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1巻 学内格差編
第4話 ③
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「俺たちの負けだ。相手が2科だからって人数を減らしたことで流れを変えちまった」
力なく嘆息する高沢君を誠司は一瞥すると、
「仮にフルメンバー同士で殴り合ってたら絶対に負けてたわ。本当に強かった」
と伝えた。
誠司の言葉を聞いた高沢君はふぅ、ともう一つ溜息を吐いて達観したような笑顔を浮かべた。
「勝因はどうであれ、勝ったのは6組だ。6組の方が俺たちよりも強いんだ。自信を持って次の試合も頑張ってくれよ」
「あぁ、もちろんだ!」
そうだ。次は辻堂のクラスと当たる可能性が高い。下手な試合はできないぞ。早く気持ちを切り替えなければ。
握手をし、お互いのクラスの健闘を讃え合う誠司と高沢君を見つつ、俺は気合を入れ直した。
『3組が、二軍集団に負けるだなんて……』
『2科が勝つとか展開的にチョーしらけるんだけど』
『アイツら、どんなインチキしやがったのよ?』
『アタシ、椋を慰めに行こーっと』
『あっ!? 抜け駆けは許さないんだからね!』
……勝利してもなお、女子生徒たちから6組へ鋭い矢が放たれた。
いついかなる時でも2科はアウェイなんだなぁ。
★
「おい辻堂、3組対6組の決着が着いたぞ」
「どうせ3組が勝ったんだろ? 高沢山田もいるし、2科相手なら楽勝だろうよ」
「それがな、6組が4対3で勝ちやがったんだ」
「はぁ? てぇことは、二回戦の相手も2科ってわけか。なぜ3組が負けたのかは知らねぇが、それなら俺が直々に仇を取ってやるまでよ。二回戦、ピッチでテメェ等2科に大恥かかせてやる、覚悟しやがれ!」
「辻堂、わざわざ6組の下駄箱に向かって吠えなくても……」
☆
ひとまずは勝つことができた。俺も一点入れたので一応は役に立てた。
二回戦まではしばらく時間があるので自由時間となった。
「なぁ、バスケとバレーの試合を観に体育館に行かないか?」
水筒の水をがぶ飲みしていると、誠司から体育館への誘いを受けた。
「俺は遠慮するよ。5組と8組の試合を観て、それぞれの癖や傾向を探したいから」
「ぼ、僕も、佐藤君と、し、し試合を観てるよ」
太一と豊原は誠司の誘いを速攻で断った。
……あれ、誠司君? 君は悪魔のような笑みを俺に向けてどうした?
「なら、二人で観に行くしかないな」
「いやいや待ってくれ。俺も太一たちと一緒にだね――」
「よーし、そうと決まれば善は急げだ! 今すぐ体育館へGO!」
聞いてくれよ、俺の話! 分かったから無理矢理腕を引っ張らないで!
