49 / 77
2巻
5_真夏の海は人間の心なんかよりも熱いのが現実 ③
しおりを挟む
♪
そんなこんなで時間は過ぎ。
「喉ガ渇イタカラ飲ミ物買ッテクルワ」
俺は水分を調達しに海の家へと歩を進める。海の家に可愛い女の子がいれば重畳。
「ン? アレハ――」
「ねぇねぇ君たち、お姉さんたちと遊ぼーよ」
「すみません。予定がありますので」
遠目に見ても派手目の女の子数人が、三人組の男に声をかけている。
もしや都市伝説の一つ、逆ナンでは!?
「いいジャン~。可愛がってア・ゲ・ル・か・ら」
「魅力的なお誘いですけど、いやぁ、悩ましいですね」
くうぅ~! なんて羨ましいんだ! 人類史上最高傑作の俺様が先ほどナンパに失敗したばかりだというのに、かたや女性からお声がけされるなんてよ!
どれほどレベルが高い男グループなのか気になった俺は逆ナンの現場に近づいた。
「……困りましたね、田村さん」
「こりゃ想定外だったなぁ」
「翔は本当モテるよな」
「…………ヲ前等カヨォーーーーーーッ!?」
逆ナンされている殊勝な連中を拝んでみたら、見知った顔ぶれだった。
永田大地と田村で、もう一人も見覚えはあるが――誰だっけ?
「ひゃっ!? なに今の叫び声!?」
「狂気とただれた感情を感じる……!」
田村の腕を両手で掴んでいたギャルたちは、俺の登場に手を放した。その手は本来俺の肉体を握り締めるためだけに存在してるんだぞ。
「うっわ。マジで圭とエンカウントしちまったよ」
「神はイタズラっ子だね」
田村ご一行は俺を視界に捉えるなり、たいそうげんなりとした表情を浮かべた。いくら俺に勝てないからって露骨に態度に出すなや。
「圭。お前がいると海岸の景観と治安が著しく悪化するから今すぐ帰れ」
「ハッ!? ヲ前ノルックスノ方ガヨッポドダワ!!」
永田大地は今日も今日とて俺にたてついてきてクソ生意気な輩だな。
「平原。海にまで来て女の子に嫌な思いをさせて何が面白い? 理解できないね」
「俺ト話セテ嬉シイ気持チシカネーワボーケ!」
「それを決めるのは平原ではなく、女の子たちだ」
「翔、こんな奴放っておこうぜ。相手にするだけ時間と労力の無駄だ」
無言だったもう一人のモブキャラが、田村の背中に手を置いて諭した。
「デ、ソナタハ誰ダッタッケ?」
二人のことは認知しているものの、もう一人がどうしても思い出せない。どこかで会った気はするんだが、それ以上が思い出せない。地味な外見だから印象に残らなかったんだろうな。
「前にお前から後頭部に飛び蹴りを食らった、バスケ部三年の江田達也だ」
げっ。こいつは俺の『バスケは球遊び』発言にブチギレた先輩のくせして狭量なバスケ部員じゃねーか。
「ヲ前ナンゾニ名前ガ設定サレテルノカ? 設定ノ無駄遣イダカラモブデ留メトケヤ!」
一丁前に固有名詞を持った準レギュラー枠を狙ってるんじゃないよ!
「何意味分からないことほざいてんだ? この作品にそんな綿密なプロットが作り込まれてるわけないだろ」
江田が俺の伝説をディスる発言をしたが、さすがに禁句だろ。作品の根幹を全否定してるようなもんだぞ。
「モブノ分際デ自己主張ノ激シイ奴ダナ……!」
「そもそも、お前が俺の名前を聞いたせいで設定されたんだぞ」
オーケーオーケー、ストップ。これ以上メタ的な話はやめようや。
「平原。話は達也から聞いている。罪のない人の後頭部を背後から狙うだけでも許せないけど、更に俺の友達に手をかけたことは甚だ遺憾だ」
いつの間にやら田村の顔からは笑顔が消えており、俺に鋭い眼光を差し向けていた。
「ソウカッカシナサンナ。モテル男トハ常ニ余裕ガアルハズダゼィ? ソウ、コノ俺様ノヨウニナ!!」
俺は田村の肩に手を置き、アドレナリンの分泌を抑えようと試みた。
「先輩に馴れ馴れしくするな。失礼だろ」
「ありがとう大地。達也も、よく平原の理不尽な所業に耐えたな。立派だ」
「アッアッ、ハイハーイ。ソウイウ友情ゴッコハオ腹イッパイデース」
偽善者どものうすら寒い茶番劇は夏の海にはふさわしくありませーん。
あと江田は全然耐えてませんから。思いっきし俺にビンタをかました揚げ句殴りましたから。
「ねぇ、話は終わったの?」
「アンタ、邪魔だから早くどっか行ってくんない?」
俺の乱入によって蚊帳の外にされたギャルズは俺がよっぽど邪魔なようで、シッシッと退場しろとジェスチャーしてくる。この俺という上玉を逃して後悔しても知らねーぞ?
ってか、よく見たらこのギャルズは将来性しかないこの俺のゴージャスなナンパに靡かなかったセンスゼロのクソアマどもじゃねーか!
「俺ノナンパハ無視シタクセニ、ソイツラニハ逆ナンスルトハ暑サデ熱中症ニナッタノカ!?」
そんなバカな!? どうやら夏の日差しはギャルズの思考判断能力を著しく下げるには充分なまでの威力があるようだ。
「あーしたちにも選ぶ権利があんのよ」
「そうそう、わざわざ角刈り眼鏡や童顔ニキビを選ぶ物好きはそうそういないって」
「罰ゲームか頭がイカれない限り、その選択、だ・け・は、ありえないよねー」
新山については好きなだけ蔑んでも俺の人生になんら影響はないが、この俺様を貶すのは重罪だ! おまけに最後の女は「だけは」を強調しやがって。
「アンタラ、将来俺ガ一夫多妻制ヲ導入シテモワイフニ加エテヤラネーゾ!?」
「どうぞどうぞ。むしろそうしていただけるとものすごーく嬉しいでーす」
「生きながらの死を味わわずに済むわぁ」
「ヌヌヌ……」
この俺様をモノにできないというのに女どもは強がってやがる。まったく、そうやって本当の気持ちをひた隠すから、いずれは訳の分からん男にヤリ捨てされるルートを辿るんだぞ。
「おいおい平原、ここらでもうやめとけ」
「オオン!? 女ノ前ダカラッテカッコツケテンジャネーゾ!?」
田村がギャルズにアピールしたいのか、俺をダシに良い子ぶってきやがった。
「他人のグループに土足で踏み込んで、その勢いで顔に泥を塗るのはやめろと言ってるんだ」
「ココハ晴レタ浜辺ダカラ泥ジャナクテ砂ダケドナ」
「例えね、例え。揚げ足取りはいいから」
「チョットモテルカラッテイイ気ニナルノモ大概ニシトケヤ!! ヲ前ミタイナ女遊ビガ激シイヤリ●ンガ男余リノ格差社会ヲ生ミ出シテイルコトヲ自覚セヨ!!」
俺は両手で田村の股間を指差して、誰も指摘できないであろう事実を糾弾した。
「そうか。なら致し方ないが、力業で退場させるしかないか――」
田村が自身の手の関節を鳴らして俺にじりじりと近づいてくる。
クソバカギャルズが田村に黄色い声援を飛ばしているため、俺たちの様子を何事かと見守るギャラリーも増えてきた。
さすがに分が悪くなってきた気がするので。
「アアアアアア!! 溺レル!! 誰カ助ケテクレーーーーーーッ!!」
俺は海に潜り込んで、母性本能を駆り立てること請け合いなか弱き美少年を演出する。
「突然どうした? 浅瀬で溺れるわけないでしょ」
「いつもの発狂がはじまったんですよ」
田村と永田大地が白い目で俺の様子を眺めているが、知ったことか! 俺はモテる男だと証明してやる! 見てろや、今にかわゆい女の子が俺を救いに来てくれるからよ!
「ハァ、ハァ……自力デ脱出デキタガ、呼吸困難ダ。誰カ、人工呼吸シテクレ……ガクッ」
俺は浅瀬から出て砂場に仰向けに倒れて酸素不足をアピールする。もちろん演技だが。
ククッ、あとは女の子が俺に人工呼吸してくれればミッション完了よ。そしてそのまま俺は舌をねじ込んで、唾液を供給してやるのだ!
「――キミ、大丈夫か!? 俺はライフセーバーだ! 今すぐ救ってやるからな!!」
来た来た。駆け足の音とともに男性の声が響いてきた。
――――ん? 男性??
「脈はあるな! だが水を抜いて酸素を入れないと……!」
ちょっと待ってちょっと待とうやあんちゃんや! 俺はただ女の子に介抱されたいがために自作自演してるただの健康優良児の演技派男優なんだ!
「アッ、アノォ、ボキュワァ――」
「致し方ない! 人工呼吸だッ!!」
「ングゥゥゥゥーーーーーーッ!?」
俺の声が聞こえていないのか単に無視しているのか、男の唇が俺の口を塞いできた。
いやいや! 俺はファーストキスだぞ!? それを、彼女の葵でもなく、ライフセーバーのマッチョ男に捧げる羽目になるなんて!
「今蘇らせてやるからな! ンむちゅーーーーっ!!」
「ウゥゥウウゥゥウーーーーーーッ!!」
ライフセーバーはより強く俺にキッスをしてくる。柔い感覚はあるが、同性はありえないだろ!? 同性愛を否定するつもりは更々ないが、俺はノンケだ!!
俺は手足をバタつかせて意識が戻ったことをアピールする。いや、はじめっから意識は飛んじゃいないけどな!
「痙攣しているのか!? こりゃ気合いを入れて人工呼吸しなきゃだな!」
「ングォグォアファウォホーーーー!!」
どこをどう見たら痙攣に見えるんだよ!? こいつ本当にライフセービングの資格持ってやがんのか??
ライフセーバーは俺の口を塞いでは解放する動作を繰り返してくる。元々は演技のはずだったんだが、マジで意識が朦朧としてきた。なんやねんこの拷問。
こうなったらやむをえない。俺の意識が回復したと気づかせるために、俺の方から攻めるしかない。
「ンムチューウウウウゥゥゥゥ!!」
俺はライフセーバーの唇を吸い尽くし、口内に舌をねじ込んだ。ヤケになった人間は無敵なんだよ。
「むぐぐっ!? ――おおっ、復活したか、少年!」
ライフセーバーは目を輝かせて俺の両肩に手を置いた。
「…………オエェェェェエーーーーッ!!」
あまりの気持ち悪さに嗚咽が止まらん。最低最悪の余韻だよ。
「海水を飲みすぎると気持ち悪くなるのは仕方のないことだ!」
海水じゃなくてあんたのキッス――もとい人工呼吸で気持ち悪くなったんですけど??
「カノヨウナ展開ハアンマリダゼ……」
GODよ。貴方は、貴方だけはずっと俺の味方だと優しく微笑んでくれたじゃないですか。話が違いますよ。
「調子に乗って妙な真似するからそうなるんだよ」
「ガバガバな演技で女の子の唇を奪おうなどと目論むとは浅はかな」
永田大地と田村が俺に哀れみの視線をよこしてきたが、同情するならギャルの一人をあてがってくれ。
「フン。コレガ、男道ッテモンダゾ」
俺はペッペッと口内の汚物を吐き出して、魂が抜けた状態のまま海の家へと向かった。
「男道ってなんだろうね」
「田村さんには縁がない、ド低俗なプライドですよ」
そんなこんなで時間は過ぎ。
「喉ガ渇イタカラ飲ミ物買ッテクルワ」
俺は水分を調達しに海の家へと歩を進める。海の家に可愛い女の子がいれば重畳。
「ン? アレハ――」
「ねぇねぇ君たち、お姉さんたちと遊ぼーよ」
「すみません。予定がありますので」
遠目に見ても派手目の女の子数人が、三人組の男に声をかけている。
もしや都市伝説の一つ、逆ナンでは!?
「いいジャン~。可愛がってア・ゲ・ル・か・ら」
「魅力的なお誘いですけど、いやぁ、悩ましいですね」
くうぅ~! なんて羨ましいんだ! 人類史上最高傑作の俺様が先ほどナンパに失敗したばかりだというのに、かたや女性からお声がけされるなんてよ!
