21 / 28
21.
しおりを挟む
「んーと……やっぱり、オレ一人で平気だよ?」
「んーと……やっぱり、オレ一人で平気だよ?」
ヒロくんが苦笑しつつ、小さめの声で、僕たちを振り返ってくる。
「でもこないだみたいに突き飛ばされたりしたら心配だし。ついてくだけにするから」
「三人も来なくても……」
と笑うヒロくん。あきくんが、「いーからいーから」と笑って押し切っている。
角を曲がって、少し歩いた時だった。
塀に寄りかかって座って俯いてる人が居た。
「え」
気付いたヒロくんはためらわず近づいて行って、「大丈夫?」と声をかけた。
「……大丈夫だよ、ありがとう」
年配の男の人。ヒロくんに気づくと、ゆっくりとした動作で、顔を上げた。
「おじいさん、どうして座ってるの? 具合悪い?」
「少し具合が悪くなって休んでたんだ」
そうなんだ、とヒロくんがしゃがんだ。
「……救急車とか、呼ぶ?」
「救急車は、大丈夫かな……ちょっと胸が苦しかっただけだから」
「歩けるの?」
「少し休めば大丈夫だと思うんだけど…………君は、電話を持ってるかい?」
「持ってるよ。電話しかできない子供携帯だけど……」
「知り合いを呼びたかったんだが、充電が切れてしまってて」
「いいよ、かけてあげる。番号は?」
ヒロくんが言うと、そのおじいさんは、財布から一枚の名刺を取り出した。
「この番号にかけてくれる?」
「うん」
ヒロくんは、電話をかけてあげてる。その様子をすぐ近くで見守りながら。
「なんか……しっかりしてるよなー、ヒロって」
「そうだね」
「優しいしね」
「そうだね」
あきくんと姫ちゃんの言葉に、うんうん頷く。
なんだかちょっと、「僕のうちの子」と、誇らしい気がするのはどうしてかな? こんな気持ちも、初めて。
見守ってる僕たちの前で、電話を終えたおじいさんが、携帯をヒロくんに返した。
「ありがとう。二十分位で来れるみたいだよ。車で来てくれるって」
「そうなんだ。おうち遠いんだね」
「家じゃなくて、病院から来るんだよ」
「お医者さんを呼んだの?」
「二十分くらい先のところに、武田病院っていう大きな病院があること、知ってるかい?」
「うん、知ってる」
「そこにいる人が来てくれるんだよ」
「そうなんだね……二十分かぁ……」
ヒロくんは、きょろ、と周りを見回すと。
おじいさんの横に、すとん、と座った。
「その人来るまで、一緒に居るよ」
「……いいの?」
「うん」
「遊びに行く用事があったんじゃないのかい?」
「うーん……いいや。もう、明日にする」
ヒロくんが携帯の時計を見ながらそう言って、鞄に携帯をしまった。
「武田病院ってね」
「うん?」
「オレ、こないだ入院してたんだよ。頭打っちゃって」
「――――……」
「……?」
おじいさんの返事がなくて、ヒロくんは、ぱ、と隣に視線を向けた。
「……どしたの??」
ヒロくんの顔を見ていたおじいさんは、あ、いや、とつぶやいて。
それでも、じっと、ヒロくんを見つめていた。
「なんかついてる??」
ヒロくんは不思議そう。そのまま僕たちの方を見て、首をかしげて見せる。
僕が、何もついてないよ、と言うと、ヒロくんはまた、おじいさんを見た。
「……名前を聞いてもいいかな」
「ヒロだよ」
「……ひろってどんな漢字?」
「太陽の陽と、道路の路。明るい路って意味だって」
「――――……とても、いい名前だね」
おじいさんはようやくヒロくんから目をそらして、少し俯いた。
「……具合、悪い?」
ヒロくんが心配そうに聞くと、おじいさんは、大丈夫、と言った。
「……陽路くんのお父さんて、どんな人?」
「お父さん? 何で急に??」
ヒロくんはちょっと笑いながら。
「えーと……オレ、似てるって」
「顔が?」
「顔もだけど、性格? お母さんが、お父さんにそっくりって言って、笑うから」
「そうなんだね……いいね、幸せそうだね」
「あー……でも、お父さん、入院してて」
