ワーストレンジャー

小鳥頼人

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第三出動 時雨月花 ②

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「月花もデート本番だと思って、本気のオシャレをしてくるように」
「お前もちったぁお洒落しろや」
 寝癖が残っており、シワがあるブレザーをまとう真紀を一瞥いちべつして銀次は毒を漏らした。
「仮にわたしがオシャレをしたら、銀ちゃんは可愛いと褒めてくれるのか?」
 真紀は小首を傾げて上目遣いで銀次を見つめてきた。
 意図はないと理解はしている。理解しているのに、銀次は真紀の仕草がつい愛らしいと感じてしまった。
「……んまぁ、実際に可愛ければな」
「まっ、しないんだけどな!」
「今の会話マジで何だったんだよ!?」
「わたしはただでさえ魔法の修行で忙しいのだ。更にワーストレンジャーの活動もしている。ゆえにオシャレなんぞに割く時間など、なぁーい!!」
「あっ、そ」
「オレはお洒落した真紀を見て銀ちゃんがドキッとしたらショックだよ」
 鉄平がオエーと嗚咽おえつを漏らす仕草をしている。
「そういう村野は人様にどうこう言えるツラしてんのか?」
「それは分からん!!」
「なんで自信満々なんだよ」
 銀次は力強い口調で言い放った鉄平にツッコミを入れた。
「それはそれとして」
 真紀はブレザーのポケットからスマホを取り出して、
「この際だから、ワーストレンジャーでNINEナインのグループを作るか」
 ワーストレンジャーのグループを作ることを提案してきた。
 NINEとは、多くの人々が使用しているSNSだ。チャットにテレビ通話等、なんでもござれ。
「いいぞ」
「私も、いいよ」
「そうと決まればちゃちゃっと作るぞ」
 銀次、月花の承認も得たので、真紀は手際よくグループを作成する。
「いやはや、便利な世の中になったもんだよなー」
「どれだけ便利な代物でも、使用者が原始人では宝の持ち腐れだがな」
 感嘆かんたんの声を漏らす鉄平に、真紀がスマホに視線を落としたまま毒づいた。
「よし、招待するから皆まずはわたしと友だちになるよーに!」
 各々が真紀とNINEで友だちになり、真紀は各人をグループに招待。グループでやりとりをする準備はほぼ整った。
「ワーストレンジャーの隊員が揃い踏みする日は果たしてやってくるのだろうか……」
「優とは今度強引に連絡先交換しておくよ」
 真紀の嘆きに鉄平が反応した。優に関しては追々ということで。
「じゃあ時雨。日曜の正午に、駅前で」
「うん、よろしくね」
「では、今日の活動はここまでにしよう」
 鉄平の一声で、本日のワーストレンジャーの活動はこれにてお開きとなった。
 結構な時間が経過していたようで、銀次が窓から空に視線を向けると、空は藍色に覆われていたのだった。

 帰宅後、銀次は家族からアイプチと眉について詰問きつもんされたため、罰ゲームでやられたと誤魔化すと両親はあっさりと引き下がった。
 雪奈だけは「好きな人ができたの?」と見当違いな思いつきでニヤニヤしていたが、銀次は言葉を濁しておいた。