どれほどレベルが高い男グループなのか気になった俺は逆ナンの現場に近づいた。
「……困りましたね、田村さん」
「こりゃ想定外だったなぁ」
「翔は本当モテるよな」
「…………ヲ前等カヨォーーーーーーッ!?」
逆ナンされている殊勝な連中を拝んでみたら、見知った顔ぶれだった。
永田大地と田村で、もう一人も見覚えはあるが――誰だっけ?
「ひゃっ!? なに今の叫び声!?」
「狂気とただれた感情を感じる……!」
田村の腕を両手で掴んでいたギャルたちは、俺の登場に手を放した。その手は本来俺の肉体を握り締めるためだけに存在してるんだぞ。
「うっわ。マジで圭とエンカウントしちまったよ」
「神はイタズラっ子だね」
田村ご一行は俺を視界に捉えるなり、たいそうげんなりとした表情を浮かべた。いくら俺に勝てないからって露骨に態度に出すなや。
「圭。お前がいると海岸の景観と治安が著しく悪化するから今すぐ帰れ」
「ハッ!? ヲ前ノルックスノ方ガヨッポドダワ!!」
永田大地は今日も今日とて俺にたてついてきてクソ生意気な輩だな。
「平原。海にまで来て女の子に嫌な思いをさせて何が面白い? 理解できないね」
「俺ト話セテ嬉シイ気持チシカネーワボーケ!」
「それを決めるのは平原ではなく、女の子たちだ」
「翔、こんな奴放っておこうぜ。相手にするだけ時間と労力の無駄だ」
無言だったもう一人のモブキャラが、田村の背中に手を置いて諭した。
「デ、ソナタハ誰ダッタッケ?」
二人のことは認知しているものの、もう一人がどうしても思い出せない。どこかで会った気はするんだが、それ以上が思い出せない。地味な外見だから印象に残らなかったんだろうな。
「前にお前から後頭部に飛び蹴りを食らった、バスケ部三年の江田達也だ」
げっ。こいつは俺の『バスケは球遊び』発言にブチギレた先輩のくせして狭量なバスケ部員じゃねーか。
「ヲ前ナンゾニ名前ガ設定サレテルノカ? 設定ノ無駄遣イダカラモブデ留メトケヤ!」
一丁前に固有名詞を持った準レギュラー枠を狙ってるんじゃないよ!
「何意味分からないことほざいてんだ? この作品にそんな綿密なプロットが作り込まれてるわけないだろ」
江田が俺の伝説をディスる発言をしたが、さすがに禁句だろ。作品の根幹を全否定してるようなもんだぞ。
「モブノ分際デ自己主張ノ激シイ奴ダナ……!」
「そもそも、お前が俺の名前を聞いたせいで設定されたんだぞ」
オーケーオーケー、ストップ。これ以上メタ的な話はやめようや。
「平原。話は達也から聞いている。罪のない人の後頭部を背後から狙うだけでも許せないけど、更に俺の友達に手をかけたことは甚だ遺憾だ」
いつの間にやら田村の顔からは笑顔が消えており、俺に鋭い眼光を差し向けていた。
「ソウカッカシナサンナ。モテル男トハ常ニ余裕ガアルハズダゼィ? ソウ、コノ俺様ノヨウニナ!!」
俺は田村の肩に手を置き、アドレナリンの分泌を抑えようと試みた。
「先輩に馴れ馴れしくするな。失礼だろ」
「ありがとう大地。達也も、よく平原の理不尽な所業に耐えたな。立派だ」
「アッアッ、ハイハーイ。ソウイウ友情ゴッコハオ腹イッパイデース」
偽善者どものうすら寒い茶番劇は夏の海にはふさわしくありませーん。
あと江田は全然耐えてませんから。思いっきし俺にビンタをかました揚げ句殴りましたから。
「ねぇ、話は終わったの?」
「アンタ、邪魔だから早くどっか行ってくんない?」
俺の乱入によって蚊帳の外にされたギャルズは俺がよっぽど邪魔なようで、シッシッと退場しろとジェスチャーしてくる。この俺という上玉を逃して後悔しても知らねーぞ?
