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プロローグ

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「桜の樹の下で笑えたら」


【side*安達 心春あだち こはる】 


 悠斗ゆうとに会ったのは、小学校の入学式の前日。家族でお花見に行った、家のすぐ近くの広い公園。

 一番大きな桜の樹が、満開の日だった。
 桜の花を見上げて見惚れていたら、隣に、同じように見上げている男の子がいることに気付いた。

 目があった瞬間に、にっこり笑ってくれた男の子。
 綺麗だね、と笑い合って。

 風で散ってくるピンク色の花びらを手でキャッチするという、それだけの遊び。
 私はなかなか取れなくて。でも楽しくて。二人で夕方まで過ごした。

 まっすぐに目を見て話してくれる、笑顔が優しい子。

 相沢 悠斗あいざわ ゆうとくん。その名前を、思い浮かべながら眠った。
 
 翌日入学式で再会して、びっくり。同じクラスだった。
 悠斗の入学に合わせて引っ越してきたらしくて、出会った公園を挟んで向こう側に二分位の所に家があった。公園を突っ切れば、私の家から十分かからない位。

 学区の端の私達の家の方から行く子が他に居なかったので、一緒に通うことになった。最初はお姉ちゃんとその友達が一緒だったけど、私達が慣れてからはお姉ちゃんとは別で行くようになって、悠斗とずっと二人だった。

 六年間で、四年生の時だけ違うクラス。クラスが違っても、私達は一緒に帰った。
 行きも帰りも一緒。

 帰り道。桜の樹の下で寄り道した。
 大きな桜の樹は、よりかかるのにちょうどよくて。2人で並んで、たくさん話した。

 そこから一旦家に帰ってから公園でも遊んだ。他の子達も一緒の時もあったけど、悠斗と私は必ず一緒。

 からかわれることもあったけど、それも、嬉しい位。
 悠斗のことがずっと、好きだった。

 中学生になって、悠斗はサッカー部、私は吹奏楽部で、お互い朝練。時間がずれてしまって、行きも帰りも一緒ではなくなった。
 
 でもその分、スマホで連絡を取れるようになったから、いつもやり取りしていた。
 会える時は、公園で会った。

 ただ、話すだけ。
 二人でブランコに乗って話したり。桜の樹に寄りかかって、話したり。

 悠斗は、小さい頃は、くりくりした瞳がとっても可愛かった。
 成長すると、どんどんカッコよくなっていって。「モテる」とか「イケメン」とかよく言われるようになった。
 告白されたりも、噂ではよく聞いた。

 でも。誰とも付き合わなかったし、変わらずにずっと、私の側に、居てくれた。

 笑うのも、泣くのも、たまに何かに怒るのも、一緒だった。

 桜の時期にブランコに乗ると、真上に桜の枝。高くこぐと、桜の花びらと青空に近付く気がする。
 隣のブランコを見ると、悠斗が居て、笑顔。

 悠斗は、私にとって、大好きな桜のイメージそのものだった。


 優しくて。暖かい。
 会ってから、ずーっと、大好きだった。




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