☆
「……暑いな」
「……暑いね」
体育館の中は外よりも更に蒸し暑い。
窓は全開だけど風は大して入ってこないこともあり、体感温度は35度を超えている。もうコレサウナだワ。
視線を窓から下に落とすと、長方形上のエリア内で白熱したバスケの試合が展開されていた。
「朱音っ、頼んだ!」
あ、豊原先輩だ。
「任せて!」
豊原先輩はクラスメイトからボールを受け取ると、すぐさまシュートを打つ。
ゴールまでは結構距離があったけど、正確無比なコントロールでスッポリとボールがネットをくぐった。伊達にバスケ部の部長兼キャプテンはやってない。
『あの人上手いなぁ。それにすごく美人だし、スタイルも良いねぇ』
『走るたびにしなやかに揺れるポニーテールも綺麗だなあ』
『身体から滴る汗を舐め舐めしてぇ~』
『くーっ! ノーブラだったらドリブルする時に果実の局部が見えたのにぃ!』
男子生徒たちが色めき立っている。中には平然とセクハラ感想を言い放つ不逞の輩もいた。
豊原先輩のシュートと同時に試合は終了した。豊原先輩のクラスの勝利だ。
ここでバスケの試合は小休止に入るようだ。
その間にバレーの方を観に行こうかな。
誠司は1科男子と談笑しているので一人で体育館の奥へと移動する。
星川さんがいる2年2組と、遠藤さんがいる2年4組か。
去年もそうだったけど、バレーの1科の出場生徒はほぼ全員女子なので彩りがあるなぁ。2科は――お察しください。
なんだ、こちらも2組のマッチポイントじゃん。まもなく決着がつくな。
2組女子――星川さんがサーブを打つ。
無回転のボールが微妙に揺れながらネットの向こうへと飛んでいく。
対する4組女子も負けじとナイスレシーブで遠藤さんにボールを渡す。
遠藤さんは両手の人差し指と親指で三角形を作ってボールをトスする。綺麗な所作だ。
よく見ると遠藤さんって、背はそこまで高くないけどスタイル良いなぁ。
ナイストスで上がったボールに、4組女子がスパイクを放つ。
が、残念ながらボールはコートの線の外側を越えてしまい、アウトとなったため試合終了となった。
そこで俺の存在に気づいた遠藤さんが駆け寄ってきた。
「高坂さん。観に来ていたんですか?」
「うん。こっちもさっき試合が終わってね」
そう返すと、遠藤さんは嬉しそうにはにかんだ。 あっ、これ俺の顔面がアカンことになるやつや。
遠藤さんから視線を外し、「試合、残念だったね」と言うと、
「そんなことないですよ。楽しめましたし」
遠藤さんは笑顔で語った。うっ、また俺の顔が歪みそうだ。
「あれ~? 佳菜、高坂君と知り合いだったんだ」
いつの間にか、遠藤さんの横には星川さんが立っていた。
「ほ、星川さん。二人は知り合いなの?」
「去年同じクラスでした」
「今年は微妙にクラスが離れちゃったけどね」
へぇ、だからお互い顔見知りだったんだ。
一人で納得していると、星川さんが首を傾げた。
「佳菜が男子と二人で雑談してるなんて珍しいなあ」
男子と二人での雑談が珍しい?
あ、そうか。遠藤さんはその身分が原因で男子生徒からは避けられているんだっけ。
避けるというよりも距離を置かれている、と表現した方がしっくりくるかも。
うん、男子たちの気持ちは分かるよ。あの使用人さん怖いもん。
けど――――
『おい見ろよ! 2科が星川さん、更にはあの遠藤さんとも喋ってるぞ!』
『2科の分際で身の程を――しかも、遠藤さんと話すなんて恐れ多いとは思わないのかよ』
俺みたいな冴えない奴が、星川さんや遠藤さんのような異性を惹きつける女子と話すと、1科の連中は本当に色々とケチをつけてくるな。
でも逆にチャンスだな。俺みたいな立場の人間だからこそ、できることがある。
「えっと、君たちも星川さんや遠藤さんと普通に話せばいいじゃないか」
俺は遠藤さんにビビっている男子二人に声をかけた。
「2科……簡単に言うけどな。星川さんはともかく、もし遠藤さんの機嫌を損ねでもしたらどんな目に遭うか……」
なんだよそれ……遠藤さんを何だと思ってるんだ? 同じ人間、十代の女の子だぞ。
「遠藤さんはそんな人じゃないよ。控えめで、優しくて、健気で――君たちが勝手にイメージしてるような恐ろしさはないんだよ!」
「いやーそれでもやっぱ身分が違いすぎるというか」
1科男子はそれでも遠藤さんへの警戒が解けないようで頭を掻いている。
「身分? 俺みたいな奴とも笑顔で接してくれる子が、身分なんてものを気にするとでも?」
ありえない。そんな人なら、まず2科って時点で拒絶する。2科生徒に関わるとよからぬ噂を流されるリスクがあるから、風評に執着するプライドの高い人なら、まず学内地位が低い2科生徒と接触しようとは考えない。
「高坂さん……やっぱり優しいです――私……」
「佳菜? なんて?」
遠藤さんはなぜか頬を赤らめており、星川さんはぽかんとした表情でその様子を眺めていた。
そんな二人をチラ見しつつ、俺は再び1科男子へと向き直った。
「変に構える必要はないんだ。遠藤さんは同級生から話しかけられて嫌がる人じゃないよ」
みんなただ食わず嫌いをしてるだけだ。少しでも彼女と交流を持てばその人となりが分かるはず。
「2科の俺が言うんだから、説得力はあるでしょ?」
自分で言ってて悲しくなるが、皮肉にも身分が低い俺が遠藤さんと話せている光景が俺の台詞に力を持たせている。
「確かに……」
「2科とも楽しそうに会話してたし」
1科男子二人は俺の主張にゆっくりと頷いた。
そして恐る恐る遠藤さんの方を向いて、
「――あ、あの、遠藤さん」
「は、はいっ」
「よかったら、お、俺たちともお話してくれると嬉しいな」
真っ赤な顔でおどついているけれど、勇気を振り絞って言葉を出した。
「……はい! 私でよければよろしくお願いします~」
遠藤さんは弾ける笑顔を二人に返したのだった。
「か、可愛い――ありがとう! よろしく!」
1科男子二人と遠藤さん、計三人が何度も深々と頭を下げ合っている。
傍から見たら営業やら接待やらに見えなくもない。ちょっとシュールな光景だ。
これで遠藤さんへの誤解は次第に氷解していくだろう。うんうん、めでたしめでたし。
「ねぇ、聞いてもいい?」
満足感に浸っていると、星川さんが小声で話しかけてきた。わわっ、肩が触れそう!
「ど、どうかした?」
「どうして佳菜と男子たちの間を取り持ったの?」
星川さんは心底不思議そうな表情を向けている。
「誤解から距離を取られてる、なんて悲しいじゃん」
たった一度きりの高校生活で、周囲の勝手な思い込みで人間関係に支障をきたすのは気の毒だと思ったんだ。
「避けられて当然の人だったら自業自得だけど、遠藤さんはそうじゃない。むしろ非常に魅力的なんだから、男子からチヤホヤされるべきなんだよ。まぁ、完全に俺のエゴだけどね」
思わず熱く語ってしまった。引かれちゃったかな。
恐る恐る星川さんに視線を送ると、彼女は不思議そうな顔をしていた。
「佳菜が他の男子と仲良くなったら競争率が高くなるじゃん。佳菜が気兼ねなく話せる男子が自分しかいないアドバンテージを持った状態なら自分が独占できる、とは考えない?」
そして、俺の目を見て言葉を返してきた。
星川さんが言わんとしていることがピンと来ない。
「競争率? なんのこと? それに独占とかそんな自分本位なことはしたくないよ」
俺が遠藤さんを縛ってしまったら尚更他の男子と交流を持つ機会を失ってしまう。
「遠藤さんがいつまでも俺以外の男子と関われないままなんて嫌だよ」
それって変なのかな? と聞くと、星川さんは首を横に振った。
「……高坂君ってなんだか不思議な人だね。変なこと聞いてごめんね」
微笑を浮かべているけど、その笑顔は少し憂いを帯びている気がする。
いやいや全然と返答すると、
「宏彰。仲睦まじいところ悪いんだけど、ミーティングをするから来てくれ」
ここにはいないはずの人物が突然話しかけてきた。
「太一! タイミング!」
そんなわけで星川さんに頭を下げ、俺は太一とともに体育館から離脱したのであった。
「おい2科、ありがとな――って、いない」
「果たして、あのミーティングとは何だったのか……」
しかし、ミーティングはたった三分で終了。
残り時間はひたすら校門前でパス回しの練習に充てただけで終わり、次の相手との試合時間がやってきた。
ちなみに5組と8組の試合は7対0で当然のように5組が大勝した。
これで次の試合は辻堂とぶつかることが確定した。
絶対に勝ってやる!
力なく嘆息する高沢君を誠司は一瞥すると、
「仮にフルメンバー同士で殴り合ってたら絶対に負けてたわ。本当に強かった」
と伝えた。
誠司の言葉を聞いた高沢君はふぅ、ともう一つ溜息を吐いて達観したような笑顔を浮かべた。
「勝因はどうであれ、勝ったのは6組だ。6組の方が俺たちよりも強いんだ。自信を持って次の試合も頑張ってくれよ」
「あぁ、もちろんだ!」
そうだ。次は辻堂のクラスと当たる可能性が高い。下手な試合はできないぞ。早く気持ちを切り替えなければ。
握手をし、お互いのクラスの健闘を讃え合う誠司と高沢君を見つつ、俺は気合を入れ直した。
『3組が、二軍集団に負けるだなんて……』
『2科が勝つとか展開的にチョーしらけるんだけど』
『アイツら、どんなインチキしやがったのよ?』
『アタシ、椋を慰めに行こーっと』
『あっ!? 抜け駆けは許さないんだからね!』
……勝利してもなお、女子生徒たちから6組へ鋭い矢が放たれた。
いついかなる時でも2科はアウェイなんだなぁ。
★
「おい辻堂、3組対6組の決着が着いたぞ」
「どうせ3組が勝ったんだろ? 高沢山田もいるし、2科相手なら楽勝だろうよ」
「それがな、6組が4対3で勝ちやがったんだ」
「はぁ? てぇことは、二回戦の相手も2科ってわけか。なぜ3組が負けたのかは知らねぇが、それなら俺が直々に仇を取ってやるまでよ。二回戦、ピッチでテメェ等2科に大恥かかせてやる、覚悟しやがれ!」
「辻堂、わざわざ6組の下駄箱に向かって吠えなくても……」
☆
ひとまずは勝つことができた。俺も一点入れたので一応は役に立てた。
二回戦まではしばらく時間があるので自由時間となった。
「なぁ、バスケとバレーの試合を観に体育館に行かないか?」
水筒の水をがぶ飲みしていると、誠司から体育館への誘いを受けた。
「俺は遠慮するよ。5組と8組の試合を観て、それぞれの癖や傾向を探したいから」
「ぼ、僕も、佐藤君と、し、し試合を観てるよ」
太一と豊原は誠司の誘いを速攻で断った。
……あれ、誠司君? 君は悪魔のような笑みを俺に向けてどうした?
「なら、二人で観に行くしかないな」
「いやいや待ってくれ。俺も太一たちと一緒にだね――」
「よーし、そうと決まれば善は急げだ! 今すぐ体育館へGO!」
聞いてくれよ、俺の話! 分かったから無理矢理腕を引っ張らないで!
☆
「……暑いな」
「……暑いね」
体育館の中は外よりも更に蒸し暑い。
窓は全開だけど風は大して入ってこないこともあり、体感温度は35度を超えている。もうコレサウナだワ。
視線を窓から下に落とすと、長方形上のエリア内で白熱したバスケの試合が展開されていた。
「朱音っ、頼んだ!」
あ、豊原先輩だ。
「任せて!」
豊原先輩はクラスメイトからボールを受け取ると、すぐさまシュートを打つ。
ゴールまでは結構距離があったけど、正確無比なコントロールでスッポリとボールがネットをくぐった。伊達にバスケ部の部長兼キャプテンはやってない。
『あの人上手いなぁ。それにすごく美人だし、スタイルも良いねぇ』
『走るたびにしなやかに揺れるポニーテールも綺麗だなあ』
『身体から滴る汗を舐め舐めしてぇ~』
『くーっ! ノーブラだったらドリブルする時に果実の局部が見えたのにぃ!』
男子生徒たちが色めき立っている。中には平然とセクハラ感想を言い放つ不逞の輩もいた。
豊原先輩のシュートと同時に試合は終了した。豊原先輩のクラスの勝利だ。
ここでバスケの試合は小休止に入るようだ。
その間にバレーの方を観に行こうかな。
誠司は1科男子と談笑しているので一人で体育館の奥へと移動する。
星川さんがいる2年2組と、遠藤さんがいる2年4組か。
去年もそうだったけど、バレーの1科の出場生徒はほぼ全員女子なので彩りがあるなぁ。2科は――お察しください。
なんだ、こちらも2組のマッチポイントじゃん。まもなく決着がつくな。
2組女子――星川さんがサーブを打つ。
無回転のボールが微妙に揺れながらネットの向こうへと飛んでいく。
対する4組女子も負けじとナイスレシーブで遠藤さんにボールを渡す。
遠藤さんは両手の人差し指と親指で三角形を作ってボールをトスする。綺麗な所作だ。
よく見ると遠藤さんって、背はそこまで高くないけどスタイル良いなぁ。
ナイストスで上がったボールに、4組女子がスパイクを放つ。
が、残念ながらボールはコートの線の外側を越えてしまい、アウトとなったため試合終了となった。
そこで俺の存在に気づいた遠藤さんが駆け寄ってきた。
「高坂さん。観に来ていたんですか?」
「うん。こっちもさっき試合が終わってね」
そう返すと、遠藤さんは嬉しそうにはにかんだ。 あっ、これ俺の顔面がアカンことになるやつや。
遠藤さんから視線を外し、「試合、残念だったね」と言うと、
「そんなことないですよ。楽しめましたし」
遠藤さんは笑顔で語った。うっ、また俺の顔が歪みそうだ。
「あれ~? 佳菜、高坂君と知り合いだったんだ」
いつの間にか、遠藤さんの横には星川さんが立っていた。
「ほ、星川さん。二人は知り合いなの?」
「去年同じクラスでした」
「今年は微妙にクラスが離れちゃったけどね」
へぇ、だからお互い顔見知りだったんだ。
一人で納得していると、星川さんが首を傾げた。
「佳菜が男子と二人で雑談してるなんて珍しいなあ」
男子と二人での雑談が珍しい?
あ、そうか。遠藤さんはその身分が原因で男子生徒からは避けられているんだっけ。
避けるというよりも距離を置かれている、と表現した方がしっくりくるかも。
うん、男子たちの気持ちは分かるよ。あの使用人さん怖いもん。
けど――――
『おい見ろよ! 2科が星川さん、更にはあの遠藤さんとも喋ってるぞ!』
『2科の分際で身の程を――しかも、遠藤さんと話すなんて恐れ多いとは思わないのかよ』
俺みたいな冴えない奴が、星川さんや遠藤さんのような異性を惹きつける女子と話すと、1科の連中は本当に色々とケチをつけてくるな。
でも逆にチャンスだな。俺みたいな立場の人間だからこそ、できることがある。
「えっと、君たちも星川さんや遠藤さんと普通に話せばいいじゃないか」
俺は遠藤さんにビビっている男子二人に声をかけた。
「2科……簡単に言うけどな。星川さんはともかく、もし遠藤さんの機嫌を損ねでもしたらどんな目に遭うか……」
なんだよそれ……遠藤さんを何だと思ってるんだ? 同じ人間、十代の女の子だぞ。
「遠藤さんはそんな人じゃないよ。控えめで、優しくて、健気で――君たちが勝手にイメージしてるような恐ろしさはないんだよ!」
「いやーそれでもやっぱ身分が違いすぎるというか」
