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11.豆しばの話
しおりを挟む昨日は、疲れた。
もうダメかと思った。マジで、もう、バレるかと。しかも、黒木に。
こんな変な体質……体質っていうのか? こんな変な、バース性。都市伝説なみだっていうのに。黒木にだけは知られたくない。絶対無理。
朝、ぐったりしながら、講師室に入り、いろいろ仕事を済ませていると。
「律、おはよ」
朝から黒木は、爽やかだ。もう、ほんとに爽やかだ。
カッコいいなあ。
――オレは昨日、人間に戻った後で、黒木から来ていた、夕飯を誘おうとしていたという連絡に、「今気づいた、ごめん。また誘って」とだけ返していた。
「おはよ、黒木――昨日は、ごめんね」
オレがそう言うと、黒木は苦笑しながら席に座った。
「スマホ落としてどこ行ってたんだよ」
「近くの店でご飯買ってて」
「わりとすぐ戻ったのに、居ないから」
「エレベーターですれ違っちゃったのかもね」
「まあ、そうかもな」
あぁ、良かった、何台もエレベーターがあるビルで……。
「そういえば、なんだけどさ」
「ん?」
黒木がオレを見て、なんか、すこぐ嬉しそうな顔をしている。
……珍しい顔、してるなぁ。いつもクールな表情してるのに。黒木がちょっと可愛い。
「昨夜さ、ここの廊下で、豆しばを見たんだよ」
「――……」
ひゅ、と、変に吸って、息が止まった。
……落ち着け。落ち着け、オレ。今オレは人間だから、絶対バレない。大丈夫。
「こ、ここで……? そ、そんなこと、ある……?」
「あ、信じてないだろ」
オレの怪しげな返答を、黒木は、違う意味で取ってくれたらしい。
「理事長は猫だったとか言うんだけどさ、猫と犬の走り方って、違うと思わないか?」
「……んん。ど、どうだろ……」
「いや、全然違うし。ていうか、オレ、その豆しばと、一瞬、目が合ったんだよな」
「――へ。へぇぇ……」
もはやもう、返事を出すのもきつい。今すぐ、変身してしまいそうなストレスに襲われているけど、今だけは……! 今だけは無理……!
「あ。そういえば昨日、律を理事長と探してる時さ」
「んん?」
「理事長が、律は? って言ってたんだけど――もしかして、呼び捨てされてんの?」
「……いや?」
「そう? 学生時代からバイトしてたって言ってたから、普段は呼び捨てなのかと……」
「そんなこと、ないよ。咄嗟にでちゃったんじゃない、かな……?」
「ふうん、そっか。――ていうか、お前、スマホ、なんであんなとこにおとしてたわけ? どこに落ちてたか知ってる?」
「いや……」
「あの受付の机の後ろ。なんであんなとこに――」
…………わーん、黒木が、なんかいろいろ気になってて、無理!
