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第2章

「出会えたことに」

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「おう、ルカ、ソラ」

 ジェイが振り返る。


「おはよー」

 挨拶をすると、ジェイは、オレとルカを見て、苦笑いを浮かべた。


「ルカ全然酔わなかったんだろ、あの酒。すげーな……」
「ああ。別に」

 とか言ってるルカを見て、目が点。


 ……すっげー酔ってましたけど、この人!!

 キスしてくる手や、触ってくる手が熱すぎて、溶けそうだったし!!


 めっちゃくちゃ甘々のデレデレ感が半端なくて……っっ!!



 死にそうに恥ずかしい目に遭ったっていうか!!




「――――……っ」


 ……っ言え、ない。

 く、っそーー!


 確かに泥酔とか、ぐでんぐでんとか、そういう意味での酔っ払いでは無かったけど!!


 ものすごい、酔ってたぞー!!



「……何ソラ、すげえ面白い顔してんの?」

 気づいたジェイが、そんな風に聞いてくる。


「だって…… 酔ってた、し……」
「ん? 酔ってたの? ルカ」

 オレの歯切れの悪い言葉に、ジェイが首を傾げながらルカを見ると。


「んー? ……まあ。多少な? でも全然平気」

 
 ルカがそう言う。

 ………つか、あれは、オレが平気じゃなかったっていうか……っっ。

 むむむむー、と言いたくても言えずにいると、ジェイがまた。


「昨日、ソラ抱けた?」


 とか、言い放った……。
 …………マジ、意味、わかんない。


「当たり前だろ」

「じゃあ酔ってねーんじゃねえの? 酔うと出来なくなんねえ?」
「ソラとすんのに、出来ねーとかなんねー気がするけど」



「――――……っっっっ」



 で、りか、しー。


 この世界に来てから、オレ、ものすごい、この言葉を叫んでる気がする。
 心の中で。

 何なら、日本ではそんなもの、そんなに求めてなかったのに。
 まさか、ゲームの世界で、そんなものを、こんなにも求める事になるなんて思わなかった……。


 ほんと、皆揃って、あっけらかんとしてて。
 ……恥ずかしいことじゃないのかなあっていう、気がして……………。
 
 いや。そんな気、してはこないな、うん。


 もしこの世界の全ての人が、これが全然平気で会話してようと、オレが平気で、ルカに抱かれた話を全部わあわあ語れる日なんか、絶対来ない。

 ……よね? どうしよう、その内毒されていったら。超嫌だ……。


 悩んでると、ルカと話していたジェイが笑った。
 

「とりあえずクッキーの間はソラを預かればいい訳ね」


 オレが悶々としている間に、今日の話に変わっていた。
 ジェイの言葉に顔を上げると。

「目ぇ離すなよ」

 ルカの言葉に、ジェイは不思議そうな顔をして、ぷ、と笑った。


「何? 目ぇ離したら ソラ、逃げんの?」

 クスクス笑いながらジェイがオレを見るので、プルプルと首を振っていると。

「まあ……誰かに狙われてるかもしれなくてな」
「へえ? そんな兆候があるってこと?」
「そんなとこ、かな」

 ルカの言葉に、少し視線を落とす。

 ……オレをここに連れてきたのが、誰かなのか。何か、なのか。
 ――――……まあ、全然分からないけど。

 まあ間違ってはない、のかな……。


「ふーん……分かった、目ぇ離さないようにする。けどそんな心配なら、クッキー焼けるまでここに居たら?」
「――――……そうなんだけどなー。少しは離れる練習もしようと思ってな」
「ふーん?」

「居る時間が増えるほど、目に見えるとこだけに居させるとか、無理になると思うし。……まあ、誰かがソラ見てくれてる間に短い間から、練習しとく」

「そう、なんだ。ふーん……」


 ジェイがオレを見て、クスクス笑う。


「じゃあ終わったら、ソラを船の所に届けるから。オレのかわりに、アランにこき使われてきてよ」


 そんな言葉に、ルカは苦笑いしながら。


「分かった、行ってくる。じゃあな、ソラ。ミウもここに居ろよ」

 最後に、ミウにも言って、ルカはオレの頭をぐりぐり撫でてドアに近付いて。
 ふと振り返った。


「あ、ジェイ、金とかいくらかかってもいいから」
「はは。 りょうかーい」

「ソラ、持ってこいよ、焼いたの。あー、城行くかもだし、余ったら全部持ってこい」
「うん」

 笑顔で返すと、ルカは、ふ、と笑んで。ドアを開けて出て行った。
 ぱたん、と、ドアが閉まる。


 昨日ルカが酔っぱらってる時、少しだけ離れたりもしたけど。
 こんな風に、出て行く姿を見送る事って、ここに来てからほとんど、なくて。



 ――――……少し、不安な。心細いような気がするのと。
 何だか、 少し切ない、ような。



「ルカって、お前の事、ほんと大事な?」


 クスクス笑うジェイに、うん、て言うのも可笑しい気がして、
 少し首を傾げて見せた。


「さて。作り始めるか。あ、また実、取ってくる? 先に取りに行く?」
「うん、欲しい。 甘酸っぱい実とかはある?」
「色々種類あるけど。入れんの?」
「食べてみてからかなあ」

「オッケイ、味見るなら一緒に取りに行こう」
「うん! ミウもおいでー」

「みゃ」


 あ、返事した。

 ふふ。可愛い。



 ジェイとミウと一緒に店を出て、実がなってる場所に向かって、歩き始めた。



 


 ルカが、居ない。


 ――――……もしこの世界に来た時に、ルカに会わなかったら。



 ずっとこんな不安な気持ち、だったのかなあ。



 ルカと居ると。
 なんかあんまりな事が色々合って、

 全部、いっぱいいっぱいだったけど――――……。


 不安とか。

 ……感じずに、居られたなあ……。

 感じても、すぐに不安を潰してくれるというか。




 何だか。ふっと。

 ――――……密かに、ルカと会えたことに、感謝してしまった。






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