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第一出動 One for all, All for one ④
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「もういいだろう。こんな集まりに何の意味がある? 今日限りで終了だ。この面子で話し合うことも今後一切ないだろうね。じゃ、解散で」
鞄を持った優がうんざりした顔で教室の入り口まで歩いていくが、
「ちょーっと待ったー!」
鉄平が大声で制止する。
優は歩みこそ止めるが、顔は入り口を向いたままだ。
「まだあるのか。さっきも言った通り、僕は暇じゃないんだけどな」
優の背中を見つめて鉄平は語りはじめる。
「ワースト5の面々に集まってもらったのはアレよ。一口にワースト5と言っても、全員が同じ人間じゃあないわな。長所も短所も違う。だったら、誰かの長所で誰かの短所を埋められるんじゃないかなって思うのよ」
「言ってることは間違えてないが、それがどうした?」
言わんとすることは理解できるが、納得はしていない様子の優に鉄平は持論を続ける。
「つまり、だ。オレたちワースト5のメンバーでお互い助け合おうじゃないか、ってこと。メンバーの悩みを解消したり、傷を癒したり」
「慣れ合ってどうなる? ボランティア感覚で自分の時間を潰したくはないんだけどな」
優の台詞を聞いた銀次も同意見だった。
こいつと俺は似ている。性格こそ違えど、考え方や思想に共通する部分が多い。
同族嫌悪を抱いてしまう自分が情けなくなる銀次だった。
「考えてみれば結構面白そうだなー! 平和を守るために戦う戦隊みたいだ!」
真紀はスーパー戦隊を思い浮かべてテンションが上がっている。
「おい、誰も平和を守るとは言ってねぇだろ。メンバー同士助け合うって意味で」
「おぉ、真紀! オメーもたまにゃいいこと言うなぁ! どうせなら校内、いや、街全ての悪をオレたちの手で葬り去ろうぜ!」
鉄平は銀次のツッコミを遮って真紀に同調した。
「わはは、だろー? ワクワクしてきたなぁ! 戦隊だ、戦隊!」
「ワースト5の戦隊だから――さしずめ『ワーストレンジャー』と言ったところか!」
鉄平はポンと手を叩いて、ワースト5の戦隊風呼び名を命名した。
「おおっ、絶妙にダサいがまぁよしとしよう。その案、採用!」
真紀は鉄平にサムズアップしてぴょんぴょん飛び跳ねる。その挙動は小動物そのものだった。
「おーい、せめてどっちか俺の話を聞けや」
銀次の訴えもこれからの予定に想いを馳せる二人には届かない。彼らの熱い会話によって掻き消されている。
「まずは最初の任務をどうするか考えようぜ!」
「んーと、まずは各々の長所と短所の洗い出しじゃないか? 力を貸し合うためには、各人のアピールポイントおよびウィークポイントを把握しておくべきだ」
真紀の提案に鉄平は瞳を輝かせる。
「それだ! ――いや待てよ。そもそもオレ様に短所はあるのか?」
鉄平は顎に手を当てて燃費の悪い思考回路を回しはじめたが、
「君……本気で言ってるのか? 認識していないのか? 君の訳分からない行動。衣類を脱ぐ癖。性別関係なく惚れた人間に抱きつく。成績は赤点ギリギリ。ルックスも大して良くない。短所だらけだぞ。全校の女子生徒が君を嫌ってる。あと何名かのイケメンも君にトラウマを植え付けられている」
優が呆れ顔で鉄平に哀しい真実を突き付けたが、鉄平は、
「ふ、それもオレの個性であーる!」
一切動じることはなかった。実に強靭なメンタルだ。
「わたしは別に嫌ってないぞ。見下してはいるが」
「わ、私も嫌いじゃないよ」
真紀と月花が哀れな鉄平に救いの手を差し伸べた。
「あぁ、女神様はここにいたんだ……っ!」
鉄平には二人が女神に見えたのだった。
「よし次、優の長所を挙げよ!!」
鉄平がビシッと優の顔面を指差して叫ぶ。
「まだ拘束するのか? 仕方ないな。僕の長所はまず顔がいい」
「自分でほざいてんじゃねぇよナルシスト」
いけしゃあしゃあと自画自賛する秀才に、銀次の口から毒が漏れる事態は避けられなかった。
「黙れチンピラ。あとは――そうだな。頭がいい。スポーツも得意。短所はない」
「コイツ言い切りやがった! 自分の短所を分析できねぇバカさ加減がテメェの短所だよ!」
銀次が嘲笑って優に哀しい真実を突き付けたが、優は、
「嫉妬か? 醜いのは外見だけじゃなかったんだな」
負けじと銀次にカウンターパンチを繰り出した。
「あ? 俺がブサイクなのは否定しねぇが、テメェには他にも短所があるぞ」
「いやいや、銀ちゃんはカッコイイぞ☆」
鉄平が褒めてくれたのだが、
「……おっかしぃな。急に寒気が」
「風邪か、銀ちゃん!?」
それを聞いた銀次はなぜか鳥肌が立った。
「市原の最大の短所は、思いやりが一切ねぇところだ!」
銀次は自席の机を叩いて言い切った。
「そんなもの必要か? というか、他人を殴る君にも思いやりなんて感情は皆無と考えるが」
「そうだな。俺は拳で人の身体を刺し、お前は言葉で人の心を刺すな」
銀次と優では手段は違うものの、他者を傷つける機会が多い。
「おぉ、さすがは二人とも! 戦闘力が高いんだな!」
おかしなところで真紀が関心していた。
「ふん――橋本の短所は短気な狂犬野郎ってとこだな」
自分の話題を切り上げたいからか、優は銀次の話題にシフトさせた。
「それは否定しねぇ」
銀次はあっさりと自分の短所を認める。自己分析がきちんとできている点は銀次の長所なのではないか。
「銀ちゃんのいいところは、面倒見がよくて優しいところだな!」
「優しい、だと……? 村野、君はそろそろ本気で病院に行った方がいい」
鉄平の持論に優は軽く身震いした。こいつ何言っちゃってんのと表情が物語っている。
「気持ちは嬉しいが市原の言う通りだ。癪だけどな。俺は優しくなんかねぇ。第一、他人を殴れる人間が優しいわけねぇだろ」
「殴るのにも理由があるだろー? 友や恋人を守るため、とかさぁ」
「んな美しい理由じゃねぇわ……」
鉄平はポジティブに受け止めてくれているが、銀次のこれまでの粗暴の原理には大それた大義名分などなかった。ただ喧嘩を売られたから、ただ気に食わないから、そんな理由ばかり。
「とりあえず橋本の長所は喧嘩が強い、ってことにしておくか。じゃ、解散」
優は鞄を持ち上げ、そそくさと教室から去ろうとするが、
「おいおい待てよ。まだ真紀と時雨さんの長所短所を出してないだろー」
鉄平に肩を掴まれる形で阻まれる。
「はいはい、分かりましたよ。ったく、なんで僕がこんな下らない話し合いに……」
「次。真紀の長所」
鉄平は事務的な口調で真紀の長所へと話題を移す。
「はいはーい! わたしの長所は魔法が使えることでーす!」
「それはあなたの妄想でーす。はい次ー」
鉄平は滝のような勢いで真紀のアピールを真顔で流す。真紀には結構毒づくようだ。
「百瀬の長所か――やっぱあれか? 頭がいい」
そう。真紀は銀次の言う通り、こんな言動でもクラス、それどころか学年トップの学業成績を誇る神童なのだ。
「テストなぞ飾りだ~。魔法が使えなきゃそんなもの意味ないぞ~。ファイア~!」
――……こんな言動でも。
「うーん……」
銀次は真紀の顔をしばし見つめていた。
成績もそうだが、よく見ると顔も整っている。
ぱっちりとした二重瞼の瞳。バランスの取れた小鼻。汚れ一つない白い肌。グロスを塗ったかのような桜色の唇。全てのパーツに恵まれている。
にも関わらず、外見に気を使っている形跡はない。
実にもったいない。磨けば光る原石に違いないのに。
そう感じた銀次は自然と声を漏らした。
「あと可愛い」
「おいおいおいおい銀ちゃん? それマジで言ってんの? この、真紀なんですけど?」
鉄平はそんなバカなと言わんばかりに、真紀の顔を指差して首を傾げた。
「やべ、思ったことがそのまま口から出ちまった」
刹那のタイムラグで思考が口に追いついた銀次は、左手で自身の口を覆う。
銀次の言葉を聞いた真紀は仁王立ちになって、
「わたしは自分を可愛いと思ったことなど一度たりともない! それよりも、魔法使いとして褒められた方がよっぽど嬉しいぞ」
自身へと向けられた長所を否定した。褒められたにも関わらず、そこに喜びを感じてはいなかった。
「うん、だからまずは魔法使いを名乗るなら最低限風起こしの魔法を覚えてからにしようね」
鉄平は鼻をほじりながら真紀に苦言を呈するが、
「どうせお前はその魔法で女子のスカートでもめくろうって魂胆だろ?」
言葉の裏に秘めたる野望は、銀次によって見透かされてしまった。
「バレてましたか?」
「お前が考えることは分かりやすいんだよ」
「さすが銀ちゃん! オレの身も心も全てお見通しだね!」
「誤解を招く言い方すんじゃねぇ!」
「いやんハズカチーズ」
銀次と鉄平の漫才を、優が横から冷ややかな目で見ていたが、
「次は短所な」
次の話題へと移す。
「やっぱ妄想がすぎるところじゃねぇか?」
「わたしは妄想などあまりしないが」
「魔法云々の話だよ」
「なっ!? わたしの魔法を妄想扱いか銀ちゃん! その発言、もし鉄平だったら即、閻魔大王様の下へと送り届けてるところだぞ!」
「おま、銀ちゃんを結構気に入ってるからって依怙贔屓はやめろよな!」
「黙れ愚か者め! 魔法使いのわたしと戦士の銀ちゃんが組めば最強のコンビになるのだぞ。まぁ貴様も? 使い捨ての盾役として前衛に加えてやらぬこともないが」
「わー超うれぴー、マジ最っ高」
鉄平は真顔かつ棒読みで真紀に応対する。
とここで、鉄平は言葉をほとんど発していない人物を一瞥し、彼女にスポットライトを当てる。
「時雨さんも会話に入れよー! オレたちもうマブダチだぞ!」
「えっ? あ、あの」
「時雨さんの長所。みんなで考えようよ。たくさんあるに違いないから」
優しい笑顔で鉄平は言う。コミュニケーションが苦手な月花に気を遣っているのだ。
鉄平はアホではあるが結構空気の読める男だったりする。アホではあるが。
「まず美人だよな」
そう。銀次の言う通り、月花はとにかく美人だ。
「君はそればかりだな。誰彼構わず口説くのは気持ち悪いぞ」
優は可愛い綺麗などと平然と宣う銀次に辟易していた。
「思ったことをありのままの言葉でアウトプットしただけだっつーの」
「銀ちゃん銀ちゃん。アウトプットってなんだ?」
「村野はそんなことすら知らないのか」
銀次よりも先に優がツッコミを入れた。
「市原よ。鉄平に何を期待しておるのだ? 魔法を否定し人間など、底が知れてるわ」
「いや、僕も魔法の類はこれっぽっちも信じてはいないんだが……」
「まぁよい、この百瀬真紀が教えてやろう。アウトプットはだな、『出力』という意味だ。読書に例えよう。内容を読むことがインプット、内容について感想を述べることがアウトプットに該当するぞ」
真紀が豊富な知識で鉄平に言葉の意味を伝授している。
銀次は思った。……真紀の奴、馴れ合いは好きじゃないとか言ってなかったか? 思いっきりノリノリじゃねぇか、と。
「何言ってんのかさっぱり分からなかったけど、とりあえずありがとうな、真紀!」
「うむ。しかと学べよ?」
真紀の伝授は失敗に終わった。
話が逸れているがあえてツッコむ者はいない。
鞄を持った優がうんざりした顔で教室の入り口まで歩いていくが、
「ちょーっと待ったー!」
鉄平が大声で制止する。
優は歩みこそ止めるが、顔は入り口を向いたままだ。
「まだあるのか。さっきも言った通り、僕は暇じゃないんだけどな」
優の背中を見つめて鉄平は語りはじめる。
「ワースト5の面々に集まってもらったのはアレよ。一口にワースト5と言っても、全員が同じ人間じゃあないわな。長所も短所も違う。だったら、誰かの長所で誰かの短所を埋められるんじゃないかなって思うのよ」
「言ってることは間違えてないが、それがどうした?」
言わんとすることは理解できるが、納得はしていない様子の優に鉄平は持論を続ける。
「つまり、だ。オレたちワースト5のメンバーでお互い助け合おうじゃないか、ってこと。メンバーの悩みを解消したり、傷を癒したり」
「慣れ合ってどうなる? ボランティア感覚で自分の時間を潰したくはないんだけどな」
優の台詞を聞いた銀次も同意見だった。
こいつと俺は似ている。性格こそ違えど、考え方や思想に共通する部分が多い。
同族嫌悪を抱いてしまう自分が情けなくなる銀次だった。
「考えてみれば結構面白そうだなー! 平和を守るために戦う戦隊みたいだ!」
真紀はスーパー戦隊を思い浮かべてテンションが上がっている。
「おい、誰も平和を守るとは言ってねぇだろ。メンバー同士助け合うって意味で」
「おぉ、真紀! オメーもたまにゃいいこと言うなぁ! どうせなら校内、いや、街全ての悪をオレたちの手で葬り去ろうぜ!」
鉄平は銀次のツッコミを遮って真紀に同調した。
「わはは、だろー? ワクワクしてきたなぁ! 戦隊だ、戦隊!」
「ワースト5の戦隊だから――さしずめ『ワーストレンジャー』と言ったところか!」
鉄平はポンと手を叩いて、ワースト5の戦隊風呼び名を命名した。
「おおっ、絶妙にダサいがまぁよしとしよう。その案、採用!」
真紀は鉄平にサムズアップしてぴょんぴょん飛び跳ねる。その挙動は小動物そのものだった。
「おーい、せめてどっちか俺の話を聞けや」
銀次の訴えもこれからの予定に想いを馳せる二人には届かない。彼らの熱い会話によって掻き消されている。
「まずは最初の任務をどうするか考えようぜ!」
「んーと、まずは各々の長所と短所の洗い出しじゃないか? 力を貸し合うためには、各人のアピールポイントおよびウィークポイントを把握しておくべきだ」
真紀の提案に鉄平は瞳を輝かせる。
「それだ! ――いや待てよ。そもそもオレ様に短所はあるのか?」
鉄平は顎に手を当てて燃費の悪い思考回路を回しはじめたが、
「君……本気で言ってるのか? 認識していないのか? 君の訳分からない行動。衣類を脱ぐ癖。性別関係なく惚れた人間に抱きつく。成績は赤点ギリギリ。ルックスも大して良くない。短所だらけだぞ。全校の女子生徒が君を嫌ってる。あと何名かのイケメンも君にトラウマを植え付けられている」
優が呆れ顔で鉄平に哀しい真実を突き付けたが、鉄平は、
「ふ、それもオレの個性であーる!」
一切動じることはなかった。実に強靭なメンタルだ。
「わたしは別に嫌ってないぞ。見下してはいるが」
「わ、私も嫌いじゃないよ」
真紀と月花が哀れな鉄平に救いの手を差し伸べた。
「あぁ、女神様はここにいたんだ……っ!」
鉄平には二人が女神に見えたのだった。
「よし次、優の長所を挙げよ!!」
鉄平がビシッと優の顔面を指差して叫ぶ。
「まだ拘束するのか? 仕方ないな。僕の長所はまず顔がいい」
「自分でほざいてんじゃねぇよナルシスト」
いけしゃあしゃあと自画自賛する秀才に、銀次の口から毒が漏れる事態は避けられなかった。
「黙れチンピラ。あとは――そうだな。頭がいい。スポーツも得意。短所はない」
「コイツ言い切りやがった! 自分の短所を分析できねぇバカさ加減がテメェの短所だよ!」
銀次が嘲笑って優に哀しい真実を突き付けたが、優は、
「嫉妬か? 醜いのは外見だけじゃなかったんだな」
負けじと銀次にカウンターパンチを繰り出した。
「あ? 俺がブサイクなのは否定しねぇが、テメェには他にも短所があるぞ」
「いやいや、銀ちゃんはカッコイイぞ☆」
鉄平が褒めてくれたのだが、
「……おっかしぃな。急に寒気が」
「風邪か、銀ちゃん!?」
それを聞いた銀次はなぜか鳥肌が立った。
「市原の最大の短所は、思いやりが一切ねぇところだ!」
銀次は自席の机を叩いて言い切った。
「そんなもの必要か? というか、他人を殴る君にも思いやりなんて感情は皆無と考えるが」
「そうだな。俺は拳で人の身体を刺し、お前は言葉で人の心を刺すな」
銀次と優では手段は違うものの、他者を傷つける機会が多い。
「おぉ、さすがは二人とも! 戦闘力が高いんだな!」
おかしなところで真紀が関心していた。
「ふん――橋本の短所は短気な狂犬野郎ってとこだな」
自分の話題を切り上げたいからか、優は銀次の話題にシフトさせた。
「それは否定しねぇ」
銀次はあっさりと自分の短所を認める。自己分析がきちんとできている点は銀次の長所なのではないか。
「銀ちゃんのいいところは、面倒見がよくて優しいところだな!」
「優しい、だと……? 村野、君はそろそろ本気で病院に行った方がいい」
鉄平の持論に優は軽く身震いした。こいつ何言っちゃってんのと表情が物語っている。
「気持ちは嬉しいが市原の言う通りだ。癪だけどな。俺は優しくなんかねぇ。第一、他人を殴れる人間が優しいわけねぇだろ」
「殴るのにも理由があるだろー? 友や恋人を守るため、とかさぁ」
「んな美しい理由じゃねぇわ……」
鉄平はポジティブに受け止めてくれているが、銀次のこれまでの粗暴の原理には大それた大義名分などなかった。ただ喧嘩を売られたから、ただ気に食わないから、そんな理由ばかり。
「とりあえず橋本の長所は喧嘩が強い、ってことにしておくか。じゃ、解散」
優は鞄を持ち上げ、そそくさと教室から去ろうとするが、
「おいおい待てよ。まだ真紀と時雨さんの長所短所を出してないだろー」
鉄平に肩を掴まれる形で阻まれる。
「はいはい、分かりましたよ。ったく、なんで僕がこんな下らない話し合いに……」
「次。真紀の長所」
鉄平は事務的な口調で真紀の長所へと話題を移す。
「はいはーい! わたしの長所は魔法が使えることでーす!」
「それはあなたの妄想でーす。はい次ー」
鉄平は滝のような勢いで真紀のアピールを真顔で流す。真紀には結構毒づくようだ。
「百瀬の長所か――やっぱあれか? 頭がいい」
そう。真紀は銀次の言う通り、こんな言動でもクラス、それどころか学年トップの学業成績を誇る神童なのだ。
「テストなぞ飾りだ~。魔法が使えなきゃそんなもの意味ないぞ~。ファイア~!」
――……こんな言動でも。
「うーん……」
銀次は真紀の顔をしばし見つめていた。
成績もそうだが、よく見ると顔も整っている。
ぱっちりとした二重瞼の瞳。バランスの取れた小鼻。汚れ一つない白い肌。グロスを塗ったかのような桜色の唇。全てのパーツに恵まれている。
にも関わらず、外見に気を使っている形跡はない。
実にもったいない。磨けば光る原石に違いないのに。
