平原圭伝説(レジェンド)

小鳥頼人

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1巻

8_ついてくる者たちが必ずしも譜代とは限らない ③

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 当初の目的だった、一年どもに永田大地を紹介するイベントが終わったため、俺たちは二年の廊下をあとにし、一年の廊下へと向かっていると、
「永田先輩って一体何をしでかしたんですか?」
 ふいに一年が問いかけてきた。
「あまり悪い人には見えませんでしたけど」
 アイツは俺以外には無駄に偽善者ぶるから余計にいけ好かないんだよ。
「アイツ毎度毎度、俺ノ野望ヲ邪魔シテキヤガル。ソノセイデ覇道ヘノゴールマデ一向ニ距離ガ縮マラナイ」
「平原先輩の妨害ばかりしてくるんですか?」
「オウヨ。大抵ハ俺カラ吹ッカケルンダガ、イツモ汚イ手段デ逆襲シテキヤガル」
「先に手を出してるのは平原先輩の方でしたか……」
 戦争は先制攻撃をしかけた側が有利になるからな。戦いの基本よ。
「少シデモアドバンテージガ得ラレルナラ、ソノタメノ努力ハ惜シマナイ。ソウダロ?」
 やれる努力は全て実行する。そうでないと如何なる戦いであろうが生き残れない!
「なるほど! さすがは平原先輩です!」

「あれ、圭?」

 一年の教室が並ぶところまで辿り着くと、何度見ても可愛い愛しのマイハニーと遭遇した。
「ヨウ葵。コンナトコロデ奇遇ダナ」
「それはこっちの台詞だよ。圭こそ一年の廊下で何してるの?」
「見テノ通リ、俺ノ信者ヲ教室マデ送リ届ケテイルトコロダ。全員ヲ前ト同ジ一年生ダゾ」
 葵は俺の信者たちを一瞥すると、小首を傾げて俺へと視線を戻した。
「私と違うクラスの知らない人ばかり――いつの間に仲良くなってたの?」
「俺ノ人望ヲ持ッテスレバ、人ハ自然トツイテクルモノダ」
 同志とは意図的に動いて作るものじゃない。気がつけば傍にいるものなんだよな。
「へぇ。やるじゃん」
 自信に満ち溢れた俺の発言に、葵は素直に関心していた。あぁ、葵の頭を撫でたい。
「葵ノ彼氏トシテ、恥ズカシクナイヨウニ務メテルカラナ」
「そっか。仲良くやってね。みんな、圭のことよろしくね」
 聞けば教師に用があるらしい葵は一年軍団に軽く会釈をすると、階段を降りて職員室へと向かっていった。
「今の女子は平原先輩の彼女ですか?」
 葵の姿が見えなくなったことを確認した一年男子は、俺に当然の疑問を投げかけた。
「ソウダ。空羽葵ッテ言ウンダ」
「黒髪清楚で普通に可愛いですね! 羨ましいです」
「クリっとした二重ふたえがキュートでした」
「胸も結構大きめに見えました」
「ソウダロウソウダロウ。俺ニモモッタイナイ非常ニデキタ女ダヨ」
「彼女かー。いいなぁ」
 まぁ性欲にまみれた健全な雄猿――もとい男子高校生たるもの、そら彼女は欲しいわな。
「ヲ前等モ平原軍団ニイレバ、スグニ彼女クライデキルゾ」
「本当ですか!? いやぁ、ついていく人は選ぶものですねぇ」
「やっぱ青春といったら、可愛い彼女とイチャコラすることですよね!」
「バカタレ! ソレハモチロンダガ、学生ノ本分ハ勉強ト部活ダカラナ。ソコハハキ違エルナヨ。ソコサエ勘違イシナケレバ、イズレハ彼女ガデキルデアロウ」
「承知しました!」
 威勢のいい返事を聞きながら、俺たちは一年の廊下の端から端までを三回ほど往復した。
 その際に廊下にいる一年のギャラリーが「あの上級生の人、一年の廊下を行ったり来たりして人探しかな?」とか抜かしてたが、ふっ。お門違いもいいところだ。
 俺の存在感を一年のその他大勢の連中にもアピールするために闊歩かっぽしてやったのだよ。平原軍団の大名行列で、俺から発せられる神々しいオーラが更に強まったことだろう。

