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第3章◇ふたりきり

「間接キス」

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 大体、今も、あの時のままの気持ちでいるのか、分からない。


 そもそも一体いつから、そんな意味でオレを好きだったのかも分からないまま。


 快斗は、初めて会った時からあんな感じだった。
 
 皆に好かれてるのに、何故だかずっとオレの近くに居てくれて。
 オレには、特別、優しくて。それは気付いてはいた。

 愁と一緒に居たい、とか良く言ってた。
 
 でも、あの日、Loveで好きだなんて言われる迄は、それは全部友情だと思ってた。

 家が目の前っていうのが一番の要因で、毎日毎日、一番最初に会って、最後まで会ってるからこその、特別感、なのだと思ってた。


 色々考えながら、シャワーを浴び終えて、パジャマ代わりのTシャツと半ズボン。
 タオルで髪を拭きながら、リビングに戻った。


「愁、クーラーちゃんとついた。それだけ心配だったから良かった」
「あ、よかった」

「ほら、水」
「ありがと」

「……おばさんがくれたやつだけど」

 笑う快斗からペットボトルを受け取った。


「オレも浴びてくる。ゆっくりしてな」
「うん」

 快斗が居なくなったので、ソファに座って、何となくぼー、と部屋を見回す。


 テレビとか、音が出る物が無いから、何か凄く、静か。
 快斗が出てきたら、物凄く、静かになっちゃうんじゃないかな。

「――――……」
 
 立ち上がって、スマホを手に取ると、音楽のアプリを立ち上げて、ランダムで連続再生にした。


 快斗との、沈黙が、気まずいかも、なんて。
 初めて思ってしまった。



 うるさくならない位の適度な音量で音楽を聞いていると、快斗が出てきた。
 風呂上がりの快斗、見るの、すごい久しぶり。

 少し見ないうちに、ちょっと男っぽくなった気がする。


 ――――……やっぱり、超カッコイイな、快斗。


 水も滴るいい男、とか言うけど…… 快斗の為にある言葉な気さえしてしまう。
 思わず見惚れていると。


「……相変わらず、オレの顔、好き?」

 クスクス笑いながら、快斗が言う。


「……うん。なんか、前よりもっとカッコ良くなった?」

「4か月しか経ってないからそんな変わんねえと思うけど」


 ぷ、笑いながら、快斗が言って、水を飲んでる。



「快斗、向こうでも、モテてる?」


 咄嗟に思いついて、そのまま口にした言葉に、快斗はちら、とオレを見た。


「……モテるよ。結構な頻度で告られるけど」
「そう、だよね」


「オレの顔って、女子ウケはいいからな……」


 まあ、そりゃそうだろうけど。
 一般人にしとくの、もったいないもん。


「それに転校生って、余計モテるかも」

「快斗だから、特別モテるんだと思うけど」


 付け加えて言うと、快斗は「そう?」と言いながら、少し笑った。


「あ、愁、おばさんが持たせてくれた中に、プリン入ってたけど、食べる?」

「うん、食べる」


 快斗が冷蔵庫から出してくれたプリンとスプーンを受け取って、ソファに腰かける。すぐ、水だけ持ってる快斗が、隣に座った。


「快斗は食べない?」
「今はいいや」

「そっか。じゃ、いただきまーす」

 快斗がすぐ隣に座ってるのが何となく気まずくて、ソファから滑り降りて、ローテーブルにプリンを置いた。

 すこし距離があくし、目線の位置もずれるので、ちょうど良い。


「……甘いの好きなの、相変わらず?」

「4か月じゃ変わんないよ。あ、このプリン、うまい」


「ふーん……やっぱり一口」

「――――……」


 あーん、と開いた口にプリンを入れる事。


 ……ていうか、オレ達、そんなのずっとやってきた。


 子供ん時から一緒だから、ちょっとちょうだい、とか、残り食べて、とか。

 お互いに全く気にしなかったから、ずっと全然平気でやってた、のに。



 一瞬、どき、として。



「……はい」


 そっとプリンをすくって、スプーンを差し出す。
 ぱくっと食べた快斗が「すっげえ甘い……」と、笑う。



 快斗の食べたスプーンを、プリンに差し込んで。



 ――――……間接キスとか。今更、何考えてんだか、オレ。




「こういうの好きで、何で太らないんだろ、愁」
「食べるより動いてるからじゃないかな」


「あれ、バスケ部は引退した?」
「うん、こないだ。最後の大会、負けちゃったから」


「じゃこれ以上食べてたら太るのかな?」

「…あ、そっか」


 ちーん。打ちひしがれていると。



「まあ愁は少しくらい太っても可愛いと思うけど」


 クスクス笑ってる快斗を、いやーな顔で見つめてしまう。



「気を付ける……けど、これは食べる」


 もぐもぐ。
 美味しい。





 ――――……間接キスが、気になるけど。


 





 
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