「桜の樹の下で、笑えたら」✨奨励賞受賞✨

星井 悠里

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第三章

10.

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 私があんまりにボロボロ泣いたから、店員さんが驚いちゃって。

「こちらで、大丈夫ですか……?」
「…………」

 ……もう、絶対、私のだと、思う。
 頷いたら。店員さんは、ふ、と笑った。

「すごく熱心に色々頼まれて。特注なんですよ。あんまり熱心なので、私もついつい職人さんに掛け合っちゃって。……とても可愛くできてますよね」
「…………」

 頷くけれど。
 ボロボロ、涙があふれて、ちゃんと、見れないし、話せない。

 結局上宮くんが色々済ませてくれて、とりあえず、店を出た。
 騒がしい道だけど、やっぱり、泣いてると目立つ。

 上宮くんに、一本中心からずれた道の、端のベンチに連れてきてもらった。


「……そろそろ泣き止んだら?」

 呆れたように笑われる。

「……だって――――……」

 コロと桜の絵。
 世界一幸せな絵だなって。思うと。

 涙、浮かんで、溢れおちる。


「ごめん……泣くなって、言われてるのに……」

「――――……良い奴だったんだろ。やっと見つけたんだし。仕方ねえよ」


 そんな言葉に、ボロボロ、涙。


「……うん」


 ――――……大好きだった……。
 悠斗。


 悠斗に。ありがとうって。言いたかった。 


 しばらく泣いてから、やっと泣き止んだ私に。
 上宮くんは、苦笑いしながら。


「……なあ、甘いもん、食う?」

 そう聞いてきた上宮くん。

「――――……食べる」

 そう答えたら、近くのお店で、アイスクリームを買ってきてくれた。

 一緒にアイスを食べて。
 さっき払ってもらったカバー代を渡した。

「居てくれなかったら……お金も払えなかったかも、私……」
「……あんな滝みたいに泣いてる奴、初めて見た」


「……ほんとすみません……」
「いーけど……」

 なんか、すごく笑われてる。


「あのね、上宮くん。私、心春でいいよ。……友達は皆そう呼ぶから」
「……オレ、友達なのか?」

「……うん。感謝してるし。色々。……友達、だよ」

 そう言ったら。
 上宮くんは、ふーん、と呟いて。


「じゃあオレも――――……伊織でいい」
「分かった。……伊織って、呼ぶね」

 そう言うと。
 伊織、は、ん、と頷いた。

「そろそろ帰らねーとだろ」
「うん」

「オレ、トイレ行ってくる。帰っててもいけど」
「待ってる」
「分かった。すぐ来る」

 そう返すと、伊織は歩いて行った。


 ――――……悠斗の最後のプレゼント。
 
 じわ、と涙が浮かぶけど。


 ――――……これは。
 少し、嬉しい、涙。


 見つけられて、良かった。


 悠斗が、私にくれようとしていたもの。
 見れて、良かった。


 その時。



「あれ、伊織は?」
「さっきまで一緒だったんだろ?」
「ああ、一緒に居るとこ見たし」


 私の悠斗への、ふわふわした幸せな感情を全部、断ち切って現れたのは。

 こないだ、伊織に絡んでた、人達。



「なあ、伊織は?」
「……帰りました」

 今の内に、離れてくれないかなと思って、そう言った。
 伊織、今は帰ってこないでと。空手の試合があるって言ってたし。こんな人達と、絡んじゃダメだよね。


「伊織帰ったのに、一人でこんなとこにいんの?」
「私も、もう帰るとこ、で……」

 立ち上がった所。腕を、掴まれた。

「今来るんだろ? どこ行った? 伊織」

 その時。

「ここに居るけど」

 伊織が、帰ってきちゃって。そんな声が背後から響いた。

 
「ほんとしつこいね、先輩。――――……そいつに、触んなよ」
「やっぱこいつ、お前の彼女かよ?」

「違うけど、触んな」

 伊織が、低い声で言って、睨みつける。


「お前らなんかが触っていい奴じゃねえんだよ。離れろ」

 そう言って、伊織は、私から腕を外させて、私を後ろに庇った。

 伊織の言葉にムカッとしたみたいで、殴りかかってきたその人の拳を。
 伊織は、軽く払ったように見えた。

 でも。その衝撃でよろけたその人がぶつかって、後ろに居た人達が尻もちをついた。

「はー? 弱すぎなんだけど。オレ今払っただけだぜ? 倒れんなよ。オレがなんかしたみたいじゃん」

 私を後ろに庇いながら、そう言った瞬間。


「あっちですー!!」

 すぐ近くの交番のお巡りさんが、やってきてしまった。


「心春、離れてろ。お前関係ないから」
「無理……っ関係あるっ」

「――――……はー……?」
「説明するし……っ」


 良くない人達に絡まれてるよりは、警察の方がマシ。
 そう思うんだけど。慣れない事態に、何だか、震える。


「……大丈夫だって、お前はすぐ帰れるから」

 背中、ぽんぽんされて。
 伊織が、そう言う。


 少し。ホッとして。
 でも、ほんと、非日常すぎて。

 眩暈がしそう。






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