そう感じた銀次は自然と声を漏らした。
「あと可愛い」
「おいおいおいおい銀ちゃん? それマジで言ってんの? この、真紀なんですけど?」
鉄平はそんなバカなと言わんばかりに、真紀の顔を指差して首を傾げた。
「やべ、思ったことがそのまま口から出ちまった」
刹那のタイムラグで思考が口に追いついた銀次は、左手で自身の口を覆う。
銀次の言葉を聞いた真紀は仁王立ちになって、
「わたしは自分を可愛いと思ったことなど一度たりともない! それよりも、魔法使いとして褒められた方がよっぽど嬉しいぞ」
自身へと向けられた長所を否定した。褒められたにも関わらず、そこに喜びを感じてはいなかった。
「うん、だからまずは魔法使いを名乗るなら最低限風起こしの魔法を覚えてからにしようね」
鉄平は鼻をほじりながら真紀に苦言を呈するが、
「どうせお前はその魔法で女子のスカートでもめくろうって魂胆だろ?」
言葉の裏に秘めたる野望は、銀次によって見透かされてしまった。
「バレてましたか?」
「お前が考えることは分かりやすいんだよ」
「さすが銀ちゃん! オレの身も心も全てお見通しだね!」
「誤解を招く言い方すんじゃねぇ!」
「いやんハズカチーズ」
銀次と鉄平の漫才を、優が横から冷ややかな目で見ていたが、
「次は短所な」
次の話題へと移す。
「やっぱ妄想がすぎるところじゃねぇか?」
「わたしは妄想などあまりしないが」
「魔法云々の話だよ」
「なっ!? わたしの魔法を妄想扱いか銀ちゃん! その発言、もし鉄平だったら即、閻魔大王様の下へと送り届けてるところだぞ!」
「おま、銀ちゃんを結構気に入ってるからって依怙贔屓はやめろよな!」
「黙れ愚か者め! 魔法使いのわたしと戦士の銀ちゃんが組めば最強のコンビになるのだぞ。まぁ貴様も? 使い捨ての盾役として前衛に加えてやらぬこともないが」
「わー超うれぴー、マジ最っ高」
鉄平は真顔かつ棒読みで真紀に応対する。
とここで、鉄平は言葉をほとんど発していない人物を一瞥し、彼女にスポットライトを当てる。
「時雨さんも会話に入れよー! オレたちもうマブダチだぞ!」
「えっ? あ、あの」
「時雨さんの長所。みんなで考えようよ。たくさんあるに違いないから」
優しい笑顔で鉄平は言う。コミュニケーションが苦手な月花に気を遣っているのだ。
鉄平はアホではあるが結構空気の読める男だったりする。アホではあるが。
「まず美人だよな」
そう。銀次の言う通り、月花はとにかく美人だ。
「君はそればかりだな。誰彼構わず口説くのは気持ち悪いぞ」
優は可愛い綺麗などと平然と宣う銀次に辟易していた。
「思ったことをありのままの言葉でアウトプットしただけだっつーの」
「銀ちゃん銀ちゃん。アウトプットってなんだ?」
「村野はそんなことすら知らないのか」
銀次よりも先に優がツッコミを入れた。
「市原よ。鉄平に何を期待しておるのだ? 魔法を否定し人間など、底が知れてるわ」
「いや、僕も魔法の類はこれっぽっちも信じてはいないんだが……」
「まぁよい、この百瀬真紀が教えてやろう。アウトプットはだな、『出力』という意味だ。読書に例えよう。内容を読むことがインプット、内容について感想を述べることがアウトプットに該当するぞ」
真紀が豊富な知識で鉄平に言葉の意味を伝授している。
銀次は思った。……真紀の奴、馴れ合いは好きじゃないとか言ってなかったか? 思いっきりノリノリじゃねぇか、と。
「何言ってんのかさっぱり分からなかったけど、とりあえずありがとうな、真紀!」
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