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1巻 学内格差編
第1話 ④
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☆
遠藤さんと他愛のない会話を挟んだ末に駅前付近まで辿り着いた。
「俺は下り方面だけど、遠藤さんは?」
「私は路線が違うんです。それと普段は車で送迎してもらっているので、電車で通学することはほとんどないんです」
「さすがはお嬢様だなぁ」
「えっ?」
「車で送り迎えしてもらってる遠藤さんはお嬢様でしょう?」
「じ、自分でお嬢様とは言いたくありませんけど、一応はそうなっています、ね……」
遠藤さんは少しバツが悪そうに俯きながら回答した。
ふっふっふ、俺の洞察力に間違いなどないのですよ。第三の目である心の眼を舐めてもらっては困る。
自分の予想が当たり、どっぷり自己陶酔に浸っていると、一台の車が俺たちの――正確には遠藤さんの前に停車し、車の中から屈強な男性が慌てた様子で降りてきた。
外見から三十代後半くらいだと思われる。
「お嬢様、ご無事でしたか! 探しましたよ」
すごい! 高級車だ。車は詳しくないけど一千万円くらいの値はしそうだ。
「ごめんなさい。ご心配をおかけしました」
「何度も申しておりますが、お嬢様が私めに丁寧なお言葉など使わないでください」
「あなたを使用人として大変尊敬しているからこそ、タメ口は使えません」
「ああ、お嬢様……」
なんて良い子なんだ。今この男性も全く同じ気持ちだろう。
と、使用人さんは俺の方へと歩み寄り――――喉元を掴んで持ち上げた。痛いっす!
「貴様か! お嬢様を拉致した凶悪誘拐犯は! 目的は!?」
いいとこのお嬢様がこんな時間に行方不明ともなれば、身内は大騒ぎだよなぁ。
しかしですね、俺は無実なんですよ。
「身代金目当てか!? それともお嬢様狙いか!? ふっ、それなら気持ちは分からないでもないぞ。なにせ、お嬢様はこれほどまでにお美しいのだからな!」
「違います! この方は――高坂さんは私を助けてくださったのです」
「お嬢様、それはどういうことでしょうか?」
「ごめんなさい、あなたへの連絡を怠ったのは私の落ち度です。実は――――」
目が点になっている使用人さんに、遠藤さんが事の詳細を説明してくれた。
ありがとう。君のフォローがあと数秒遅れてたら窒息死していた。命の恩人だよ。
「申し訳ございません。恩人に対し無礼な行為を働いたことをどうかお許しください、高坂殿」
あ、うん。……殿?
「いっ、いえ、誤解が解けて何よりです。まぁ遠藤さんが綺麗なのは確かですけど」
「え、え!? こ、高坂さん……?」
遠藤さんの頬がみるみる赤くなってゆく。
あれ? 変なこと言った? だけど、決して嘘は吐いてないし大袈裟なことも言ってない。綺麗なものは綺麗なんだ。
「そうでしょう、そうでしょう」
使用人さんは爽やかな笑顔を見せてくれる。格好良いんだけど、それでもちょっと怖い。
「も、もう……あ、そうです。よろしければ高坂さんのご自宅まで送りましょうか?」
遠藤さんが閃いたとばかりにニコニコしながら手を合わせてそんな提案をしてきた。
「それは嬉しいんだけど方向が違うから。ガソリン代とか……」
俺の自宅は学園から電車で南下した場所にある。
遠藤さんのお屋敷は路線が違うということで、恐らく学園から東の方角にあると思われる。
その地域には日本でも屈指の高級住宅街があって、相当なハイソサエティでないと住むことが許されない。
一度だけ興味本位で行ったことがあるんだけど、本当にすかった。お屋敷なんて一軒あるだけでも驚きなのにそれが数軒、いや何十軒と建っていたのだ。まさに未知なる世界だったよ。
ちなみに豊原もその地域に住んでいる。意外とお坊ちゃまなのだ。
なぜそんな恵まれた環境で育ってあんなキャラになったのかは知らない。
「そのような心配はご無用でございます」
使用人さんはニカッと笑うけど、資源の無駄遣いな気がしてならない。
「しかしですね」
「お嬢様。高坂殿も快く了承してくださいました! では参りましょう!」
「そ、そうですか? むしろ、何かを伝えたそうな感じがしましたけど……」
遠藤さんが小首を傾げる。こ、この使用人さんはずいぶんと強引な人だ。俺に反論の余地を与えてくれない。
これ以上下手に文句を垂れようものなら、動脈を引きちぎられる気がするので大人しく従うことにする。
「じゃ、じゃあよろしくお願いします」
「はい! それでは出発しましょう!」
高級車の助手席に乗り込む。その様子を確認した遠藤さんが後部座席に乗り、使用人さんも運転席に乗り、車を発進させた。
車内は無言の状態だ。流れている音楽だけが虚しく車内に響いている。
それにしても今日は本当にすごい日だなぁ。星川さんと話ができた時点でラッキーデーだと思っていたのに、今はこうして遠藤さんや使用人さんと高級車で下校している。
俺は明日死ぬんじゃないのか? と考えていると、使用人さんが小声で話しかけてきた。
「高坂殿、今日は誠にありがとうございました」
「いえ、当たり前のことをしただけですから」
「それだけではなく、お嬢様と会話をしてくださったのではないですか?」
「まぁ、当たり障りのない話ですけど……」
「お嬢様は、同年代の異性の方と接したことがほとんどないのです」
淡々と語る使用人さんの言葉に驚く。
同年代の異性と接したことがほとんどない? ナ、ナニヲバカナコトヲ。こんなに綺麗で奥ゆかしい子、健全な男であれば放っておくはずがない。
さっきもナンパ男に襲われてたし、貴津学園でも1科男子が放置しておくなど考えられないのだけれど。
「お嬢様は中学までは女子校に通っておられました。高校から貴津学園に入学したのですが、同級生の男子は『あんな美人なんだ、もう既に格好良い彼氏がいるに決まってる』、『あれほどのお嬢様、自分なんかじゃ到底話し相手にすら釣り合わない』、『下手に接して不手際があったらSPや執事に殺されるかも』と畏怖しており、お嬢様に話しかける男性がいないのです」
使用人さんはそこまで語ると憂いを帯びた横顔を見せたが、軽く息を吐いて続ける。
「ともに行動して感じたと思いますが、お嬢様も恥ずかしがり屋な性格なので自分から異性に話しかけることができず、結果として今まで異性との接触はほぼなかった――と、お嬢様のご学友の方が仰っておりました」
お嬢様であるが故の苦労や誤解ってあるんだなぁ。一般人の俺には想像し得ない話だ。
お金や容姿に恵まれていればそれだけで極楽な人生じゃん、とつい安易に考えてしまいがちだけど、それは実に浅はかだったと痛感させられる。
「確かにお嬢様に危害を加える不逞の輩がいたら私がこの世から抹消しますがね。骨の粉すら残すつもりはありません。はっはっはっ」
小声かつ邪悪な笑顔で怖いことをおっしゃる使用人さん。さっきのナンパ男は自分の悪事がバレたら秒であの世送りにされるだろうな。
しかし、使用人さんの顔にはすぐに優しい微笑みが戻る。
「お嬢様は高坂殿とお話しできて喜んでいらっしゃるでしょう」
「そうなら僕も嬉しいです」
遠藤さんから見たら俺なんて非常にちっぽけな存在で、その辺に無作為に転がっている石ころに過ぎないのかもしれない。
でも、そんな俺が遠藤さんを喜ばせることができたのならそれはとても光栄だ。
「これからも、お嬢様と仲良くしていただけると嬉しいです」
こんな身分で遠藤さんと仲良くなれるのなら俺だってすごく嬉しい。でも……。
「お気持ちは大変嬉しいのですが、お嬢様とチンパンジーが仲良くするのは身分的に――」
自宅の最寄り駅の荒木台駅が見えてきたため、途中で言葉を切った。
「この辺で大丈夫です。今日はどうもありがとうございました」
「かしこまりました。こちらこそありがとうございました」
俺の合図を受けた使用人さんは脇道に車を停車させた。
降車すると、通行人の視線が集まった。高級車に使用人さん有りだもんね。
「高坂さん。今日はありがとうございました。お話しできて楽しかったです」
遠藤さんは女神のような笑みを向けてくれた。おおぅ、ドキッとしたぞ。
「俺の方こそ楽しかった。ありがとう」
「そ、そんな……よ、よろしければまた私と……(ごにょごにょ)」
「はいはーい。お嬢様、そろそろ出発しますのでお気を確かにしてくださいね。では高坂殿、またお会いしましょう。気をつけてお帰りくださいませ」
使用人さんがそう言うや否や、車は走り去っていった。
遠藤さんは、こちらが見えなくなるまで後部窓から笑顔で手を振り続けてくれていた。
遠藤さんと他愛のない会話を挟んだ末に駅前付近まで辿り着いた。
「俺は下り方面だけど、遠藤さんは?」
「私は路線が違うんです。それと普段は車で送迎してもらっているので、電車で通学することはほとんどないんです」
「さすがはお嬢様だなぁ」
「えっ?」
「車で送り迎えしてもらってる遠藤さんはお嬢様でしょう?」
「じ、自分でお嬢様とは言いたくありませんけど、一応はそうなっています、ね……」
遠藤さんは少しバツが悪そうに俯きながら回答した。
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自分の予想が当たり、どっぷり自己陶酔に浸っていると、一台の車が俺たちの――正確には遠藤さんの前に停車し、車の中から屈強な男性が慌てた様子で降りてきた。
外見から三十代後半くらいだと思われる。
「お嬢様、ご無事でしたか! 探しましたよ」
すごい! 高級車だ。車は詳しくないけど一千万円くらいの値はしそうだ。
「ごめんなさい。ご心配をおかけしました」
「何度も申しておりますが、お嬢様が私めに丁寧なお言葉など使わないでください」
「あなたを使用人として大変尊敬しているからこそ、タメ口は使えません」
「ああ、お嬢様……」
なんて良い子なんだ。今この男性も全く同じ気持ちだろう。
と、使用人さんは俺の方へと歩み寄り――――喉元を掴んで持ち上げた。痛いっす!
「貴様か! お嬢様を拉致した凶悪誘拐犯は! 目的は!?」
いいとこのお嬢様がこんな時間に行方不明ともなれば、身内は大騒ぎだよなぁ。
しかしですね、俺は無実なんですよ。
「身代金目当てか!? それともお嬢様狙いか!? ふっ、それなら気持ちは分からないでもないぞ。なにせ、お嬢様はこれほどまでにお美しいのだからな!」
「違います! この方は――高坂さんは私を助けてくださったのです」
「お嬢様、それはどういうことでしょうか?」
「ごめんなさい、あなたへの連絡を怠ったのは私の落ち度です。実は――――」
目が点になっている使用人さんに、遠藤さんが事の詳細を説明してくれた。
ありがとう。君のフォローがあと数秒遅れてたら窒息死していた。命の恩人だよ。
「申し訳ございません。恩人に対し無礼な行為を働いたことをどうかお許しください、高坂殿」
あ、うん。……殿?
「いっ、いえ、誤解が解けて何よりです。まぁ遠藤さんが綺麗なのは確かですけど」
「え、え!? こ、高坂さん……?」
遠藤さんの頬がみるみる赤くなってゆく。
あれ? 変なこと言った? だけど、決して嘘は吐いてないし大袈裟なことも言ってない。綺麗なものは綺麗なんだ。
「そうでしょう、そうでしょう」
使用人さんは爽やかな笑顔を見せてくれる。格好良いんだけど、それでもちょっと怖い。
「も、もう……あ、そうです。よろしければ高坂さんのご自宅まで送りましょうか?」
遠藤さんが閃いたとばかりにニコニコしながら手を合わせてそんな提案をしてきた。
「それは嬉しいんだけど方向が違うから。ガソリン代とか……」
俺の自宅は学園から電車で南下した場所にある。
遠藤さんのお屋敷は路線が違うということで、恐らく学園から東の方角にあると思われる。
その地域には日本でも屈指の高級住宅街があって、相当なハイソサエティでないと住むことが許されない。
一度だけ興味本位で行ったことがあるんだけど、本当にすかった。お屋敷なんて一軒あるだけでも驚きなのにそれが数軒、いや何十軒と建っていたのだ。まさに未知なる世界だったよ。
ちなみに豊原もその地域に住んでいる。意外とお坊ちゃまなのだ。
なぜそんな恵まれた環境で育ってあんなキャラになったのかは知らない。
「そのような心配はご無用でございます」
使用人さんはニカッと笑うけど、資源の無駄遣いな気がしてならない。
「しかしですね」
「お嬢様。高坂殿も快く了承してくださいました! では参りましょう!」
「そ、そうですか? むしろ、何かを伝えたそうな感じがしましたけど……」
遠藤さんが小首を傾げる。こ、この使用人さんはずいぶんと強引な人だ。俺に反論の余地を与えてくれない。
これ以上下手に文句を垂れようものなら、動脈を引きちぎられる気がするので大人しく従うことにする。
「じゃ、じゃあよろしくお願いします」
「はい! それでは出発しましょう!」
高級車の助手席に乗り込む。その様子を確認した遠藤さんが後部座席に乗り、使用人さんも運転席に乗り、車を発進させた。
車内は無言の状態だ。流れている音楽だけが虚しく車内に響いている。
それにしても今日は本当にすごい日だなぁ。星川さんと話ができた時点でラッキーデーだと思っていたのに、今はこうして遠藤さんや使用人さんと高級車で下校している。
俺は明日死ぬんじゃないのか? と考えていると、使用人さんが小声で話しかけてきた。
「高坂殿、今日は誠にありがとうございました」
「いえ、当たり前のことをしただけですから」
「それだけではなく、お嬢様と会話をしてくださったのではないですか?」
「まぁ、当たり障りのない話ですけど……」
「お嬢様は、同年代の異性の方と接したことがほとんどないのです」
淡々と語る使用人さんの言葉に驚く。
同年代の異性と接したことがほとんどない? ナ、ナニヲバカナコトヲ。こんなに綺麗で奥ゆかしい子、健全な男であれば放っておくはずがない。
さっきもナンパ男に襲われてたし、貴津学園でも1科男子が放置しておくなど考えられないのだけれど。
「お嬢様は中学までは女子校に通っておられました。高校から貴津学園に入学したのですが、同級生の男子は『あんな美人なんだ、もう既に格好良い彼氏がいるに決まってる』、『あれほどのお嬢様、自分なんかじゃ到底話し相手にすら釣り合わない』、『下手に接して不手際があったらSPや執事に殺されるかも』と畏怖しており、お嬢様に話しかける男性がいないのです」
使用人さんはそこまで語ると憂いを帯びた横顔を見せたが、軽く息を吐いて続ける。
「ともに行動して感じたと思いますが、お嬢様も恥ずかしがり屋な性格なので自分から異性に話しかけることができず、結果として今まで異性との接触はほぼなかった――と、お嬢様のご学友の方が仰っておりました」
お嬢様であるが故の苦労や誤解ってあるんだなぁ。一般人の俺には想像し得ない話だ。
お金や容姿に恵まれていればそれだけで極楽な人生じゃん、とつい安易に考えてしまいがちだけど、それは実に浅はかだったと痛感させられる。
「確かにお嬢様に危害を加える不逞の輩がいたら私がこの世から抹消しますがね。骨の粉すら残すつもりはありません。はっはっはっ」
小声かつ邪悪な笑顔で怖いことをおっしゃる使用人さん。さっきのナンパ男は自分の悪事がバレたら秒であの世送りにされるだろうな。
しかし、使用人さんの顔にはすぐに優しい微笑みが戻る。
「お嬢様は高坂殿とお話しできて喜んでいらっしゃるでしょう」
「そうなら僕も嬉しいです」
遠藤さんから見たら俺なんて非常にちっぽけな存在で、その辺に無作為に転がっている石ころに過ぎないのかもしれない。
でも、そんな俺が遠藤さんを喜ばせることができたのならそれはとても光栄だ。
「これからも、お嬢様と仲良くしていただけると嬉しいです」
こんな身分で遠藤さんと仲良くなれるのなら俺だってすごく嬉しい。でも……。
「お気持ちは大変嬉しいのですが、お嬢様とチンパンジーが仲良くするのは身分的に――」
自宅の最寄り駅の荒木台駅が見えてきたため、途中で言葉を切った。
「この辺で大丈夫です。今日はどうもありがとうございました」
「かしこまりました。こちらこそありがとうございました」
俺の合図を受けた使用人さんは脇道に車を停車させた。
降車すると、通行人の視線が集まった。高級車に使用人さん有りだもんね。
「高坂さん。今日はありがとうございました。お話しできて楽しかったです」
遠藤さんは女神のような笑みを向けてくれた。おおぅ、ドキッとしたぞ。
「俺の方こそ楽しかった。ありがとう」
「そ、そんな……よ、よろしければまた私と……(ごにょごにょ)」
「はいはーい。お嬢様、そろそろ出発しますのでお気を確かにしてくださいね。では高坂殿、またお会いしましょう。気をつけてお帰りくださいませ」
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