平原圭伝説(レジェンド)

小鳥頼人

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2巻

4_人とはスペックと肩書で相手の格を推し量る生き物 ③

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「高岩くんは彼女いるの?」
「今はいませんね」
「よかったら女の子紹介しよっか?」
 それなら俺に紹介してくれよ、と言いたいのをぐっとこらえた。危うく葵との関係が破綻し、里見からゴミ扱いされるルートに分岐するところだったぜ。
 それはそうと、高岩が年下だからなのか、葵は面倒見良く奴に絡むなぁ。
「いえ、今は結構です」
「そっか。紹介してほしくなったら言ってね。そうだ、連絡先交換しよ?」
「いいですよ」
 高岩はなんの努力もせずに葵の連絡先をGET。これも奴のルックスの為せる業なのか?
 まぁ、葵は高岩を子供扱いして恋愛対象とは見てなさそうだから別にあれこれ言うつもりはないが。
「そ、空羽さん。お、俺には?」
 新山がうわずった声で葵に問いかけるが、
「はぁ? 新山さんなんか紹介したら、私が紹介した子から責められちゃうじゃないですか」
 見事に冷たく切り捨てられた。やばい、マジ笑える。
「じゃ、じゃあせめて、連絡先をば……」
「絶対に嫌です。なにに悪用されるか分かったものじゃありませんし」
「もう俺の扱いが犯罪者レべルだよね……」
 新山の信用は皆無だった。ま、しょうがないべ。生きてりゃ良いことも悪いこともある!
「この場でアウェーって、果たして今日の紹介の意味はあったのか……? もはや子供たちと砂の城を作ってた方が有意義な気さえしてきたぞ。あぁ、子供たちが天使に見えてきた」
 新山は現実逃避をおっぱじめ、砂場で遊ぶ子供二人に生ぬるい視線を送っている。
 ロリコンはこうやって誕生していくんだな。南無三なむさん
 と、そこで。
「…………ん?」
 里見が何かに気がついたのか、公園の隅を見つめている。
 俺も里見の視線を追うと、そこにはどこかの高校のジャージを着た男二人が中学生くらいの男一人を前後から取り囲んでいる。
「どう考えても悪いことしてるよな……?」
 里見が鋭い目で連中の様子を伺うが、ここからでは会話の内容が聞こえない。
「ソコデ、秘密兵器ノ出番ダ」
「ですよねー」
 俺は新山の肩を叩き、言外ごんがいに行けと指示を出した。
「まぁ、俺に拒否権はないよな。あのジャージ、戸阿帆のやつだから」
 新山は渋々ではあるが、奴らの元へと歩みを進める。
「やっぱり戸阿帆が……」
 葵は憎々しげに戸阿帆の二人と、ついでに新山も監視している。
「時と場合によっては警察を呼びましょう」
「ダナ。頼レルモノハ頼ルニ限ル」
 俺と里見は初めてお互いの意見が一致した。
「それにしても、こんなタイミングで現れるなよ……空羽さんたちの中では、戸阿帆の評判は地の底どころじゃないんだからさぁ……」
 ぶつくさ言いながら、新山は現場へと近づいてゆく。
 向こうも新山の存在に気付いたようで、新山が奴らの元に辿り着くと、奴の胸倉を掴んでなにやらキレている。
「――君は早く逃げろっ!!」
 新山の大声を合図に、中学生は新山にすごい勢いで頭を下げて公園から走り去った。
「うおあーーっ!!」
 そして戸阿帆の手によって新山のガリガリの身体が投げ飛ばされた。
「ッタク、ヤッパ新山ハ使エネーナー」
 俺が新山の代わりに奴らを成敗しようと右足を出すが、
「平原さん一人では行かせませんよ」
 里見も参戦してくれると申し出てきた。
「フン、二人程度ナラ俺一人デ一捻リヨ」
「その甘さがピンチを招くものですよ」
「優等生ガ拳ヲ振ッテイイノカ?」
「学力だけで悪も成敗できない男に価値なんてないですから!」
 俺と里見は言葉でプロレスをしつつも共闘して奴らを退治する覚悟を決めた。
「高岩ハ葵ヲ頼ム。死ンデモ守レ!」
「いやぁ、さすがに死にそうになったら我が身大事なので放って逃げちゃいますよ」
「現実だとその選択が普通だよねー」
 高岩の男らしさの欠片もない本音に葵は「だよねー」と笑う。
 あんたら、戸阿帆のバカどもはマジで危険なんだぞ。もっと緊張感を持ってくれや。
 ま、俺たちでやっつけさえすれば終わる話だ。
「ウシ、行クゾ里見! 俺ノ足引ッ張ンジャネーゾ!」
「それはこっちの台詞ですよ!」
 俺たちは連中の懐に飛び込もうと地面を駆けはじめる。
 だが、腕を掴まれてその動きを止められた。
「待ってくれ、これは戸阿帆案件だ。俺がなんとかする」
「なんとかって、さっき軽く投げ飛ばされてましたよね? 力の差は歴然でしたが……」
 里見の意見は分かる。新山が単身で向かったところで勝算はない。
「それでも何かすれば何か起きるかもしれない。だから行く!」
 新山は再度奴らに向かって走り出した。
「新山さん、勇ましい面もあるんですね……あれが戸阿帆の血なのか?」
 里見は新山を見直したのか、はたまた単に戸阿帆同士で特性が似ているとでも思ったのか。
「――ん? お前しつこいな」
「一人で何ができるんだ? また放り投げてやるよ」
 二人が臨戦態勢で新山を待ち構える。
 新山は右手拳に力を込めて、二人組の片割れにストレートを投げる。
「これでもくら――――」
「はい、避けましたー」
 しかし、予想通り喧嘩慣れしていない遅い動きなので、相手に軽々とかわされた。
 直後、もう一人が新山の身体を掴み、
「吹っ飛べえぇ!」
「ぎゃふうぅッ!?」
 再度吹っ飛ばされた新山は子供たちが一生懸命作っている砂の城までワープし――――

