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第2章
「誰かのため」
しおりを挟む「誰かのため」
「そうだ。ソラ、酒出してきてくれる?」
「あ、うん。分かった」
アランの言葉にオレが頷くと、皆、嬉しそうに笑う。
やっと飲めるって感じなんだろうなあ、皆。お酒好きなのに、海に出てからいつ戦うか分からないせいで、飲めてなかったもんな。
良かった、ほんとに。倒せて。
「ソラ、手伝うか?」
ルカが声をかけて立ち上がりかける。
「大丈夫だよ、隣の部屋の棚だから持ってこれるよ?」
「いや、やっぱり一緒に行く。一人だと少ししか持てないだろ?」
立ち上がって、オレの隣に並ぶ。
「え、そんなに飲むつもりなの?」
笑いながらルカを見つめると。
「つか、皆、飲むよな?」
ルカが皆を振り返ると、皆も当然、みたいな顔で笑ってる。
「てことでやっぱ、手伝う」
「うん。そうだね」
あは、と笑いながらルカを見上げた。
一緒に酒を置いてた部屋に移動して、しまい込んでいたお酒を出していく。
「良かったね、お酒、飲めるようになって」
酒の種類を見てるルカを振り返ると、そーだな、と笑うルカ。
「ソラも少しなら飲んでいいぞ?」
クスクス笑ってそう言われて、「どうして少しなの?」と聞くと。
「お前大体眠り始めるから」
「えー、オレ朝っぱらから寝ないけどー」
「お前、昼間だって寝てたじゃんか」
「いつ?」
「結婚式の時、酒飲んで寝てたろ?」
「…………」
そういえば、そんなこともあったような気がする。
「飲み終えたら、オレとソラはベッドだからな? あんま飲むなよ?」
クスクス笑いながら、オレの頭をよしよし撫でてる。
……うう。さっき自分から言ったけど。終わったら、ベッド、とか。やっぱ恥ずかしい。
そんなことを思いながらも、オレは、ふ、とルカを見つめなおした。
「――……」
さっきまでこの人は、めちゃくちゃ強い相手と対峙していたんだなあと思うと。
今の穏やかな感じが、信じられない。
「……なんかさ」
「ん?」
「やっぱりルカも皆もすごい」
「ん?」
「アランも、船に結界なんて張ってるしさ……。皆も、あんなデカいのと戦うのとか、普通無理だと思うし。普段の皆を知ってると、どうしてできるんだろって思っちゃう」
「まあ、やるしかないってとこもあったけどな、オレは」
「……そっか」
「あいつらは、別に戦わず普通に暮らしててもいいはずだけど……まあ能力があるってことと、戦う気があるってことだろうな」
「ん……」
「自然と、自分が合うところに行くもんだろ、人間て」
ルカはそんな風に言いながら、ふ、とオレを見つめる。
「お前がここに来たのも、そういう運命なんだろうな?」
「……どうなんだろうね?」
「そう思っとけば?」
クスクス笑って言うルカに、そだね、と頷く。
「ソラは、料理を作ってる時、楽しそうだぞ? 甘いものを作ってる時もそうだったけど」
「そう?」
「楽しいと思えることをすればいいと思う」
「ルカは、戦うの楽し……くは無いと思うけど……つらくないの?」
「つらい? ……つらいというか、大変な時はあるけどな。さっきもまあまあ条件厳しかったし。でもあれで倒せれば、誰かが救われるだろ。オレはそっちが楽しい」
「――そっか」
ほんと、カッコいいなぁ。
自分がすることで、誰かが救われる。それが楽しいって……。
なかなか言えないよね。すごい。
……うまく言えないけど。
何だか、その覚悟にひそかに感動してしまう。
生きてきて、そんな風に思った事はなかったな。
「オレね、ルカ」
「ん?」
「このままここに居るにしても、どこか別の所に居るにしてもね」
「ん」
「ルカみたいに、誰かのためにとか……頑張って生きることに決めた」
「――……」
言うと、ルカは、ふ、と笑んで。
「ここに居ろよな。誰かじゃなくて、とりあえず一番に、オレのため、がいい」
笑み交じりにそう言ったルカに肩を抱き寄せられて、頬に口づけられた。
しれっと、恥ずかしいこと、平気で言うなあ……。
オレはついていけずに、照れながら思う。
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