ってか、よく見たらこのギャルズは将来性しかないこの俺のゴージャスなナンパに靡かなかったセンスゼロのクソアマどもじゃねーか!
「俺ノナンパハ無視シタクセニ、ソイツラニハ逆ナンスルトハ暑サデ熱中症ニナッタノカ!?」
そんなバカな!? どうやら夏の日差しはギャルズの思考判断能力を著しく下げるには充分なまでの威力があるようだ。
「あーしたちにも選ぶ権利があんのよ」
「そうそう、わざわざ角刈り眼鏡や童顔ニキビを選ぶ物好きはそうそういないって」
「罰ゲームか頭がイカれない限り、その選択、だ・け・は、ありえないよねー」
新山については好きなだけ蔑んでも俺の人生になんら影響はないが、この俺様を貶すのは重罪だ! おまけに最後の女は「だけは」を強調しやがって。
「アンタラ、将来俺ガ一夫多妻制ヲ導入シテモワイフニ加エテヤラネーゾ!?」
「どうぞどうぞ。むしろそうしていただけるとものすごーく嬉しいでーす」
「生きながらの死を味わわずに済むわぁ」
「ヌヌヌ……」
この俺様をモノにできないというのに女どもは強がってやがる。まったく、そうやって本当の気持ちをひた隠すから、いずれは訳の分からん男にヤリ捨てされるルートを辿るんだぞ。
「おいおい平原、ここらでもうやめとけ」
「オオン!? 女ノ前ダカラッテカッコツケテンジャネーゾ!?」
田村がギャルズにアピールしたいのか、俺をダシに良い子ぶってきやがった。
「他人のグループに土足で踏み込んで、その勢いで顔に泥を塗るのはやめろと言ってるんだ」
「ココハ晴レタ浜辺ダカラ泥ジャナクテ砂ダケドナ」
「例えね、例え。揚げ足取りはいいから」
「チョットモテルカラッテイイ気ニナルノモ大概ニシトケヤ!! ヲ前ミタイナ女遊ビガ激シイヤリ●ンガ男余リノ格差社会ヲ生ミ出シテイルコトヲ自覚セヨ!!」
俺は両手で田村の股間を指差して、誰も指摘できないであろう事実を糾弾した。
「そうか。なら致し方ないが、力業で退場させるしかないか――」
田村が自身の手の関節を鳴らして俺にじりじりと近づいてくる。
クソバカギャルズが田村に黄色い声援を飛ばしているため、俺たちの様子を何事かと見守るギャラリーも増えてきた。
さすがに分が悪くなってきた気がするので。
「アアアアアア!! 溺レル!! 誰カ助ケテクレーーーーーーッ!!」
俺は海に潜り込んで、母性本能を駆り立てること請け合いなか弱き美少年を演出する。
「突然どうした? 浅瀬で溺れるわけないでしょ」
「いつもの発狂がはじまったんですよ」
田村と永田大地が白い目で俺の様子を眺めているが、知ったことか! 俺はモテる男だと証明してやる! 見てろや、今にかわゆい女の子が俺を救いに来てくれるからよ!
「ハァ、ハァ……自力デ脱出デキタガ、呼吸困難ダ。誰カ、人工呼吸シテクレ……ガクッ」
俺は浅瀬から出て砂場に仰向けに倒れて酸素不足をアピールする。もちろん演技だが。
ククッ、あとは女の子が俺に人工呼吸してくれればミッション完了よ。そしてそのまま俺は舌をねじ込んで、唾液を供給してやるのだ!
「――キミ、大丈夫か!? 俺はライフセーバーだ! 今すぐ救ってやるからな!!」
来た来た。駆け足の音とともに男性の声が響いてきた。
――――ん? 男性??
「脈はあるな! だが水を抜いて酸素を入れないと……!」
ちょっと待ってちょっと待とうやあんちゃんや! 俺はただ女の子に介抱されたいがために自作自演してるただの健康優良児の演技派男優なんだ!
