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第四出動 月花の心の扉を壊せ! ⑤
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「いたっ! 時雨さんめーっけ!」
どこで嗅ぎつけたのか、鉄平を筆頭にワーストレンジャーの面々が月花の元までやってきた。
「月花、久しぶり。体調は問題なさそうだな」
真紀が月花の眼前まで近づいて、軽く微笑む。
「う、うん。心配かけてごめんね」
「………………」
優は無言で腕を組んで公園の柱に寄りかかっており、心中は読めない。
「時雨。もう一度一緒に歩き直そうぜ」
銀次が手を差し伸べると。
「橋本、君……」
月花は顔を歪めて銀次を見やる。
「私……」
彼の手は取らない。
一歩後ずさり――
「――私に自分を変えるなんて無理だった! はじめから何も望まなければよかった! 変わらないまま一人で本を読み続けていれば、視線を上に向けなければ……っ」
月花は目尻に涙を溜めて慟哭する。
とめどなく溢れ出る言葉が噴水のように止まらない。
「私、もう分からない。もう、悩みたくない……! もう、学院に行きたくない……っ!」
やがて溜まった涙は大粒の雫となって零れ落ちる。
「辛い思いはしたくない……!」
「月花……」
顔を覆って泣き崩れる月花を、真紀が優しく抱きしめる。
「安心しろ。俺らはずっとお前の味方だ。悩みは一緒に解決していこうぜ」
「……嘘。クラス替えしたらどうするの?」
銀次は顎に手を当てて思考を巡らせて、
「そうだな――その時は部活を作ってそこで集まるか」
部活動の設立を提案した。
「……どうして」
「うん?」
「どうして、そこまでしてくれるの? 百瀬さんや村野君は分かるけれど、橋本君だって学院休みがちじゃん。私にここまで肩入れする理由って、なんなの?」
月花の問いに銀次は悩む素振りすら見せず、
「お前のことを、放っておけない」
軽い口調で返答した。それこそ同級生と挨拶するノリで。
「それじゃ不満か?」
月花は目を見開いて銀次を見つめる。
「お前は俺と、いや。村野も、百瀬も、市原だって同じだ。ワースト5に入っちまうくらいダメな面は多いが、それぞれ強みだって持っている」
誰かの弱みを、別の誰かの強みでカバーする。それは戦友と呼べるだろう。
「オレたちがいれば、大平だって怖くないさ! これ以上あの女の好き勝手にはさせないぜ!」
鉄平がガッツポーズを作って意気揚々と宣言する。
「戦隊の基本は助け合いだ! わたしは月花を助ける! お前もわたしを助けてくれ!」
真紀も頷いて強気な笑顔を月花に送る。
「僕はなんでも構わないけどね。立ち上がるのも、時雨の自由さ」
優は突き放す言い回しではあるが、月花の奮起を促している。
と、ここで銀次は神妙な面持ちで月花を見つめた。
「時雨……その……実は俺は、お前の告白が失敗すると最初から分かってたんだ。すまん!」
銀次はその場で土下座をはじめた。
「えっ、そんな……やめてよ」
眼前で繰り出された土下座に、月花の方がたじろいでしまった。
「………………っ」
銀次が顔を上げると、月花は震える唇をこじ開けた。
「――橋本君は、前に私は独りじゃないって言ってくれたよね?」
「あぁ、言った」
独りじゃない。困ったら頼れと。なにもかも一人で解決しようとするなと。
「本当に、ずっとこんな私と友達でいてくれるの?」
「こんなとか、言うなよ」
月花には充分すぎるほどの魅力がある。外見はもちろん、内面だって。
「自分を、もっと大切にしてくれよ。自分に一番寄り添えるのは、結局は自分なんだからよ」
銀次は月花には自分を大切にしてほしいと願っていた。
「………………」
「それに、どうしても辛い時は家族を頼ったっていいだろ」
「か、ぞく……」
「家族だけは、なんだかんだ言ってもお前をひとりぼっちにはしてくれねぇさ」
銀次には姉の雪奈がいる。自分を応援してくれる存在が身近にいる。
「私のお母さんは……私のことなんてどうでもいいんだよ」
しかし家族の話題になると、月花の表情に暗い影が落ちた。
「いつも仕事ばかりで、私のことなんか構ってくれない」
そう語る月花の瞳は大きく揺れている。
「家族なのに、縋れないよ……」
月花の独白に一同は口をつぐんでいたが、
「なら、確かめるか」
やがて銀次が端を発した。
「確かめる……?」
月花は銀次の目を見たままきょとんとしている。
「俺らは高校卒業後もそれぞれ次の舞台に立つ。同時に人間関係も変わる。だが家族だけは、舞台が変わってもずっと一緒だ。たとえ、離れ離れになってもな」
家族には様々な形がある。しかし家族であれば、身内のことを大切に想っているはず。
いや、想っていてほしい願望が銀次にはあった。
「その家族に甘えたり泣き言が言えねぇ家庭環境は、時雨の心に鍵をかけちまう要因になりかねねぇ。だからその懸念要素を払拭する。頼まれなくても、やってやる」
本来一番の味方でいてほしい家族が娘を放置している現状が、月花の自信のなさに繋がっているのではないかと銀次は思案した。
「やれやれ、押しつけがましい奴だな」
嘆息する優には構わず銀次は月花にまくしたてる。
「お前の母親がお前を愛してると証明する。それができたら、俺らワーストレンジャーも今後絶対にお前を見限らないと信じてくれ」
銀次は覚悟の火が灯った瞳で月花の目を捉える。
「そして、また学院に戻ってきてくれ。ワーストレンジャーにはお前のひたむきさ、不器用ながらももがく健気さ、純粋さが必要不可欠だ」
「私が……必要……」
目を丸くする月花に、銀次は首を縦に振って頷いた。
「お前がワーストレンジャーの起爆剤になってるんだ」
起爆剤は周囲にも好影響を与える。
現に、月花の行動でワーストレンジャーは月花のために動き、銀次の熱血に火をつけた。
月花の愚直さがなければ、銀次は未だに学院を休みがちだっただろう。
「時雨には言ってなかったが、俺には夢があってな」
「夢……?」
銀次は他の面々にも語った夢について月花にも話すことにした。
「そう、夢。俺さ、ガラス職人になりてぇんだ」
「ガラス、職人……」
銀次が高等部に進学してから見つけた夢。
「笑えるだろ。俺はついさっきまで自分の夢のために学院を、高校生の肩書きを、こいつらを捨てようとしてたんだからよ」
自嘲的に語る銀次の表情は、言葉とは裏腹に晴れやかだ。
「こいつらはこんな俺を――色んなことで自信を失ってた俺を見捨てずに迎えに来てくれた。ケツを叩いてくれた。ったく、お節介なバカばっかりだぜ」
優、真紀、鉄平を一瞥して銀次は苦笑した。
優は不満げな表情だが、真紀と鉄平は笑顔で頷いた。
三人はガラス職人の夢はもちろん、月花告白失敗の罪悪感についても全部飲み込んでくれた。
「だからこそ俺は復活できたんだ。時雨だって同じように復活できる」
銀次の言葉に、月花は唾を飲み込んだ。
「目的のために回り道したり、苦心したりすることは山ほどあるだろうよ。けど、それを乗り越えた先にあるのが達成感なんだよ」
人生は順風満帆に行くことの方が少ない。立ちはだかる壁は大きく、高いことだろう。
だがそれを乗り越えた時、新たな着眼点が生まれると銀次は考えている。
「時雨にもそんな夢が見つかれば、人生の楽しみが一つ増えるぞ」
「夢……」
「――っと、話が逸れた」
銀次は表情を引き締めて続ける。
「お前の家庭に、土足で踏み込んでやる。覚悟しろ」
銀次は月花の端整な顔を指差して宣言した。
「それでお前ら親子に嫌われたって知ったこっちゃねぇ」
銀次の眼力が、冗談半分ではなく本気であると主張している。
「俺もまだまだ未熟な身だが、みんなで一緒に色々学んで強くなろうぜ」
完璧な人間などいない。だから拠り所が必要なのだ。
「この世に一人で生きていける人間なんざいねぇよ。強がってても、気づかないところで誰かに助けてもらってんだ。だから――もう一度、前に進もうぜ」
銀次は今一度、月花に手を差し伸べると。
「――――うんっ」
再度差し伸べられた手を、月花は掴んだ。
もう、自分から離すまいと、しっかりと掴む。
不思議とお互いに気恥ずかしさはなく、確かな絆が生まれた気がしたのだった。
三人はその光景を見て穏やかな表情をしていた。
どこで嗅ぎつけたのか、鉄平を筆頭にワーストレンジャーの面々が月花の元までやってきた。
「月花、久しぶり。体調は問題なさそうだな」
真紀が月花の眼前まで近づいて、軽く微笑む。
「う、うん。心配かけてごめんね」
「………………」
優は無言で腕を組んで公園の柱に寄りかかっており、心中は読めない。
「時雨。もう一度一緒に歩き直そうぜ」
銀次が手を差し伸べると。
「橋本、君……」
月花は顔を歪めて銀次を見やる。
「私……」
彼の手は取らない。
一歩後ずさり――
「――私に自分を変えるなんて無理だった! はじめから何も望まなければよかった! 変わらないまま一人で本を読み続けていれば、視線を上に向けなければ……っ」
月花は目尻に涙を溜めて慟哭する。
とめどなく溢れ出る言葉が噴水のように止まらない。
「私、もう分からない。もう、悩みたくない……! もう、学院に行きたくない……っ!」
やがて溜まった涙は大粒の雫となって零れ落ちる。
「辛い思いはしたくない……!」
「月花……」
顔を覆って泣き崩れる月花を、真紀が優しく抱きしめる。
「安心しろ。俺らはずっとお前の味方だ。悩みは一緒に解決していこうぜ」
「……嘘。クラス替えしたらどうするの?」
銀次は顎に手を当てて思考を巡らせて、
「そうだな――その時は部活を作ってそこで集まるか」
部活動の設立を提案した。
「……どうして」
「うん?」
「どうして、そこまでしてくれるの? 百瀬さんや村野君は分かるけれど、橋本君だって学院休みがちじゃん。私にここまで肩入れする理由って、なんなの?」
月花の問いに銀次は悩む素振りすら見せず、
「お前のことを、放っておけない」
軽い口調で返答した。それこそ同級生と挨拶するノリで。
「それじゃ不満か?」
月花は目を見開いて銀次を見つめる。
「お前は俺と、いや。村野も、百瀬も、市原だって同じだ。ワースト5に入っちまうくらいダメな面は多いが、それぞれ強みだって持っている」
誰かの弱みを、別の誰かの強みでカバーする。それは戦友と呼べるだろう。
「オレたちがいれば、大平だって怖くないさ! これ以上あの女の好き勝手にはさせないぜ!」
鉄平がガッツポーズを作って意気揚々と宣言する。
「戦隊の基本は助け合いだ! わたしは月花を助ける! お前もわたしを助けてくれ!」
真紀も頷いて強気な笑顔を月花に送る。
「僕はなんでも構わないけどね。立ち上がるのも、時雨の自由さ」
優は突き放す言い回しではあるが、月花の奮起を促している。
と、ここで銀次は神妙な面持ちで月花を見つめた。
「時雨……その……実は俺は、お前の告白が失敗すると最初から分かってたんだ。すまん!」
銀次はその場で土下座をはじめた。
「えっ、そんな……やめてよ」
眼前で繰り出された土下座に、月花の方がたじろいでしまった。
「………………っ」
銀次が顔を上げると、月花は震える唇をこじ開けた。
「――橋本君は、前に私は独りじゃないって言ってくれたよね?」
「あぁ、言った」
独りじゃない。困ったら頼れと。なにもかも一人で解決しようとするなと。
「本当に、ずっとこんな私と友達でいてくれるの?」
「こんなとか、言うなよ」
月花には充分すぎるほどの魅力がある。外見はもちろん、内面だって。
「自分を、もっと大切にしてくれよ。自分に一番寄り添えるのは、結局は自分なんだからよ」
銀次は月花には自分を大切にしてほしいと願っていた。
「………………」
「それに、どうしても辛い時は家族を頼ったっていいだろ」
「か、ぞく……」
「家族だけは、なんだかんだ言ってもお前をひとりぼっちにはしてくれねぇさ」
銀次には姉の雪奈がいる。自分を応援してくれる存在が身近にいる。
「私のお母さんは……私のことなんてどうでもいいんだよ」
しかし家族の話題になると、月花の表情に暗い影が落ちた。
「いつも仕事ばかりで、私のことなんか構ってくれない」
そう語る月花の瞳は大きく揺れている。
「家族なのに、縋れないよ……」
月花の独白に一同は口をつぐんでいたが、
「なら、確かめるか」
やがて銀次が端を発した。
「確かめる……?」
月花は銀次の目を見たままきょとんとしている。
「俺らは高校卒業後もそれぞれ次の舞台に立つ。同時に人間関係も変わる。だが家族だけは、舞台が変わってもずっと一緒だ。たとえ、離れ離れになってもな」
家族には様々な形がある。しかし家族であれば、身内のことを大切に想っているはず。
いや、想っていてほしい願望が銀次にはあった。
「その家族に甘えたり泣き言が言えねぇ家庭環境は、時雨の心に鍵をかけちまう要因になりかねねぇ。だからその懸念要素を払拭する。頼まれなくても、やってやる」
本来一番の味方でいてほしい家族が娘を放置している現状が、月花の自信のなさに繋がっているのではないかと銀次は思案した。
「やれやれ、押しつけがましい奴だな」
嘆息する優には構わず銀次は月花にまくしたてる。
「お前の母親がお前を愛してると証明する。それができたら、俺らワーストレンジャーも今後絶対にお前を見限らないと信じてくれ」
銀次は覚悟の火が灯った瞳で月花の目を捉える。
「そして、また学院に戻ってきてくれ。ワーストレンジャーにはお前のひたむきさ、不器用ながらももがく健気さ、純粋さが必要不可欠だ」
「私が……必要……」
目を丸くする月花に、銀次は首を縦に振って頷いた。
「お前がワーストレンジャーの起爆剤になってるんだ」
起爆剤は周囲にも好影響を与える。
現に、月花の行動でワーストレンジャーは月花のために動き、銀次の熱血に火をつけた。
月花の愚直さがなければ、銀次は未だに学院を休みがちだっただろう。
「時雨には言ってなかったが、俺には夢があってな」
「夢……?」
銀次は他の面々にも語った夢について月花にも話すことにした。
「そう、夢。俺さ、ガラス職人になりてぇんだ」
「ガラス、職人……」
銀次が高等部に進学してから見つけた夢。
「笑えるだろ。俺はついさっきまで自分の夢のために学院を、高校生の肩書きを、こいつらを捨てようとしてたんだからよ」
自嘲的に語る銀次の表情は、言葉とは裏腹に晴れやかだ。
「こいつらはこんな俺を――色んなことで自信を失ってた俺を見捨てずに迎えに来てくれた。ケツを叩いてくれた。ったく、お節介なバカばっかりだぜ」
優、真紀、鉄平を一瞥して銀次は苦笑した。
優は不満げな表情だが、真紀と鉄平は笑顔で頷いた。
三人はガラス職人の夢はもちろん、月花告白失敗の罪悪感についても全部飲み込んでくれた。
「だからこそ俺は復活できたんだ。時雨だって同じように復活できる」
銀次の言葉に、月花は唾を飲み込んだ。
「目的のために回り道したり、苦心したりすることは山ほどあるだろうよ。けど、それを乗り越えた先にあるのが達成感なんだよ」
人生は順風満帆に行くことの方が少ない。立ちはだかる壁は大きく、高いことだろう。
だがそれを乗り越えた時、新たな着眼点が生まれると銀次は考えている。
「時雨にもそんな夢が見つかれば、人生の楽しみが一つ増えるぞ」
「夢……」
「――っと、話が逸れた」
銀次は表情を引き締めて続ける。
「お前の家庭に、土足で踏み込んでやる。覚悟しろ」
銀次は月花の端整な顔を指差して宣言した。
「それでお前ら親子に嫌われたって知ったこっちゃねぇ」
銀次の眼力が、冗談半分ではなく本気であると主張している。
「俺もまだまだ未熟な身だが、みんなで一緒に色々学んで強くなろうぜ」
完璧な人間などいない。だから拠り所が必要なのだ。
「この世に一人で生きていける人間なんざいねぇよ。強がってても、気づかないところで誰かに助けてもらってんだ。だから――もう一度、前に進もうぜ」
銀次は今一度、月花に手を差し伸べると。
「――――うんっ」
再度差し伸べられた手を、月花は掴んだ。
もう、自分から離すまいと、しっかりと掴む。
不思議とお互いに気恥ずかしさはなく、確かな絆が生まれた気がしたのだった。
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