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第1章◇告白
「引っ越し当日」
しおりを挟む快斗の父の転勤は、何年かしたら戻ってくるという類のもので、建てた家は残す事に決まった。
快斗はそこに自分だけ残りたいと言い続けていたけれど、高校生に独り暮らしはさせられないという両親、特に母親の反対には勝てず。
だったら、オレ、高沢 愁の家に暮らせば良いのにと、こちらもまた散々駄々をこねた。
オレの父母は、もう少しでOKをくれそうだったのだけれど。
これまた、そんな迷惑はかけられないという、
快斗の母親の反対には勝てず。
結局、オレ達の、悪あがきは失敗に終わり、
快斗の転校が決まってしまった。
頭も良くて、運動神経も良くて、明るくて、優しい。
でもって、カッコイイ。
兄弟みたいに長く一緒に居たけど、快斗の悪いとこが挙げられない。
昔から、周りの友達も皆、快斗の事が好きだった気がする。
男女問わず人気者だった快斗の、連日のお別れ会は、全部無事に済んだ。
部活、クラス、小中高の仲良したち、公園の遊び仲間まで交友関係が全て一緒なので、結局オレもほとんど全部に参加した。
ほんとに人気者だったんだなあ、と実感しつつ。
日々、その会がひとつ終わるごとに、
快斗が居なくなる寂しさを思い知る事になった。
引っ越し当日。
快斗は、引っ越し屋のトラックを待つ間、オレの部屋に来ていた。
最後の日は落ち着いて、愁だけと別れたいから、と言われた。
見送りは断って、出発の時間も詳しい事は、誰にも教えなかったらしい。
あれだけ皆に惜しまれてた快斗が、最後の日はオレとだけ居たいと言ってくれるのは、少し、優越感。家が斜め前の、兄弟みたいな幼馴染で良かった、なんて思いもしたけれど。
でも、それ以上に、本当に寂しくて。
とにかく、別れる時は絶対に泣かないと、何日も前から気合を入れていた。
――――……泣き虫だった小学生時代。快斗はよく慰めてくれた。
高学年になる頃には泣かなくなったけど、それまで慰めてくれてた快斗への信頼感と安心感はそのままずっと続いてる。
小中高通してクラスは違う時も結構あったけど、家が斜め前なのと、中学からは部活が一緒だったのもあって、ほぼ毎日一緒に登下校してたし、放課後も一緒に過ごす事が多かった。
他の友達と大勢の時もあれば、2人きりで遊ぶ事も多々ある。
どちらにしても、いつも、快斗とは一緒だった。
これからも、大学が別になろうが、社会人になろうが、快斗とはずっと近い存在で居られたらいいな、と思ってたのに。
快斗がついに諦めて、転校が決まったと告げられた時は。
もうショックすぎて、涙も出なかった。
「――――……愁の側に居れなくなるのが、ほんと、嫌だな」
オレの部屋で、向かい合って座ってすぐに、快斗はそう言った。
「親父が転勤じゃなきゃ、ずっと一緒に居たのに」
「しょうがない、よね……。任期終わったらまた戻ってくるんだろ?」
「そうだけど……」
「……オレだって、やだけど――――……電話、しようね、快斗」
「……ああ」
「快斗の顔、見たいから、絶対ビデオ通話な?」
オレが言うと、快斗は、ぷ、と笑って、頷いた。
そのまま視線がオレには向かずに、
快斗は床を見つめたまま、しばらく無言でいる。
その少し俯いた顔を、じっと見つめる。
整った、顔。鼻筋が通ってて綺麗で、形の良い額と眉。揺るがない、綺麗な瞳。
――――……顔、見てるだけで、何時間でも過ごせそう。
「快斗の顔、直接見るのも、しばらく無理なんだよね……」
「……お前、ほんとオレの顔好きな」
「うん、好き」
素直に頷くと、快斗はぷ、と笑う。
「快斗よりカッコいい奴、見た事ないし」
「それはどーも」
クスクス笑って、そこでやっとオレにまっすぐ目を向けてくれた。
「――――……オレも、お前の顔、見れなくなるの、辛い」
「まあ……オレの顔はどこにでもあると思うけど」
自分で言って、苦笑い。
「……無いよ」
快斗はそう言って、ふ、と笑った。
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