平原圭伝説(レジェンド)

小鳥頼人

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2巻

1_リスペクトとトレースが似て非なる断定はできない ②

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ゴッドスター:『おい新山、今家か?』

新山鷹章  :『そうだけど』

ゴッドスター:『俺の人生がヤバイ。今すぐ世屋せや図書館に来い』

新山鷹章  :『はぁ? お前の人生と図書館がどう繋がるって言うんだよ』

ゴッドスター:『大量の教科書の山がお前を待っている』

新山鷹章  :『全く意味分かんね。頭痒いから行かなくていいすか?』

ゴッドスター:『いい訳ねーだろ! さっさと来い! さもなくば……』

新山鷹章  :『さもなくば?』

ゴッドスター:『先日の乱闘でお前が校内に侵入したことをお前の短大にバラす』

新山鷹章  :『音速の速さで今すぐ向かいます』

「もし俺が断ってたらどうするつもりだったんだ?」
「ソシタラヲ前ノ家マデ出向イテ連レ出スマデヨ!」
「普通に迷惑だからやめてくれ……それに、俺が外出してたら家に行っても意味ないぞ」
「外出ノ場合ハドコニイルカ聞クダケヨ」
「嘘の場所を教えたら?」
「ヲ前ノ家ノ前マデ戸阿帆高校ノ生徒ヲ連レテイッテヤル」
「……すんませんでした」
「分カレバイイノヨ、分カレバ」
「てか、お前俺の住所知らないだろ?」
「近々貴様ガ帰ル時ニ後ヲツケヨウト考エテイル」
「とんでもないことを考えてんな! そしてよく素直にそれを本人に伝えようと思ったよなぁ!?」
 知人がどこに住んでるか知るのは、緊急時を考えれば妥当だと思うんだが?
「間違ッタコト言ッテルカ?」
「間違いしかないんですけど?」
「ハ? ヲ前ゴトキニ間違イトカ指摘サレタクネェ! 非情ニ強イ遺憾ノ意ヲ表明スル!!」
「こっちの台詞だ!! お前いい加減にしとけよ!?」
「アーアーソウカヨ!! ドッチガ正シイカ、コノ場デケリヲ着ケテヤルァ!! 早速――――」

「静かにしてください!! いい加減にしないと出禁にしますよ?」

「すみません、本当すみません」
「マジまんじ申シ訳ナシ寄リノアリ」
 三回目なので、さすがに司書も激おこだった。
 出禁は困るので、休憩後は無言でノートを写すことにした。

    ♪

 時間も時間なので、今日の作業は打ち切りとした。
 こんなことになるなら、少しずつ作業を進めておくべきだったな。
 けど仕方ないよな! 永田大地のせいだ。奴に粘着されてたからノートを写す時間がなかったんだよ。むしろ俺は被害者だ。
「サスガニキチィーナー……」
 何が地獄かって、もう少しで期末試験もあるんだよな。ノートを写す範囲は一年のものなので、ノート写しがそのままテスト範囲の暗記になる、なんて都合のいい話はなかった。
「帰ッタラ期末ノ勉強ガ俺ヲ待ッテイル……」
 家でも外でも教科書とお友達。俺はガリ勉マンかよ。
「お前、教科書と戯れてばかりだな。頭良くなりそうだ」
 新山が茶化すが、俺は真面目に回答することにした。
「ナリソウッツーカ、モウ頭良インダケドナ」
 少なくとも高校の時点でお前の出身校より優秀なんで。
「それなのにこの前の乱闘で負けたのか?」
 悪意はないのだろう。新山がけらけら笑いながら以前の乱闘を持ち出すが、あれは俺にとって歴史的屈辱を味わった悪夢の一戦だった。その話題を出されて大人しくしてる俺ではない。
「ア? アレハ貴様ノ裏切リノセイダロウガ! アレガナケレバ俺ノ勝利ダッタワ!」
「いやいや、信者が抜けて人数が二人になった時点でもうね……」
「貴様モ裏切ッテ、最終的ニハ俺一人デバスケ部ヲ相手シナキャナラナクナッタンダロ! 俺ノ負担ガ大キスギテキツカッタゾ!」
 コイツは何度も寝返りを繰り返しやがった。その際に何発も顔面に食らっていたが、完全に自業自得。新山劇場の醜悪さったらなかったぜ。
「生きるためには、自分がどこにいれば安泰かの判断が常に必要だからな」
「ソレッポイコトホザイテ自分ノ悪行ヲ正当化スンジャネーゾ」
 物は言い様だよな。だがな、結局貴様のクソダサい所業はなかったことにはならんぞ!
「裏切リヲ繰リ返ス者ハ、最終的ニハ何人なんぴとカラモ見捨テラレ、死ヌ運命ニアルゾ」
「俺はそうなる前に逃亡するから簡単には死なない」
「ナンデソコ一点ダケニ自信持ッテンダヨ。他ニアピールポイントハネェノカヨ?」
 自分の思うがままに動く動物のような思考が平然とできるのだけはすげぇよ。

 駅で新山と別れ、電車で自宅へと向かう。
 期末試験、か。
 我が邦改ほうかい高校の赤点は全科目ともに30点未満なので、他校と比べると敷居は低い。できるだけ留年生は出したくないのだろう。
 にも関わらず、なぜ俺は去年留年しかけたかって? 保健体育以外の全科目が赤点だったからだよ!
 大体、赤の何が悪いんだよ? 赤はリーダーの色だぜ? 戦隊モノだとリーダー兼主人公と相場は決まってるんじゃないのか?
「シバラクコノ状況ガ続クトカ、ノイローゼニナリソウダゼ……」
 鋼のメンタルを擁する俺をってしても、この展開にはダメージが来ていた。
 テスト期間で部活がないのが不幸中の幸いだ。最近はサボりが多かったから、部活まであったら確実に部長にグラウンドまで強制連行されていただろう。「ノートの写しは自業自得だから家でやれ、部活を休む理由にはならない」、とさとされそうだ。
 うーむ、お節介なあの部長のことだ。絶対にその台詞を吐いてくるな。

    ♪

「アァ、右手ガ痛ミデうずキヤガルゼ……」
「何かあったの?」
 昼休みの校舎裏。
 俺の隣で弁当を食べているのは、彼女である空羽そらはねあおいだ。
 そう、何を隠そう俺には可愛いガールフレンドがいるのだ!
 彼女が欲しい哀れな男子生徒諸君! エンジェルハートは積極的に行動していかないと掴めないんだぞ!
「試験勉強ト仮進級ノノルマノダブルパンチニ苦シンデイル」
「それは必要なことだからしょうがないね」
 苦い顔の俺に対して、葵は笑顔で答える。
「でもさ、逆に考えれば赤点が許されないなら、留年か進級しかないじゃん。赤点さえ回避できれば、来年は教科書を写す必要はないね」
「ソウダナ」
 盲点だった。そうだよな。赤点を回避すれば、来年は同じ苦しみを味わわずに済む。自由時間が減ることもない。
「というか、そもそも一年の時は勉強してなかったの?」
「人生勉強バカリシテテ、学業ハ後回シニシチマッテタワ」
「ありゃりゃ。それで教科書写し……手痛い結果となりましたなぁ」
 俺の苦行に葵は苦笑いを浮かべた。
「マ、身カラ出タ錆ヨ。甘ンジテナントカスルシカネェ」
「うんうん、頑張りなさいな」
 葵は俺の肩をポン、と軽く叩いて鼓舞こぶしてくれる。
 いやぁ、支えてくれる存在ってマジで大きいぜ。彼女がいない連中には分からないだろうけどな。
「ウシ、俺ハ教室ニ戻ッテ勉強ト洒落込ムワ」
 まだまだ休み時間は続く。
 当然、俺としては葵と一緒に過ごしたいところだが、時は金なり。期末試験に向けて少しでも勉強しておかなくては。
 弁当を食べ終えた俺は立ち上がって一つ伸びをした。
「うむ。勉学に励め、若人わこうどよ。バイバイ」
 お茶らけつつも、葵は俺に手を振って見送ってくれた。
 葵は勉強が苦手でこの学校に入ったと言ってたが、中間試験の結果はクラスでも五本の指に入る成績だった。
「俺モ負ケテランネーナ!」
 気を引き締め直して、教室へと向かう。

 その途中。
「永田大地! 今日モアホ面シテンナァ!」
 廊下を歩いていると、俺の宿敵を発見した。廊下での奴とのエンカウント率は非常に高い。
「お前、人に喧嘩売ってる暇があるなら期末の勉強でもしたらどうだ?」
 永田大地は顔をしかめて嫌々な態度を隠そうとすらせずに余計な一言をほざいてきやがった。
「シテルゾ。合間ノ息抜キデヲ前ニ話シカケテヤッタ。アリガタク思エ」
「息抜きで他人をこき下ろすとかいやしい趣味してんな」
 こき下ろすというか、まぁ悪い奴は成敗するのが主人公の務めだから。
「最近ハ文字ヲ書キスギテ右手ガ痛ェンダワ」
「それ、仮進級のペナルティでノート写してるからだろ?」
 永田大地はバカを見るような視線を送りつつ、話を続ける。
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