フィギュアスケートのライバルがおかしな動物と仲良くしてます!

近藤蜜柑

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思春期

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中学生になったころ、僕は少し遅れてリンクに行った。すると、やっぱり何時ものようにショウちゃんがいた。
その日のショウちゃんは、いつもと違った。
ただ楽しそうにしていたショウちゃんは、何かと遊んでいるように楽しそうだったけど、それが僕の瞳に写った。
アレは、ウェンディゴ・・・?
ゲームとかで見たことある。興味が沸いて何時だったか調べてみたら、カナダの精霊だとか書いてあった気がする。
狼のような、ケンタウロスみたいなソイツをショウちゃんは手慣れた様子で撫でていた。

しばらくすると、ショウちゃんはいつものように滑っていた。楽しそうに、いつものように。
ショウとソイツは2つで1つの演技だった。
フィギュアには男女ペアも確かにあるけど、動物とペアなんて聞いたことがない!・・・いや、当たり前だろ!?
僕は大分混乱しているようだ・・・。

ショウとソイツの演技は犬と人間がペアになっているようだった。
ショウだけを見ていたから、いや、見えていたからショウの凄さに誰も気づかないんだ・・・。
恐怖よりも、美しさに呑まれて僕は動けなかった。
じっと見ていると、ソイツがこちらに気づいた!おもいっきり眼が合って、僕は慌ててその場を離れた。

それからというもの、リンクの上ではいつもソイツを見かけるようになってしまった。
ショウ以外には見向きもしないで隅の方で眠っている。僕が滑っている時には欠伸しやがった!
くそ!何なんだよ!僕のスケートはつまらないとでもいうつもりか!?
明らかに異様な光景だけど、段々怖さよりも美しさに見とれてしまうようになった。

ショウちゃんはただスケートが好きなだけじゃないのか?


ある時アドバイスをし合っていると、ショウちゃんはこう言った。
「ヒョウ君はジャンプを頑張っているし、それが目立つけど、ステップが上手いよね!アイツ、ヒョウ君のステップで指を動かしてリズムとるんだよ!」
「そ、そう。ありがとう・・・」
僕は必死に言葉を飲み込んだ。

【アイツって誰の事だよ!!】
【リンクから移動しないの?】
【小さいころから知ってるの?】
【だからそんなに楽しそうなの?】
【アイツは一体何者だよ!!】
【何で一緒に滑ってるんだよ!!】
【危ないだろ!?アイツいつの間にかリンクにいて、いつの間にか消えるんだぞ!?】


僕は心配と嫉妬と憧憬と恐怖とがぐちゃぐちゃで叫びだしたくなった。
僕はその日からショウを避け続けた。

ショウと話さないまま大会の日を向かえた。
僕は気にしないようにいつも通りにと息を大きく吐き、何とか心を落ち着かせてリンクに立った。
ソイツはこっちを見ていた。

どうしてそんなところにいるんだよ!
コンクールの日、僕はリンクにアイツを見つけた。
いつもは隅っこで大人しくしていて、ショウがリンクにいないと眠ってばかりいるのに、今日は審査員席の真ん前に陣取っている。

やめてくれ、何時もは隅っこで大人しくしてるだろ?何で今日はそこにいるんだよ!
今日は個人の地区大会なんだぞ?
ここで表彰台に乗れなきゃインターハイに行けない
中学最後の大会なのに!
・・・・・・いや、ショウに出来て僕に出来ない演技は無い!


気にしないで滑っている人はすり抜けていく。まるで幽霊みたいに実態が無い。
僕はショウとソイツを頭から振り払うように首を振る。気にしない。気にしない。パンと音を立てて頬にも気合いを入れる。

僕は気持ちを切り替えて演技に入った。
真っ白い氷の上で滑るのは気持ちがいい。
誰もいない。いつもの1人で練習してきたリンクを思い出す。
ジャンプ、スピン、今のところミスは無い。
曲に合わせてステップを踏む。こうして踊る時が一番楽しい。
心にも余裕が出来て周囲を見渡すと、
僕のステップに合わせてアイツが指先でリズムを取る。尾を犬の尻尾みたいに楽しそうに振っている。
何なんだよ!ちっとも怖くない。害なんか無いじゃないか!
僕はアイツが邪魔をした事なんて一度だって無い事に気づいた。
僕は何を怯えていたんだろう?
僕は僕。僕は僕のスケートをするだけだ!ショウちゃんと僕は違う。
ショウちゃんは大会よりも楽しませる方が向いているんだ。そう、アイスショーがぴったりだ。
ショウちゃんは事前に出すプログラムを変えて好きなように滑る。
その理由がアイツと一緒になって遊んでいるからだとわかった。
僕は違う。競い合って突き詰めていくコンクールや大会が好きだ!
その瞬間に2回目に飛んだジャンプはダブルアクセルだったのに、トリプルアクセルになっていた。
演技が終わった後、僕はリンクでしばらく放心してしまった。
練習では一度も成功しなかった場所でトリプルアクセルが飛べた。
沸き起こる拍手の中、アイツは尻尾を更に振っているようで僕は苦笑した。
この町を出ていく前に、ショウちゃんにもう一度、アイツについて聞いてみよう。
僕は優勝し、得点は自己ベストを更新していた。


僕の身体を締め付けてきた鎖が解かれている気がする。身体が軽い。いつまででも滑っていられそうだ。
そうだ。ショウはプログラムを勝手に変えるからアイスショーが向いている。


僕はやっぱり大会が好きだ。
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