学内格差と超能力

小鳥頼人

文字の大きさ
上 下
45 / 63
2巻 2科分裂編

第2話 ③

しおりを挟む
「2科は1科と比べて暗黙の了解で色々と制限されているんですよ」
 中庭のベンチや学食を使っちゃいけない風潮やら、生徒会に入れないとか、色々とね。
「おまけに常日頃から人間的に格下に見られてますし」
 1科の中には2科を虫けら扱いする者もいる。その代表格が辻堂なんだけど――奴も先の騒動に懲りて少しは大人しくなってくれるといいんだが。
「なるほどね。そういう背景があるのなら、ドリンクの犯人は2科の生徒かもしれない――それならば、組織の目的とその動機が一致するか……」
 満さんの言葉は途中から独り言に変わってしまい、聞き取ることはできなかった。
「学園長は届いたドリンクをあえて生徒に飲ませたんだ。生徒に超能力を身につけさせるためにね」
「それってかなり危ない行為ですよね?」
 当然、学園長の判断にはなにかしら大きな意味があったのだとは思う。
 しかしだ。多感な年頃の男子生徒に超能力なんか与えて、乱用する輩が出るリスクは決して低くはないぞ。
「諸々のリスクも承知した上で超能力を生徒に託したんだよ」
「託す……?」
 満さんは鋭い眼光を見せた。心なしか眼鏡がきらんと光った気がする。
「そこまでは組織と同じ目的になる。組織としては身についた能力を使って生徒に暴れてもらいたいんだろうね。その力で人を脅したり、物を破壊したり――最悪、殺人を犯すことを望んでいるんじゃないかな」
「なるほど」
 立場が低い人間がそのような騒ぎを起こせば、周囲のその人を見る目は変わる。恐らく見下したりバカにしたりはされなくなる。でもそれっていいことか? そんなわけないよな。
「学園長はその超能力を破壊以外の何か、人の役に立つことに使ってほしいと願っているんだ。貴津学園の生徒は力を悪い用途には使わないと信じているからこそ、ドリンクを配ったのさ」
 学園長の想いはきっと生徒たちに届いている。なぜなら彼女の願いどおり、現状では公の場で超能力を使う生徒が出て騒ぎになっていないから。
「人の役に立つ……」
 俺の電撃を発生させる力を誰かのために使える機会なんてあるのかな?
「まぁ、まだ深く考える必要はないよ。この件は俺や学園長に任せていち生徒の君は学業に専念してくれればいいさ」
 満さんは俺の肩に手を置いて微笑を零すも、
「ただ、少々気になる動きをしてる生徒がいるので俺は彼をマークしなきゃなんだがね」
 すぐに眉間にしわを寄せて不穏なことを口にしてきた。
「怪しい生徒ですか? 俺の知ってる人ですか?」
 俺の知り合いだとしたら、こちらでもできることがあるかもしれない。それに――もし交友がある人だったら……組織から脱退するよう説得しなくては。
「疑わしきは何とやらでね。詳しく情報を集めたら教えるよ」
 満さんはにこやかな表情で言ったけど、はぐらかされた感がある。
「呼び止めた上に長話になって申し訳なかったね」
「いえいえ、今回も色々教えてもらって感謝してます」
「また何かあったら声かけるよ」
 超能力周りの情報について、何も分からないよりかは分かっていた方がいいから。
「そうだ。せっかくだ、一緒にゲーセンでも行こう」
 満さんはポン、と手を叩いてそんな提案をしてきた。
「いいですね」
 満さんと普通に遊ぶのも悪くないな。
 こうして、俺は満さんとゲーセンに行くことになった。