    ♪

「えー、これより、平原軍団の決起集会を開催しまぁす」
「「「イェーイ!」」」
 テンションが高いんだか低いんだか分からん新山の締まりのない乾杯の音頭により、平原軍団決起集会の幕が開けた。
「平原先輩、今日はご馳走してくださりありがとうございます!」
「オウオウ、遠慮スンナ。好キナメニューヲ一人一品頼メ」
 今宵は豪勢な晩餐にしてやる。俺の懐に感謝しろよ。
 ――と、財布を確認すると、思いの外金がないことに気がついた。
「……安イメニュー限定デナ」
「承知です。平原先輩も同じ高校生ですから、特別手持ちに余裕があるわけではないことは悟ってます」
 そう考えるのは悪いことではないが、わざわざ口に出して言うものでもないけどな!
 ともかく、打倒永田大地&バスケ部に向けて英気を養っておくのはとても大切だ。
 俺は一年軍団とついでに新山も呼んで、学校近くのイタリアンファミレスで食事会の場を設けた。
 上級生かつ軍団の長ということで、食事代は俺が出すが、年齢だけは年長者の新山にも無理矢理半分出させる交渉に成功した。
 永田大地――近日中には決着をつけてやるからな。
「永田大地ノヨウナ反乱分子ヲノサバラセテオクコトガモウナンセンスジャイ!」
「え? なんて??」
「ウォイコラ新山コラ。貴様、人ノ台詞ヲ聞キ返ストハ無礼千万ナリ! 常ニ耳掃除ハシテオクベシ!」
 俺は新山の耳の穴に人差し指を突っ込んで物申した。
「これでも耳はいいし、耳掃除もしてるんだけどなぁ」
「デハ俺ノ喋リ方ガ悪イトデモ? オイヲ前等、コノバカニ物申シテヤレ!」
「すみません。僕も平原先輩の喋ってることが聞き取れない時があります」
 俺に発言権を委ねられた一年は困った表情で困った返答をしてきた。
「ナンダト!? 近頃ノ若者ハゲーム、ネットノシスギニヨル視力低下ダケデナク、聴力マデ低下シテイルノカ!?」
 これは忌々しき事態だぞ。会話での意思疎通に支障をきたす重大案件だ!
「いやいや、なに相手の耳のせいにしてんの? 自分の喋り方がおかしいとは考えないの?」
「アァ? ヲ前ガアホデ俺ノ言葉ガ理解デキナイノヲ人ノセイニシテンジャネェゾ!?」
「平原軍団の中でお前の言葉を百%理解できてる奴は一人もいないと思うけどね……」
 まるで俺が一番悪いみたいな言い回ししよってからに。なんでもかんでも人のせいにしているからお前はぼっち野郎なんだよ。この俺様と違ってなぁ!
「ヲ前ノソーセージトミートボールハ一体何ノタメニツイテンダ? コノミックスグリルニ乗ッテルブツ以下カ?」
「その二つの武器はお前の話の内容を聞き取る時は使わないんだよなぁ」
「ンナコト言ッテット、俺ガ食イ潰シチマウゾ!?」
「誤解を招きかねない妙な言い回しは控えてくれよ……」
 ったく、新山の野郎は常に相手に罪を擦りつけたり、寝返ったりとそんなことばかり行使しやがる。だから人望がないんだよ。いい加減気づけ。
「二人は仲良いんですね」
「よくねーわ!」
「ヨクネーワ!」
「……ほら、仲良し」
 新山! 下等生物の分際で俺と台詞を被せんじゃねーよ! 同格だと思われるだろ!
 ――この件はここらで一旦置いとくとしよう。せっかくの交流の場だ。メンバーには有意義に過ごしてもらいたい。
「ゴホン。トニモカクニモ、永田大地ニ完全勝利スル日ハ目前ダ。ソノ日ニ備エテ今日ハ楽シメ! 水ナラバ無料デ飲ミ放題ダゾ! 喜ベ!」
 宴は続くんだぜ。

