の方が先に着いたらしい。
リーシュが俺に気づくと硬直していた。
俺は気恥ずかしさもあって、手を軽く上げるだけにする。
リーシュは俺にそっと寄ってきた。
「・・・あ、あの、し、シャズさんですか?どうしてその服着ているんですか?ひょっとしてグラッセとロールケーキのニンジン農家さんはシャズさんなんですか?シャズさんのお家はニンジン農家さんなんですか?」
段々近寄りながら質問を矢継ぎ早に投げる。
「誰がニンジン農家だよ!」
とりあえずツッコミを入れると、リーシュは花が咲き乱れるように笑った。
「やっぱりシャズさんなんですね!!私、とっても嬉しいです!」
リーシュは俺の手を握って眼を輝かせている。俺よりも一回りぐらい小さくて、白い。すべすべでしっとりもしている手。
何だか光が眩しくて消えそうだ。
「お嬢様、お待たせ致しまし
ピシッ
そこにロジーがやってきた
俺らの今の状況を見て、ロジーの眼鏡に一瞬ヒビが入ったように見えた。
「り、リーシュ様?あまり使用人と親しくなるのはよろしく
「やっぱりそうなんですね!!嬉しいです!これから毎日シャズさんのご飯を食べて、一緒にいれるんですね!」
リーシュはますます眼を輝かせて、俺の手をぶんぶん振り回した。
ピシッピシッピシッピシッピシッピシッ
「や、ヤメロってもういいだろ!」
「あ、すみません、嬉しくって」
ロジーの眼鏡が粉々になっている気がして慌てて手を離す。リーシュは少し赤くなりながらはにかんでいる。
「お前、何で料理長のメシ食えないの?」
俺はずっと疑問に思っていた事を聞いてみた。別に理由が無いなら無いでいいし、言いたくないなら言わなくていい。ロジーはオロオロしていたが、意外にもリーシュはポツリポツリと話してくれた。
今の料理長はリーシュの産まれる前からこの屋敷でコックとして働いているらしい。それはつまり、全て亡くなった母親と口にしてきたものばかりだ。口にした事がないものでも、食器や食材、調味料一つとっても母親を感じずにはいられないと言った。
ロジーは全て変えてみた事もあるが、そうしたら今度は母親が居なかったみたいだと余計にリーシュは落ち込んでしまったと付け足した。
「じゃあ俺は?」
気になって聞いてみた。
「シャズさんは・・・母方の祖母の家の雰囲気が強いんです。同じ食器や食材、調味料でもお母さまを感じるけど、寂しくはならずに暖かい気持ちになるんです!」
なるほどなー、と俺もロジーも納得した。
理屈はわかる。母親のショックが大きすぎて、丁度いい距離感を保っているべきなんだとわかった。
「じゃあ、そのばーさん家の料理長みたいな人も連れてきた方がいいんじゃねーの?」
「それは、無理ですね」
「なんでだよ孫のピンチだぜ?料理長じゃなくったって調理師を何人か連れてくりゃいいんだし」
「お婆様は既に亡くなっておいでです。贅沢を嫌うお方で、調理していた者も信頼できるほんの数名で、今では何処にいるかもわかりません」
「・・・そっか。悪りぃな」
「いえ、大丈夫です」
リーシュはまたあの顔で笑う。俺に気を遣っている眉を寄せた無理して笑ってる笑みだ。
「じゃあ、おかわりと、お詫びに夕メシは好きなもん作ってやるよ」
「いいんですか?」
一気に顔が変わった。いいの?とかいいながら目をキラキラさせてる。
「嘘。ワガママ言ってないで料理長のメシ食え。屋敷の皆心配させるなよ」
と言うと、泣きそうに落ち込んで、
「そう、ですよね。わかりました。頑張ります」
なんて言った。ロジーは目からビームでも出そうな勢いだ。コエ~っ!
「嘘だって。からかいがいのある奴だなぁお前」
「え?じゃあ、シャズさんも手伝ってくれるんですか!?」
「手伝うどころかメインだ。料理長に俺のレシピ教えてやってって雇われたんだよ俺は」
「んもう!ヒドイです!シャズさんのバカバカバカ!」
リーシュは俺に向かってポカポカポカと叩いた。子供かよ
「ププ、悪かったって!」
「笑わないで下さい~!!」
リーシュはまだ俺をポカポカと叩く。
あ、コイツって施設の子供達に似てるんだ。親を亡くしたり、捨てられた子供達みたいに何処か虚だけど、愛に飢えてる瞳だ。そんな子供達には長い時間と、側にいて安心出来る誰かが必要なんだって俺は知ってる。
少しずつ、ゆっくりと時間をかけて直していくしかないんだよな。俺だってまだ心を許せる相手は数える程しかいない。
俺はリーシュの頭をポンとした。
リーシュは拗ねたように俺を睨んだ。上目づかいで頬を染めながら睨んだってちっとも怖くない。
しかしその夜、俺はリーシュに散々にんじんレシピをスイーツに至るまで作らされた。コイツは、ウサギか!?
リーシュが俺に気づくと硬直していた。
俺は気恥ずかしさもあって、手を軽く上げるだけにする。
リーシュは俺にそっと寄ってきた。
「・・・あ、あの、し、シャズさんですか?どうしてその服着ているんですか?ひょっとしてグラッセとロールケーキのニンジン農家さんはシャズさんなんですか?シャズさんのお家はニンジン農家さんなんですか?」
段々近寄りながら質問を矢継ぎ早に投げる。
「誰がニンジン農家だよ!」
とりあえずツッコミを入れると、リーシュは花が咲き乱れるように笑った。
「やっぱりシャズさんなんですね!!私、とっても嬉しいです!」
リーシュは俺の手を握って眼を輝かせている。俺よりも一回りぐらい小さくて、白い。すべすべでしっとりもしている手。
何だか光が眩しくて消えそうだ。
「お嬢様、お待たせ致しまし
ピシッ
そこにロジーがやってきた
俺らの今の状況を見て、ロジーの眼鏡に一瞬ヒビが入ったように見えた。
「り、リーシュ様?あまり使用人と親しくなるのはよろしく
「やっぱりそうなんですね!!嬉しいです!これから毎日シャズさんのご飯を食べて、一緒にいれるんですね!」
リーシュはますます眼を輝かせて、俺の手をぶんぶん振り回した。
ピシッピシッピシッピシッピシッピシッ
「や、ヤメロってもういいだろ!」
「あ、すみません、嬉しくって」
ロジーの眼鏡が粉々になっている気がして慌てて手を離す。リーシュは少し赤くなりながらはにかんでいる。
「お前、何で料理長のメシ食えないの?」
俺はずっと疑問に思っていた事を聞いてみた。別に理由が無いなら無いでいいし、言いたくないなら言わなくていい。ロジーはオロオロしていたが、意外にもリーシュはポツリポツリと話してくれた。
今の料理長はリーシュの産まれる前からこの屋敷でコックとして働いているらしい。それはつまり、全て亡くなった母親と口にしてきたものばかりだ。口にした事がないものでも、食器や食材、調味料一つとっても母親を感じずにはいられないと言った。
ロジーは全て変えてみた事もあるが、そうしたら今度は母親が居なかったみたいだと余計にリーシュは落ち込んでしまったと付け足した。
「じゃあ俺は?」
気になって聞いてみた。
「シャズさんは・・・母方の祖母の家の雰囲気が強いんです。同じ食器や食材、調味料でもお母さまを感じるけど、寂しくはならずに暖かい気持ちになるんです!」
なるほどなー、と俺もロジーも納得した。
理屈はわかる。母親のショックが大きすぎて、丁度いい距離感を保っているべきなんだとわかった。
「じゃあ、そのばーさん家の料理長みたいな人も連れてきた方がいいんじゃねーの?」
「それは、無理ですね」
「なんでだよ孫のピンチだぜ?料理長じゃなくったって調理師を何人か連れてくりゃいいんだし」
「お婆様は既に亡くなっておいでです。贅沢を嫌うお方で、調理していた者も信頼できるほんの数名で、今では何処にいるかもわかりません」
「・・・そっか。悪りぃな」
「いえ、大丈夫です」
リーシュはまたあの顔で笑う。俺に気を遣っている眉を寄せた無理して笑ってる笑みだ。
「じゃあ、おかわりと、お詫びに夕メシは好きなもん作ってやるよ」
「いいんですか?」
一気に顔が変わった。いいの?とかいいながら目をキラキラさせてる。
「嘘。ワガママ言ってないで料理長のメシ食え。屋敷の皆心配させるなよ」
と言うと、泣きそうに落ち込んで、
「そう、ですよね。わかりました。頑張ります」
なんて言った。ロジーは目からビームでも出そうな勢いだ。コエ~っ!
「嘘だって。からかいがいのある奴だなぁお前」
「え?じゃあ、シャズさんも手伝ってくれるんですか!?」
「手伝うどころかメインだ。料理長に俺のレシピ教えてやってって雇われたんだよ俺は」
「んもう!ヒドイです!シャズさんのバカバカバカ!」
リーシュは俺に向かってポカポカポカと叩いた。子供かよ
「ププ、悪かったって!」
「笑わないで下さい~!!」
リーシュはまだ俺をポカポカと叩く。
あ、コイツって施設の子供達に似てるんだ。親を亡くしたり、捨てられた子供達みたいに何処か虚だけど、愛に飢えてる瞳だ。そんな子供達には長い時間と、側にいて安心出来る誰かが必要なんだって俺は知ってる。
少しずつ、ゆっくりと時間をかけて直していくしかないんだよな。俺だってまだ心を許せる相手は数える程しかいない。
俺はリーシュの頭をポンとした。
リーシュは拗ねたように俺を睨んだ。上目づかいで頬を染めながら睨んだってちっとも怖くない。
しかしその夜、俺はリーシュに散々にんじんレシピをスイーツに至るまで作らされた。コイツは、ウサギか!?
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