もうそろそろストレスマックスになりそう……。
「おはようございまーす」
他の先生が入ってきて、嬉しいことに、別の雑談が始まってくれた。
「オレ、ちょっとトイレ」
「ああ」
黒木が頷きながらも、そっちの雑談を続けてくれて、オレは歩き出して、講師室を出てトイレへ。鏡の前で、ようやく息が、できた。
――あぁ、なんか昨日の、オレがあほみたいに、走る時だけは気持ちいいとか言って、楽しく走ってたあの時。
やっぱり、黒木と、目、あってたのか。
そう。なんか。スローモーションみたいに、黒木と目が合った気がしてた――けど、黒木からも、そう見えてたのかぁ……。大体、犬のオレがあの階段のところを通り過ぎた時間なんて、きっとほんの一瞬で、黒木と目が合った時間なんて、ほんとに短かったと思うのに。はっきり見えてなかったら良かったのにー。
……もうぐったりだけど、なんとか、豆しばにはならずに済んだし。
仕事、頑張ろう。
またあの話になったら嫌なので、黒木が机に居る時は、なるべく別のところでする作業に入り、隣に座らないような。豆しばの話はしないように、頑張っていると。
「律先生、ちょっと」
おばさんに呼ばれて、理事長室についていく。
入ると同時に、おばさんは振り返って。
「綾人先生、どうだった? 豆しばのこと、なにか聞いた?」
「――っっ豆しばと目があったって。……おばさんが猫って言ってたのも言ってたし。猫と犬って全然違うよな、とも言ってて……」
ぐったりしながら言うオレに、おばさんは、眉を寄せて最後まで聞いてから、ため息をついた。
「分かったわ ――後で、迷い込んでたとか、なんか、フォローいれとこ……」
「……お願いします……」
ぐったりしながら、ドアに寄りかかったままそう言うと。
「まあ。大丈夫よ、結局のところ、バレてないんだから。ねっ!」
「……そうだよね」
うん、確かにそうだ。そう思おう。
「明日は飲み会だし。私は行けないけど、楽しんで。律、最近ちょっと痩せた気がするから。もうほんとちゃんと食べて。ちゃんと寝るのよ?」
「はーい……」
そうだったー……。明日飲み会だった。
……明日は、黒木の近くに座らないようにしよ。と心に誓った。
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トリプルSを読んでる途中なんですけど……
ポメガバース大好きなんです‼️
そして柴犬も豆柴も大好きなんです‼️
'`ァ'`ァԅ(//́Д/̀/ԅ)'`ァ,、ァ
何ですかマメガバースって❣️❣️
最高じゃないですか❓😍💕
設定説明を読んだだけで鼻血出るかと思いました💕
ちょ、ちょっとトリプルS読んでから、また来ます(落ち着け、私っ!)💦
ポメの柴カットとか、ホント可愛いですよね😊(←クールダウン中)
どんこ征悦さま♡
ポメの柴カット!!! めっちゃ可愛いです。ぬいぐるみちゃんみたいで……!!
わー、私も豆しば柴犬大好きでー!
大賞では手が回りませんでしたが、ラストまでの道筋は大分ついてはいるお話なので、完結目指したいと思います🩷
鼻血出していただける(?)ように、頑張りますヾ(*´∀`*)ノ🩷
あっ、トリプルSの方も、ありがとうございます~ヾ(*´∀`*)ノ🩵
わーい、悠里さんに愛でられる♪
確かに猫と犬、骨格も、身のこなしも違いますものね、それぞれが好きな人にはすぐわかるかと😅💧
ぱぴゅーんと走ってた一瞬でそこまでバレてた黒木くんの、動体視力凄い✨
どのタイミングでバレるのか、ドキドキします😅
四葩さま♡
ヾ(・ω・*)なでなで🩷🩷
こちらも可愛がってくださってありがとうございますヾ(*´∀`*)ノ🩷
黒木と律、こっちも早く書きたいんですが、あと3日だけ、とりぷるえすに出張してきます~!
それが終わったら(終わらないと思うので11月が終わったら) こちらに戻ってもきますので、また可愛がっていただけますように🩷🩷
ポメガやマメガが本当にあったら……癒されるんですがねぇ😅💦
いえ、なる本人は大変でしょうが(笑)
律くんはそれで恋やら諦めてますが、自分の恋人とかがマメガやポメガなら、めっちゃ大切にするのに……愛でるのに……
……っていうか改めて考えると、本当にストレスが引き金でなるのなら、自分がそうなってしまう可能性が一番確率として高い事に気づく……💧
あ、愛でられない😅💦www
四葩さま♡
そうですね、癒されますよねぇ、可愛いですよねぇ🩷🩷
でもなる人は大変だろうな……笑(*´艸`*)
あっ……四葩さんがワンコ🐶化ですか!? じゃあ私が愛でますね(´∀`*)ウフフ✨🩷