「ドデカイ男ハ食イ物モドデカイ音ヲ出シテ食ッテナンボヨ。クッチャァークッチャアー!」
 俺はハンバーグを口に放り込み、男気溢れる食べ方を披露する。
「もう自分で効果音出しちゃってるじゃん」
「フフフェーフホハ!(うるせークソが)」
「食べながら喋るなよ! 食べカスが俺の顔に飛んできてるわ!」
 細かいことをグチグチと執念深いやっちゃな。俺が加工した品なんだから、むしろ感謝して食べるくらいの誠意は示してほしいぜ。
 と、気づけば結構いい時間になってきたな。そろそろお開きだ。
「エー、デハ。近日俺ノ野望ヲ妨害スルボケドモニ奇襲攻撃ヲシカケル。ヲ前等全員ガ平原軍団ノ戦力ダカラ頼ンダゾ。デハ、本日ハコレニテ終会トシマス」
 俺が締めの挨拶をパーフェクトにこなし、ここでお会計タイムに入るので一年連中には店外で待っててもらう。
「一括会計でお願いします」
「オイ、ナンデヲ前ガ仕切ッテンダ」
「誰が会計方法を言っても店の対応は同じでしょうが……」
「か、かしこまりました」
 店員が手早くレシートに印字された金額をレジに打ち込む。
「お会計3609円になります」
 おおっと。これではぴったり割り勘とはいかないな。キリが悪い金額だぜ。
「二人で1804円ずつとしたいところだけど、どちらかはプラス1円だな」
「ナラヲ前ガ1円分モ払エ。人生ノパイセンダロ?」
 年長者が多めに支払うのが食事会での暗黙の了解。それを踏まえると、俺の案はド正論すぎて反論の余地などない。
「普段はゴミ以下の態度のくせに、こういう時だけはしっかり先輩扱いしやがって――主催者はお前なんだから、今回はお前が払え!」
「ナンダト!? 貴様、ソノ醜イ顔面ヲ完膚ナキマデニ破壊シテホシイヨウダナ!」
 無茶苦茶な私見を押し通すとはコイツ本当に短大生か? 年齢サバ読んでね?
「うるせー! いつもいつも俺に無茶振りばかりしやがって! 今日という今日は一発食らわせてやる!」
 支払いの押し付け合いで新山の頭に血がのぼったのか、コイツのボルテージは高空飛行を続けている。
「オウオウッ、来イヨ来ヤガレヨ。テメェガ俺ニ勝テルワケガネェガナ」
「お、お客様! 1円をめぐっての喧嘩はおやめください!」
「タカガ1円、サレド1円ジャイーーーー!!」
 喧嘩? 違うだろ。これは情熱的教育よ! 反逆罪を犯した新山に制裁を下してやるだけの話よ!
「食らえ平原圭ーーーーーーーー!!」
「腕力ゼロノ雑魚ガ足掻イテモ無駄ナリィーーーーッ!!」
 パアァン!
「うぎゃあ!」
 俺は新山のストレートを避けてヤツの顔面をビンタした。
 その際に小気味よい音が店内に響いた。
「俺ノ勝チダナ。最初カラ1円クライ大人シク差シ出シヤガレ」
「くううぅ、神よ、俺にも武力をくれ……」
「神ナラ今、目ノ前ニイルダロ?」
「…………死神、いや、疫病神めぇ」
 新山は涙目になりながら、渋々1円多く支払った。
「あ、ありがとうございましたー。またのご来店をお待ちしております」
 ふっ。身の程も知らずに強大な正義に抗おうとするからこうなるのだ。
 そして永田大地。お前もすぐに今の新山と同じ状態にしてやるからな。覚悟しておけ!
 その後、メンバーは各々帰途につき、俺もきたる決戦の日に向けて気持ちを奮い立たせながら自宅へと向かった。
 新山はというと、腫れた頬をさすりながら不貞腐れていたが、俺は当然スルーした。
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