6 / 27
◆第一章
5.
しおりを挟むだけど、耳さえ出ていなければ、という話で。
今は耳が出てるので。
……何て言うんだろう。
服を着たって、耳が出てたら。もうなんか、絶対おかしいわけで……。
「……えっと……それで、オレのとこには何をしに……?」
呆然として、目の前に居る人型の犬もどき。いや、狼もどきとしか言いようがないものを、見つめながらそう聞いたら、ニヤリと笑った。
「用事が済むまで、世話になる」
「――――……世話……っていうのは、住まいってこと……?」
「まず、住まいと食事だな」
どこまでも偉そうで、くらくらしてくる。
オレっていつ、それを世話するって、言ったっけ……??
「……そうだ、食事って――――……?」
頭がパンクしそうだけど。現実的に何を食べるんだろうと、変なことが気になって、聞いた
次の一言でさらにパンクしかけた。
「お前の精気をもらう」
「……精気?」
精気……あ、生気?
……どっちにしても、どういうこと?
「言い換えれば、快楽とか、そういう類のものだ」
「……かい、らく……??」
かいらくって何だっけ?
「快楽」しか浮かばないんだけど、それは寄こせとか言われるようなものではないし、いやいや、一体、お渡しできるタイプの「かいらく」って、何? オレ持ってたっけ……?
「分からないのか?」
「……え、だって、今、食事の話でしょ? かいらくって食べ物……」
食べる物で、かいらく。かいらくをよこせ。 いや待って、「おまえのかいらく」って、何?
まままさか、オレを食べようっていうの?
オレのどこかに、かいらくってものがついてる? かいらく。何処の部分? それ食べられて、オレは生きていけるの?
うわぁー、もう、大パニック。
「――――……っ」
はっ! 狼の人間だから……肉? 肉を渡せばいいかな?
さっき、スーパーで豚肉のロース、買ってきた、それでいいかな。いいよね? ……っていうか、オオカミって、切り身の肉なんて、食べるのかな……わかんないけど!
「……パニックを起こしてるのは、色で分かるが――――……もう、結構限界なんだよな。貰うぞ」
色って、何……?
いや、そんなのより、限界って……。
「……っっオレ、食べてもうまくないから!! お肉焼いてあげるからっ」
「肉を焼く?」
「あれあれ……」
カウンターの上の買い物袋からちょうどこぼれ出て見えている、肉のパックを指さした。
すると、そいつは、何とも言えない顔で、苦笑い。
「――――……食べられなくはないが……魔力を補うには、別のものがいい」
「……っ?」
魔力を、補う……?
次から次へと、意味の分からない言葉たちに、もはや、思考は停止しかけている。
「――――……っ??」
そいつの手が、オレの腕を掴んで引きずり寄せる。
「……っなに……」
顎を掴まれて、上向かせられる。
「……っ何……?」
やっぱりオレ、食われちゃうの?
動物って、先に首とかにくらいついて、とどめを刺してから、ゆっくり食べる……って映像、見た事ある。
「やっ……やだやだやだ! 肉でいいならあげるから……っ」
言った瞬間。
不意に、唇に何かが重なって――――……。
言いかけてた言葉が奪われた。
え。
「……ん、うっ……?」
長い舌が、口内に入ってきて、舐め回す。
何これ。
――――……舌、から、食べられ……?
絡められて、そんな風に思うと、怖くてぞわっとした感覚に襲われて、必死で顔を背けようとするのだけれど、顎を掴まれてて、益々深くなる。
「んっ…………ん、ふ…………っ……?」
……やだやだ、何これ……。
……キス……されてる、訳じゃ、ないよね?……
食べられるのも嫌だけど、キスも、嫌だ……。
そう思うのに、逃れられないまま、口内を刺激されている内に、頭がぼうっとしてくる。
上顎を舐められて、体が、びくっと大きく震えた。
なんか、ヤバいものを感じて。
「やめ……っ!」
ぎゅ、と瞳を閉じて、オレは、胸に手をついて、少しだけど、離れた。
応援ありがとうございます!
4
お気に入りに追加
356
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる