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第3章
「帰還」
しおりを挟む港に近づくと、集まっている、たくさんの人達の姿が見える。
「何で帰るの分かったんだろ」
オレが言うと、アランは笑った。
「波が静まった時点で分かってたから、多分交代で帰ってくるの見てたんだと思うよ。見えたから、皆を呼んだんだろ」
「あ、なるほど」
すごい。……大歓迎だ。
まあ、そっか。シャオの町は、海の町だもんね。海に出られなかったら、どうしようもないところを、ルカ達が救ったんだもんね。
「階段下ろすの時間かかるから、先ルカの魔法で下りてていいよ」
そう言ったアランに、ルカは首を振った。
「船を出したお前が居ないとおかしいだろ」
ルカがそう言うと、皆も頷く。もちろんオレも。
出てから何日経ったんだろう。
随分長かったような気もするし。意外と短かったような気もする。
魔物と戦ってた時間はすごく長くて、その後皆と楽しかった時は、短かったのかな。そんな風に思う。
近づくほどに、港が賑やかで、喜んでる空気が、ものすごい伝わってくる。自然と笑顔になるのは、皆も一緒みたいで。
アランがゆっくりと接岸させて、階段をかけてから、皆で船を下りた。数えきれないくらいの人達の歓声と拍手の中で、町長がルカに歩み寄ってきた。オレ達全員を確認すると、ルカに対して、深く敬礼する。
周りの人も敬礼し、それがどんどん後ろの人達にも伝わっていって。不意に静かな空間に変わった。
壮観。
集まったたくさんの人達が、ルカに近いところからさーっと静かになっていって、ルカと皆に敬礼している。
オレはもちろんおまけだけど、その光景に、なんか感動しすぎて、じわ、と涙が滲ぶ。
「ルカ王子と皆さんの勇敢さに感謝いたします。この町と海を救って頂いたこと、決して忘れません」
「ああ」
「無事に帰ってきてくださり、本当になんと感謝の言葉を申し上げたらいいか……本当にありがとうございました。何度お礼を言っても……」
ずっと続きそうな町長の言葉に、ルカは、「礼は一度でいい」と言った。
「魔物を倒すのは、倒す能力があるオレ達が行けばいい」
ルカは、ふ、と笑って、周りに聞こえるように、はっきりとそう言った。
「アランと、この町の船の技術が無ければ、海にすら出られなかった。これからもっと栄えてもらえればいい」
「はい。ありがとうございます」
「だからもう礼は良いって。それより――――宴の用意はできてるか?」
ニヤ、と笑ったルカに、もちろんです、と言う町長。
やりとりを見守っていた町の人は、町長がもう一度深く頭を下げると、わぁ、と歓声を上げた。
あ、それなの?
急に変わった雰囲気に、オレが苦笑いを浮かべていると。
「アラン、お帰りー!」
アランは仲間たちにもみくちゃにされている。
町の女の子たちが、ルカの腕をとって、王子来てください、と嬉しそう。
ゴウとキース、リアとオレにも女の子たちが囲んできて、ご案内しまーす、と大騒ぎ。
「ルカ!」
アランの声に、ルカが振り返る。
「先飲んでろよ、うまい魚とってくる」
「今からか?」
呆れたように言ったルカに、アランは自分の周囲の仲間を見回してから、楽しそうに笑う。
「こいつら、久しぶりに漁に出たいって。オレも行きたいから行ってくる。――――うまい刺身、食わせてやるよ」
「分かった。待ってる」
「またあとでな」
アランがオレ達にも手を振りながら、また海の方に向かっていくので、こっちも手を振り返す。
「気を付けて」
「お~」
アランと別れて、案内された先は、綺麗な水色の花の咲く大きな樹の下だった。
桜。みたい。でも水色。
あっちの世界には無かったな。すっごく、綺麗。
風が吹くたびに花びらが舞う。
下にシートみたいなものが敷かれていて、そこにテーブル。
次々、運ばれてくる料理やお酒。
うわー。
……何度目だろう、宴。しかも一番、大騒ぎ。
残らず町中の人が来てるのかなと、笑ってしまう。
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