平原圭伝説(レジェンド)

小鳥頼人

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2巻

9_外面よりも内面という言葉は決して名言ではない ⑥

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    ♪

 そして迎えたミスコン当日。
 放課後に本番のアピールタイムと投票が執り行われる。
 ミスコン参加者と支援者はグラウンドに設置されたステージ前に集合している。
 女子の参加者は可愛い子が集まってるが、男の方は俺と田村の一騎打ち! ハードルは低い。
「ククッ、ガァーッハッハッハーッ! 祭リジャ祭リヂャ、カーニバルノハジマリジャーーイ!!」
 楽しい楽しいカーニバルがついにはじまるぜ!
「グガーーッハッハッハーッ!! ウキーーーーッウキョキョキョーー……ッゲホッ、ゲボッ、オエェエーーーーッ!!」
 いっけね。ついつい笑いすぎて唾液を誤嚥ごえんしてしまったぜ。

「アイツ全部がうるせえな」
「放課後なのに元気なこった」
「圭グループ、選手層薄すぎでしょ」
「圧倒的最下位最有力候補なのにおめでたいな」

 観覧者どもは一分一秒でも早く俺に投票したいと息巻いている。そう鼻息荒くしてまで焦る必要ないだろ。投票タイムは必ず訪れるんだからな!
「ククッ、田村ァ! ソシテ永田大地ィ! ココデ重要ナ周知ガアル」
 俺たちは田村グループのところまでわざわざおもむいてやった。
「お前の羞恥がどうしたって?」
 心なしか永田大地がほざいた『シュウチ』は俺のそれと意味合いが異なる気がするけど今はいい。
「グフフ。聞ケ、クソドモ! 本ミスコンハ一人二名マデ投票デキルルールニシタ。コレデ田村アンド俺等ノ誰カニ一票入ル。更ニ田村アンチハ田村ニ投票シナイカラ俺等ノ勝利ハ予約済ダゼ!」
 出来レースにはなってしまうが俺が笑顔になるエンドは確約されてるんだよ。
「そんな勝手が許されると思うか?」
 バカな永田大地。俺の行動力を舐めてやがるな。あぁクソバカな永田大地。アンタおバカ。
「許サレルンダヨ。教師ノ承認ヲ取リツケタカラナァ!!」
 いやぁ教師陣を説得するのに骨が折れたわ。革命者はいついかなる状況下においても革命を起こすからこそ革命者なんだよな。
「相変わらずお前は無駄な部分に行動力があるよな。けど――」
 と、ここで奴は田村に視線を送った。
「俺たち以外にも普通に立候補者はいるけど?」
 永田大地に代わって田村が説明した。おい永田大地、貴様最後まで説明責任を果たしやがれや。
「ナンダト!? 卑怯者メ!! イカサマシテマデ勝チテェノカ!?」
 汚い手段で掴んだ勝利に喜びは感じられるのか!? 胸を張って勝てたとお天道様に顔向けできるのか!?
 汚れた手で――女を抱くってのか!?
「特大ブーメラン突き刺さってますよ」
「突き刺さって血が吹き出す勢いだな」
 高岩と新山が揃って自身の後頭部をさすっている。なんだ、かゆいのか?
 よく見たら他の男子の参加者たちもその場にいた。影が薄くて認知できなかったわ。
「イカサマもなにも、参加者が俺とお前たちだけじゃないってだけのことでしょ……まがりなりにも参加者なのに他の参加者の情報も押さえてないの? すごい奴だな」
 田村は感心してるような呆れてるようなよく分からない表情だ。つかみどころのない奴だぜ。
「フン、有象無象うぞうむぞうノ存在ナド俺ノ目ニャ入ラヌワ」
 なんでこの俺がザコに意識を向けにゃならんのよ。そんな情報を収集する時間が無駄無駄ムゥダァ!
「俺たちみんなはお前の顔を視界に入れたくないんだけど」
「俺様ノフェイスガソノチッセェ目ニ入ラヌカァ~!!」
 永田大地の腐った目では俺の勇姿は目撃できまい。
 あと俺「たち」って。お前なんぞがモブどもの代弁者を気取るんじゃないよ。その小汚いツラで大便漏らしやがれ。
「お前の顔と態度がでかすぎてキツイな」
「俺様ヲ受ケ入レルダケノ器ガ貴様ニハナイダケノコト」
「俺に限らず世界中のほとんどの人間にもないぞ」
「俺ホドノ大イナル神ノ継承者ニ並ビタテル逸材ソウソウオランワ」
「神の継承者て……自分でほざいてて悲しい気持ちは抱かないのか?」
「フッ。今本当ニ悲シイノハ誰ナノカ、ソノ貧相ナ胸ニ足ヲ当テテ聞イテミナ」
「それを言うなら手だろ。足を胸に当てるとか相当身体柔らかくないと無理だろ」

『ただいまより、本年度のミスコンを開催しまーす』

 永田大地とあれこれ言い合ってるうちに本番時間がやってきた。
 バカな奴らのことは一旦脇に置いておこう。
 俺は自分のやれることに注力するのみ!

「それではお一人ずつ自己紹介と自己アピールをお願いしまーす」
 女子の方からアピールタイムがはじまった。
「エントリーナンバー1の赤井あかいでーす。特技は――」
「ホッ、ナカナカ可愛イジャナイノ」
 自らミスコンにエントリーするだけあって、女子の面々は全員それなりにレベルが高い。
 それでも俺の中でのナンバーワンは常に葵なんだよなぁ。アイラブ葵!
「ありがとうございましたー! 続いて男子のアピールタイムに移りまーす」
 男子の番になった。
「エントリーナンバー1、田村翔さんお願いしまーす」
 田村は軽い足取りで司会者の元まで向かった。
「三年一組の田村翔です。僕はバスケに青春を捧げています。バスケが僕の恋人です」
 いけしゃあしゃあと嘘八百を並べる田村に思わず吹き出しそうになるのをかろうじてこらえた。こんな輩がモテるだなどとは世も末だな。
 お前が青春を捧げてるのは女だろ。夏休み中だって親衛隊を侍らせてハーレム形成してやがったじゃねーか。ちょっと奴の内面を考えれば奴はそういう人間だって分かるもんだがな。この嘘つきクソたらし魔人め。
「邦改高校の生徒は皆魅力的だと感じています。だから――」
 俺は生徒どもの見る目を信じるぞ。田村の甘言かんげんに惑わされることなく本質を見極め、最もミスターにふさわしいのはこの俺だと結論づけてくれるとな!
「――続いてエントリーナンバー4、平原圭さんお願いしまーす」
 ついにやってまいりました、平原圭様の出番!
 俺は肩を揺らして司会者の隣まで歩いた。
「ハイ、ヲ待タセイタシマシタデゴザソウロウ。我ハ平原圭ダゾ。皆様ゴ機嫌麗シュウ。マ、一番麗シイノハコノ俺ナンダガナ。ヲ前等モソウ思ウダロ? ン?」
 俺はニッコリと生誕以来最高のスマイルを作って身体を回転させて会場を360度見渡す。

『誰もいない真後ろまで見る必要ある?』
『あのニヤケ面キショイわね』
『ナルシストここに極まれり、だな』

 優勝最有力候補の俺の出番となってからギャラリーの目の色が変わった。この俺が他の連中どもと一線をかくしてるとお気づきになられたようだな!
「エェエー、俺様ガ優勝シタあかつきニハ、笑イノ絶エナイ学校改革ヲ目指シマス!」
 俺の壮大なるアピールを聞いた観衆どもは目を丸くした。
「それ選挙の演説だし、お前失笑されてるぞ。さっそく公約が実現できて良かったな」
 確かにコイツがほざくとおり、まばらではあるものの乾いた笑い声が聞こえてくる。俺に嫉妬している層からだ。
「ハ、永田大地ィィッ!! 下品ナ野次ハ慎ミナサイ!!」
 コイツはいつもいつも下らない揚げ足取りでしか俺を攻撃できない根暗カス野郎! 妨害ばかりして自分を高めることを放棄した輩はそこで成長が止まる!
「……あのぉ、今はアピールの時間ですので口論は控えてくださーい」
 司会から注意を受けてしまった。永田大地、お前のせいだぞ。この罪は非常に重い。死をもって償えや。
「次、エントリーナンバー5、新山鷹章さん、どうぞー」
「あ、はい」
 名前を呼ばれた新山はせわしない動作で移動した。
「新山鷹章です。僕は邦改の生徒ではありませんが――」
 新山はたどたどしくも真面目な口調で当たり障りのないスピーチをしているが、

『…………誰?』
『ほら、平原の子分の……』
『あ~。酔狂すいきょうだねぇ』
『あれで年上なのかよ。中学生かと』

 誰も興味が沸かないのか観客どもはしらけムードだ。はぁ、どこまでも不憫ふびんな底辺男よ。
「はい、続きましてエントリーナンバー6、高岩由生さん、お願いしまーす」
 高岩は気だるそうに緩慢かんまんな動作で司会者の元へと向かった。
「高岩由生です。正直ダルいので特に言うことはありません。以上です」
 高岩の愛想ゼロの塩対応に司会と観客はしばし呆然ぼうぜんとしていたが、我に返った女子たちがひそひそ話をはじめた。

『愛想は悪いけど顔は悪くないよね』
『クールって感じ?』
『私は、アリかも……』

 反応は上々のようだ。若干鼻につくが奴への投票数は俺の投票数だ。奴の戦力は俺にとって心強い。新山? あれはカスだ。
「あ、ありがとうございましたー。続きまして――」

 なんやかんやありながらも全員のアピールタイムが終了した。
 あとは投開票だけだが――ミスコンにはいくつかの部門があって、男子はイケメン部門、付き合いたい部門、一番イヤだ部門の三部門がある。
 最後のは新山のためにあるような不名誉かつコンプライアンス上問題しかない部門だが――まぁ俺には関係あるまい。
 最初の二つの合計票数から一番イヤだ部門の票数を差し引いた総合票数が最も多い候補者の優勝となる。
「人事ヲ尽クシテ天命ヲ待ツ……」
「平原のくせして難しいことわざ知ってんな」
 ドアホの新山はもっと国語の勉強しろや。いやそれどころか保育園からやり直せ。
 そんなことを思ってる間もスマホでの投票が続いている。
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