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◆第一章

15.

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「……っ」

 突然されたキスを外して、ば、と退いて、琥珀から離れる。


「っ何で、キスすんの?」
「あー……なんとなく?」

「なんとなくでしないでよ!」

 口をごしごし擦ってると、琥珀は、拭くなよ、と言って苦笑い。


「足りてるんでしょ? 足りてるよね? もうしなくても大丈夫だよね?」

 そう言うと、琥珀は、んー、と考えながら、顎を触ってる。

「こっちで獣人の形でいるだけでも魔力は使うんだ。人型はもっとだけどな」
「……でも」

 だからって、まだ大丈夫だろうに。
 油断も隙も無い。 手が、早すぎ……!

「獣人の国なら、魔力なんか使わなくてもこのままで居られるんだけどな」

 琥珀の言葉に、ふうん、と頷きながら、ふと気になったことを聞いてみる。

「オレって、獣人の国って行けるの?」

 じっとオレを見て、首をかしげる。
 
「――――……オレが連れて移動すれば、行けなくはないけどな」
「けど?」

「行きたいか? ……オレは人間に変身できるけど、お前は変身できないだろ? ものすごく、目立つぞ?」
「――――…………偽物の耳つけるとかは?」

「……匂いがなあ……」

「人間の匂いって、するの?」
「する。それぞれの獣人で、匂いが違う」

「そうなんだ……」

 ふと思いついて、琥珀に近づいて、首の辺りでにおいをかいでみるけれど。

「なんも匂わない」
「人間はなぁ……感覚が鈍いよな」
「む……」

「基本はこっちも向こうも、変わらない生活をしてるが――――……人間が機械に頼って退化してるところも、オレ達は、自分たちの能力を退化させてはいないから」
「……退化って言わないでもらっていいかな」

 なんだか色々、ちょっと不愉快。

「運動能力も低いし、気配を感じたりする能力も、極端に薄いだろ。心の匂いとかも駄々洩れだ」
「まあ……否定できないけど……でも、色んな獣人が歩いてる世界とかすごい見てみたいなあ。ちょっと怖いけど」

「なかなか人間があっちに行くことは、ないぞ。 普通、望まないしな。ちょっと怖いとか言ってるけど、食われるとか、思わねえの?」
「え。……人間、食うやつ居るの?」

「さあ……? 居るかもな」


 がーん。
 じゃあ、行けないじゃんか。

 今度こそ、本当の意味で、完全に食べられちゃうのか……。

 眉を顰めて、やっぱり行かなくていいやと呟くと、クックッと笑ってた琥珀が、ぐい、とオレの顎を掴んで、上向けた。

「騙されやすいって言われないか? お前。なんでも信じるだろ」
「……ん?? 何、が?」

 オレの顔を離してから、琥珀はオレを見つめて、静かに話す。

「動物から進化した獣人は、そのままでは生肉は食べない。人間が動物を食べているのと同じ感じで、食事をしてる」
「……え、じゃあ、オレは食べられない?」

「誰も、食べないから安心しろよ」


 良かった。
 ……って、からかわれてるな、オレ。むむ。

「あ、でも……平気なら、やっぱ行きたいかも……」
「奇特な奴だな。 あんまり聞いたことがない。怖くねえの?」

「琥珀が守ってくれそうな気もするし。だって、上位種で、強いんでしょ?」
「オレ、守るとか、約束したっけ?」

 クスクス笑われて、むー-、と口をつぐむ。


「もういいよ。……それで? 何しに来たの?」

 琥珀は笑いながら、小さく頷いた。

「――――……ああ、オレが来た理由な……」
「うん。何するの?」

「獣人の国は、術師――――……こっちで言う占い師みたいなのの、もっと、能力が強いのが居るんだが……術師の言うことが、かなり重要視されるんだよ」
「うん……」

「術師のお告げで、オレはこっちに来た」

「……ふうん?」



「いくつか、探して、持ち帰らなきゃいけないものがある」


 なるほど。
 うんうん、と頷いていたら。
 オレのおなかが、ぐう、と音を立てた。

 琥珀としばし向かい合う。


「……オレ、お腹すいた」
「――――……ああ」


「……ごはんの準備しながら聞いていい?」
「……ああ」


 苦笑いで頷いてくれたので、オレは服を探し始めた。
 昨日脱がされた服を見て思い出す。

 そうだ。オレ。
 ――――……昨日シャワーも浴びないで、抱かれて、寝ちゃったんだ。

「後でお風呂入る……」

「――――……人間て、水浴びんの好きだよな」
「……嫌いなの?」

「好きじゃないし。魔法で清められるから、要らない」

「必要とか、そういうんじゃなくて、気持ちいいから入るんだけどな」

 そう言うと、琥珀は、一言。

「意味が分からない」

 そう言った。
 ……これ以上言っても伝わらないなと思ったオレは、うん、分かった、と頷いて、立ち上がって服を着終えた。



 こういうの、種族間のギャップっていうのかなあ……。




 ……まあ、とりあえず、あれか。

 琥珀がその探し物さえ、早く見つけられればいいってことなのかな。うん。

 

 


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