    ★

「ただいま」
「おかえり、兄さん。遅かったね」
 初仕事から帰宅した兄さんの表情は生き生きとしていた。
「帰りに高坂君に会ってさ。寄り道してきたんだ」
「へぇ、こ、高坂君と」
 びっくりしたぁ……急に高坂君の名前が飛び出してくるんだもん。
「……どこに行ってきたの?」
「ゲーセン」
 二人でゲーセンかぁ。
 私も前に高坂君とゲーセンに行ったなぁ。楽しかったな。また一緒に行きたいな。
「高坂君はずっとクレーンゲームで景品を取ろうと頑張ってた。何千円と使ってたね。それでも結局取れなくて、また後日挑戦するって息巻いてたよ」
「そう、なんだ」
 高坂君は決して器用な人ではない。
 けど……いや、だからこそかな。なんだか気になってしまう。親密感を抱いてしまう。私たちはどこか似てるんじゃないかって、勝手に想像を広げてしまう。
「高坂君といえばさぁ」
 兄さんが何か企んでそうな表情を向けてきた。
 嫌な予感……。
「真夏は彼のことをどう思ってるの? 好きなの?」
「えええっ!? きゅ、急にどうしたの!?」
 ちょうど高坂君のことを考えていたところに踏み込んだ話題が振られたものだから、つい狼狽うろたえてしまった。なんだか顔も熱い。
「だってさぁ。真夏が初めて自宅に招いた男の子だよ? 絶対に特別な感情があるでしょう」
 確かに。
 兄さんの指摘通り、私は彼を特別扱いしている自覚がある。
「…………その、気にはなる、かな」
 これが、今の私の精一杯な気持ち。
「――そう」
「けれど、それが好きという感情なのかはまだ分からなくて……」
 初恋のなんたるかすら理解できていない私にとって、この気持ちの正体は全く分からない。安易に恋愛感情と決めつけるのはいささか安直だ。
「近頃溜息多いね。まぁ色々悩めばいいさ。焦らずゆっくり考えるといい」
 兄さんは穏やかな微笑と声音を向ける。
「なんせ君はこれまで俺も含めてロクでもない男とばかり出会ってきたからね」
 不遜ふそんな兄さんらしからぬ自嘲じちょう的な態度だった。
「高坂君はそんな連中とは違う。俺が保証するよ。彼は俺のような男にはない何かを持っている」
「――ありがとう、兄さん」
 私が素直に礼を述べると、兄さんは胸を反らして鼻を鳴らした。
「みくびってもらっては困るな。俺はやればできる男だよ? 今までやらなかっただけで」
「兄さんがニートから脱却する決意をしてくれたのはすごく嬉しいんだけど、自信過剰なところは相変わらず現役だね」
 兄の言動に思わず苦笑を浮かべる。使わない鬼才に意味はないでしょ。
「ははは、いましめるよ。じゃあ俺は風呂入ってくるから」
「分かった。その間に夜食を冷蔵庫から出しておくから上がったら食べてね」

 ………………。
 学科対決の翌日、私は後片付けを手伝うべく学園へと向かった。
 そこで佳菜が高坂君の袖口を掴んで嬉しそうに肩を並べて歩いてる光景を見て、胸がモヤモヤした。
 このモヤモヤの正体は分からないけれど、私も負けられないと対抗したくなった。ここで何もしなかったら、チャンスがついえてしまう気がしたから。
 内心ではドキドキしてたけど表面上は平常心を取りつくろった。外面そとづらを作るのは昔から得意なんだ。
「……チャンスって、なんなんだろ……」
 自分で思っておきながら疑問を抱く。自身の気持ちのはずなのに、それが分からない。
 分からないけど、少なくとも佳菜と高坂君の距離が縮まることに危機感を覚えた感じ。
 ………………。
「やっぱり私――……高坂君のことが好き、なのかな……?」
 一人で呟いてみるも、同然のことながら誰も回答などしてくれるはずもなく。
 分からないのでもう少し様子を見よう。
 恥ずかしくて今日学園の廊下で会った時はまともに彼の顔を直視できなかった。本当はすごく嬉しかったくせに。あんな態度、感じ悪いよね。
 もっと落ち着かなきゃダメだ。でないと次会った時も今日の二の舞になってしまう。
「今までのように、彼と普通に話せるように心がけないと」
 私はとくん、とくんと高鳴る胸に手を当てながら自室へと入ったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

隣の古道具屋さん

雪那 由多
ライト文芸
祖父から受け継いだ喫茶店・渡り鳥の隣には佐倉古道具店がある。 幼馴染の香月は日々古道具の修復に励み、俺、渡瀬朔夜は従妹であり、この喫茶店のオーナーでもある七緒と一緒に古くからの常連しか立ち寄らない喫茶店を切り盛りしている。 そんな隣の古道具店では時々不思議な古道具が舞い込んでくる。 修行の身の香月と共にそんな不思議を目の当たりにしながらも一つ一つ壊れた古道具を修復するように不思議と向き合う少し不思議な日常の出来事。

愛され妻と嫌われ夫 〜「君を愛することはない」をサクッとお断りした件について〜

榊どら
恋愛
 長年片思いしていた幼馴染のレイモンドに大失恋したアデレード・バルモア。  自暴自棄になった末、自分が不幸な結婚をすればレイモンドが罪悪感を抱くかもしれない、と非常に歪んだ認識のもと、女嫌いで有名なペイトン・フォワードと白い結婚をする。  しかし、初顔合わせにて「君を愛することはない」と言われてしまい、イラッときたアデレードは「嫌です。私は愛されて大切にされたい」と返した。  あまりにナチュラルに自分の宣言を否定されたペイトンが「え?」と呆けている間に、アデレードは「この結婚は政略結婚で私達は対等な関係なのだから、私だけが我慢するのはおかしい」と説き伏せ「私は貴方を愛さないので、貴方は私を愛することでお互い妥協することにしましょう」と提案する。ペイトンは、断ればよいのに何故かこの申し出を承諾してしまう。  かくして、愛され妻と嫌われ夫契約が締結された。  出鼻を挫かれたことでアデレードが気になって気になって仕方ないペイトンと、ペイトンに全く興味がないアデレード。温度差の激しい二人だったが、その関係は少しずつ変化していく。  そんな中アデレードを散々蔑ろにして傷つけたレイモンドが復縁を要請してきて……!? *小説家になろう様にも掲載しています。

