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第2章

「クッキーが可愛い?」

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「よし、これで材料はとりあえず全部そろったか?」

 台に並べられた材料をざっと見て、うん、と頷く。

「ありがと、ジェイ」

 急にお菓子作らせてほしいなんて頼んで、こんなに協力してくれるとか、普通無いよなあと思って、心から感謝。

 ジェイって、なんか、ほんと優しいというか。
 良い人だ。


「ん。あ、なあなあソラ」
「うん?」

「このクッキーさ、売っても良い? ちゃんとソラのクッキーって事で売るからさ。入った金額のいくらか、渡すし」
「え、そんなの、いいの?」
「いいのって、当たり前だろ」

「じゃあ、それってオレが稼いだってことになる?」

 嬉しくなって聞くと、当たり前だろ、とまたジェイが笑う。

「わー、すごい嬉しいかも! 美味しく作ろうー」
「なに、稼いだこと、ないのか? ソラ」

「あー……うん、無い」

 向こうではアルバイトはしてたけどね。

 ジェイが少し不思議そうな顔をする。


「ふうん? 家が金持ちとか?」

「……ん、まあ。そう、かな」
「ふーん?」

 はっきりちゃんと答えないオレに、ジェイは少し考え深げにオレを見ていたけど。


「ソラって、もしかして、ちょっと訳アリか?」

「……うん。ごめんね」

 言えなくて。
 そう思いながら謝ったら、ジェイは、ぽんぽん、と背中を叩いた。


「いいよ、別に。――――……能天気そうな顔してんのに、訳アリなんだな」
「何それ」


 ぷ、と笑ってしまうと、ジェイもクスクス笑う。


「まあ、何にしても、自分で稼ぐの楽しいよな?」
「うん、嬉しい」

 笑顔で答えると、ジェイもまた笑って、頷く。


「じゃあ昨日よりうまいの作って、売れるようにしようぜ」
「うん」

「あぁ、そういや、ソラ達が寝てる間に、昨日残ってたクッキーを町の子供や女子達に食べさせて回ってたんだけどさ」
「うん」

「すげえ大好評。甘味が足りないとか言われるかと思ったけど、優しい味で美味しいってさ」
「ほんと? やったー!」

「オレ、菓子って甘い方がいいと思ってたんだけど。エネルギーにもなるしさ。そうじゃないみたいだな」
「そっかー」

 嬉しいな。
 そう思っていたら、ジェイが可笑しそうに笑った。


「ははっ。そういう顔かもなー、ルカが気に入ってんの」
「ん?」

「何でもない。さ、始めるか」


 ぽい、とエプロンを渡される。



「うん!」

 昨日と同じ、エプロンつけて、料理人みたいな恰好に変身。
 手を洗って、2人で分量決めながら、相談しながら。


「なんでこれこんなに固いの……」

 卵はやっぱりでかくて、割りにくい。

 ……これを生んでる動物が見てみたい。恐竜みたいだったりするのかな……? あ、でも、ダチョウとかってこんな卵だっけ??

 悩みながら卵と格闘してると、ジェイにぷっと笑われる。
 頑張って割って、混ぜて、材料に混ぜていく。


 なんだか、こっちに来てから。
 ルカに、良い意味でも悪い意味でも、とにかく引っぱり回されて、
 自分から何かしたり、あんまり無かったからかな。

 昨日も今日も、作ってる時、すごく楽しい。
 なんか、自分の意志で、自分のしたい事、できてる感じで。


「ね、ジェイ、クッキーさ、昨日と同じ感じで作ろうかなって思ってるんだけどね」
「ん」

「やっぱりお菓子は、ちょっと可愛くしたいんだ。丸も良いけど、形を色々変えたいの。ミウ型やクマも良いけど……色々作りたい。絞り出しとかできるかなー……」
「絞り出し?」
「うん」

「んー、とりあえず、使える器具は全部ここにあるから、使えるなら何でも使っていいぞ?」
「うん。ありがと」

 色々漁りながら、ふと。昨日のことを思い出す。


「ルカがさ」
「ん?」


「ミウとかクマのクッキー、可愛いって言ってくれてたからさ。ルカでもそう思うんだなーと思って」

 昨日、そう言ってくれてた時の、ルカの笑顔を思い出して、クスクス笑ってしまう。

「ルカでもそう思うんなら、子供とかにはもっと可愛いって思って貰えるよね?」

 そう言って、ジェイに視線を流すと。
 ジェイは、ふ、と笑った。


「ルカが可愛いって言ってたのは、ソラが嬉しそうに作ってたからだろ」
「え」

「まあちょっとはクッキーも可愛いとは思ったんだろうけど。言ってたじゃん、一生懸命作ってたからってさ、お前が可愛いから、クッキーも可愛いんだろ、ルカは」


 何度か瞬きしてから。
 思わず、かあっと赤くなった。


 そうだ、なんかそういえば昨日そんなような事言われて、あん時も赤くなったんだ、オレ。


 ――――……今も、何で赤くなってるのか、よく分かんないけど。
 耳が、熱いし。何これ。 




「……ソラ、真っ赤。ルカに見せてやりたいな、こんな会話で真っ赤になるとこ」

 クックッと笑いながらジェイがオレを見る。


「……やめてよ。ルカ、絶対笑うし」
「ルカにとってソラが可愛いから笑うんだろ? つかお前、最近分かったとか言ってるけど、結構ルカの事好きだよな?」


 クスクス笑うジェイ。
 ますます熱くなっていく。


「……も、いいから、早く作ろ」

 パタパタ顔を扇ぎながら、そう言うと、ジェイは笑って頷いた。
 ちら、と浮いてるミウを見上げると。


 何だかとっても楽しそうにオレを見ていて。
 ふ、と笑顔になってしまった。
 


 


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