87 / 296
第2章
「溶かされる?」
しおりを挟む「ソラ」
皆の少し後ろを歩いていたのだけれど、ルカに腕を掴まれる。
「隣に居ろよ」
「……ん」
ルカを見上げる。
どう見ても、真剣に守ってくれようとしてるんだろうな、と思うその視線に。
少し、ドキッとする。
「あいつら何が変なんだろうな」
ゴウが首を傾げてる。
「なんか――――……正気じゃないっぽい?」
リアも眉を顰めたまま、言う。
「魔物でしゃべらない奴の正気とか、もともとよく分かんないけどさ。何だろうねえ?」
皆もなんだか不可解そうで、色々話しながら歩いていたら。
少し離れたところに変に黄色い風景が広がっていて。
「黄色い花だって言ってたからあれか?」
ルカの声に皆、そちらに向けて歩き出す。
近づけば近づくほどに、花の大きさに驚く。
でっかい花! オレよりデカいじゃん、何これ!
「ソラ、離れてろ、あんまり近づかな」
「あ、うん」
ルカに腕を掴まれて、後ろに下がられる。
「……この花、生きてるか?」
ルカの、怪訝そうな、言葉。
生きてる?
「植物てより、魔物に近いのか?動きが風に揺れてるというよりは、自ら動いてるて感じか?」
ルカの言葉に皆も頷く。
「なんだろう、なんか、花の匂い……かがない方がいいかも知れない。何か、嫌な感覚が……」
リアが言って、ルカが「焼き払うか」と言った瞬間だった。
急に、横から、変な緑色のものに掴まれた。
う。わ。何??
なにこの、触手みたいなの。
皆は前を見ていて、気づいてない。
ルカ、と叫ぼうと思った瞬間。そのまま引っ張られて。
引っ張られていく一瞬で、皆が驚いたようにオレを見上げたのが分かったけど、本当に一瞬で、オレは花畑の真ん中に引き込まれて、そのうちの1つに取り込まれた。
取り込まれたというのか、引き摺り込まれたというか。とにかく、花に、食べられてしまった、みたいな。
「ソラ……!」
ルカ達の声が遠くで聞こえる。
何、これ。
うわ。甘い、匂い。
気持ち、悪い。
体、ベタベタする。
熱い。
なにこれ、オレ、溶かされて食べられるとか?
うわ。何か――――…… 最悪。
きもち、悪い……。
甘さにクラクラする。
吐息が、熱い。
なに、こ、れ。
気持ち、悪い。けど、なんか気持ちよくて。
麻痺してくる。
「……る……か」
ルカの名前を呼ぼうと思うけど、吸い込んだ息で、花の甘い匂いが脳まで侵すような。声がまともに出ない。
「ミウ!! ソラがどこか分かるか?」
ルカの、焦った声が、する。
いっぱい咲いてて、動いてたから、どれに入ったか、分かんないんだ。
正直オレですらどの花に入ったか、分かんないし。
少しして、何かの衝撃がして、花が揺れる。
瞬間。オレのすぐ近くで何かが、光った気がした。
でももう、意識が朦朧としていて何が光ったのか、分からない。
熱くて、溶けそうで。
食虫植物の、人間版とか?? 食人間植物?? なにそれ……? こわ……。
この中、出なきゃ……。
どうしよう、これ。動けない。気持ち悪い、アツイ。
体が、熱い。息が苦しい。
オレこんなとこで溶けたくない。
まだ、皆と……ルカと、居たい。
ルカ……。
瞬間、周囲が少し、明るくなって。少し熱くなって。
かと思ったら。
また何かの衝撃がして、不意に花の上の部分が、開いた。
ふわっと風が体を包んだ。
ぐい、と風に持ち上げられたみたいになって。
そのまま、体を抱き締められた。
「ソラ……!」
頬に熱い、手の感触。
ルカ……だ。
「……オレ、溶けて、ない?」
「ソラ?」
「熱い……体……とけ、てる?」
「大丈夫、溶けてはない」
そう言ったルカがオレの腕に確かめるように触れた瞬間。
電気が走ったみたいになって、びくん!と大きく震えてしまう。
「……や、さわら、ないで……」
「……ソラ?」
ルカがオレの顔を見て、眉を顰めた。
その手でオレの首筋に触れてくる。
またしても、ビクンと大きく震えて、熱がブワ、と、体を巡った。
「これって……キース、この状態、戻せるか?」
ルカがキースに言って、キースの手がオレの額に触れる。呪文が聞こえる。
ベタベタしてた花の蜜の感触は無くなって。
清めてくれたのは、分かった。
それでも、脳の真ん中が熱くて、ぼやけてて。
辛い。
「ル、カ……」
ぎゅ、と、ルカの腕に縋る。
「キース、どうだ?」
「これ、ダメだ。中まで熱くて、そっちの方はどうにもできない」
キースの声。
え.ダメなの? オレ、もうダメなの?
ショックすぎて聞きたいのだけれど、ちゃんと話せない。
熱い。
「る、か……たす、けて、あつ、い……」
震える体。崩れそうになる。
ルカが背を抱き締めて支えてくれるけど、触れられてるとこが、熱い。
「リア、もう一度炎出して」
「うん」
リアの出した炎に、ルカの風が重なって、黄色の花畑全てを取り囲んだ。
瞬間的にものすごい火が燃え上がって、すぐに消えた。
辛うじて見えたのは、燃え尽きて、灰になった花畑。
そこで、オレは、気を失った。
78
お気に入りに追加
4,600
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
R18禁BLゲームの主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成りました⁉
あおい夜
BL
昨日、自分の部屋で眠ったあと目を覚ましたらR18禁BLゲーム“極道は、非情で温かく”の主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成っていた!
弟は兄に溺愛されている為、嫉妬の対象に成るはずが?
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
身代わりになって推しの思い出の中で永遠になりたいんです!
冨士原のもち
BL
桜舞う王立学院の入学式、ヤマトはカイユー王子を見てここが前世でやったゲームの世界だと気付く。ヤマトが一番好きなキャラであるカイユー王子は、ゲーム内では非業の死を遂げる。
「そうだ!カイユーを助けて死んだら、忘れられない恩人として永遠になれるんじゃないか?」
前世の死に際のせいで人間不信と恋愛不信を拗らせていたヤマトは、推しの心の中で永遠になるために身代わりになろうと決意した。しかし、カイユー王子はゲームの時の印象と違っていて……
演技チャラ男攻め×美人人間不信受け
※最終的にはハッピーエンドです
※何かしら地雷のある方にはお勧めしません
※ムーンライトノベルズにも投稿しています
瞳の代償 〜片目を失ったらイケメンたちと同居生活が始まりました〜
Kei
BL
昨年の春から上京して都内の大学に通い一人暮らしを始めた大学2年生の黒崎水樹(男です)。無事試験が終わり夏休みに突入したばかりの頃、水樹は同じ大学に通う親友の斎藤大貴にバンドの地下ライブに誘われる。熱狂的なライブは無事に終了したかに思えたが、……
「え!?そんな物までファンサで投げるの!?」
この物語は何処にでもいる(いや、アイドル並みの可愛さの)男子大学生が流れに流されいつのまにかイケメンの男性たちと同居生活を送る話です。
流血表現がありますが苦手な人はご遠慮ください。また、男性同士の恋愛シーンも含まれます。こちらも苦手な方は今すぐにホームボタンを押して逃げてください。
もし、もしかしたらR18が入る、可能性がないこともないかもしれません。
誤字脱字の指摘ありがとうございます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる