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第2章

「溶かされる?」

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「ソラ」

 皆の少し後ろを歩いていたのだけれど、ルカに腕を掴まれる。
 

「隣に居ろよ」
「……ん」

 ルカを見上げる。
 どう見ても、真剣に守ってくれようとしてるんだろうな、と思うその視線に。
 少し、ドキッとする。


「あいつら何が変なんだろうな」

 ゴウが首を傾げてる。


「なんか――――……正気じゃないっぽい?」

 リアも眉を顰めたまま、言う。


「魔物でしゃべらない奴の正気とか、もともとよく分かんないけどさ。何だろうねえ?」


 皆もなんだか不可解そうで、色々話しながら歩いていたら。
 少し離れたところに変に黄色い風景が広がっていて。


「黄色い花だって言ってたからあれか?」


 ルカの声に皆、そちらに向けて歩き出す。

 近づけば近づくほどに、花の大きさに驚く。
 
 でっかい花! オレよりデカいじゃん、何これ!


「ソラ、離れてろ、あんまり近づかな」
「あ、うん」


 ルカに腕を掴まれて、後ろに下がられる。



「……この花、生きてるか?」

 ルカの、怪訝そうな、言葉。


 生きてる?


「植物てより、魔物に近いのか?動きが風に揺れてるというよりは、自ら動いてるて感じか?」

 ルカの言葉に皆も頷く。

「なんだろう、なんか、花の匂い……かがない方がいいかも知れない。何か、嫌な感覚が……」

 リアが言って、ルカが「焼き払うか」と言った瞬間だった。
  
 急に、横から、変な緑色のものに掴まれた。

 う。わ。何??
 なにこの、触手みたいなの。

 皆は前を見ていて、気づいてない。

 ルカ、と叫ぼうと思った瞬間。そのまま引っ張られて。

 引っ張られていく一瞬で、皆が驚いたようにオレを見上げたのが分かったけど、本当に一瞬で、オレは花畑の真ん中に引き込まれて、そのうちの1つに取り込まれた。

 取り込まれたというのか、引き摺り込まれたというか。とにかく、花に、食べられてしまった、みたいな。



「ソラ……!」

 ルカ達の声が遠くで聞こえる。


 何、これ。

 うわ。甘い、匂い。
 気持ち、悪い。
 体、ベタベタする。

 熱い。

 なにこれ、オレ、溶かされて食べられるとか?

 うわ。何か――――…… 最悪。
 きもち、悪い……。


 甘さにクラクラする。

 吐息が、熱い。




 なに、こ、れ。


 気持ち、悪い。けど、なんか気持ちよくて。
 麻痺してくる。


「……る……か」


 ルカの名前を呼ぼうと思うけど、吸い込んだ息で、花の甘い匂いが脳まで侵すような。声がまともに出ない。


「ミウ!! ソラがどこか分かるか?」


 ルカの、焦った声が、する。 


 いっぱい咲いてて、動いてたから、どれに入ったか、分かんないんだ。
 正直オレですらどの花に入ったか、分かんないし。


 少しして、何かの衝撃がして、花が揺れる。
 瞬間。オレのすぐ近くで何かが、光った気がした。

 でももう、意識が朦朧としていて何が光ったのか、分からない。
 熱くて、溶けそうで。

 食虫植物の、人間版とか?? 食人間植物?? なにそれ……? こわ……。


 この中、出なきゃ……。

 どうしよう、これ。動けない。気持ち悪い、アツイ。

 体が、熱い。息が苦しい。


 オレこんなとこで溶けたくない。

 
 まだ、皆と……ルカと、居たい。

 ルカ……。



 瞬間、周囲が少し、明るくなって。少し熱くなって。



 かと思ったら。
 また何かの衝撃がして、不意に花の上の部分が、開いた。


 
 ふわっと風が体を包んだ。
 ぐい、と風に持ち上げられたみたいになって。

 そのまま、体を抱き締められた。


「ソラ……!」

 頬に熱い、手の感触。


 ルカ……だ。


「……オレ、溶けて、ない?」
「ソラ?」
 
「熱い……体……とけ、てる?」
「大丈夫、溶けてはない」

 そう言ったルカがオレの腕に確かめるように触れた瞬間。
 電気が走ったみたいになって、びくん!と大きく震えてしまう。

「……や、さわら、ないで……」
「……ソラ?」

 ルカがオレの顔を見て、眉を顰めた。

 その手でオレの首筋に触れてくる。
 またしても、ビクンと大きく震えて、熱がブワ、と、体を巡った。


「これって……キース、この状態、戻せるか?」

 ルカがキースに言って、キースの手がオレの額に触れる。呪文が聞こえる。

 ベタベタしてた花の蜜の感触は無くなって。
 清めてくれたのは、分かった。

 それでも、脳の真ん中が熱くて、ぼやけてて。
 辛い。

「ル、カ……」

 ぎゅ、と、ルカの腕に縋る。


「キース、どうだ?」

「これ、ダメだ。中まで熱くて、そっちの方はどうにもできない」

 キースの声。
 え.ダメなの? オレ、もうダメなの?

 ショックすぎて聞きたいのだけれど、ちゃんと話せない。


 熱い。



「る、か……たす、けて、あつ、い……」


 震える体。崩れそうになる。
 ルカが背を抱き締めて支えてくれるけど、触れられてるとこが、熱い。



「リア、もう一度炎出して」
「うん」


 リアの出した炎に、ルカの風が重なって、黄色の花畑全てを取り囲んだ。
 瞬間的にものすごい火が燃え上がって、すぐに消えた。


 辛うじて見えたのは、燃え尽きて、灰になった花畑。





 そこで、オレは、気を失った。
 







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