平原圭伝説(レジェンド)

小鳥頼人

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2巻

9_外面よりも内面という言葉は決して名言ではない ②

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「あっ、圭」
「葵ジャナイカ」
 一年の廊下でばったり出会ったのはマイハニーエンジェル葵だった。今日も最高のスマイルをありがとう。
「と、高岩くん? こんなところで何してるの?」
「平原さんのミスコン活動のお手伝いです」
「そうなんだ。わざわざ圭のためにありがとうね」
「いえいえ、嫌々やってることですから」
 どこまでも自分に正直な高岩に葵は微笑んだ。
 高岩は少しくらい言葉を選ぶことを覚えろや。
「例によって俺はフルシカトされるのね……」
「あ、ついでに新山さんもいたんですか。視界に入りませんでした」
「は、はぁ」
 そして見事に存在を無視されていた新山であった。
「部外者がここで何を? 先生に言いますね」
「あっもう帰るんで勘弁してください」
「さっさと帰ってくださいね」
「あ、はいぃ~」
 相変わらず新山に対しては超塩対応の葵だった。ははっ、あんまりやりすぎるなよ。
「そんなことより圭、ミスコン頑張ってね!」
「オウッ、アリガトナ!」
「圭はカッコいいし行動力もあるし陸上部の副部長! きっといい勝負ができるねっ」
「オウッ、元ヨリソノツモリダ」
 葵の激励をもらえるから俺はひたすら前へと突き進めるよ。
「はて。空羽さんは一体誰の話をしてるんだ……?」
「圭の話に決まってるでしょ。何言ってるんですか」
「りょ、了解でーす」
 今日も新山はバカ全開だった。葵と俺は好き合ってるんだよ。お前にゃ一生分かるまい。
「高岩くんも無理のない範囲でよろしくねっ」
「ま、ほどほどに手伝いますよ」
 ほどほどじゃなくて全身全霊全力で手伝いやがれ。
「じゃ、ばいばーい」
 葵は俺と高岩に手を振って去っていった。我が彼女ながら本当ええ子や。
「会う度に思いますけど平原さんにはもったいない人ですよね」
「オウオウソンナニ俺ヲ褒メルデナイゾ」
「褒めたのは空羽さんなんだよなぁ……」
「ウォッ!? 高岩ヲ前モシヤ……?」
 なんか高岩が葵を狙ってそうで不穏。要警戒しとかないとだな。
「狙ってませんよ?」
 口だけならなんとでも言えらぁ。まったくどいつもこいつも俺から葵を奪おうとしやがんなよ。
「ソラハネ……アオイ……コワヒ……」
 残暑残る時期にも関わらず新山は小刻みに震えている。風邪ならさっさと帰れや。絶対に移すんじゃねーぞ。
「コノ勢イデミスコンヲ制覇シチャル!」
「ミスコンには必要ない勢いな気がしますけども……」
 幸先いいスタートとなったな!

    ♪

 昼休みになった。
「なんで昼休みまでこっちに来なきゃならんのか」
「まったくです。ただただ疲れます」
 二人は不服そうに不満を漏らしてきた。支援者の風上にも置けないな。
「ヲ前等文句言ウ前ニ仕事シロヨ~」
 俺に歯向かう前に義務を果たしたまえ。
「仕事とのたまうのなら対価をください」
「そうだそうだー」
 こいつら反乱する算段か? ぶーぶーとやかましい豚どもだぜ。無視しよっと。豚に真珠だからな、俺がどんなに正論を述べても通じるとは思えない。嘆かわしい限りだ。
 昼休みの廊下を闊歩かっぽすることしばし。
「――オオッ」
「…………うっわ」
「コレハコレハミサキィ。俺ニ会イニ来タノカネ?」
 これはこれは。今度は田村親衛隊の三人と鉢合わせときた。
「んなわけ。ってか横の二人は誰なわけ?」
「コイツ等ハ俺ノ支援者、短大二年ノ新山ト中学三年ノ高岩ヨ」
 俺は両隣に立つ二人の肩に手を回して信者がいるアピールをかましてやった。響け、俺のカリスマ性、求心力!
「邦改と関係ない人たちじゃん……」
 みさきは眉間にしわを寄せて俺たちを睨む。
「んー、無断で校内に入り込むのはどうなのかなぁ」
 優子は腕を組んで苦笑している。おおっ、お前おっぱいでかいな! ――じゃなくて。
「心配ニハ及バヌ! 既ニ先公カラハミスコン活動ノ一環トシテ無理ノナイ範囲デアレバ許可を貰ッテイル!」
 この俺を舐めるでない! 手回しも事前に対応済よ。その程度の仕事もできなきゃ将来内閣総理大臣にゃなれないからな。
「余裕で無理のある範囲なんだけど……」
「ですね。移動だけで骨が折れます。地獄ですね」
 新山高岩はげんなりしている。心なしか顔も少しやつれてるような? 情けないな。鍛え方が足りないのでは? 根性さえあればその程度チョロチョロのチョロリンコなんだが?
謙遜けんそんスンナヨ。骨折シテネージャンカ~」
「いや、物理的な意味じゃないんで……」
 俺にひざを軽く蹴られた高岩は不快感全開だった。
「ミサキィ。見テノ通リ、俺ニハ二名ノ信者ガイルンダゾ。惚レ直シタダロ?」
「まず惚れてすらいないんだけど。前提からもうおかしいって気づけ?」
 わった目で無機質な声音こわねを返してくるみさき。
「あと俺と由生は平原信者じゃないぞ」
 細けぇんだよ新山はよ。部下も信者も一緒だろ。そんなんだからお前は女ウケ最悪なんだぞ。
「アンタむなしくならない? 校内に友達いないからって校外から助っ人をお願いするとかさぁ」
 みさきはこともあろうに俺に侮蔑ぶべつの視線を向けるも、すぐに高岩の方に移動させた。
「でも高岩君は結構可愛いね」
「あ、私も思ったー」
「うんうん、同じくー」
 おやおや。これはこれは。俺を褒めるのが恥ずかしく、また俺の顔が眩しくて直視できないからって無理くり高岩上げで誤魔化すのは愚行だぞ。
「はぁ。イケメンの疲れるところですね、これ」
 田村親衛隊から好意的な感想をもらった高岩は前髪をサラッと手でいた。
「ト言イツツモ満更デモナサソウジャネーカ」
 誰のおかげでお前がモテてると思ってんだ? 俺のおかげなんだぞ。分かってんのか? 俺のおこぼれに預かってる分際でいい気になるなよな。
「ま、女の子に好意を向けられて悪い気はしないですからね」
「ナァーニ調子ニ乗ッテンダ。傲慢ごうまんハ身ヲ滅ボスゾ」
 波に乗るシーズンはもう終わってるわ。
「少なくともアンタやそっちのよりかは全然いいから」
「ミッ、ミサキィ」
「俺は名前すら覚えられてない……」
 みさきは目を細めて俺と新山を指差してきた。いけずな女だぜ。そこまでして俺の気を引きたいか。乙女だよ。
「高岩クンは下の名前なんて言うの?」
「由生です」
「ヨシオ……ヨッシーじゃん! よろしくねっ」
「ヨッシーですか。まぁいいでしょう」
 なんで貴様はこの場で一番年下なのに偉そうなんだよ。
「あはっ、ヨッシーカワイイね~」
「カッコイイと言われた方が嬉しいですけどね」
「数年経てばカッコイイに変わってるよ」
「自分の成長に期待して待ちます」
 ……ってなぜか奴の無礼っぷりはお姉様方にはウケている。普通に会話が弾んでやがるぜ。女心ってやつぁどこで響くか全く分からんね。
 ただ一つだけはっきりしてることは――
「そっちのは部外者じゃん。出てってよ」
