学内格差と超能力

小鳥頼人

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1巻 学内格差編

第12話 ③

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    ★

「くっそー! 全然見つからないじゃないか!」
「こいつらがこれだけ守ろうとしてるんだ。あるはずなのに!」
(へへ……俺たちはおとりに過ぎないのに無駄な探索ご苦労さん。手帳はここにはないぜ)
「誠司、連絡ありがとう」
「おう、太一! 隆も! 今しか――――ないよなっ!」
「お前ら、二人してホースなんか持って――つ、つめてえ!」
「……やべっ、シールが!」
「ゆ、油断、た、大敵」
「君たち固まって捜索しすぎだよ。狙ってくれって頼んでるようなものじゃないか」
「ち、佐藤め……」
「一気に七人の脱落に成功。ふふっ、上々の出来だよ。あとは宏彰が手帳を見つけさえすればフィナーレだ」

    ☆

 ちなみにネタばらしをすると、2科の手帳は2科Bに隠してある。
 万が一見つかってしまった場合は、防衛をしたところで体育会系が多い1科相手に力技で勝てるはずもないので抵抗しないことにしている。
 また、変に手帳付近をガッチリ守ってもいぶかしまれるのであえて隠し場所付近は無人にしてある。
 この賭けが吉と出るか凶と出るか。

「にしても手帳はどこだよー」
 ぼやきつつも辻堂の妨害で確認できなかった2科Bの扉を開ける。
「おっ、高坂だ!」
「そのシール討ち取ったり!」
 1科男子二人が俺の元まで走ってきた。
 俺のすぐ隣には俺自身が仕掛けた罠があるが、1科の連中にはバレている。
 奴らは罠を避けた上で俺に迫ってくるけど――
「押さなければ何もはじまらない作戦!」
「おあっ!?」
「そんなんアリかよ!?」
 罠に向かって1科男子二人の身体を突き飛ばすと、二人は捕獲網に捕えられた。
 罠の存在は認識こそされているけど、無効化されてはいない。強引かつ低俗な手法だけど、俺の脳みそではこれが関の山だ。
 シールを剥がし、二人をリタイア室送りにしたため教室内は俺だけとなった。
「さてと、手帳を探すとしますかね」
 教室の隅に棚があるけど1科の生徒手帳はなかった。
 ちなみにこの棚の奥に2科の生徒手帳が眠っている。
 ちょっと確認してみるか。間違えて触るとアウトだから、慎重に――――

「――あれ? 手帳がないぞ……これは?」

 おかしいな。ここに隠す運びだったはずなんだけど、あったのは箱だった。
 しかも鍵がかかっていて開かない。

    ★ ★ ★

 一時間ほど前、下校する代表二人の廊下での会話――――
「それにしても意外だったな。まさか1科と2科で手帳の隠し場所が被るとはなー」
「1科は鍵付きの箱に隠す意地悪さ。この際ってことで2科の手帳も一緒に入れるとはやるなぁ」
「あれなら見つけられたとしても間違えた方を選ぶと負けになる。勝ちたいなら運も味方につけろってことさ」

    ☆

「どう考えても怪しいよな、この箱」
 もしや、この箱の中に手帳が?

「いたぞ! 高坂だ!」
「捕まえてシールを剥がせ!」

 やばい! 1科男子数人が教室に侵入してきた。
 窓から逃げようにも隣の教室も交戦中だ。完全に逃げ場を失った。
「さっ、観念しろや!」
 ここにきて絶対絶命かっ。
 後ずさりしていると、俺のジャージのポケットから何かが落ちた。
(あっ、遠藤さんからもらったお守りが)
「…………! なぜ貴様がそれを持ってるんだ!」
「えっ、もらったんだけど」
「それをよこせギャーッ!」
 関節技を食らった1科男子の断末魔とともに、胸についていたシールが剥がされた。

「やぁ宏彰、迎えに来たよ」
「太一! 誠司、豊原も!」

 気心の知れた仲間が集結した。みんな無事でよかった。
「宏彰、そのお守りの中身を見るんだ。恐らくその中に鍵がある」
「ちょまーッ!?」
「ねっ、ねえよんなもん!」
「彼らの動揺がなによりの証拠だ! 急いで」
「りょ、了解!」
 遠藤さんからもらったお守りの中身を確認すると、太一の言う通り一本の鍵が入っていた。
「奪え!」
「させねーよ!」
 1科男子の特攻を誠司がカバーしてくれている。
 今のうちに鍵を開けるぞ!
「こ、これは…………!」
 中身を開けて超ビックリ。
 なんと生徒手帳が二冊入っていたのだ。
 各科で隠し場所が同じだったのか。代表どちらの仕業かは知らないけど鍵付きの箱に入れるとは小賢しいな。
 手帳が全然見つからなかったのはそういう理由だった。皆が自分の学科の手帳がどこに隠してあるか知っているため、隠し場所付近は誰もマークしていなかった。
 しかも1科も2科同様に隠し場所を厳重に守っていなかったので殊更ことさら誰も細かく探さずに今に至るのだ。
「どちらかが1科の手帳…………」
 しかし、手帳は二冊とも裏返しで入っているため、表紙に印字されている生徒の氏名が確認できない。
 くそっ、なんでジャージやネクタイの色は学科で違うのに、生徒手帳だけは統一されてるんだよ!
 箱を逆さにして生徒手帳を床に落とせば、その際に表面おもてめんが上になるかもとも考えたが――
「宏彰! こうなりゃ気合でどっちか選べ!」
「誠司の言う通りだ。もう運に任せるしかない。ここで決めてくれ」
「わ、分かった」
 太一と誠司に背中を押してもらい、二冊ある手帳のうち、左側の手帳を裏返す。
 そこに印字されていた文字列は――――

 貴津学園 第二進学科 西宮 太郎にしみや たろう

 俺が選んだのは、2科代表の生徒手帳だった。
 終わった。
 俺たちの負けだ。

「「「よっしゃーっ! 勝ったぞー!」」」
 1科の生徒たちはガッツポーズで大喜び。対する2科の面々は項垂れる。

「ごめん、ごめんみんな……俺のせいで」
 俺も力なく膝から崩れ落ちて茫然ぼうぜんとする。
「こればかりは仕方ないさ。1科相手にいい勝負ができたんじゃないかな?」
「そうだぞ! また次の舞台で活かせばいいだろ!」
「き、切り替えて、い、行こうよ!」
「太一、誠司、豊原……」
 俺は本当に良い友達を持ったよ。
 と、いつの間にか今回の勝負に参戦した生徒全員がこの場に集結していた。
「ざまぁねぇな高坂ぁ! 結局はこうなる運命にあったんだよぉ!」
 1科勝利を知った辻堂が意気揚々と俺に指を差してきた。
 同じ学科の星川さんにリタイアさせられたくせに偉そうだな。
「約束、覚えてるよなぁ?」
「……あぁ」
「たった今からテメェは1科生徒たちの付き人だ! じゃんじゃんこき使ってやっから覚悟しとけよ!」
 約束は約束だ。不本意だけど屈服せざるを得ない。
「高坂君……」
 星川さんと遠藤さんは心配そうな面持ちでこちらを見ている。
「二人が俺を切なげに見つめている――これはもしや!?」
 自分が見つめられていると勘違いした自意識過剰な誠司は上腕二頭筋じょうわんにとうきんで力こぶを作って謎のアピールをはじめた。
 もはやツッコむ気も起きずにその場で固まっていると――――

「はいはーい、そこまでー! 御用改めである! お前ら全員手を上げろ! なんつって」
 二回手を叩く音とともに凛とする声が響いた教室出入り口に視線を移すと、そこには普段滅多にお見かけしない人物の姿があった。

