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1巻 学内格差編
第2話 ③
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微妙な空気のまま体育委員が次々と教室から退室していく様子を横目に、俺は豊原先輩のところに向かった。
「あの、先輩……本当によかったんですか?」
「問題ナッシングだよ! 最初は誰でも初めてだし、それに2年生のうちに副委員長を経験してもらえば、来年は委員長になってくれるかもだし。一種の先行投資だよ、あはは♪」
そう言って豊原先輩は微笑む。その笑顔はお日様のように眩しい。
慌てて熱くなった顔ごと先輩から背ける。
と、背けた先で立ち尽くしたままの辻堂君と目が合ってしまった。
「納得いかねぇ……俺は認めねぇぞ、高坂ぁ……!」
呪いをかけるように呟く辻堂君。
すると豊原先輩が、
「まだ納得いかない? じゃあさ、高坂くんの仕事ぶりを見て判断するのはどうかな? しばらくやってもらって、とても副委員長の仕事が務まっていないようなら他の人と交代する。どう?」
辻堂君に妥協案を提示する。
幾許かの沈黙の後、
「…………分かりました」
渋々納得したようだ。
しかし先が思いやられるなぁ。この様子では些細なミスがあれば絶対に叩いてくるな。
「おい高坂ぁ、2科の分際で副委員長になれたからって付け上がんじゃねぇぞ」
まだ仕事もしていないうちからクレームが来たよ。早速かい。
「副委員長に1科も2科も関係ないのでは……」
俺は呆れ半分で言葉を返す。
それを聞いた途端、辻堂君の眉間にしわが寄る。
「はぁ? ゴミオタクの2科が委員長や副委員長になるとか今まで聞いたことなかったっつーの! 果たして根暗に務まるのかねぇ~?」
「2科の生徒が全員根暗だとでも?」
「全員じゃなくても八割はそうだろ? 何が間違ってるっつーんだよ? あぁ!?」
残念だけどそれは概ね正解で、2科の悲しき現実だ。
「確かに2科は大人しい人は多いけど、3年はそこまで極端じゃないよ?」
豊原先輩は首を傾げている。
言われてみると、1科と2科の雰囲気の差がここまで大きく開き、お互いにいがみ合っているのは俺たちの学年だけな気もする。
「他学年はそうかもしれませんが、2年はそれが実情なんです! 学内で見るからに気持ち悪いのがいたら、そいつはほぼほぼ2科の奴っすから」
「外見や雰囲気でしか人を測れないの? 確かに俺みたいに容姿がイマイチな人もいる。話すのが苦手な人だっている。でも優しい人だって多いし、話してみると楽しい人だっている。ただ自分の思いを伝えるのが苦手なだけなんだ。まともに話したこともないくせに、2科の全てを知ってるような口ぶりで語るなよ」
「黙れクソ雑魚2科が! 今は高校生だからまだいいけどよ、社会に出たらどうすんだ? いや、そもそも2科の連中は採用面接で落とされるからいらねぇ心配か。あぁワリィワリィ、ヒャハハ」
1科なら人生安泰だとでも思ってるのか。
「キメェ奴を見たらうわぁって思うだろ? 暗そうな奴を見たらなにコイツってなるだろ? 普通の感性を持ってりゃそれが当たり前なんだよ! ただ世間体があるからどいつも直接口には出さねぇだけでな! だから俺が世論を代表して、声を大にして訴えてやってんだよぉ!」
俺の怒りのボルテージが上昇していく。
くそっ、今まで散々似たようなことを言われてきたじゃないか。それでも1年の頃からずっと、ずっと我慢し続けてきた。
けれど、ひたすら耐えてどうなるっていうんだ? 何も変わらないんじゃないのか? 我慢し続けた先に何があるんだ?
俺たち2科はずっと学科差別を受け続けるのか?
大体、1科と2科の違いだけで学内格差が起こって、それをみんなが平然と看過していられるとかおかしいよ! 1科がそんなに偉いのか!?
だったら――――だったら俺は。
「辻堂くん、キミはいい加減に――」
「お前いい加減にしろよ!!」
俺は机を叩き、豊原先輩の言葉を遮って辻堂を怒鳴りつけた。
はじめの頃は怖かった。下手に逆らえば痛い目に遭わされると思ってたから言われっぱなしだった。
だがこれ以上はもう我慢の限界だ。
「はぁ? なーに必死になってキレてやがんだ? キメェな」
辻堂は冷淡な笑みで俺を見下ろしてくる。こいつバッカじゃねぇの? と考えているのが見て取れる。
ちょっくら反撃してやろう。
「お前はそんな2科の大多数の生徒よりも学業成績は下でしょ? 違うか?」
「多少勉強ができるからって調子に乗んなよカス! んなモンできたところで就職できなきゃ意味ねぇだろ! 引きこもりになったら意味ねぇだろ! 結局テメェら2科は学問だけで、それ以外は全部からっきしできてねぇんだよ!」
「確かに2科にはコミュニケーションが苦手な生徒が多い。けど、それなら開発職や研究職、製造職で黙々と社会貢献する仕事もあるでしょ?」
「どんな仕事でも、最低限のコミュニケーション能力は必要不可欠だろ! まったく、豊原先輩も可哀想っすよねぇ。あんなコミュニケーション能力ゼロの弟が2科に在籍してるなんてよ」
豊原まで悪く言うのかよ。さてはコイツ、火種を豊原に向ける気だな。
「辻堂っ! 豊原を――」
「タカシのことまで悪く言わないで!!」
俺と辻堂の言い争いを静観していた豊原先輩からの悲痛な叫びが響く。
「確かにタカシの評判はよくないよ。それは私の耳にも届いてる。でも、それでも、私の大切なたった一人の弟なの! それを」
「俺の友達まで悪く言うな!! この差別野郎!」
「な、なんだよ。これじゃあまるで俺だけが一方的に悪者みたいじゃねーか――くそっ、今日はこの辺にしといてやらぁ。感謝しやがれ!」
辻堂は下衆な捨て台詞を残してそそくさと逃げるように去っていった。
「タカシの味方でいてくれてありがとう、高坂くん」
それでも。
「あの子は周りから好かれない性格かもしれないけど、良いところもいっぱいあるんだよ。これからもタカシのお友達でいてくれると嬉しいな」
「もちろんですよ。俺の方こそ、あいつには色々と助けてもらってます」
それでも、俺の中で黒く渦巻くモヤモヤが晴れることはなかった。
☆
「おお、遅かったね。次の時間は部活のオリエンテーションだ。パソコン部の素晴らしさをアピールして、新入部員確保といこうかね――って、顔が怖いよ。どうしたの?」
「太一。決めたよ」
「決めたかー。で、どの攻略可能キャラに告白するんだい?」
「ギャルゲーの話じゃなくて!」
「なんだ違うのか…………で、なに」
ギャルゲーの話題ではないと知るや否や、途端に面倒臭そうな態度に変わる太一。ここまであからさまだとむしろ清々しい。
「2科は1科に負けてないって、1科連中に知らしめたい」
「………………」
唐突な宣言に面食らった太一の動きがフリーズした。そして数秒間固まったところでようやく動き出した。貴様はスペックが低いパソコンか。
「体育委員の集会に行って1科の連中に脳でもやられたか? それとも毒キノコでも拾い食いしたのか? 正体不明の食べ物は食べるなと幼稚園の頃に教わらなかったの?」
「違うよ! 2科が1科に負けてないってことを認めさせたいんだ! 別に脳はやられてないし、毒キノコも食べてない。これは俺自身の意思表示だ」
決めたんだ。例え俺一人だったとしても、一対百だったとしても。
陰キャが陽キャに勝る瞬間を見せつけてやろうと。
話を聞いた太一はしばし口に手を当てて思考を巡らせていたようだが、
「ふーん、面白そうじゃん。俺も協力しようかな」
なんと、力を貸してくれると。
「え? 毒キノコでも食べたの? 正体不明の食べ物を食べちゃダメだよ」
「君とは違うから。まぁ俺も1科ばかりが王者で、2科は出来損ないのイメージを学園全体から持たれ続けているのはよく思ってなかったしね」
「太一……」
「こ、高坂君。ぼ、僕も協力するよ。い、1科の連中は、ちょ、調子に、の、乗りすぎだ!」
「豊原もか! ありがとう!」
いつから話を聞いていたのか、豊原も手を貸してくれることに。
「おい」
「おおっ、誠司まで協力してくれるのか!」
「え? いやいや、一応学級委員だからな、お前らの奇行は監視しないとだろ。あまりドデカい問題は起こすなよ」
「よし、誠司も仲間ってことで。えーっと、球技大会が四月終盤にあるな。まずはそこで地味の底力を見せてやろうじゃないか!」
1科にアピールするチャンスがあるイベントは何でも使ってやる。
「おい、勝手に仲間に――球技大会か。まぁそれなら騒動にもならなそうだしいいか……」
「俺、球技は全然できないんだけど」
「案ずるな太一。正攻法で攻めるだけが全てじゃないさ!」
こうして俺たちは1科に歯向かう決心を固めたのであった。
やってやる。2科が1科の陰に隠れてばかりではないことを教えてやる!
「あの、先輩……本当によかったんですか?」
「問題ナッシングだよ! 最初は誰でも初めてだし、それに2年生のうちに副委員長を経験してもらえば、来年は委員長になってくれるかもだし。一種の先行投資だよ、あはは♪」
そう言って豊原先輩は微笑む。その笑顔はお日様のように眩しい。
慌てて熱くなった顔ごと先輩から背ける。
と、背けた先で立ち尽くしたままの辻堂君と目が合ってしまった。
「納得いかねぇ……俺は認めねぇぞ、高坂ぁ……!」
呪いをかけるように呟く辻堂君。
すると豊原先輩が、
「まだ納得いかない? じゃあさ、高坂くんの仕事ぶりを見て判断するのはどうかな? しばらくやってもらって、とても副委員長の仕事が務まっていないようなら他の人と交代する。どう?」
辻堂君に妥協案を提示する。
幾許かの沈黙の後、
「…………分かりました」
渋々納得したようだ。
しかし先が思いやられるなぁ。この様子では些細なミスがあれば絶対に叩いてくるな。
「おい高坂ぁ、2科の分際で副委員長になれたからって付け上がんじゃねぇぞ」
まだ仕事もしていないうちからクレームが来たよ。早速かい。
「副委員長に1科も2科も関係ないのでは……」
俺は呆れ半分で言葉を返す。
それを聞いた途端、辻堂君の眉間にしわが寄る。
「はぁ? ゴミオタクの2科が委員長や副委員長になるとか今まで聞いたことなかったっつーの! 果たして根暗に務まるのかねぇ~?」
「2科の生徒が全員根暗だとでも?」
「全員じゃなくても八割はそうだろ? 何が間違ってるっつーんだよ? あぁ!?」
残念だけどそれは概ね正解で、2科の悲しき現実だ。
「確かに2科は大人しい人は多いけど、3年はそこまで極端じゃないよ?」
豊原先輩は首を傾げている。
言われてみると、1科と2科の雰囲気の差がここまで大きく開き、お互いにいがみ合っているのは俺たちの学年だけな気もする。
「他学年はそうかもしれませんが、2年はそれが実情なんです! 学内で見るからに気持ち悪いのがいたら、そいつはほぼほぼ2科の奴っすから」
「外見や雰囲気でしか人を測れないの? 確かに俺みたいに容姿がイマイチな人もいる。話すのが苦手な人だっている。でも優しい人だって多いし、話してみると楽しい人だっている。ただ自分の思いを伝えるのが苦手なだけなんだ。まともに話したこともないくせに、2科の全てを知ってるような口ぶりで語るなよ」
「黙れクソ雑魚2科が! 今は高校生だからまだいいけどよ、社会に出たらどうすんだ? いや、そもそも2科の連中は採用面接で落とされるからいらねぇ心配か。あぁワリィワリィ、ヒャハハ」
1科なら人生安泰だとでも思ってるのか。
「キメェ奴を見たらうわぁって思うだろ? 暗そうな奴を見たらなにコイツってなるだろ? 普通の感性を持ってりゃそれが当たり前なんだよ! ただ世間体があるからどいつも直接口には出さねぇだけでな! だから俺が世論を代表して、声を大にして訴えてやってんだよぉ!」
俺の怒りのボルテージが上昇していく。
くそっ、今まで散々似たようなことを言われてきたじゃないか。それでも1年の頃からずっと、ずっと我慢し続けてきた。
けれど、ひたすら耐えてどうなるっていうんだ? 何も変わらないんじゃないのか? 我慢し続けた先に何があるんだ?
俺たち2科はずっと学科差別を受け続けるのか?
大体、1科と2科の違いだけで学内格差が起こって、それをみんなが平然と看過していられるとかおかしいよ! 1科がそんなに偉いのか!?