「それを言ったら由生だって部外者なんだけど……」
「高岩君はいいの。アンタはノーサンキュー」
「えぇ……ただの好き嫌いじゃん」
 新山のささやかな抵抗もむなしくみさきに言い負かされてしまっている。
「嫌いなモノはキライ。どうにもならないから」
「初対面で嫌われるって生理的に無理ってことかいな……」
 みさきの糾弾きゅうだんを聞く彩香と優子もうんうんと頷いている。同感らしい。二人はみさきとは違って穏やかな笑みを浮かべているので余計に怖い。何考えてるのかよく分からん。
 新山の野郎は前世でどんな悪行をしでかしたのか、田村親衛隊からも嫌悪の感情を向けられている。心の底から哀れな男なり。
「ついでに平原、アンタは敗北宣言したら? どうせ翔君に勝てっこないんだからさ」
「フン、ハイオクヨリモレギュラーノ時代ヨ!」
 本命が必ず優勝するとは限らないんだよ! だからこそ勝負事は燃えるってもんだ!
「普通に言ってる意味が分からないんだけど」
 俺の熱いソウルはみさきには伝わらなかった。現代っ子はドライで覇気がないぜ。
「とりあえずー」
 彩香が新山を指差して、
「新山さんは帰ってください」
 退場を促してきた。新山、レッドカード。
「そうそう、なーんかオーラが怖いし何されるか分かんないよね」
「ねー」
 優子も彩香と同じ考えみたいで腕を組んで苦笑している。控えめながらも新山に対する拒絶は隠してない。
「そういうことですので。黙って校門に向かってくださいな。お帰りはあちらでーす」
 みさきがとどめの一撃を放った。言葉も刃物と同等の武器になるんだよなぁ。
「ソウダゾ新山ァ! 大体ナゼヲ前ガココニイル!? ハウス!!」
 俺も美人軍団に便乗――もとい共感しておいた。女って共感を重視してるんだろ? これで俺のイメージも更に良くなっただろ?
「いやいやいや、俺を無理矢理召喚したのお前だし!?」
「ハテ? 知ランナ。自己責任ジャイ!」
 コイツは一体何をほざいてやがるんだ。近頃の俺はあいにく記憶力にいささか自信がなくてな。それにお前はもう大人なんだ、自分の言動や行動には責任を持てや。大人の務めだぞ。
「なんだこのゴミ……」
「コノ辺ニゴミナンゾ落チテナインダガ?」
「物理的な意味じゃないわ」
「いいから帰ってくださーい!」
 俺と新山のやりとりにごうを煮やしたみさきが声を荒げた。
「あ、はーい」
 新山は葵だけでなく田村親衛隊にまで嫌われてしまったな。これでますますこの学校ではアウェーになった。
 だが訪問拒否なんざさせねーよ? お前にゃこれからも色んな雑用やパシリをしてもらう役目があるからな。
「高岩くんは良ければ私たちとお喋りしない?」
 おっと? ここで思いもよらぬ展開。てかまた高岩だけかよ。コイツどんだけ。
「すみませんが、僕も自分の授業があるので長居できないです」
 あまり申し訳なさそうではない高岩は頭を掻いて困った表情を作った。
 それを聞いたみさきが再び俺を睨んできた。
「平原、アンタ高岩君にいらぬ負担かけてんじゃないわよ」
 お前俺のこと好きすぎだろ。フラグビンビンじゃねーかよ。俺もビンビンしちまっぞ?
「俺様ハ無理ノナイタスクシカ与エテオラヌゾ?」
 俺はベッドの上でみさきに負担をかけたいんだわ。
「昼休みに自分の中学からここまで移動するだけで多大な負担をかけられてるんだよなぁ……」
「ヲ前ノ将来ガ心配ダワ」
 やれやれ。この程度でを上げてたら社会の荒波に揉まれた時に耐えられないぞ。日本は新卒至上主義で一度レールから外れれば再起は厳しいんだからな。
「僕は常に平原さんが心配ですよ。全てにおいてね」
 ふっ、まったく高岩は先輩想いの中坊だぜ。
 だが心配いらないぞ。俺の人生は成功しかしてないからな。
「おっと、真面目に時間ヤバいので帰りますね」
「また遊びに来てね、高岩クン」
「授業頑張ってね~」
 安っぽい腕時計を確認した高岩の一声ひとこえでこの場は解散となった。
 新山と高岩は一緒に廊下から消えていったものの、田村親衛隊がお見送りしたのは高岩に対してだけだった。
 なお、二人が自身の授業に間に合ったかどうかは知らん。
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