    ●●●

 きたる日曜日。疑似デート当日である。
 銀次は待ち合わせ時間の十五分前に到着するように家を出た。
 待ち合わせ場所の駅前に到着すると――
(もういんのかよ……早ぇな)
 余裕を持って出たつもりだったが、月花は既に待ち合わせ場所に姿を見せていた。
 駅前にはたくさんの人がいるが、その中でも彼女は目立っている。銀次以外にも何人もの通行人が月花に視線を送っている。
 銀次は月花の近くまで歩み寄り、
「おはよう、時雨――サン。待たせたかい?」
「あっ、私も今しがた着いたところ、だよ」
 銀次に気がついた月花は控えめに微笑んだ。
 今日の月花は薄くメイクをしており、三つ編みハーフアップの髪はいつも以上に艶がある。トリートメントしたのだろうか。
 クリーム色のスウェットトップスに、グレーのロングプリーツスカート、黒の中に白模様が刻まれたスニーカー。
 キメキメという印象はなく、親しみやすいファッションだ。
「本当は?」
「えっと、一時間前から……」
「早すぎだろ!? ――っと、今の俺は立川だったな」
 せいぜい二十分くらい前だと踏んだ予想を遥かに上回る月花の気合の入りっぷりに、銀次はつい素のツッコミを入れてしまった。
「ずいぶんと待たせてしまったね。ごめんね、代わりにご飯奢るよ☆」
 銀次はウィッグの前髪をかきあげて、歯を見せて月花に笑顔を届けた。
 その際にウィッグがずれてしまったので銀次は慌てて直す。
「立川君はそんなこと言わないと思う……」
 銀次なりに立川っぽさを演出してはみたものの、月花は怪訝けげんな顔で引いている。
「そ、そうか……難しいな」
 銀次は立川と直接会話したことはない。噂で人となりを聞いた程度なので、口調までは真似できない。
 とはいえ、そこ一点に拘っていても擬似デートは進まない。
「まずはお昼にしようか。好きな食べ物はあるかい?」
 月花に食べ物の好みを聞いてみた。
「んー――あっ。行ってみたいお店があるの」
「いいね! そこに行こうじゃないか!」
 月花の意思があることに銀次は安堵あんどし、目的地の店まで彼女についていくことにした。
「時雨さんのセンス、期待してるよ! それにしても心地良い風だね! はははは」
 銀次は天を仰いで爽やかに笑うが、
「――立川君のキャラと、違う……」
「はっはっはぁ……」
 月花の指摘に乾いた笑みを返すことしかままならなかった。

(行きたい店ってラーメン屋だったのか)
 二人がいるのは家系いえけいラーメン屋の店内。全席カウンターの小さなラーメン屋だ。
 昨今は女性客も増加しているラーメン屋だが、今いる店は男臭い昔ながらのお洒落もへったくれもない内外観だ。
 その空間に美少女がいれば場違い感が半端ではない。月花の周囲だけキラキラと輝いているエフェクトが入っていてもおかしくはない。
 入店した際は客、店員ほぼ全員が月花に視線を送ってきた。
「時雨さんはラーメンが好きなのかい?」
 銀次は周囲の客が月花をちらちら見ていることを無視して問う。
「そういうわけではないけど、その、ここは女一人では入りづらい雰囲気だから」
「あー。昔よりは緩和されてるけど、そうかもしれないな」
 男がスイーツのお店に入るのに抵抗があるように、女子がラーメン屋や牛丼屋に入るのにも躊躇ためらいは生まれるのだろう。
 昨今では出前で注文できるお店も増えてはいるが、やはり料理はできたてに限る。
 あまり会話もないまま待つこと数分、注文した品がテーブルに置かれる。
 月花は普通盛りの豚骨醤油ラーメン、銀次は中盛りの豚骨醤油チャーシューメンだ。
「わぁ、美味しそう」
 月花は切れ長二重ふたえまぶたを上げて感嘆かんたんの声を漏らす。そこにはいつものようなおどおどした様子はなく、自然な姿をさらけ出していた。
「SNS用に写メは撮らないのかい?」
「そういうのはやってないから、いいよ」
「そうか」
 箸と蓮華れんげを取り、
「「いただきます」」
 二人は手を合わせてラーメンをすすりはじめた。
「んー、うめぇ! 中太麺、チャーシュー、ほうれん草、どれもスープと合ってるな」
 今は自分が立川だという設定もすっかり忘れて、銀次はラーメンを堪能している。
「はむはむ」
 月花は前髪を押さえて麺をすすって咀嚼そしゃくしている。
 妙に色っぽい所作しょさを横から見た銀次は、反射的に顔を逸らしてしまう。
(自分の食事に専念しろ、俺!)
 銀次は無心でラーメンをすすって乱暴に噛んで飲み込んだ。
(妙なモン見たせいで味が分からなくなっちまったじゃねぇか)
「美味しかった。来てよかった」
 月花の笑みは優しさの中にはかなさがあり、神々しさすらも感じられた。
「ありがとう、橋本君」
「お、俺は立川だよ」
 そしてそれが自分に向けられたものだから、銀次は押し黙ってしまう。
 熱々のラーメンを食べたせいか、月花の頬はほんのり赤みを帯びている。
 お互い無言でしばし食後の休息を挟み――
「じゃあ、行くか」
「うん」
「行きたい場所があるんだ。いいかな?」
「いいよ」
 二人はラーメン屋の店員に挨拶して店内をあとにしたのだった。

