上 下
2 / 28

2.

しおりを挟む

「そうだよね。頭なんて、打ち所が悪かったら、怖いもんねぇ?」

 姫ちゃんも頷きながらそう言ってくる。

「そうだよね、ほんとに」

 僕も改めてそう思って、頷いた。

「……その子ね、ヒロくんて言うんだけどさ。なんていうか……すごく良い子なんだよ」
「そうなの?」

「うん。優しくてさ。笑顔、可愛いし。お母さんにも優しいしさ。お母さんが忙しくて寂しいだろうに、我儘も言わないし。……ほんと、良い子なんだ」

 ヒロくんのことを思い浮かべながら、僕が言うと、あきくんは、そっかーと頷いた。

「そうなんだね。なんか、そう聞くと、うちの子と、チェンジしてやりたいな。良い子こそ、恵まれたとこで不自由なく暮らさせてあげたいなって思っちゃうけど」

 あきくんの台詞に、そうだねぇ、と頷きながらも。

「あ、でも、お母さんとヒロくんって、すごく大好き同士だからね。だからいい子なんだと思うから、他の家にチェンジとかしたら可哀想かも」

「そっか」
「うん。そうなの」

 僕は笑顔であきくんに頷いた後、思わず、ふう、とため息をついた。

「ヒロくんが、僕の話を聞いてくれたら良いのになあ……」
「ん? お母さんじゃなくて、ヒロくんの方?」

 あきくんの疑問に、うん、と頷く。

「お母さんはお仕事が忙しすぎて、家のことしてる時間が無いんだよね。それでも頑張って、ヒロくんのご飯はなんとか作ってるけど……でも、片付けとか、そういうのが全部後回しになっててさ」
「そっか~大変だな……」

 あきくんも、姫ちゃんも神妙な顔をしている。
 二人の住みつく家は、そういうことはないので、多分僕の言うことは、実感としてはあまり分からないんだと思うけど。

「ヒロくんはさ、しっかりしてるから、教えてあげれば何でも出来そうなんだけど……今は、それをやることだっていう認識がないだけ、なんだよね」
「掃除とかってこと?」
「うん。掃除もさ、洗濯とか、お茶碗洗うとか。ヒロくんならできると思うんだけど……」

 三人で、うーん、と考えこむ。

「でもまあ。……きいちゃんの言葉が聞ける奴、まだ居たこと無いもんな。ていうか、オレらのこと見える奴って、ほとんど居ないらしいし」
「でも稀には居るみたいだからさ……いつかって思うけど」

「うん、まあ……そうだな」
「そうだね」

 あきくんと姫ちゃんは頷くけれど、今までずっと、そんな人に会ったことがないから、二人は半分は諦めモード。……僕もだけど。


 三人でジャングルジムで遊んで、それからブランコに乗った。
 僕たちの姿は人間には見えなくて、ブランコが揺れているのだけは見えるから、ここを通りかかった人は心霊現象と思うかもしれない。

 だから、人気がない時間に遊ぶことにしている。

 色々話をしながら、しばらく遊んで、それぞれの家に帰ることにした。


「またねー!」
「うん、赤ちゃん、見に来てね」
「分かった、今度行くね!」

 二人と手を振って別れて、家までの道を歩く。

 少し先を、野良猫が歩いてる。
 ……猫は割と勘が良くて、僕の存在に気づいたりすることがあるので。

 ぽん、とジャンプをして、塀の上に飛び乗った。
 軽く飛べることができる。

 まあ実体あって、ないようなものだから。

 触ろうと思えば触れるし、すり抜けようと思えばすり抜けられる。
 便利なんだよね。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

龍神様の婚約者、幽世のデパ地下で洋菓子店はじめました

卯月みか
キャラ文芸
両親を交通事故で亡くした月ヶ瀬美桜は、叔父と叔母に引き取られ、召使いのようにこき使われていた。ある日、お金を盗んだという濡れ衣を着せられ、従姉妹と言い争いになり、家を飛び出してしまう。 そんな美桜を救ったのは、幽世からやって来た龍神の翡翠だった。異界へ行ける人間は、人ではない者に嫁ぐ者だけだという翡翠に、美桜はついて行く決心をする。 お菓子作りの腕を見込まれた美桜は、翡翠の元で生活をする代わりに、翡翠が営む万屋で、洋菓子店を開くことになるのだが……。

【完結】陰陽師は神様のお気に入り

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
キャラ文芸
 平安の夜を騒がせる幽霊騒ぎ。陰陽師である真桜は、騒ぎの元凶を見極めようと夜の見回りに出る。式神を連れての夜歩きの果て、彼の目の前に現れたのは―――美人過ぎる神様だった。  非常識で自分勝手な神様と繰り広げる騒動が、次第に都を巻き込んでいく。 ※注意:キスシーン(触れる程度)あります。 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう ※「エブリスタ10/11新作セレクション」掲載作品

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

「短冊に秘めた願い事」

悠里
BL
何年も片思いしてきた幼馴染が、昨日可愛い女の子に告白されて、七夕の今日、多分、初デート中。 落ち込みながら空を見上げて、彦星と織姫をちょっと想像。  ……いいなあ、一年に一日でも、好きな人と、恋人になれるなら。   残りの日はずっと、その一日を楽しみに生きるのに。 なんて思っていたら、片思いの相手が突然訪ねてきた。 あれ? デート中じゃないの?  高校生同士の可愛い七夕🎋話です(*'ω'*)♡ 本編は4ページで完結。 その後、おまけの番外編があります♡

捨てられ子供は愛される

やらぎはら響
BL
奴隷のリッカはある日富豪のセルフィルトに出会い買われた。 リッカの愛され生活が始まる。 タイトルを【奴隷の子供は愛される】から改題しました。

天之琉華譚 唐紅のザンカ

ナクアル
キャラ文芸
 由緒正しい四神家の出身でありながら、落ちこぼれである天笠弥咲。 道楽でやっている古物商店の店先で倒れていた浪人から一宿一飯のお礼だと“曰く付きの古書”を押し付けられる。 しかしそれを機に周辺で不審死が相次ぎ、天笠弥咲は知らぬ存ぜぬを決め込んでいたが、不思議な出来事により自身の大切な妹が拷問を受けていると聞き殺人犯を捜索し始める。 その矢先、偶然出くわした殺人現場で極彩色の着物を身に着け、唐紅色の髪をした天女が吐き捨てる。「お前のその瞳は凄く汚い色だな?」そんな失礼極まりない第一声が天笠弥咲と奴隷少女ザンカの出会いだった。

「恋みたい」

悠里
BL
親友の二人が、相手の事が好きすぎるまま、父の転勤で離れて。 離れても親友のまま、連絡をとりあって、一年。 恋みたい、と気付くのは……? 桜の雰囲気とともにお楽しみ頂けたら🌸

超絶! 悶絶! 料理バトル!

相田 彩太
キャラ文芸
 これは廃部を賭けて大会に挑む高校生たちの物語。  挑むは★超絶! 悶絶! 料理バトル!★  そのルールは単純にて深淵。  対戦者は互いに「料理」「食材」「テーマ」の3つからひとつずつ選び、お題を決める。  そして、その2つのお題を満たす料理を作って勝負するのだ!  例えば「料理:パスタ」と「食材:トマト」。  まともな勝負だ。  例えば「料理:Tボーンステーキ」と「食材:イカ」。  骨をどうすればいいんだ……  例えば「料理:満漢全席」と「テーマ:おふくろの味」  どんな特級厨師だよ母。  知力と体力と料理力を駆使して競う、エンターテイメント料理ショー!  特売大好き貧乏学生と食品大会社令嬢、小料理屋の看板娘が今、ここに挑む!  敵はひとクセもふたクセもある奇怪な料理人(キャラクター)たち。  この対戦相手を前に彼らは勝ち抜ける事が出来るのか!?  料理バトルものです。  現代風に言えば『食〇のソーマ』のような作品です。  実態は古い『一本包丁満〇郎』かもしれません。  まだまだレベル的には足りませんが……  エロ系ではないですが、それを連想させる表現があるのでR15です。  パロディ成分多めです。  本作は小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...