1科男子はそれでも遠藤さんへの警戒が解けないようで頭を掻いている。
「身分? 俺みたいな奴とも笑顔で接してくれる子が、身分なんてものを気にするとでも?」
ありえない。そんな人なら、まず2科って時点で拒絶する。2科生徒に関わるとよからぬ噂を流されるリスクがあるから、風評に執着するプライドの高い人なら、まず学内地位が低い2科生徒と接触しようとは考えない。
「高坂さん……やっぱり優しいです――私……」
「佳菜? なんて?」
遠藤さんはなぜか頬を赤らめており、星川さんはぽかんとした表情でその様子を眺めていた。
そんな二人をチラ見しつつ、俺は再び1科男子へと向き直った。
「変に構える必要はないんだ。遠藤さんは同級生から話しかけられて嫌がる人じゃないよ」
みんなただ食わず嫌いをしてるだけだ。少しでも彼女と交流を持てばその人となりが分かるはず。
「2科の俺が言うんだから、説得力はあるでしょ?」
自分で言ってて悲しくなるが、皮肉にも身分が低い俺が遠藤さんと話せている光景が俺の台詞に力を持たせている。
「確かに……」
「2科とも楽しそうに会話してたし」
1科男子二人は俺の主張にゆっくりと頷いた。
そして恐る恐る遠藤さんの方を向いて、
「――あ、あの、遠藤さん」
「は、はいっ」
「よかったら、お、俺たちともお話してくれると嬉しいな」
真っ赤な顔でおどついているけれど、勇気を振り絞って言葉を出した。
「……はい! 私でよければよろしくお願いします~」
遠藤さんは弾ける笑顔を二人に返したのだった。
「か、可愛い――ありがとう! よろしく!」
1科男子二人と遠藤さん、計三人が何度も深々と頭を下げ合っている。
傍から見たら営業やら接待やらに見えなくもない。ちょっとシュールな光景だ。
これで遠藤さんへの誤解は次第に氷解していくだろう。うんうん、めでたしめでたし。
「ねぇ、聞いてもいい?」
満足感に浸っていると、星川さんが小声で話しかけてきた。わわっ、肩が触れそう!
「ど、どうかした?」
「どうして佳菜と男子たちの間を取り持ったの?」
星川さんは心底不思議そうな表情を向けている。
「誤解から距離を取られてる、なんて悲しいじゃん」
たった一度きりの高校生活で、周囲の勝手な思い込みで人間関係に支障をきたすのは気の毒だと思ったんだ。
「避けられて当然の人だったら自業自得だけど、遠藤さんはそうじゃない。むしろ非常に魅力的なんだから、男子からチヤホヤされるべきなんだよ。まぁ、完全に俺のエゴだけどね」
思わず熱く語ってしまった。引かれちゃったかな。
恐る恐る星川さんに視線を送ると、彼女は不思議そうな顔をしていた。
「佳菜が他の男子と仲良くなったら競争率が高くなるじゃん。佳菜が気兼ねなく話せる男子が自分しかいないアドバンテージを持った状態なら自分が独占できる、とは考えない?」
そして、俺の目を見て言葉を返してきた。
星川さんが言わんとしていることがピンと来ない。
「競争率? なんのこと? それに独占とかそんな自分本位なことはしたくないよ」
俺が遠藤さんを縛ってしまったら尚更他の男子と交流を持つ機会を失ってしまう。
「遠藤さんがいつまでも俺以外の男子と関われないままなんて嫌だよ」
それって変なのかな? と聞くと、星川さんは首を横に振った。
「……高坂君ってなんだか不思議な人だね。変なこと聞いてごめんね」
微笑を浮かべているけど、その笑顔は少し憂いを帯びている気がする。
いやいや全然と返答すると、
「宏彰。仲睦まじいところ悪いんだけど、ミーティングをするから来てくれ」
ここにはいないはずの人物が突然話しかけてきた。
「太一! タイミング!」
そんなわけで星川さんに頭を下げ、俺は太一とともに体育館から離脱したのであった。
「おい2科、ありがとな――って、いない」
「果たして、あのミーティングとは何だったのか……」
しかし、ミーティングはたった三分で終了。
残り時間はひたすら校門前でパス回しの練習に充てただけで終わり、次の相手との試合時間がやってきた。
ちなみに5組と8組の試合は7対0で当然のように5組が大勝した。
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