「みえない僕と、きこえない君と」

橘 弥久莉
ライト文芸
 “少しずつ視野が狭くなってゆく”という病を 高校生の時に発症した純一は、多少の生きづらさ を感じながらも、普通の人と同じように日々を 過ごしていた。  ある日の仕事帰り、自転車でのんびりと住宅街 を走っていた時に、ふとした油断から通行人の女性 にぶつかってしまう。慌てて自転車から降り、転ば せてしまった女性の顔を覗き込めば、乱れた髪の 隙間から“補聴器”が見えた。幸い、彼女は軽く膝を 擦りむいただけだったが、責任を感じた純一は名刺 を渡し、彼女を自宅まで送り届ける。 ----もう、会うこともないだろう。  別れ際にそう思った純一の胸は、チクリと痛みを 覚えていたのだけれど……。  見えていた世界を少しずつ失ってゆく苦しみと、 生まれつき音のない世界を生きている苦しみ。  異なる障がいを持つ二人が恋を見つけてゆく、 ハートフルラブストーリー。 ※第4回ほっこり、じんわり大賞  ~涙じんわり賞受賞作品~ ☆温かなご感想や応援、ありがとうございました!  心から感謝いたします。 ※この物語はフィクションです。作中に登場する 人物や団体は実在しません。 ※表紙の画像は友人M.H様から頂いたものを、 本人の許可を得て使用しています。 ※作中の画像は、フリー画像のフォトACから選んだ ものを使用しています。 《参考文献・資料》 ・こころの耳---伝えたい。だからあきらめない。 =早瀬 久美:講談社 ・与えられたこの道で---聴覚障害者として私が 生きた日々=若林静子:吉備人出版 ・難病情報センター https://www.nanbyou.or.jp/entry/196 ・https://koikeganka.com/news/oshirase/sick/4425

きみに駆ける

美和優希
ライト文芸
走ることを辞めた私の前に現れたのは、美術室で絵を描く美少年でした。 初回公開*2019.05.17(他サイト) アルファポリスでの公開日*2021.04.30

信念の弁証法

WOOPマン
歴史・時代
パタリプートラの活気溢れる街は、午後の太陽に照らされ、色彩と音響が織り成す賑やかなタペストリーのように広がっていた。リズミカルなダンスなど賑わいに満ちている。この新しい街の中、ナースティカのダーラと名指しでバラモン達から非難される、ローカヤタの僧侶ダーラが興味深い格好で現われた。彼は髪でできた服を身にまとっており、街の人々の目を引いた。しかし、彼の言葉もその服装と同じくらい独特だった。 ダーラは迷路のような市場の露店の間を縫うように歩く。その足音は街の喧騒の中に消えていく。彼は、神や死後の世界はなく、世界は、物質だけが存在し、諸々の現象は物質が相互に影響しあう単なる模様であると語った。彼の教義は、魂と輪廻転生という常識から外れ、好奇心と怒りがパタリプートラに広がった。 市場は彼の舞台であり、市民が彼の聴衆であった。バラモンの支配が揺らぎはじめたこの時代、市民は彼の周りに集まり、彼の斬新な話に引き込まれた。ランプが虫達を引き寄せるように、彼のカリスマ性と急進的なイデオロギーの光が人々を魅了した。 賑やかな市場という舞台で、ダーラの言葉は空気を切り裂き、規範に挑戦し、疑問の余地のないものに疑問を投げかけ、パタリプートラの人々の心に好奇心の炎を燃やした。彼の旋律は、支配的な声と相反するものであり、前例のない領域への旅、パタリプートラの調和を永遠に変えてしまうかもしれないものだった。 ダーラの大胆な言葉が街中に響き渡ったときでさえ、穏やかな表情の下で変化の嵐が吹き荒れていた。古いものと新しいものが共存し、伝統的なバラモンと新興の市民らが共存するパータリプトラの中心で、変革の種が今まかれようとしていた。

ノゾミノナカと悪霊迷宮の殺人鬼

ちさここはる
ライト文芸
もしもの話し。ショッピングモールに気づかれずに閉じ込められてしまったらどうしますか? この物語の少女たちは立ち向かいます。たとえ、どんな困難だろうとも。 生きて帰りたい。友達を見つけたい。 どんな困難や、襲われてしまっても。

可愛いかもね

圍 杉菜ひ
ライト文芸
自らを絶対に可愛いと思う雅は前髪を切りすぎてしまい……。

世界をとめて

makikasuga
ライト文芸
天涯孤独な人生を過ごしていた金田麻百合の元に突如現れた金髪ヤンキーの男、柳。 彼に強引に連れ出され、麻百合は二卵性双子児の妹、浅田花梨と対面する。 自分とは似ても似つかない儚げな少女、花梨。彼女の奴隷だと言って、何でも言うことを聞く柳。戸惑いながらも、麻百合はふたりと同居することになった。 最初で最後の奇妙な同居生活、そこに忍び寄る黒い影。彼らの世界はどう変わっていくのか。 サブタイトルにはパチンコ用語が使われております。 今のところNolaノベルにも掲載しています。

処理中です...