だったら――――だったら俺は。
「辻堂くん、キミはいい加減に――」
「お前いい加減にしろよ!!」
俺は机を叩き、豊原先輩の言葉を遮って辻堂を怒鳴りつけた。
はじめの頃は怖かった。下手に逆らえば痛い目に遭わされると思ってたから言われっぱなしだった。
だがこれ以上はもう我慢の限界だ。
「はぁ? なーに必死になってキレてやがんだ? キメェな」
辻堂は冷淡な笑みで俺を見下ろしてくる。こいつバッカじゃねぇの? と考えているのが見て取れる。
ちょっくら反撃してやろう。
「お前はそんな2科の大多数の生徒よりも学業成績は下でしょ? 違うか?」
「多少勉強ができるからって調子に乗んなよカス! んなモンできたところで就職できなきゃ意味ねぇだろ! 引きこもりになったら意味ねぇだろ! 結局テメェら2科は学問だけで、それ以外は全部からっきしできてねぇんだよ!」
「確かに2科にはコミュニケーションが苦手な生徒が多い。けど、それなら開発職や研究職、製造職で黙々と社会貢献する仕事もあるでしょ?」
「どんな仕事でも、最低限のコミュニケーション能力は必要不可欠だろ! まったく、豊原先輩も可哀想っすよねぇ。あんなコミュニケーション能力ゼロの弟が2科に在籍してるなんてよ」
豊原まで悪く言うのかよ。さてはコイツ、火種を豊原に向ける気だな。
「辻堂っ! 豊原を――」
「タカシのことまで悪く言わないで!!」
俺と辻堂の言い争いを静観していた豊原先輩からの悲痛な叫びが響く。
「確かにタカシの評判はよくないよ。それは私の耳にも届いてる。でも、それでも、私の大切なたった一人の弟なの! それを」
「俺の友達まで悪く言うな!! この差別野郎!」
「な、なんだよ。これじゃあまるで俺だけが一方的に悪者みたいじゃねーか――くそっ、今日はこの辺にしといてやらぁ。感謝しやがれ!」
辻堂は下衆な捨て台詞を残してそそくさと逃げるように去っていった。
「タカシの味方でいてくれてありがとう、高坂くん」
それでも。
「あの子は周りから好かれない性格かもしれないけど、良いところもいっぱいあるんだよ。これからもタカシのお友達でいてくれると嬉しいな」
「もちろんですよ。俺の方こそ、あいつには色々と助けてもらってます」
それでも、俺の中で黒く渦巻くモヤモヤが晴れることはなかった。
☆
「おお、遅かったね。次の時間は部活のオリエンテーションだ。パソコン部の素晴らしさをアピールして、新入部員確保といこうかね――って、顔が怖いよ。どうしたの?」
「太一。決めたよ」
「決めたかー。で、どの攻略可能キャラに告白するんだい?」
「ギャルゲーの話じゃなくて!」
「なんだ違うのか…………で、なに」
ギャルゲーの話題ではないと知るや否や、途端に面倒臭そうな態度に変わる太一。ここまであからさまだとむしろ清々しい。
「2科は1科に負けてないって、1科連中に知らしめたい」
「………………」
唐突な宣言に面食らった太一の動きがフリーズした。そして数秒間固まったところでようやく動き出した。貴様はスペックが低いパソコンか。
「体育委員の集会に行って1科の連中に脳でもやられたか? それとも毒キノコでも拾い食いしたのか? 正体不明の食べ物は食べるなと幼稚園の頃に教わらなかったの?」
「違うよ! 2科が1科に負けてないってことを認めさせたいんだ! 別に脳はやられてないし、毒キノコも食べてない。これは俺自身の意思表示だ」
決めたんだ。例え俺一人だったとしても、一対百だったとしても。
陰キャが陽キャに勝る瞬間を見せつけてやろうと。
話を聞いた太一はしばし口に手を当てて思考を巡らせていたようだが、
「ふーん、面白そうじゃん。俺も協力しようかな」
なんと、力を貸してくれると。
「え? 毒キノコでも食べたの? 正体不明の食べ物を食べちゃダメだよ」
「君とは違うから。まぁ俺も1科ばかりが王者で、2科は出来損ないのイメージを学園全体から持たれ続けているのはよく思ってなかったしね」
「太一……」
「こ、高坂君。ぼ、僕も協力するよ。い、1科の連中は、ちょ、調子に、の、乗りすぎだ!」
「豊原もか! ありがとう!」
いつから話を聞いていたのか、豊原も手を貸してくれることに。
「おい」
「おおっ、誠司まで協力してくれるのか!」
「え? いやいや、一応学級委員だからな、お前らの奇行は監視しないとだろ。あまりドデカい問題は起こすなよ」
「よし、誠司も仲間ってことで。えーっと、球技大会が四月終盤にあるな。まずはそこで地味の底力を見せてやろうじゃないか!」
1科にアピールするチャンスがあるイベントは何でも使ってやる。
「おい、勝手に仲間に――球技大会か。まぁそれなら騒動にもならなそうだしいいか……」
「俺、球技は全然できないんだけど」
「案ずるな太一。正攻法で攻めるだけが全てじゃないさ!」
こうして俺たちは1科に歯向かう決心を固めたのであった。
やってやる。2科が1科の陰に隠れてばかりではないことを教えてやる!
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