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第3章

「言ったじゃん!」

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 魔王は特に何もしていないみたいに見える。人型の魔王は、思ったよりは普通の大きさ。ルカやゴウと、そんなに変わらない。

 ただ、目の前に立っているだけなのに、すごい圧を感じる。魔王の周り、空気が歪んでるみたい。

 整った顔はすごく、冷たく感じる。
 口元は少し笑ってるのに、どうしてこんなに、冷たく感じるんだろう。

「……っ」

 息が、出来ない。
 ……何だこれ。何もされて、ないのに、圧、みたいなのが……。
 苦しい。
 ぎゅ、と目をつむった時。

「――――ああ、そうか」

 低い声がして、途端にふっとびりびり感じてた圧が解けた。膝をつく。同時に息ができるようになる。

「人は、本当に脆いな」

 冷たい声。……ルカがあったかい太陽なら。魔王は……本当に氷みたい。
 は、と息をついて、ぎゅ、と床の上で手を握り締めて、魔王を見上げた。

「名は?」
「……ソラ」
「ソラ―――お前は、何者だ?」

 その質問に、オレは眉を顰めた。
 何者だ、て言われても……人間? としか浮かばない。それ以外に何がある質問なんだろ。でもなんか、人間て答えたら、怒らせそうな気がして、答えられずにいると。

「お前は、どこから来た?」
「――――……」
「あの戦いの場に、どこから降ってきたんだ」

 続けて聞かれるうち、何を聞かれているのかが、少し分かってきた。
 急に降ってわいたオレが、どこから来た何者なのかが知りたいんだ。
 ……何で?

「お前が現れた時の白い光を、私も覚えている」
「……」

「覚えているは適当じゃないな。――――お前が現れて、思い出した」

 近づいてきた魔王に、顎を取られて、グイ、と上向けられた。
 赤い光を放つ瞳に、ただもう、釘付けになる。

 ……そうだ。ルカが……何か、言ってた。
 魔王が現れた時も、光ったとか。
 
「あれからずっと、勇者らと居たのか?」
「……」

 小さく頷くと、興味深そうに、オレを見つめる。

「結界を張って、お前を見せないようにしたのはなぜだ?」
「……」
「王子はなぜお前を側に置いていた?」

 なんて答えたらいいのか。

 ……苦しいくらいの圧が解けたからと言って、怖いのには変わりはなく。こんな相手に、ルカと寝てるとか、ルカがオレを大事にしてくれてるとか言える気がしない。

 だって。
 ……ルカの、敵、だもん。こいつ。

「なぜ答えない?」
「……わから、ない」

 もうそう答えるしかない。

「見せないようにしてたなんて……よく、わかんないし」
「――――……」

「……オレは、東京、てとこから来た」
「トウキョウ……?」

 繰り返して、そのまま、不思議そうな顔を見せる。
 何だろう。少し、表情が違う、ような。

「それは、どこだ」
「……」

 これは本当に分からないから、首を振った。

「分からないことしかないのか」

 皮肉気に笑う。笑うと言っても、他の人が笑うのとは、違う。
 楽しそうでは、無い。

「もう一度聞く。お前は勇者にとって、なんだ。なにか 特別な力でもあるのか」
「――――……」

 そんなのは無い、と首を振る。黙っていると、魔王が、ユイカ、と呟いた。

「この者について、なにか分かったことはあるか?」
「はい……あの……」
「はっきり言え」
「……ソラは、勇者の恋人、だそうです」
「――――……恋人? この短い間に、勇者の恋人に収まったか?」

 勇者と恋人とか。
 ……とてもとてもまずいんじゃないだろうか。

「……まだ、恋人、とかじゃ……」

 そう言おうとしたのだけれど。

「――面白いな」

 ふ、と笑った魔王は、オレを指さした。かと思ったら、ふわ、と、オレは浮かび上がった。

「――――……!」

 そのまま、さっきまで寝ていたベッドに落とされる。起き上がろうとしたけど、動けない。
 魔王が、ゆっくり、近づいてくる。


 ……何でベッド。
 ――――……い、嫌な予感しか、しないんだけど……。

 ……ル、ルカと同じ趣味とかじゃないよね……泣き顔がとか、言わないよな。ゲームの勇者と魔王が、そんなドエロい奴らとか、そんな訳ないと思うのだけど。

 じゃあ何でベッド??



 ――――……ルカ……!! もー早く助けてよ……!!

 言ったじゃん、どこに居ても、追いかけるって……!!


 魔王とルカのお互いの結界が、お互いに感知できないから、なかなか直接対決になってないんだから、大変なのは分かるけど、もうマジで早く来て……!!




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