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薔薇の香りは涙を誘う

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俺の仕事はここまで。後は結果を待つのみだ。俺は制服のタイを緩め、調理場を出た。
お嬢様は今ダイニングにいる。貴女がいる事にお嬢様が気づかれては意味がない。と、近い場所にあるキッチンから追い出された。屋敷の探検をしてくると言うと、何かのバッチを渡された。いわゆる発信器だそうだ。お嬢様と万が一でも顔を合わせないためだと念を押された。

俺は広い城のような屋敷を見て回る。
客間や書庫、リビングやおじょーさまの部屋も見つけた。いや~しっかし広いなぁ~

俺は玄関の突き当たりにある角の部屋を覗いた。
「何だ?この部屋、倉庫か?」
物置のような部屋はクローゼットに棚、ソファーなど、広すぎるかくれんぼに絶好の部屋だが、違和感がある。
物置にしては綺麗すぎるし、人の気配も強い。まるで秘密基地や隠れ家みたいに。
俺は中に入ってみた。秘密基地のようにも思える。
部屋の角にベッドがある。白くて薔薇などの花が彫られている天蓋付きのベッドだが、何処か違和感がある。
ベッドの脇にだけシワが寄って、ベッドで寝ている人に寄り添っているような切なさがある。
そこで俺は気づいた。バラの香りが部屋中からするが、その全てから切ない雰囲気が拭えないのだ。
華やかなこの城みたいな屋敷にこんな部屋があるだなんて。金持な奴こそ、金で寂しさを紛らわしたりするのかもしれないと思った。
ピ~ピピ~
ポケットに入れているケータイが鳴った。ロジーから渡されたものだ。
俺は電話に出る
「まさか、貴女がそこを見つけるとは思いませんでした」
「は?一体何だよ」
「その部屋は、お嬢様の隠れ家です」
「隠れ家?秘密基地みたいなものか?」
「いえ、避難所のようなものです
「避難所?」
「はい。寂しくなった時に籠ってしまいます。・・・お話しましたね。お嬢様が拒食症になってしまったのは奥様が亡くなった後のことだと」
「あぁ、そういえばそんな事言ってたな」
「その部屋にあるベッドは奥様が使っていらっしゃったものです」
なるほど、この部屋から感じた切なさはリーシュの寂しがる涙か・・・
「わかった。直ぐに出るよ。入っちゃいけなかったみたいだしな」
「いえ、お待ち下さい!お嬢様がそちらに向かっています」
ロジーは声を潜めながら強く止める。
「えっ!どうすんだよ!」
「隠れて下さい!」
「へいへい。ま、確かにかくれんぼには最適な場所だな」
「くれぐれも見つからないように!」
「わかってる」
俺はベッドの下にある隙間に隠れた。
フカフカのベッドだが、広すぎるくらいなので上に座ってゴロゴロしても気づかれないだろう。
カチャ
程なくリーシュがやってきた
ベッドの近くに座り顔を埋めると、
「ほぅ・・・」
と、息をついた。
悲しくて泣く雰囲気は全くない。どうしたんだ?
「美味しかったです~。付け合わせのグラッセとデザートのロールケーキ・・・ロジーはニンジン農家さんから頂いたって言ってたけど、きっと嘘です!」
俺はピクっと反応してしまう。
「お食事している間あんなに皆さん注目してましたし、他のサラダは美味しいと思えませんでしたが、グラッセとロールケーキはおかわりしたいと言ったら料理長のポークスってば肩を落とされていました。きっと新しい方が入ったんでしょう。・・・でも、何だか申し訳ないです。私のワガママで振り回してばかりでした」
シーツをギュッと握る音がした。
「そうだ!ロジーに頼んでポークスはお父様のところに行っていただきましょう!きっと向こうでならポークスも楽しく働けます!・・・寂しいですが、ポークスに悲しい想いをさせたくありません」
リーシュはそう言ってすっくと立ち、ロジー!いますかー?
と言いながら出ていった。
「お話は聞きましたね。そういう事なので、シャズさん、貴女を正式に採用致します」
「ロジー!?」
電話切ってなかった!!
「・・・料理長はクビになんの?」
「いいえ、まさか。料理長には君の補佐をして頂き、学んで頂きます。このままでは貴女が倒れでもしたらお嬢様はまた何も召し上がる事が出来ませんからね」
「別に特別なもの作ってるわけじゃないんだけどなぁ~」
「えぇ、そうですね。私も料理長も貴女のお料理を食べてみましたが、気づいた事はありませんでした」
「だろうな」
「ですが、事実は今お嬢様が話した通りです。では、お嬢様にお話をしにいきましょう」
「え、俺も!?」
「えぇ、お嬢様はグラッセとロールケーキを作った人に会いたいとも仰っていました。さ、参りましょう」
「どこへだよ・・・」
「お嬢様を探して下さい。私も向かっております」
俺はため息をつき、頭をかきながら部屋を出る。振り替えると、部屋の切なさは何処か薄くなっている気がした。
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