「入院?」
「うん。退院したり入院したり。……なんか難しい病気なんだって」
「――――……」
そんな個人的なことを、会ったばかりのおじいさんに話すのはどうなんだろうと少し思いながらも。
なんだかおじいさんのヒロくんを見る目が、優しいから。……今は大丈夫かなと、思いながら。僕とあきくんと姫ちゃんは、ヒロくんたちが寄りかかってる塀の上に並んで座って、二人を見下ろしていた。
「んーと……やっぱり、オレ一人で平気だよ?」
ヒロくんが苦笑しつつ、小さめの声で、僕たちを振り返ってくる。
「でもこないだみたいに突き飛ばされたりしたら心配だし。ついてくだけにするから」
「三人も来なくても……」
と笑うヒロくん。あきくんが、「いーからいーから」と笑って押し切っている。
角を曲がって、少し歩いた時だった。
塀に寄りかかって座って俯いてる人が居た。
「え」
気付いたヒロくんはためらわず近づいて行って、「大丈夫?」と声をかけた。
「……大丈夫だよ、ありがとう」
年配の男の人。ヒロくんに気づくと、ゆっくりとした動作で、顔を上げた。
「おじいさん、どうして座ってるの? 具合悪い?」
「少し具合が悪くなって休んでたんだ」
そうなんだ、とヒロくんがしゃがんだ。
「……救急車とか、呼ぶ?」
「救急車は、大丈夫かな……ちょっと胸が苦しかっただけだから」
「歩けるの?」
「少し休めば大丈夫だと思うんだけど…………君は、電話を持ってるかい?」
「持ってるよ。電話しかできない子供携帯だけど……」
「知り合いを呼びたかったんだが、充電が切れてしまってて」
「いいよ、かけてあげる。番号は?」
ヒロくんが言うと、そのおじいさんは、財布から一枚の名刺を取り出した。
「この番号にかけてくれる?」
「うん」
ヒロくんは、電話をかけてあげてる。その様子をすぐ近くで見守りながら。
「なんか……しっかりしてるよなー、ヒロって」
「そうだね」
「優しいしね」
「そうだね」
あきくんと姫ちゃんの言葉に、うんうん頷く。
なんだかちょっと、「僕のうちの子」と、誇らしい気がするのはどうしてかな? こんな気持ちも、初めて。
見守ってる僕たちの前で、電話を終えたおじいさんが、携帯をヒロくんに返した。
「ありがとう。二十分位で来れるみたいだよ。車で来てくれるって」
「そうなんだ。おうち遠いんだね」
「家じゃなくて、病院から来るんだよ」
「お医者さんを呼んだの?」
「二十分くらい先のところに、武田病院っていう大きな病院があること、知ってるかい?」
「うん、知ってる」
「そこにいる人が来てくれるんだよ」
「そうなんだね……二十分かぁ……」
ヒロくんは、きょろ、と周りを見回すと。
おじいさんの横に、すとん、と座った。
「その人来るまで、一緒に居るよ」
「……いいの?」
「うん」
「遊びに行く用事があったんじゃないのかい?」
「うーん……いいや。もう、明日にする」
ヒロくんが携帯の時計を見ながらそう言って、鞄に携帯をしまった。
「武田病院ってね」
「うん?」
「オレ、こないだ入院してたんだよ。頭打っちゃって」
「――――……」
「……?」
おじいさんの返事がなくて、ヒロくんは、ぱ、と隣に視線を向けた。
「……どしたの??」
ヒロくんの顔を見ていたおじいさんは、あ、いや、とつぶやいて。
それでも、じっと、ヒロくんを見つめていた。
「なんかついてる??」
ヒロくんは不思議そう。そのまま僕たちの方を見て、首をかしげて見せる。
僕が、何もついてないよ、と言うと、ヒロくんはまた、おじいさんを見た。
「……名前を聞いてもいいかな」
「ヒロだよ」
「……ひろってどんな漢字?」
「太陽の陽と、道路の路。明るい路って意味だって」
「――――……とても、いい名前だね」
おじいさんはようやくヒロくんから目をそらして、少し俯いた。
「……具合、悪い?」
ヒロくんが心配そうに聞くと、おじいさんは、大丈夫、と言った。