「「「学園長!?」」」

 生徒たちの気持ちはたった今、学科を問わず一つになったことだろう。
 うん、俺も突然のご登場にビックリだよ。
「俺が呼んだんだ。お前ら、やってくれたな」
 学園長の横には我らが担任、柴山先生の姿もある。先生は仁王立ちで生徒たちを睨んでいる。
「お前たちの愚行はぜーんぶお見通しだぞ」
 学園長は全てを知っていたらしい。だったらなぜ決着するまで放置していた?
「しっかしずいぶんとド派手にやってくれたもんだな。窓ガラスは割れてるわ、ワックスまみれの教室はあるわ、障害物屋敷の教室まであるわ。挙句の果てには室内プール場ときたもんだ。お前ら揃いも揃って情熱を注ぐところ間違ってんだろ。勉強しろ、勉強」
 盛大に溜息をき、事態を把握している学園長は再び口を開く。
「これも青春なのかねぇ――いいかー、今回の勝負は無効だ、無効」
 1科の勝利が帳消しになるってこと?
 俺からしたら大変ありがたい話ではあるけど――
「待ってくださいよ! せっかく勝ったのに帳消しだなんてあんまりじゃないすか!」
 当然ながら1科側の親玉たる辻堂は不服を申し立てた。
「辻堂。お前が騒動の実行犯らしいじゃねーか。さすがのあたしもこればかりは看過できんよ」
 主犯の存在に気づいているのか計り知れない学園長は目を細めて辻堂に冷たい視線を送った。
「えー、辻堂晴生。貴公は2科に対して様々な嫌がらせを多数行った。この行為により学園の治安は大幅に乱れた。当該行為は大変悪質とみなす。よって貴公を二週間の停学処分とする」
「なっ、なな…………!」
 気だるげに宣告された学園長の謹慎処分に、辻堂は返す言葉を失っていた。
 こんな結末を誰が予想していただろうか。俺はおろか、太一や歩夢ですら想像もつかなかっただろう。
「それはいくらなんでも厳しすぎやしませんか!?」
「そうっすよ、どうして辻堂だけが!」
「安心しな。辻堂だけじゃねーぜ。テメーらも同罪に決まってんだろー? 一緒になって2科の生徒に嫌がらせしてたんだからよー。庇えんよ、庇いたくもねーってね」
 辻堂一人が派手に目立っていたけど、取り巻き連中だって散々2科を侮辱してきたんだ。当然の報いだ。
「っちょ! おい辻堂どうしてくれんだ! とばっちりじゃねえか!」
「はぁ? バカかテメェは!? テメェ等も俺と同じようなことをガンガンやってきただろうが!」
「二週間の停学はさすがに勉強追いつかねーよ……マジ勘弁……」
 取り巻き二人はがっくりと肩を落とした。
「やれやれ、醜悪しゅうあくな内乱は学外でやってくんねーかな」
 辻堂一派の醜い言い争いに、学園長は後頭部を掻いて溜息をいた。
 所詮悪さをする時だけつるんでいる徒党の結束力などこの程度のもの。些細なきっかけであっさりと仲間割れを起こして空中分解する。
「6組の奴らは全員俺のところに来い」
 柴山先生が怒気のはらんだ声で6組の生徒を集合させた。
「お前ら――――」
 先生は険しい表情を破顔一笑はがんいっしょうさせて、
「やるじゃねーか。闘争心が強いのは嫌いじゃないぜ」
 サムズアップして俺たちをねぎらってくれた。
「それはそれとして、形式上は2科の負けだから明日全員で後始末すること」
 柴山先生からペナルティが課せられた2科の面々からはため息が漏れてくるけど、
「はぁ~ってそりゃ俺の台詞だぞ! 俺も後始末を手伝わなきゃならねーんだからな! ったく、貴重な休日がよー」
 騒動の責任を負う形で生徒の尻拭いをする羽目となった柴山先生は恨み節を唱えた。
「なんか、すみません」
 俺は6組を代表して先生に頭を下げた。そこは申し訳ない気持ちしかない。

 結局、今回の騒動によって辻堂を含む数人が停学処分となり、勝負も無効となった。
 当然辻堂との約束も破棄されたので俺のパシリはなくなったのだった。
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