学内格差と超能力

小鳥頼人

文字の大きさ
上 下
55 / 63
2巻 2科分裂編

第6話 ②

しおりを挟む
    ☆

「おぉ~。港だねぇ、港湾こうわんだねぇ」
 誠司が目を輝かせている。
 午前中はお台場の物流施設の見学で、手はじめに辿り着いたのは港だった。
 周囲にはコンテナヤードと呼ばれる、コンテナが集積されたエリアがある。
 大量のコンテナがびっしりと積まれた状態のコンテナ船からガントリークレーンと呼ばれる大型クレーンを用いて荷役にえきが実施され、船からコンテナが引っ張り出されている最中だ。
 普段は一般人が足を踏み入れることが禁止されているけど、今日は社会見学として学園側が許可をもらったのだそうだ。
「えー、ご覧のとおりここにはコンテナが保管されています。コンテナの中には様々な商品が入っています。外国から来た品物だったり、国内の品物だったりと多種多様です。通関手続きなどの輸出入に関わる手続きもここで行われています」
 物流施設を案内してくれているお兄さんが大声かつ丁寧な声色こわいろで説明してくれるのでとても聞き取りやすい。
 コンテナには様々な色と大きさがある。中身は日用品から食料品、半導体などの精密機械とこれまた色々らしい。
「外国から輸入された貨物は税関で許可が下りなければ輸出入できません。なので許可が下りるまで一時的に退避、保管するスペースが必要です。そのスペースこそがこの港で保税ほぜい地域と呼ばれています」
 埠頭ふとうでは精悍せいかんな顔立ちの港湾労働者たちが作業に勤しんでいる。作業着がバッチリと決まっていて凛々りりしい。
「もう少し近づいてみましょうか」
 お兄さんに促された生徒一行は作業の邪魔にならない程度に現場へと近づいた。
「おお……」
 男の顔は履歴書とはよく言ったものだ。作業員は皆男らしい見た目で俺みたいな陰キャっぽそうな人はいなかった。
 偏見かもだけど、ブルーワーカーの人ってこんな感じの人が多いような気がする。偏見だろうけど。
「な、なんだか、こ、怖そうな人が、お、多いな……」
 同じく陰キャの豊原は港湾関係者を見てビビリ倒していた。気持ちは分かる。体育会系が苦手な陰キャは多いのだ。話してみればいい人なのかもしれないけど、オーラで既にやられちゃうんだよね。
「ふーん、コンテナから品物を取り出す作業をデバンニング、反対にコンテナに品物を入れる作業をバンニングと呼ぶのか」
 太一は興味深そうに何度も頷きながら港を見回している。
 俺も詳しくはないけど、物流や運送業界は世界の生活の核というか、基盤となる職業だと思うんだよね。待遇はあまりよくない噂も聞くけれど、彼らがいなければ世界中の人々の生活が終わる。身近にある全てのモノというモノは彼らが入出荷し、運搬しているのだから。
 俺がバイトしてるパソコンショップのパソコンやパーツだってそうだ。どれほど素晴らしいメーカーに生産してもらっても品物が店まで運ばれてこないんじゃまるで意味がない。
 俺たちは通販を頼み、当たり前のように業者に運んでもらってるけど、彼らがいなくなったらと考えるだけでゾッとする。もっと感謝しないといけないよね。極力再配達にならないように考慮しないとだ。
 彼らが今以上に脚光きゃっこうを浴びるよう俺は密かに祈るのだった。
「作業員たちが乗っている乗り物はフォークリフトといいます。大きな貨物を運搬する際はほぼフォークリフトで移動します。フォークリフトにも様々な種類がありますが、港湾作業者が使っているのはカウンターバランスフォークと呼ばれています」
 カウンターバランスフォークは車のように座って操作するフォークリフトだ。スピードが出るので広い空間でパワーを発揮するとのこと。
 現場では国内外からの輸入品が入ったコンテナを船舶から積み下ろしたり、逆に輸出品を船舶に積み込んだりと人とモノが往来おうらいしている。
 ここが、モノが通る上での関門なんだなぁ。
「続いて大手倉庫にお邪魔したいと思います」
 案内人さんの一声いっせいを合図に倉庫へと見学の場を移した。
 倉庫に入り、ネスラックと呼ばれる階数を分けて貨物が積載せきさいできるものを見たり、倉庫作業者の入荷、出荷作業の様子を見学させてもらったりしている。
「あれっ、さっきと違うフォークリフトじゃない?」
 1科男子が指摘すると案内人さんは満足そうに頷く。
「いい疑問ですね。あれはリーチフォークと言って、爪の部分を上下だけではなく前後に動かすことができます。また小回りがきくので特に狭い倉庫内で真価を発揮します」
 へぇ、用途によって様々なフォークリフトが用意されているんだなぁ。
 リーチはカウンターに比べて縦長で転倒しやすそうな代わりに横幅が抑えられているので狭い構内も器用に走行できそうだ。運転席もカウンターとは違って椅子がなく立った状態で運転するスタイルだ。
「ちなみにフォークリフトに乗るには終了証を取る必要があるので興味がある人は十八歳以上になってからフォークリフト技能講習を受けてもらえると嬉しいですね」
 まぁ、講習を受けないとフォークリフトの運転なんて危ないよね。重量物も運べる分危険だって伴う。
 あと、フォークリフト技能講習の対象は十八歳以上なんだって。
「あの赤いフォークの爪みたいなものは?」
 作業者が引っ張っている赤いフォークリフトっぽい形の器具を見た1科男子が声を上げた。
「あれはハンドパレットトラックと言って、免許がいらないので誰でも使える運搬器具です」
 フォークリフトの免許がない人はあれを使ってパレットと呼ばれる荷役台に爪を差し込んで運搬するらしい。
「ただし移動に時間がかかることと、ネスラックの二階以上にはモノが置けない、また取れないという欠点があります」
 フォークリフトならすぐできる爪の差し込み、パレットの上げ下げなどのオペレーションがハンドパレットトラックではどうしても遅くなってしまうらしい。
「倉庫内の作業の大まかな流れは入荷、検品、在庫登録および棚入れ、ピッキング、梱包こんぽう、出荷発送です」
 説明を受けながら移動して着いたのは梱包された荷物がコンベアに乗せられ仕分けされているエリアだった。
「当倉庫では倉庫管理システムを採用しており、この機械を使って配送業者ごとに荷物を自動仕分けしています」
 最近の倉庫は機械化を導入して作業の効率化を図っているところが多いんだって。
 仕分けされた荷物はカゴ台車に積まれ、満タンになれば各配送業者のトラック前まで運搬され、カゴ台車ごとトラックの中へと積み込まれてゆく。
 倉庫の仕事はゲームのような作業もあって楽しそうだなぁって思えた。

 倉庫見学を終え、最後に軽く近場の工場を見学させてもらって社会見学が終了した。
「物流業界は高卒も歓迎している職業です。気が向いた人はぜひ物流業界に飛び込んできてください! もちろん専門学校や大学で専門知識を学んだのち、管理職候補で来ていただくことも歓迎します!」
 案内人さんが物流業界を宣伝してお話を締めくくった。お疲れ様でした。
 物流業界、特にドライバーは人手不足と聞く。社会生活には欠かせない職業だけど業務内容、待遇、世間体などの問題があってなり手が少ないようだ。
 物流業界のことはほとんど知らなかったけど導入部分だけとはいえ知識を得ることができて有意義な時間を過ごせた。
「高校卒業したらフォークリフト技能講習受けようかなぁ」
「俺、前々から物流業界の就職を考えてたんだよね。港湾短大に行こうか大学で通関を学んでから就職するべきか……」
 周りの1科生徒たちは物流の話に花を咲かせている。こうやって興味を持つ人が少しでも増えるんだから、高校生の社会見学も悪くないよね。
 ちなみに2科生徒たちはというと、案の定ほとんどの人が見学中も終始無言だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ノゾミノナカと悪霊迷宮の殺人鬼

ちさここはる
ライト文芸
もしもの話し。ショッピングモールに気づかれずに閉じ込められてしまったらどうしますか? この物語の少女たちは立ち向かいます。たとえ、どんな困難だろうとも。 生きて帰りたい。友達を見つけたい。 どんな困難や、襲われてしまっても。

愛され妻と嫌われ夫 〜「君を愛することはない」をサクッとお断りした件について〜

榊どら
恋愛
 長年片思いしていた幼馴染のレイモンドに大失恋したアデレード・バルモア。  自暴自棄になった末、自分が不幸な結婚をすればレイモンドが罪悪感を抱くかもしれない、と非常に歪んだ認識のもと、女嫌いで有名なペイトン・フォワードと白い結婚をする。  しかし、初顔合わせにて「君を愛することはない」と言われてしまい、イラッときたアデレードは「嫌です。私は愛されて大切にされたい」と返した。  あまりにナチュラルに自分の宣言を否定されたペイトンが「え?」と呆けている間に、アデレードは「この結婚は政略結婚で私達は対等な関係なのだから、私だけが我慢するのはおかしい」と説き伏せ「私は貴方を愛さないので、貴方は私を愛することでお互い妥協することにしましょう」と提案する。ペイトンは、断ればよいのに何故かこの申し出を承諾してしまう。  かくして、愛され妻と嫌われ夫契約が締結された。  出鼻を挫かれたことでアデレードが気になって気になって仕方ないペイトンと、ペイトンに全く興味がないアデレード。温度差の激しい二人だったが、その関係は少しずつ変化していく。  そんな中アデレードを散々蔑ろにして傷つけたレイモンドが復縁を要請してきて……!? *小説家になろう様にも掲載しています。

Don't be afraid

由奈(YUNA)
ライト文芸
ここは、何か傷を抱えた人が集まる、不思議な家でした。 * * * 高校を中退してから家族とうまくいかなくなったキャバ嬢のありさ 誰とでも仲良くできるギャルの麗香 普通に憧れる女子高生の志保 勢いで生きてきたフリーターの蓮 親の期待に潰されそうな秀才の辰央 掴みどころのない秘密ばかりの大学生のコウ 全員が、何かを抱えた 全員が主人公の物語。

雨に濡れた犬の匂い(SS短文集)

ねぎ(ポン酢)
ライト文芸
思いついた文章を徒然に書く短文・SS集。400文字前後の極SSから1000文字程度の短い話。思い付きで書くものが多いのであまり深い意味はないです。 (『stand.fm』にて、AI朗読【自作Net小説朗読CAFE】をやっております。AI朗読を作って欲しい短編がありましたらご連絡下さい。)

きみに駆ける

美和優希
ライト文芸
走ることを辞めた私の前に現れたのは、美術室で絵を描く美少年でした。 初回公開*2019.05.17(他サイト) アルファポリスでの公開日*2021.04.30

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

好きなんだからいいじゃない

優蘭みこ
ライト文芸
人にどう思われようが、好きなんだからしょうがないじゃんっていう食べ物、有りません?私、結構ありますよん。特にご飯とインスタント麺が好きな私が愛して止まない、人にどう思われようがどういう舌してるんだって思われようが平気な食べ物を、ぽつりぽつりとご紹介してまいりたいと思います。

信念の弁証法

WOOPマン
歴史・時代
パタリプートラの活気溢れる街は、午後の太陽に照らされ、色彩と音響が織り成す賑やかなタペストリーのように広がっていた。リズミカルなダンスなど賑わいに満ちている。この新しい街の中、ナースティカのダーラと名指しでバラモン達から非難される、ローカヤタの僧侶ダーラが興味深い格好で現われた。彼は髪でできた服を身にまとっており、街の人々の目を引いた。しかし、彼の言葉もその服装と同じくらい独特だった。 ダーラは迷路のような市場の露店の間を縫うように歩く。その足音は街の喧騒の中に消えていく。彼は、神や死後の世界はなく、世界は、物質だけが存在し、諸々の現象は物質が相互に影響しあう単なる模様であると語った。彼の教義は、魂と輪廻転生という常識から外れ、好奇心と怒りがパタリプートラに広がった。 市場は彼の舞台であり、市民が彼の聴衆であった。バラモンの支配が揺らぎはじめたこの時代、市民は彼の周りに集まり、彼の斬新な話に引き込まれた。ランプが虫達を引き寄せるように、彼のカリスマ性と急進的なイデオロギーの光が人々を魅了した。 賑やかな市場という舞台で、ダーラの言葉は空気を切り裂き、規範に挑戦し、疑問の余地のないものに疑問を投げかけ、パタリプートラの人々の心に好奇心の炎を燃やした。彼の旋律は、支配的な声と相反するものであり、前例のない領域への旅、パタリプートラの調和を永遠に変えてしまうかもしれないものだった。 ダーラの大胆な言葉が街中に響き渡ったときでさえ、穏やかな表情の下で変化の嵐が吹き荒れていた。古いものと新しいものが共存し、伝統的なバラモンと新興の市民らが共存するパータリプトラの中心で、変革の種が今まかれようとしていた。

処理中です...