「アッ、アノォ、ボキュワァ――」
「致し方ない! 人工呼吸だッ!!」
「ングゥゥゥゥーーーーーーッ!?」
俺の声が聞こえていないのか単に無視しているのか、男の唇が俺の口を塞いできた。
いやいや! 俺はファーストキスだぞ!? それを、彼女の葵でもなく、ライフセーバーのマッチョ男に捧げる羽目になるなんて!
「今蘇らせてやるからな! ンむちゅーーーーっ!!」
「ウゥゥウウゥゥウーーーーーーッ!!」
ライフセーバーはより強く俺にキッスをしてくる。柔い感覚はあるが、同性はありえないだろ!? 同性愛を否定するつもりは更々ないが、俺はノンケだ!!
俺は手足をバタつかせて意識が戻ったことをアピールする。いや、はじめっから意識は飛んじゃいないけどな!
「痙攣しているのか!? こりゃ気合いを入れて人工呼吸しなきゃだな!」
「ングォグォアファウォホーーーー!!」
どこをどう見たら痙攣に見えるんだよ!? こいつ本当にライフセービングの資格持ってやがんのか??
ライフセーバーは俺の口を塞いでは解放する動作を繰り返してくる。元々は演技のはずだったんだが、マジで意識が朦朧としてきた。なんやねんこの拷問。
こうなったらやむをえない。俺の意識が回復したと気づかせるために、俺の方から攻めるしかない。
「ンムチューウウウウゥゥゥゥ!!」
俺はライフセーバーの唇を吸い尽くし、口内に舌をねじ込んだ。ヤケになった人間は無敵なんだよ。
「むぐぐっ!? ――おおっ、復活したか、少年!」
ライフセーバーは目を輝かせて俺の両肩に手を置いた。
「…………オエェェェェエーーーーッ!!」
あまりの気持ち悪さに嗚咽が止まらん。最低最悪の余韻だよ。
「海水を飲みすぎると気持ち悪くなるのは仕方のないことだ!」
海水じゃなくてあんたのキッス――もとい人工呼吸で気持ち悪くなったんですけど??
「カノヨウナ展開ハアンマリダゼ……」
GODよ。貴方は、貴方だけはずっと俺の味方だと優しく微笑んでくれたじゃないですか。話が違いますよ。
「調子に乗って妙な真似するからそうなるんだよ」
「ガバガバな演技で女の子の唇を奪おうなどと目論むとは浅はかな」
永田大地と田村が俺に哀れみの視線をよこしてきたが、同情するならギャルの一人をあてがってくれ。
「フン。コレガ、男道ッテモンダゾ」
俺はペッペッと口内の汚物を吐き出して、魂が抜けた状態のまま海の家へと向かった。
「男道ってなんだろうね」
「田村さんには縁がない、ド低俗なプライドですよ」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
家に帰ると夫が不倫していたので、両家の家族を呼んで大復讐をしたいと思います。
春木ハル
恋愛
私は夫と共働きで生活している人間なのですが、出張から帰ると夫が不倫の痕跡を残したまま寝ていました。
それに腹が立った私は法律で定められている罰なんかじゃ物足りず、自分自身でも復讐をすることにしました。その結果、思っていた通りの修羅場に…。その時のお話を聞いてください。
にちゃんねる風創作小説をお楽しみください。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
面倒くさいロボットゲームアプリに誘われたら、ガッツリハマりました。勿論彼女もね。
ノデミチ
ライト文芸
ロボット・マッチング・バトルアリーナ。
ロボットを組み上げて戦わせる対戦ゲーム。
機体は軽量級、中量級、重量級から。そして小型、中型、大型から選ぶ。
武器は近距離、長距離、格闘タイプから。そして実体弾かビーム弾か。
機体によって手にしか武器を持てないモノ、肩に装着できるモノ、腕に装着できるモノがある。
そしてジュネレーター組み。
馬力か、燃費か。オーバーヒート対策重視か。
これは組み方重視の対戦ゲーム。
初期の新人ランク時にしか戦闘指示が出来ず、ランクが上がるにつれて指示項目が減っていき、最終的にはオートバトルのみになる。
初期の戦闘指示がどう戦うかの学習期間となっているのだ。
こんな面倒くさいマニア向けのゲームにハマった奴等の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる