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第3章

「勇者って」

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 んー、と考えながら、ルカを見上げる。

「ルカが、調べてくれるって言ってるしさ。これは考えても仕方ないって分かってるんだけど。なんか、急に消えたらやだなあと思って……あと、オレがこっちに居ると、向こうの家族とかはどうしてるんだろうっていうのもやっぱりあってさ……居なくなって、すごい探してたら困るなあって……なんか、もう繰り返し考えちゃうっていうか」
「……なるほどな」

 ルカが、ふ、と息をついて。それから、オレを抱き寄せて、仰向けに寝た自分の上に乗せた。そのまま、ぎゅ、と抱き締められる。

「考えるのは仕方ないだろ。家族のことが気になるのも」
「……うん」

「でも考えたって、どうにもならないこともあるからな。そもそもお前、否応なくここに連れて来られてる訳だしな。考える余地もなかっただろ」
「……そだね」

 ルカの言い方に、クスッと笑ってしまう。
 確かに、考えることもなく、ここに居たんだった。

「言っただろ、ここに居るならずっと一緒だし、居なくなったら探すって」
「……うん」

 どうやって探すとかは分かってないから、だから、その時はもう会えないんじゃないかなとオレは思ってしまってて。それで考えちゃってる気がするけど。

「死んでも探すから、何も考えずに、そっちで楽しんでろよ」

 ルカのセリフに、笑ってしまう。
 ルカの体の上で、頭を起こして、ルカを見つめる。

「オレ、こんな風に、同じこと、ぐるぐる考えるの、人生で初かも」

 そう言ったら、「……そうだろうな。今まであんまり悩んだこともないだろ?」と、ルカが笑う。

「……自分で言うのはいいけど、ルカにそう言われるのはムカつくんですけど。ていうか、ルカ、そこまでオレの過去知らないじゃん?」

「知らねえけど……あんまり考えてなさそうなのは、見れば分かるだろ」
「ぐ。……なんか、もうほんと失礼!」

 むむむと、怒ってると、ルカは面白そうに笑って。

「だから似合わねえことしてねーで、楽しんでろっつーの」
「――――……」

「もし向こうの世界に飛ばされても、オレが探して、絶対に会いに行くから、それまでは、そっちで楽しく生きてろよな?」
「――――……」

「まあ、オレが居なくて、死ぬほど寂しいだろうけどな」

 ふ、と偉そうに笑うので。

「ルカって、根拠不明の自信がすごすぎて、謎すぎる……」

 これくらいじゃないと勇者なんてやってられないのか。
 何だかもう可笑しくて、クスクス笑ってしまうと。

「言っておくけどな……オレだって、お前が居なくなったらって考えるのは嫌だからな」
「――――……」

「一緒に行けるなら守るけど、居なかったらと思うと、不安はある」
「……ルカ……」

「それでも、絶対探すって決めてる。例え何年掛かっても、諦めないで探すから。待ってろよな」

 そんな言葉に、ふ、と笑ってしまう。

「分かった。ルカが来るまで、楽しく過ごしながら待ってることにする……」
「ん。そーしろ」

 クスクス笑うルカに、ぽふ、と押し倒されて、乗られる。


「……するの??」
「当たり前」

「……良い話したから、このまま寝ようかなーとかは?」

 じっと見つめながら言ってみると。
 ルカは、可笑しそうに笑って。

「良い話したところで、色々体で確かめ合うっていう方がよくねえ?」
「――――……」

 勇者って。
 ……清いもんだと、ほんと、思ってた。

 なんて浮かんだ自分に笑ってしまいながら。
 重なってきた唇に、瞳を伏せた。






◇ ◇ ◇ ◇



 翌日。
 朝食を終えて、皆、甲板の上。 




「見えてきたぞ」


 アランが、声をあげたので、皆でアランの見る方向に目を凝らした。
 数日前。荒れた海に繰り出した時に、すぐに見えなくなった港が。

 今日はずいぶん遠くからでも、はっきり見える。

 本当に良かった、無事に帰ってこれて。

 街の人達、喜ぶだろうな。
 ルカ達はまた、大歓迎されるんだろうなあ、なんて思いながら、オレのすぐ隣に立ってる、勇者の笑顔を見上げた。










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