「……陽路くんのお父さんて、どんな人?」
「お父さん? 何で急に??」
ヒロくんはちょっと笑いながら。
「えーと……オレ、似てるって」
「顔が?」
「顔もだけど、性格? お母さんが、お父さんにそっくりって言って、笑うから」
「そうなんだね……いいね、幸せそうだね」
「あー……でも、お父さん、入院してて」
「入院?」
「うん。退院したり入院したり。……なんか難しい病気なんだって」
「――――……」
そんな個人的なことを、会ったばかりのおじいさんに話すのはどうなんだろうと少し思いながらも。
なんだかおじいさんのヒロくんを見る目が、優しいから。……今は大丈夫かなと、思いながら。僕とあきくんと姫ちゃんは、ヒロくんたちが寄りかかってる塀の上に並んで座って、二人を見下ろしていた。
0
お気に入りに追加
99
あなたにおすすめの小説
薔薇と少年
白亜凛
キャラ文芸
路地裏のレストランバー『執事のシャルール』に、非日常の夜が訪れた。
夕べ、店の近くで男が刺されたという。
警察官が示すふたつのキーワードは、薔薇と少年。
常連客のなかにはその条件にマッチする少年も、夕べ薔薇を手にしていた女性もいる。
ふたりの常連客は事件と関係があるのだろうか。
アルバイトのアキラとバーのマスターの亮一のふたりは、心を揺らしながら店を開ける。
事件の全容が見えた時、日付が変わり、別の秘密が顔を出した。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
「短冊に秘めた願い事」
悠里
BL
何年も片思いしてきた幼馴染が、昨日可愛い女の子に告白されて、七夕の今日、多分、初デート中。
落ち込みながら空を見上げて、彦星と織姫をちょっと想像。
……いいなあ、一年に一日でも、好きな人と、恋人になれるなら。
残りの日はずっと、その一日を楽しみに生きるのに。
なんて思っていたら、片思いの相手が突然訪ねてきた。
あれ? デート中じゃないの?
高校生同士の可愛い七夕🎋話です(*'ω'*)♡
本編は4ページで完結。
その後、おまけの番外編があります♡
龍神様の婚約者、幽世のデパ地下で洋菓子店はじめました
卯月みか
キャラ文芸
両親を交通事故で亡くした月ヶ瀬美桜は、叔父と叔母に引き取られ、召使いのようにこき使われていた。ある日、お金を盗んだという濡れ衣を着せられ、従姉妹と言い争いになり、家を飛び出してしまう。
そんな美桜を救ったのは、幽世からやって来た龍神の翡翠だった。異界へ行ける人間は、人ではない者に嫁ぐ者だけだという翡翠に、美桜はついて行く決心をする。
お菓子作りの腕を見込まれた美桜は、翡翠の元で生活をする代わりに、翡翠が営む万屋で、洋菓子店を開くことになるのだが……。
「お節介鬼神とタヌキ娘のほっこり喫茶店~お疲れ心にお茶を一杯~」
GOM
キャラ文芸
ここは四国のど真ん中、お大師様の力に守られた地。
そこに住まう、お節介焼きなあやかし達と人々の物語。
GOMがお送りします地元ファンタジー物語。
アルファポリス初登場です。
イラスト:鷲羽さん
【完結】陰陽師は神様のお気に入り
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
キャラ文芸
平安の夜を騒がせる幽霊騒ぎ。陰陽師である真桜は、騒ぎの元凶を見極めようと夜の見回りに出る。式神を連れての夜歩きの果て、彼の目の前に現れたのは―――美人過ぎる神様だった。
非常識で自分勝手な神様と繰り広げる騒動が、次第に都を巻き込んでいく。
※注意:キスシーン(触れる程度)あります。
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
※「エブリスタ10/11新作セレクション」掲載作品
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる