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第三出動 時雨月花 ①
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「やはり立川対策で我々ができるとしたら、疑似デートだろ」
月花が覚悟を決めた翌日。
放課後の教室で声を上げたのは真紀だった。
「立川がそう簡単に女とサシでデートするかよ」
立川をデートに誘った時点で、小沢との関係を告げられてしまう危険を恐れた銀次は、真紀の突拍子もない思いつきに異議を唱えた。
「銀ちゃん、浅いな」
真紀は真紀のくせにドヤ顔でニヤリと笑う。銀次は少しだけ殺意が湧いた。
「わたしが目論んでいるのは、立川も巻き込んでワーストレンジャーの面々で遊びに行く約束を取り付けるのだ。そこで月花が告白できる時間を用意する」
腕を組んだ真紀は話を続ける。
「だが告白時に頼れるのは自分自身だけだ。そこで緊張で言いたいことも言えなければ、ジ・エンドとなる」
真紀は首を切るジェスチャーをした。
「そうならないよう、疑似デートでリハーサルしておくのだ」
「うーん……理にかなってるとは言い難いが……」
銀次は甚だ疑問ではあったものの、もう悠長におでこを見ろ、はきはき話せと言っていられる状況ではなくなった。
大平に爆弾を盛大に着火されてしまった以上、立川に知られる前にこちらから仕掛けるしかないのだ。本人が告白してもいないのにフラれる最悪の展開だけは避けたい。
(さすがに立川本人にチクる人でなしは、クリフィアにはそうそういないと願ってるが)
「つまり、このオレに時雨さんとデートしろと? ま、しゃあないなぁー。これも男村野鉄平の矜持――」
「デート相手は銀ちゃんだ。てか、常識的に考えて貴様はありえんだろ」
冗談なのか本気なのか分からない面持ちで鉄平が月花のデート相手に手を挙げたが、台詞を言い終えるよりも早く真紀に却下されてしまったので、ゆっくりと手を降ろして銀次の肩に置いた。
「やっぱ銀ちゃんだよねっ☆」
優はそもそもこの場にいない上に二人きりでどんな毒を吐いてくるか分からないし、鉄平では月花の貞操が心配だ。結果、消去法で銀次が残る形となる。
「鉄平と二人並んで街を歩いたら月花が可哀想だ。罰ゲームでしかない。いや苦行か」
「おい待て真紀コラ」
真紀の身も蓋もない発言に、鉄平はYの字に両手を広げて抗議する。
「んで、俺が時雨とデートすればいいんだな?」
「それだけじゃダメだ」
銀次の問いに真紀は首を二回横に振って、人差し指を立てる。
「月花が立ち向かう相手は銀ちゃんではなく立川だ。そこで、銀ちゃんには変化魔法をかける」
「…………変化魔法だぁ?」
途端に胡散臭く感じた銀次であった。
「うむ、お前には立川になりきってもらうぞ」
「徹底してんな」
「本番の相手から遠い奴と疑似デートしても旨味が少ないだろ」
「一理あるな」
月花の想い人は立川であって、銀次ではないのだから。
「まず銀ちゃんの髪型は立川とは違いすぎるので、カツラをつけてもらうぞ」
真紀は自分の側頭部を両手でポンポンする。
「それぐらいなら我慢する」
「んじゃ、演劇部に出向いてウィッグを借りてくるわ」
鉄平は演劇部に向かうべく教室から一旦退場した。
真紀は銀次の頭頂部から足先までを目で数回往復すると、口元に手を当てて唸る。
「眉毛も全然違うんだよな。立川は太眉だ」
対して銀次の眉は細長い。
「マジックペンで太眉を演出しよう」
真紀は銀次の眉をじーっと見つめてから案を出した。
「マジかよ」
「マジ。マジックだけにな。というわけで今書くぞ」
「おいっ!? くすぐった……!」
真紀の手によって、銀次の眉にマジックのペンが掃くように擦られてゆく。
「――ん? おいまさかこれ、油性じゃねぇのか!?」
「当たり前だ。すぐに落ちたら意味ないだろ」
真紀は至極当然のように答えるが、銀次は帰宅後に家族へどう言い訳しようか頭を悩ませて気が重くなった。
真紀の顔が眼前にある。
澄んだ瞳には銀次の顔が映っている。頬をつつけば弾力がありそうだ。綺麗な肌はシミもニキビも全くない。桜色の唇は柔らかそうだ。歯も白く、顔だけ見れば清潔感がある。
(髪や服に無頓着じゃなけりゃなぁ)
恋でもすれば、真紀でもお洒落に目覚めるのだろうか。
(いや、目覚めないだろうな)
「眉はこれでよしっと」
銀次の心中など知る由もない真紀は、淡々と自身の作業を完了させた。
月花の手鏡で確認すると明らかに不自然極まりなかったが、銀次は自分の眉は元々こうだったと無理矢理自己暗示した。
「ウィッグ借りてきたぞー」
タイミングよく鉄平がダンボール箱を持って戻ってきた。
「って銀ちゃん、その眉毛ヤバくね!?」
銀次の不自然なほどの極太眉を見た鉄平は大笑いした。
「百瀬のアバウト施工のせいだわ」
「まぁ、元の眉よりは立川に近づいたから結果オーライじゃね」
鉄平は箱を教卓に置くと、ダンボールの耳を開封する。
「色々あるな。ありすぎるな」
銀次が呆気に取られるのも仕方のないこと。箱の中には男性用だけではなく、女性用、しかも髪の長さ、質、色など多種多様のウィッグが詰め込まれていて、髪の毛の海となっていた。
「よしっ、じゃあコレつけてちょ」
「おい、立川っぽいやつだけつけりゃ済む話だろうが」
遊ぶ気満々の鉄平が銀次にウィッグを差し出した。
「……ったく」
観念した銀次は渋々ウィッグを装着する。
「――プッ。ここまで似合わないとは」
「テメェがつけろっつったんだろ!?」
銀次は噴き出した鉄平のネクタイを引っ張って抗議する。
「うぐ……だって女性用のロングが、似合わなすぎて……っ!」
「うむ。公共の場を歩けば職質は免れんな」
真紀とその後ろではさりげなく月花も噴き出していた。
「職質なら、ウィッグ関係なく何回かされとるわ」
銀次は平日の真っ昼間から外をウロウロしていることが割とあるため、不審に感じた警察官から幾許かの職務質問を受けている。
「銀ちゃんの外見で平日に制服姿で出歩いてたら……ねぇ」
鉄平は言葉を濁すが、銀次には言わんとすることは理解できた。
「おっ、こっちは似合うぞ!」
その間に真紀が茶色短髪のウィッグに付け替えていた。
「銀ちゃん、髪バッサリやって短髪にした方がモテるぞ。切ってあげようか?」
鉄平が手でハサミのポーズを作るが、こいつに任せたら奇抜な髪型にされるのが容易に想像できた銀次は、
「切ったら、コロス」
射貫くような視線で鉄平に念押ししておいた。
「私も、橋本君は、短い方が似合うと思うな……」
月花も銀次の頭部を見て控えめに感想を述べた。
「ま、気が向いたら短くするわ」
褒められたことに悪い気はしない。銀次は頬を少し赤らめて頭を掻いた。
「真面目に選ぶと、コレが一番立川っぽいな」
銀次は自らウィッグをチョイスして、頭に被せてみる。
「どうだ、時雨?」
「うん、いいと思う」
「立川っぽいか聞いてるんだが……」
「あ、ああっ、ごめんね。そのウィッグが一番立川君っぽいよ」
「俺に『ごめん』は禁止な」
「ご――う、うん……」
相変わらず会話のキャッチボールとしては微妙だが、月花らしさの現れでもあると感じた銀次だった。
「と、ところで。アイプチも、必要かも」
月花が銀次の目を見て言った。
切れ長奥二重瞼の銀次に対して、立川はぱっちりとした二重瞼だ。
「時雨まで乗り気になってねぇか?」
それはなによりだが、次々と自身の顔が立川に寄せられてゆくのは複雑な気分だった。
「じゃあ、アイプチ使うね」
月花は鞄からアイプチの道具を取り出した。
「なんで持ち歩いてんだよ……」
それならば、眉を書く化粧品も出してくれよと思った銀次だった。
「化粧品は女の必需品だぞ」
「偉そうに言ってるけど、真紀はすっぴんだし化粧道具持ってないよな」
小さな身体でふんぞり返る真紀に鉄平がジト目で物申す。
「私もすっぴんだけど、一応持ち歩いてるんだ」
月花も素顔だが、それでも充分に女性としての魅力を放っている。
「私もアイプチは使ったことないから、説明書を見ながらやってみるね」
銀次の視界には至近距離で月花の顔が映っており、甘い吐息がかかる。
シャンプーの匂いだろうか。ローズの香りがする。
(お……)
至近距離で見た月花の顔は、とてつもなく綺麗だった。吸い込まれそうになる瞳、長いまつ毛、整った眉、高めの鼻、バランスの取れたほんのり赤みを帯びた唇――
銀次もそこまで女性経験が豊富ではない。さすがに緊張してしまった。
月花も真紀も女性としての魅力は高い。一方の男性陣は優以外の二名がコレで大変申し訳ないと銀次は密かに思った。
「う、うぅ……」
「恥ずかしいなら、やめてくれていいんだぞ?」
銀次は自分も羞恥心と戦っていることをひた隠しにして月花を気遣ってみるも、
「ううん、平気、だから」
月花も頬を真っ赤に染めて羞恥心を隠す気すらないが、作業の手を止める気もさらさらなさそうだ。
「おいおい、なーんかアヤシイ雰囲気っすねぇ」
「月花、それは相手を惚れさせる魔法、ラブアタックか!?」
鉄平と真紀がわちゃわちゃと盛り上がっている。
(ま、これも悪かねぇか)
銀次も心なしか口元が緩んでいた。
「うん。できた」
「さんきゅ」
「のりが取れちゃうから、その、目はあまり擦らないでね」
月花によるアイプチ施術が終わった。
手鏡で自分の目を確認すると、くっきりとした二重瞼ができていた。
立川擬態が整った銀次を真紀が見ている。
「待ち合わせ日時と場所はどうする?」
真紀から問われた銀次は、ひとまず月花に要望を仰ぐことにした。
「時雨はリクエストあるか?」
「私は、どこでも」
「なら、日曜の正午に駅前集合でどうだ?」
「無難なチョイスだが、まぁよかろう。許可しよう」
「なんで百瀬の許可がいるんだよ……で、時雨、どうだ?」
肩をすくめた銀次は月花に再確認する。
「それで大丈夫」
月花からもOKをもらった。自分の意思がないのが銀次は少々不満ではあったが、異議がないならこれで決まりだ。
月花が覚悟を決めた翌日。
放課後の教室で声を上げたのは真紀だった。
「立川がそう簡単に女とサシでデートするかよ」
立川をデートに誘った時点で、小沢との関係を告げられてしまう危険を恐れた銀次は、真紀の突拍子もない思いつきに異議を唱えた。
「銀ちゃん、浅いな」
真紀は真紀のくせにドヤ顔でニヤリと笑う。銀次は少しだけ殺意が湧いた。
「わたしが目論んでいるのは、立川も巻き込んでワーストレンジャーの面々で遊びに行く約束を取り付けるのだ。そこで月花が告白できる時間を用意する」
腕を組んだ真紀は話を続ける。
「だが告白時に頼れるのは自分自身だけだ。そこで緊張で言いたいことも言えなければ、ジ・エンドとなる」
真紀は首を切るジェスチャーをした。
「そうならないよう、疑似デートでリハーサルしておくのだ」
「うーん……理にかなってるとは言い難いが……」
銀次は甚だ疑問ではあったものの、もう悠長におでこを見ろ、はきはき話せと言っていられる状況ではなくなった。
大平に爆弾を盛大に着火されてしまった以上、立川に知られる前にこちらから仕掛けるしかないのだ。本人が告白してもいないのにフラれる最悪の展開だけは避けたい。
(さすがに立川本人にチクる人でなしは、クリフィアにはそうそういないと願ってるが)
「つまり、このオレに時雨さんとデートしろと? ま、しゃあないなぁー。これも男村野鉄平の矜持――」
「デート相手は銀ちゃんだ。てか、常識的に考えて貴様はありえんだろ」
冗談なのか本気なのか分からない面持ちで鉄平が月花のデート相手に手を挙げたが、台詞を言い終えるよりも早く真紀に却下されてしまったので、ゆっくりと手を降ろして銀次の肩に置いた。
「やっぱ銀ちゃんだよねっ☆」
優はそもそもこの場にいない上に二人きりでどんな毒を吐いてくるか分からないし、鉄平では月花の貞操が心配だ。結果、消去法で銀次が残る形となる。
「鉄平と二人並んで街を歩いたら月花が可哀想だ。罰ゲームでしかない。いや苦行か」
「おい待て真紀コラ」
真紀の身も蓋もない発言に、鉄平はYの字に両手を広げて抗議する。
「んで、俺が時雨とデートすればいいんだな?」
「それだけじゃダメだ」
銀次の問いに真紀は首を二回横に振って、人差し指を立てる。
「月花が立ち向かう相手は銀ちゃんではなく立川だ。そこで、銀ちゃんには変化魔法をかける」
「…………変化魔法だぁ?」
途端に胡散臭く感じた銀次であった。
「うむ、お前には立川になりきってもらうぞ」
「徹底してんな」
「本番の相手から遠い奴と疑似デートしても旨味が少ないだろ」
「一理あるな」
月花の想い人は立川であって、銀次ではないのだから。
「まず銀ちゃんの髪型は立川とは違いすぎるので、カツラをつけてもらうぞ」
真紀は自分の側頭部を両手でポンポンする。
「それぐらいなら我慢する」
「んじゃ、演劇部に出向いてウィッグを借りてくるわ」
鉄平は演劇部に向かうべく教室から一旦退場した。
真紀は銀次の頭頂部から足先までを目で数回往復すると、口元に手を当てて唸る。
「眉毛も全然違うんだよな。立川は太眉だ」
対して銀次の眉は細長い。
「マジックペンで太眉を演出しよう」
真紀は銀次の眉をじーっと見つめてから案を出した。
「マジかよ」
「マジ。マジックだけにな。というわけで今書くぞ」
「おいっ!? くすぐった……!」
真紀の手によって、銀次の眉にマジックのペンが掃くように擦られてゆく。
「――ん? おいまさかこれ、油性じゃねぇのか!?」
「当たり前だ。すぐに落ちたら意味ないだろ」
真紀は至極当然のように答えるが、銀次は帰宅後に家族へどう言い訳しようか頭を悩ませて気が重くなった。
真紀の顔が眼前にある。
澄んだ瞳には銀次の顔が映っている。頬をつつけば弾力がありそうだ。綺麗な肌はシミもニキビも全くない。桜色の唇は柔らかそうだ。歯も白く、顔だけ見れば清潔感がある。
(髪や服に無頓着じゃなけりゃなぁ)
恋でもすれば、真紀でもお洒落に目覚めるのだろうか。
(いや、目覚めないだろうな)
「眉はこれでよしっと」
銀次の心中など知る由もない真紀は、淡々と自身の作業を完了させた。
月花の手鏡で確認すると明らかに不自然極まりなかったが、銀次は自分の眉は元々こうだったと無理矢理自己暗示した。
「ウィッグ借りてきたぞー」
タイミングよく鉄平がダンボール箱を持って戻ってきた。
「って銀ちゃん、その眉毛ヤバくね!?」
銀次の不自然なほどの極太眉を見た鉄平は大笑いした。
「百瀬のアバウト施工のせいだわ」
「まぁ、元の眉よりは立川に近づいたから結果オーライじゃね」
鉄平は箱を教卓に置くと、ダンボールの耳を開封する。
「色々あるな。ありすぎるな」
銀次が呆気に取られるのも仕方のないこと。箱の中には男性用だけではなく、女性用、しかも髪の長さ、質、色など多種多様のウィッグが詰め込まれていて、髪の毛の海となっていた。
「よしっ、じゃあコレつけてちょ」
「おい、立川っぽいやつだけつけりゃ済む話だろうが」
遊ぶ気満々の鉄平が銀次にウィッグを差し出した。
「……ったく」
観念した銀次は渋々ウィッグを装着する。
「――プッ。ここまで似合わないとは」
「テメェがつけろっつったんだろ!?」
銀次は噴き出した鉄平のネクタイを引っ張って抗議する。
「うぐ……だって女性用のロングが、似合わなすぎて……っ!」
「うむ。公共の場を歩けば職質は免れんな」
真紀とその後ろではさりげなく月花も噴き出していた。
「職質なら、ウィッグ関係なく何回かされとるわ」
銀次は平日の真っ昼間から外をウロウロしていることが割とあるため、不審に感じた警察官から幾許かの職務質問を受けている。
「銀ちゃんの外見で平日に制服姿で出歩いてたら……ねぇ」
鉄平は言葉を濁すが、銀次には言わんとすることは理解できた。
「おっ、こっちは似合うぞ!」
その間に真紀が茶色短髪のウィッグに付け替えていた。
「銀ちゃん、髪バッサリやって短髪にした方がモテるぞ。切ってあげようか?」
鉄平が手でハサミのポーズを作るが、こいつに任せたら奇抜な髪型にされるのが容易に想像できた銀次は、
「切ったら、コロス」
射貫くような視線で鉄平に念押ししておいた。
「私も、橋本君は、短い方が似合うと思うな……」
月花も銀次の頭部を見て控えめに感想を述べた。
「ま、気が向いたら短くするわ」
褒められたことに悪い気はしない。銀次は頬を少し赤らめて頭を掻いた。
「真面目に選ぶと、コレが一番立川っぽいな」
銀次は自らウィッグをチョイスして、頭に被せてみる。
「どうだ、時雨?」
「うん、いいと思う」
「立川っぽいか聞いてるんだが……」
「あ、ああっ、ごめんね。そのウィッグが一番立川君っぽいよ」
「俺に『ごめん』は禁止な」
「ご――う、うん……」
相変わらず会話のキャッチボールとしては微妙だが、月花らしさの現れでもあると感じた銀次だった。
「と、ところで。アイプチも、必要かも」
月花が銀次の目を見て言った。
切れ長奥二重瞼の銀次に対して、立川はぱっちりとした二重瞼だ。
「時雨まで乗り気になってねぇか?」
それはなによりだが、次々と自身の顔が立川に寄せられてゆくのは複雑な気分だった。
「じゃあ、アイプチ使うね」
月花は鞄からアイプチの道具を取り出した。
「なんで持ち歩いてんだよ……」
それならば、眉を書く化粧品も出してくれよと思った銀次だった。
「化粧品は女の必需品だぞ」
「偉そうに言ってるけど、真紀はすっぴんだし化粧道具持ってないよな」
小さな身体でふんぞり返る真紀に鉄平がジト目で物申す。
「私もすっぴんだけど、一応持ち歩いてるんだ」
月花も素顔だが、それでも充分に女性としての魅力を放っている。
「私もアイプチは使ったことないから、説明書を見ながらやってみるね」
銀次の視界には至近距離で月花の顔が映っており、甘い吐息がかかる。
シャンプーの匂いだろうか。ローズの香りがする。
(お……)
至近距離で見た月花の顔は、とてつもなく綺麗だった。吸い込まれそうになる瞳、長いまつ毛、整った眉、高めの鼻、バランスの取れたほんのり赤みを帯びた唇――
銀次もそこまで女性経験が豊富ではない。さすがに緊張してしまった。
月花も真紀も女性としての魅力は高い。一方の男性陣は優以外の二名がコレで大変申し訳ないと銀次は密かに思った。
「う、うぅ……」
「恥ずかしいなら、やめてくれていいんだぞ?」
銀次は自分も羞恥心と戦っていることをひた隠しにして月花を気遣ってみるも、
「ううん、平気、だから」
月花も頬を真っ赤に染めて羞恥心を隠す気すらないが、作業の手を止める気もさらさらなさそうだ。
「おいおい、なーんかアヤシイ雰囲気っすねぇ」
「月花、それは相手を惚れさせる魔法、ラブアタックか!?」
鉄平と真紀がわちゃわちゃと盛り上がっている。
(ま、これも悪かねぇか)
銀次も心なしか口元が緩んでいた。
「うん。できた」
「さんきゅ」
「のりが取れちゃうから、その、目はあまり擦らないでね」
月花によるアイプチ施術が終わった。
手鏡で自分の目を確認すると、くっきりとした二重瞼ができていた。
立川擬態が整った銀次を真紀が見ている。
「待ち合わせ日時と場所はどうする?」
真紀から問われた銀次は、ひとまず月花に要望を仰ぐことにした。
「時雨はリクエストあるか?」
「私は、どこでも」
「なら、日曜の正午に駅前集合でどうだ?」
「無難なチョイスだが、まぁよかろう。許可しよう」
「なんで百瀬の許可がいるんだよ……で、時雨、どうだ?」
肩をすくめた銀次は月花に再確認する。
「それで大丈夫」
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