「わわっ」
「またー!?」

 顔面からダイブし、そのまま顔をうずめた。
 はい、三文芝居終了。

「行クゾ、里見!」
「言われなくても!」
 今度は俺たちが奴らへと突っ込む番だ。
「新手か!?」
「はー、次から次へとさぁ」
「金もパクれなかったし最悪だよ」
 二人組は「だりぃな」といった感じで気だるげに俺たちと対峙する。
「俺タチガ貴様等を成敗シテクレル!」
 俺は二人組を指差して高らかに宣言した。
 ふっ、決まったぜ……。
「俺、たち……?」
「お前一人じゃん」
 隣を振り向いたが、そこには誰の影も形もなく。

「ハ――――オイッ、里見!! 里見ィィーーーーーーーーーーーーッ!!」

 里見の姿はいつの間にやら忽然こつぜんと消えていた。
「アイツ、俺ヲ人柱ニシヤガッタナ!? アトデ覚エテロヨ!!」
「サトミってお前の女?」
「女に泣きつくって男の風上にもおけねえな」
「違ェーワタコ! 俺ノ人生ノ後輩男ヨ!」
 ま、いないんだから論争の意味はないが。
「お前もさっきのザコのように放り投げてやる!」
「ソウハイクカ!」
 俺は片割れの顔面にストレートをぶち込もうとする。
「はっ、そんなストレート――うぐっ!?」
 ――のはブラフで、振り上げた腕は降ろして奴の股間に金的蹴りを食らわせた。
「俺ハ手ダケデナク、足モスグニ出ル男ナノヨ!」
「いやいや男の勲章を蹴るのは同じ男として一番やっちゃいけないだろぉ」
 片割れは股間に両手を当てて悶絶している。
 よし、これでしばらくヤツは身動きが取れない。その隙にもう片方をボコる!
「おい、俺は弱いんだ。穏便にうげえぇ痛い痛い痛い!!」
「虎ノ威ヲ借ル狐ハ嫌イジャバーカ!」
 もう一人のザコには往復ビンタで十分じゃい。
 イキるならタイマン張れるレベルには身体を鍛えやがれってんだ。
「はい、そこまでだバイオレンス野郎」
 と、もう一人の男が背後から俺を羽交い締めしてきた。思いの外復活が早かったな。
「このまま押し倒して踏みつけてやる!」
「ググゥ……不覚ナリ……!」
 もう一人は新山を軽々と放り投げるくらいにガタイは良い。力でこいつに勝つのは容易ではない。
「一対一で俺に挑むのは少し無理があったな」

「――――こっちは二人いますが、何か?」
「な、なにっ!?」

 どこに潜んでいたのか、男の背後から里見が現れ、鋼の肉体をくすぐった。
「ひゃはは! おい、やめ、ははは……!」
 くすぐられたことで男は手を放したため、解放された俺はすぐさま振り返って、

「コレデフィニッシュジャボケガ!!」
「あがっ!!」

 男の顔面に肘鉄砲をおみまいしてやった。
「顔面ハサスガニ筋肉マミレニハナレナイカラナ」
 顔は人間の急所のうちの一つ。俺の肘に男は猛暑だっていうのにすこやかに失神しやがった。
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