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第2章

「何でだろう」

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「泣き止んで、ソラー、はい、タオル使ってー」

 リアが、タオルを差し出してくれるので顔を覆う。
 ひし、と何かが腕にしがみつくので、少しだけ顔を上げると、ミウがしがみついてた。

「……大丈夫だよ」

 ミウに言って、涙を拭いてると。

「何だ?……どーした?」

 3人で少し離れて海の方を見ていたのに、いつの間に近くにきてたのか。ルカの声がして。
 かと思ったら、ぐい、と頭を掴んだ手が、オレを、ルカの方に引き寄せて。
 胸に頭、押し付けられて。そのまま肩を抱かれた。


「何泣いてンの、お前」

 クスクス笑うルカ。


「こいつどーしたんだ、リア?」
「あー……のー……ちょっと、色々話してたら……」
「ふうん……?」


 リアの言葉に、よく分からなそうな声を出しながら。
 でも、ま、いっかと思ったみたいで。

「リア良いぜ、引き受ける」

 ルカの笑みを含んだ声が聞こえて、肩を抱く手に力がこもる。

「うん、ごめんね、よろしく。ミウ、ちょっとおいで~」

 リアはもう、ルカに任せる事にしたらしくて、ミウを抱っこして連れたまま、ゴウとキースの所に歩いて行ってしまった。
 


「つか、ほんと、何泣いてんだ、ソラ。しかもリアの前で」

 ふ、と息をつきながらの、声。
 ぐい、と顎を掴まれて、上向かされる。
 
「――――……泣くのは、ベッドの上だけにしろよ?」
「……っ」

「……襲うよ? ここで」
「――――……っっっ」

 とんでもない事囁かれて、途端に涙、引っ込んだ。


「はは、泣き止んだ。 面白ぇな、お前」

 クックッと笑いながら、よしよし、と頭をぐりぐりされる。
 タオルを取られて、顔をめっちゃ拭かれて。

 また上げさせられて、泣き顔、しみじみ見られて。


「――――……泣くなよ、馬鹿ソラ」

 ふ、と目を細めて、見つめてくる。


 綺麗な、青い、瞳。
 ――――……じっと見つめてると、胸が、痛い。


 知らない感覚で、思わず首を傾げた。




「……オレ、ね」
「うん?」

「ルカって、さ」
「ああ?」

「…………偉そうだし、勝手だし、意地悪だし、意味わかんないし、すぐエロいことするし……って、ルカのこと、思ってたんだけど」

「あ?」

 じろ、と、睨まれるけど。
 でも、それ以上何も言わないので、そのまま、話を続けることにした。


「――――……なんか……良く分かんないけど……ここにいる、間は」
「――――……」


「ルカが、オレと居たいと思ってくれてる間は……」


 ルカを見上げて、まっすぐ、見つめて、自分の中の気持ちを整理する。


 なんか、よく分かんないけど。

 ほんとに偉そうで、Sっぽくて、意地悪で、からかってばっかで、エロくて、なんか……ほんと……ゲームの主人公としては、どーなのって感じなキャラだけど。

 でも、年下なのに、なんかすごく、頑張ってて、強くて、逞しくて、たまにちょっと優しくて、ふと気づくといつも、そばに居て、オレに触れてる、この勇者が。


 ――――……なんか、嫌いじゃなくて。



「……ルカと、ずっと、居るから」



 そう言ったら。
 ルカは、ふ、と瞳を細めて、微笑んだ。


「何今更。……ずっと居ろって、最初から言ってるだろーが、オレ」


 そういえば。
 そうだった気もする。



「……そういえば、それって、何で?」


 疑問をそのまま口にしたら。
 ルカはふと止まって。さあ?と首を傾げた。


「なんでだろうな? よく分かんねえ」
「――――……」


「つかお前のオレの評価って、なんな訳」
「あ。ごめん……つい、正直に……あ」

 失言続く自分の口を塞いでいると。
 ルカが苦笑い。

「じゃあ、お前は何で、そんなオレの側に居るとか言ってんの?」
「…………さあ。……なんでだろ?」


 よく分かんないけど。さっきリアの話を聞いてた時。


 ……オレを抱いて寝てる時のルカの顔が浮かんで。
 ――――……ちょっとだけ可愛い、年相応の顔して寝てるルカの顔。

 ……少し、安心して、寝てくれてたのかなあ。とか。

 ……ちょっと、浮かんじゃったんだよね。 



「?」

 なんか急に影が出来て、上を向いたら。
 キス、された。



「……っ」

 皆、すぐ、そこに居るのに。

 キスが離れても、びっくりしたまま、ルカを見つめていたら。
 ふ、と笑まれる。


「……行くぞ、ソラ。とりあえず町に行って、船出せるか聞くから」
「あ、うん」


「お前、船酔い――――……しそうだなー」

 根拠もないのに、勝手に想像して、笑ってるし。


「しないし!……多分」
「多分かよ……」
 

 クッと笑い出すルカ。
 海に船で出た事って、記憶がない。


 湖の遊覧船とは違うかな??
 ……違いそうな気がする。

 酔い止め薬とか…… うう。無さそうだけど。


「ほら。来い」

 腕を引かれて。
 ん、と頷いて、皆の所に向かって、ルカと一緒に歩き出した。



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