上 下
279 / 293
第3章

「帰れてよかった」

しおりを挟む


「たくさん食えよ」
 アランに言われて、オレと、周りにいた人達は皆、いただきまーす、と新鮮な刺身を食べ始める。

「これ、ここでだけ食べてていいの?」
「他のとこには、他の奴が持ってってる」

 指さす方向を見ると、確かに、新たに置かれていくお刺身の大皿。

「漁師仲間と漁すんの久々で、すげえ楽しかった」

 アランの笑顔に、良かったね、と笑うと。

「ソラもありがとな」
「てか、オレはついてっただけだし」
「料理一緒に手伝ってもらったり、色々頑張ってもらったろ」
「んー……役に立った?」
「役にも立ったし、一人でやるより楽しかった」

 笑ってくれるアランにオレも嬉しくなって、そっか、と頷く。

 アランがモテるっていうのも、なんか分かるな。
 ただ、相手が何人もいるっていうのがおおっぴらっていうのは、この世界特有っていうか。自由すぎるけど。

「料理、結構覚えただろ?」
「うん」

 確かに、食材や、それぞれの調理の仕方とかも結構覚えられたかも。

「あ、そうだった!」
「ん?」

 すっかり忘れてたことを思いだした。

「オレさ、ルカのお城に戻ったらね」
「うん?」
「なんかすっごい真面目そうなジークって料理の人にね、料理を習わなきゃいけないの」
「……そうなのか?」

 ふ、と可笑しそうに笑うアラン。

「なんかね、料理の修業は厳しいですが、王子のためですし頑張れるでしょうって言われたんだよ?」
「王子のためですしって?」
「なんか、オレの、花嫁修業みたいな感じで思ってるんだと思う」
「おー……習うっつーか、修行、なのか? それは大変だな?」

 アランは、ますます面白そうに笑う。

「笑いごとじゃないのに、皆も笑っててさ~」
「まあいいんじゃないか? 一回修行したら、色々作れるようにもなるだろうし」

「……そうだけど。オレが、ルカのために料理修行とか。なんか不思議で」
「まあそうだろうけど……ルカのために作ってやりたいって気持ちはあるんだろ?」
「ん……あるけど」
「じゃあ頑張れば?」

 クスクス笑うアランに、まあそうだね、と笑ったところで、視界に知った顔。

「ソラ!」
「あ、ジェイだー」

 むぎゅ、と抱き締められた。

「ジェイ、料理作ってたの?」
「ん、さっきも港は行ったんだけど、すぐ始まりそうだったから即作りに戻ってた。今やっと落ち着いたから、出てきた。おかえり、ソラ。他の奴は……」
「あっちに皆いるよ」

 クスクス笑って、皆をそれぞれ指さす。

「ああ、皆、大人気な?」
「うん」

 ふふ、と笑う。

「さっきアランに聞いた。お前、魔物の腹に行ったりしたんだって?」
「あー……うん、行ったけど」
「頑張ったなー?」

 ぐしゃぐしゃと、頭を撫でられた。

「でも、ミウに連れてってもらって、すぐ出たんだけどね」

 そう言うと、ジェイは首を振って笑う。

「腹ン中のルカに、剣を届けたんだろ? すげーじゃん」

 めちゃくちゃ笑顔で、ジェイが言うので。

「ん!」

 嬉しくなって頷く。

「どうだった? 魔物の腹の中」
「どうだったって……んーと、どろどろしてて、ぐちゃぐちゃしてて……生ぬるくて……うーん、気持ち悪かった」
「へー」
「良かったなー、すぐ溶けるとかなくて」

「ねー、後から思った」

 アランとジェイが苦笑い。

 そう思うと、ほんと、帰ってこれて良かった。










しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

もうやめましょう。あなたが愛しているのはその人です

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:195,620pt お気に入り:4,830

魔性の男は純愛がしたい

BL / 完結 24h.ポイント:106pt お気に入り:529

トレード‼︎ 〜婚約者の恋人と入れ替わった令嬢の決断〜

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:8,878pt お気に入り:369

鳴けない金糸雀(カナリア)

BL / 連載中 24h.ポイント:333pt お気に入り:56

魔族に捕まった殺し屋が触手に産卵される話

BL / 完結 24h.ポイント:106pt お気に入り:34

天涯孤独な僕が、異世界転生しちゃいました!?

BL / 連載中 24h.ポイント:305pt お気に入り:72

好きが言えない宰相様は今日もあの子を睨んでる

BL / 完結 24h.ポイント:8,143pt お気に入り:1,692

竜の歌

nao
BL / 連載中 24h.ポイント:106pt お気に入り:2,086

処理中です...