上 下
4 / 4

青年期

しおりを挟む
意を決してアイツの事を教えてほしいと言った僕は、ショウから返ってきた言葉にまた凍りついた。
「どんな氷の上にもいるよ?滑れるようになった頃から俺が滑るとじゃれてくるんだ。見た目は怖いけど、可愛いよね。あーようやくこの話が出来る!家族に伝えたらそんなのいる訳無いって気味悪がられて隠してたんだ」
はしゃぐショウに僕は怒りが込み上げてきた。
「ふざけるな!プログラムを勝手に変えるから先生にも怒られるし、審査員にも減点されるんだ!僕は君みたいに遊びでスケートをしているんじゃない!」
「ヒョウくん?」

投げ捨てるように嫉妬をショウにぶつけた。
会話になっていないのが自分でもわかる。
僕はそのまま走り去った。顔を背けてから悔し涙が止まらなかった。
どんな氷の上にもいる?滑るようになった頃から?
ショウにはアイツがいる事の方が普通だって言うのか!?


僕がいつまでもショウに勝てたと思えない理由がわかった。ショウはいつも本気で滑らない。いつだって楽しんでいるだけなんだ。アイツと、遊んでいるだけなんだ。
初めてアイツを見た時に思った事もわかった。
ショウはウェンディゴに、スケートに・・・氷の精霊に愛された人間なんだ・・・
悔しい・・・ズルい・・・。ズルいよ、ショウちゃん・・・

高校生になった僕は、スケートの強豪校に入学した。留学を積極的にしている学校で、海外の学校に留学が決まり、かなり早く、長くした。

ショウと離れるとアイツを見かける回数が減った。
見かけてもあまり気にならなくなった。
ショウは地元の高校に入学し、部活としてスケートを楽しんでいるらしい。
ショウ、僕は君に負けたくない。僕は世界一になる。
オリンピックで金メダルをとる!
有名なコーチに指導を受けて、海外のコンクールに出ていると、マスコミが騒ぎ出した。高二になった年、オリンピック出場が決まった。
地元のみんなも出場を祝ってくれる。
連絡を受けた中に古い友達を見つけて、久しぶりに連絡してみた。
幼い頃から一緒に滑っていた仲間の1人で、ショウちゃんと僕の共通の友人だ。
気になって聞いてみると、高校のショウちゃんは競う事が嫌いだと主張して大会に出ようとしなかった。しかし、顧問の先生よりも教えるのが上手なので先生の反感をかってしまい、部に居づらくなったショウちゃんは部員にマネージャーとして求められたけど、結局は退部してしまった。
落ち込んでるショウちゃんに両親がアイスショーの出演を薦めると、大好評で、後押しをしたい人が多く現れた。
後になりゆきで大会に出場したショウちゃんは氷の魔法使い。アイスマジシャンの異名で凄い成績で優勝して、あっさりとオリンピックの出場券を掴んでしまった。

なるほど・・・だから大会の名簿に名前があったのか・・・
アイスショー見たかったと言うと、動画サイトに載っていると言われて見てみた。
動画でもわかる。うっすらとアイツが見える。ショウちゃんは、アイツを従えていた。
ただ遊んでいたあの頃とは違い、プログラムにも反していない。複数で踊る場合もショウの近くにいるけど、他の共演者の近くにも行く。
僕も最近はリンクでよく見かけるようになった。
「何人かの有名なスケートに関わっている人がさ、ショウが獣を従えていたって言ってんだ」
「え?」
「ショーの共演者や、コーチとか、演出家とか、シュウが滑ってる時に見えたって!」
「プロが見えた?」
「そう!オリンピックに出たら実況者は見えるのか気になるな!」
「そ、そうか!」
「見えない人には氷の粒。シュウが氷を出しているように見えるからアイスマジシャンって呼ばれてるらしい」
「そう・・・」
俺にも見えないけど、と友人は笑った。
「俺はお前も応援してるからな!ペンギン王子!」
「それやめろ・・・」
ペンギン王子は僕に付けられた名前だ。
僕は決して手足が短い訳でもないし、身長が低い訳でもない!
たまたまカバンに付けていたストラップが僕の好きなアニメのマスコットで、インタビュー中に見られて、その人にそのペンギンに似ていると言われて、そのままペンギン王子になってしまった。南が名前にあるかららしい。
今更外すのも嫌だし、気にしている感が出て嫌なのでストラップはそのままにしている。

待てよ?という事は、アイツはスケートがあるレベルになっていたら誰にでも見れるのか?
「観客は!?お爺さんとか、もう滑ってない人は見えたのか!?」
「え?あ、あぁ。観客の中にも何人か見えたって人がいたな」
「そっか・・・。なら誇っていいんだな」
「えぇ!?さっきからどうしたんだよ?大丈夫か?」
「ううん。何でもない。大丈夫だよ」
「そうか?ならいいけど・・・」
僕は中学の頃からアイツが見えていた
もちろんショウちゃんには滑れるようになった頃から見えていた。僕は誇っていい
ショウへの嫉妬はなくなり、ライバルとして認められるようになった。
ショウの今の演技を見るのが楽しみだし、本気になったショウと勝負がしたくてたまらない!
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

処理中です...