「桜の樹の下で、笑えたら」✨奨励賞受賞✨

悠里

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第二章

2.

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「また来てよ。伊織」


 友達……みたいな感じになってしまった。
 霊っぽくない変な奴。悠斗、と。

 そのまま別れて、家に帰った。
 神社の裏の一軒家。昔からある、古い木造の家。


「ただいま」

 言いながら、引き戸をガラガラと横に開く。同時に。

「伊織!」

 じいちゃんの怒声が飛んできた。
 声がしてから少ししてから、姿を現す。

「つか、何だよ? 帰って早々」

 文句を言いながら、ドアを閉めて、靴を脱いで上がる。

「何だよじゃないわ! 神社の掃除を清士郎に押し付けて出かけただろ!」

 もうほんと。年、70超えてんのに。白髪ではあるけど、パワーに満ち溢れてて、そこらのおじさん世代よりよっぽど元気に見える。完全に年齢不詳だと思う……。

 参拝する地元の人には、やたら人気があるけど。
 オレにはすげー口うるさいじいちゃんだ。

「朝忙しかったんだよ、空手、他の教室の先生が来る日だったしさあ」
「――――……」

 無言でじっと見つめられる。

「……何」
「……そうやってサボっておると、罰があたるぞ」

 じいちゃんの低い声。
 ものすごーく、嫌な気持ちになる。

「やめろよ、じいちゃんが言うと、ほんとに罰あたりそうだから」
「掃除もしっかり 出来ない奴は――――……」

 あーうるさい。まだまだ延々続きそうでうんざりした時。

「おかえり、伊織。大丈夫だよ、父さんがやっておいたから」

 父さんは、マジで優しい。
 ほとんど怒られたこと、ないんじゃないかな。まあ多分、じいちゃんがうるさいから、その分優しくしてくれてるのかもだけど。鞭が全部じいちゃんで、飴が父さん。

 父さんも、かなり人気者。まあ。父さんは誰にでも優しいからと納得してる。
 まあ……じいちゃんが人気あんのも分からなくはないんだけど。うるせーけど、ちょっと面白いしな。なんて思いながら。


「ありがと、父さん」

 助かった、と廊下を進んで、父さんの近くに寄ると。

「お腹空いたよね、先食べる?」
「いや、汗すげーから、シャワー浴びてくる」

「じゃあ用意しとくよ」

 オレと父さんの会話を聞いてたじいちゃんがキレた。

「伊織を甘やかすなといつもいってるだろ、清士郎!」

 またここから新たに始まりそう。
 廊下を急いで、父さんが向かおうとしている台所と反対の、風呂場に逃げ込むことにした。


「風呂行ってきまーす」

 ここに居て良いことは一つもない。
 オレは、さっさと逃げ込んで、扉を閉めた。

 服を脱いでいる間も、じいちゃんの声が聞こえてくる。

「清士郎、お前がそう甘やかすから、伊織がああやって掃除を」
「今度やらせるから。それに今日は忙しかっただけで、大体やってるし」
「いや、しょっちゅうお前が変わってるだろ」
「たまにだよ。 あ、おつまみ作るから、座ってて良いよ、父さん」
「……つまみはなんだ?」

 そんな会話が台所の方に消えていくのが聞こえる。

 はは。じーちゃん、つまみにつられてるし。


「――――……」

 オレ達三人は、神社の後ろにある古い家に住んでいる。

 もう歴史が正しく分からない位昔から続いているこの神社は、地元の人たちに愛されている。

 神社で人は、毎日の感謝の気持ちを神様に伝える。
 初詣や七五三、結婚式、色々な厄払いや祈願。じいちゃんと父さんは神主。母さんは元巫女さんで、オレが小さい頃に病気で亡くなって、オレはこの二人と、何人か居る巫女さん達に、育てられた。
 ちょっと特殊な環境だけど、別に、嫌な思いをした訳ではない。

 母さんは居なかったけど、巫女さん達は、第二第三の母親みたいで。
 あれやこれやと、オレの面倒も見てくれた。

「――――……」

 空手着をネットに入れて、洗濯機に放り込む。回してから、バスルームに入り、シャワーを出した。

 熱いシャワーを上から、出して、浴びる。

 軽く憑いたものなら、じいちゃんらの手を煩わせなくても、これでも少し楽になる。

 シャワーを浴びながら、悠斗のことを考える。


 また来てね、とか。
 変なやつ……。


 ――――……片割れは。
 どうしてるんだろうな。


 あんなに、ずっと一緒にいた相手が、急に居なくなって。
 悠斗は、心配で、あそこに居んのか?


 ……霊じゃなきゃ良いと、少し考えてしまった。

 あんなにずっと一緒にいた者同士が、あんな年で死に別れるとか。別にオレには関係のないことなのに、そうでなければ良いと思って、確認したくて、悠斗に近付いてしまった。

 で、目が合った。

 ――――……どんな気持ちで死に別れたか。考えただけで、憂鬱になる。



 悪い霊じゃなさそうだったけど。
 想いは、深そうだ。
 

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