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第2章
「キッチンにて」
しおりを挟むキッチンに降りて、アランと食材の前に立つ。
「ソラって料理はどっかでやってたのか?」
「母さんがね、お菓子作りが仕事の人で、でも料理もすごく上手で」
「習ってた?」
「うん。小さい頃から一緒に作ってた」
「なるほど」
「でも、オレが今まで居たとことは、食材とかも違うし、味も違うし」
「ソラが居たとこと、そんな違うのか?」
「うん。違う」
「そっか。……でも、食材の調理の仕方が分かってくれば、できるって感じか?」
「そうなるように頑張る。アランもさ、ジェイみたいに、お店で料理したりするの?」
聞くと、アランは首を振る。
「オレは、船で調理担当をやる機会が多かっただけ。まあ好きだから、自然とそうなった感じ」
「ふーん、そうなんだ」
なるほど、と頷いてると、アランは、ニヤ、と笑ってオレを見た。
「女の子にもモテるんだよな~、料理出来ると」
「――――……そうですか……」
ああ、そうだ。そういう人だった。
むしろそっちがメインの理由なんじゃないだろうか。
なんて思いながら、苦笑い。
「なんだよ、そうですかって」
アランはおかしそうにクックッと笑いながら、オレを見る。
「だって、そういえば、アランてそういう人だったっけと思って」
「そういう人って?」
「最初アランを探してた時さ、どの女の子のとこに居るか分からないから探すの大変って、町の人達が言ってたなーと思って」
ぷぷ、と笑ってしまう。
「ここ何日か、マジメに船のことしてるアランしか見てなかったから。料理は女の子にモテるとか、まあ分かるんだけどさ」
「ソラも女の子に料理作ってあげたことあるのか?」
色んな食材の中からいくつか選びながらアランが聞いてくる。
「ちょっと朝ごはんとかならあるけど……ちゃんと作ったことは無いかも」
「ふうん……でも、ルカには、作ってあげんの?」
そんな質問に、ん? とアランに視線を向ける。
「べ、つに……ルカだけ、のじゃないし……」
そう言うと。
アランは、ふ、と笑って、「はいはい」とオレを撫でてくる。
「もー、撫でないでよ」
「いいじゃん、ルカもよく撫でてるし」
確かにそうだけど。
……でもルカは。もう慣れたし……。
……ルカなら良いってことみたいで、なんか言うの恥ずかしいけど。
言わずに髪を整えてると、アランが笑いながらオレを見る。
「まあ、とりあえず、まじめに作り始めるか」
「うん」
作業台みたいなとこに並べた食材をオレに渡しながら、アランが話し始める。
「何日海に居るのか分かんねえけど、とりあえず食材を無駄にしないことが大事。栄養も考えるし、それぞれの食材の期限みたいなのがあるから。それに注意。そういうのも覚えて?」
「うん」
「とりあえず、ジェイが最初の数回は新鮮なものから食えって色々入れてきてたから、そっちから食おうぜ。さっき、全部そん中突っ込んだんだけどさ」
言われて、アランの指す扉を開けると、そこは冷気が流れてる。
船に冷蔵庫ついてるんだ。じゃあ結構、もつんだな。
「何からすればいい?」
「野菜切るとこからするか」
「うん」
袖をまくってると、エプロンを放られた。
「腰辺りに巻いて」
「ありがと」
おー、なんか、一気に料理人みたい。
めちゃくちゃ気分が上がる。
「あ、この刀、おいといていい?」
ルカに腰の後ろ側につけとくように言われた短剣に気付いて、腰から外した。
「何、刀なんて持ってたの?」
「お昼からずっと持ってろって持たされた」
アランは、クスクス笑って、受け取った刀を、部屋の隅の椅子に置いた。
「ルカ、心配性だな?」
「……まあ……」
「つか、ソラは刀で戦ったり、できんの?」
「……出来ないけど、ほんとにいざという時の為だって」
「なるほど……」
エプロンの紐を腰の所で結んで、手を洗う。
同じく手を洗ったアランが、手に持った包丁を渡してくれる。
「ソラの包丁だってさ。ジェイがあげるって言ってた」
「え、そうなの? 言ってくれたら良かったのに」
「なんかもう箱にしまい込んでたみたいでな」
「そうなんだ……」
綺麗。よく切れそうな包丁。
「わー。うれしー……帰ったらお礼言おう」
「ん、じゃあソラ、こっち来て、薄切りにして」
「はーい」
新しいエプロンと新しい包丁で、やる気が最大限まで高まってる。
張り切って返事をして、アランの言った野菜の薄切りを始めた。
何となく。
ただついてってるだけじゃなくて、自分が何かするっていうのが。
やっぱり、嬉しいなと、すごく思う。
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