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第3章
「ルカの名を」
しおりを挟む「えーっと……聞いてもいい?」
「うん」
「ユイカは、魔王――様に、ソラをさらってこいって言われたの?」
「そうだよ。あ、名前は知らなかった」
「……?」
「あの町に飛んで、勇者と一緒に居る、一番弱そうな人間を連れてこいって言われて……」
「何それ、どんな選び方?」
一番弱そうな人間って。まあ間違いなくオレではあるけど。
眉を顰めていると、ユイカはオレを見つめて、同じように眉を顰めた。
「あのね、勇者たちが倒した、海の子は、魔王さまの可愛いペットだったの」
「海の子って……」
「あの子は、自分でも魔物を産むことができるすごい子で、魔王さまのお気に入りだったのよ」
「……ぺっと……」
あのでっかくて、狂暴なあれ? いっぱい魔物、確かに生み出してたけど、海は荒れてるし、超大変だったのに、あれが可愛いペット……?
「それの気配が消えちゃって、魔王様がそんなことするのは勇者しかいないって。それで、一番近い港町の船で行ったに違いないっていう話になってね」
なるほど……そのことで、ルカ達が居る場所が、魔王に分かったってことか……。
「勇者も、魔王様も、お互い結界が張ってあって、互いの姿は見えないんだって知ってる?」
「ん、知ってる」
ルカ、言ってたよね。魔王が居る付近の魔物は強くなるから、強い魔物情報を追って行って、魔王の場所を特定したって。本当だったら、最後の決戦になってた時の話だけど。
「勇者の城がある場所は知ってるけど、結界が強力だから下手に手は出せない。でも、魔王様は今回勇者の居場所が分かったのよ。可愛いペットを、勇者が倒したから」
「……うん」
「だから、奇襲をかけて、勇者を倒しに行くのかと思ったの」
「うん……って。え。そうなの?」
やばかったのでは、それ。
あんなに皆が楽しく宴をしてたところに来てたら。どうなんだろ、すぐに結界張れて、戦えるものなのかな。
……よかった、奇襲とかならなくて。
ん? 何で、ならなかったんだ? と首を傾げた所で。ユイカも、首を傾げた。
「そしたら魔王様が、前回勇者と戦ってた所に現れた男と話したいって言いだして、そいつをさらってこいって……そいつの気配がまったく感じられないから、絶対に勇者と同じところに居るはずだっていうの。それで、一番弱そうな男って言ったんだと思うんだけど」
「――――」
……何で? そこらへんから、全然意味が分からないんだよー!!!
確かに一番弱そうな男って、オレだと思うけど……。
奇襲をかけるよりも、オレと話すことを優先したってことでしょ?
それ、何で?
頭の中にはてなが山盛りになっているところで、ユイカがふっと、顔をドアの方に向けた。
「あ。来たかも」
「え」
「魔王さま」
全然オレは何も感じないけど。同じく咄嗟に、ドアの方を見つめた。
するとゆっくりと、ドアが開いた。
「――――」
うわ。
マジだ。マジで、ほんとの、魔王だ。
ビジュアルは人型で、さっき思ったまま。やっぱり、思ってるまま、なんだけど。
さっきの「不良漫画の敵番長」なんてことを言ってたオレは、バカだったと、ドアが開いた瞬間に知った。
――――……そんな次元じゃない。
ていうか、人じゃないんだって思い知る。
まだ離れた所に居るのに、
空気が、凍るみたいな感じがする。
ルカ。
思わず、心の中で、その名を呼んでしまった。
(2024/2/11)
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