「おやおや。月花ちゃんと立川じゃん」
 目的地へと足を運んでいると、横から声をかけられた。
 声の主へと振り向くと、そこにはクリフィアの軽薄男、森川雅也がたたずんでいた。
「――っと、よくよく見ればハッシーじゃねーか。眉毛違和感しかないぞ。油性ペンか」
 立川の正体を見破った森川は、立川に擬態した銀次の元へと歩み寄ってきた。
「森川は買い物か? あとしれっとハッシー呼びかよ」
「俺はバイト帰りだよ。いやぁ早朝からだったからねみぃのなんのって」
 森川はあくびと同時に伸びをする。
「そんなに遊ぶ金が欲しいのか? パリピは大変だな」
 銀次の言葉に森川は乾いた笑みを浮かべた。
「パリピは否定させてもらうけど、お金については当たらずといえども遠からず、だね」
 そして森川は二人をまじまじと見つめて、
「――ふぅん。二人はデートする仲なの? それも、わざわざハッシーが立川に変化へんげしてまで」
 目を細めて訪ねてきた。真実を見通そうとしているようで、銀次にはその視線が不気味に感じられた。
「……色々あんだよ」
 銀次は後頭部を掻いて誤魔化すが、森川はニヤリと口角を吊り上げて、
「そっか。みんな色々と大変だぁね。このことは誰にも言わないからよー」
 俺は全てを察しましたよとばかりに銀次の肩をポンッと叩いて去っていった。
「顔見知りと遭遇するとはな」
 クリフィア学院の最寄り駅とはいえ、知人とエンカウントすることはそうそうないだろうと銀次は高をくくっていたため、とんだ不意打ちを食らう結果となった。
(さっきから視線を感じてたんだが、森川だったのか?)
 実は銀次は先ほどから何者かの視線を感じていた。森川と別れた今でも視線は消えていない気がする。
(気のせいか……?)
 周囲を一瞥いちべつするも、不審な人物も、こちらに視線を送っているであろう人物もいなかった。
「どうしたの?」
「なんでも。――行こう」
「うん」
 月花は銀次の横に並んでついてくる。
 相変わらず周囲の視線は月花に集まっており、それに気づいた月花は羞恥心から俯いてしまう。
(たくさんの視線が集まってるが、その中で月花の容姿目的じゃない視線も混じってる気がするんだよなぁ)
 まるで擬似デートを監視されているかのような居心地の悪さを覚えつつも、歩みを再開した。

 辿り着いたのは――
「図書館、だよね?」
 月花が三階建ての建物を見上げて呟いた。
「俺と時雨さんといえば、ここだから」
 銀次は月花が読書家だと知っているため、ここに連れてくれば月花からアクションを起こしてくると踏んだ。
 ――だがしかし。
(本を読んでるだけで会話もクソもねぇ……!)
 二人は並んで座ってはいるものの、月花は静かに文庫本に視線を注いでいるため、会話の余地が生まれない。
 近いのにとてつもなく遠くに感じる距離感。
(相変わらず妙な視線も感じるしよぉ)
 銀次も手に本を持ってはいるが、活字を読む気にはなれなかったので読んでいるフリをしている。
(これじゃ、何しに図書館に来たのか分かんねぇな)
 思惑がものの見事に空振りした銀次は、机に肘をついておでこに手を当てて項垂うなだれた。
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