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第2章

「一瞬で」

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 え、何。




 思って、振り仰いだ瞬間。
 ものすごくでっかくて黒い化け物の足に掴まれてる事を知った。


 あ、これが――――……探してた魔物、か。
 飛べるのか……。


 ルカ達が、驚いたような顔で、こっちを見上げてるのが、分かる。

 すぐに、魔物が、方向を変えたから、ルカ達が視界から消えてしまう。



「――――……っっ」



 
 本当に怖い時って。
 声も出ないんだ……。


 思った瞬間、だった。


 何だかすごい音と衝撃が、伝わって。
 もう何だか分からず目をつむって。


「人のモンに、勝手に触ってんじゃねえよ」



 ものすごく怒ってる、みたいな、低い声が聞こえて。
 体に触れてるのが、固いものじゃなくなって。

 慣れた感触に、抱かれた気がしたけど、怖くて目も開けられず。


 音と衝撃がやんでから、おそるおそる、目を開けたら。
 オレは、ルカに抱えられたまま、空中からふわりと、地面に着地、したところだった。

 その目の前に、さっきまで、オレを掴んだ、魔物の足が、どしゃ、と落ちてきて。



「う、わっ……」

 驚いてる間もなく、黒いデカい魔物は、物凄い声を上げながら、そのまま崖の下に、落ちて行く、ところで。


「……え」


 何。これ。足。でか。怖。 ていうか、足だけ、だし。 こわ。
 あいつ、今、落ちてった……?


 この数秒の間に起きた事があんまりすぎて、オレは、ぺたん、と腰を抜かしたような感じで、地面にへたりこんだ。


「ん?」

 ルカが、剣の血を振り落として、布みたいなので拭きながら、オレを見た。


「どこか痛めたか?」

 剣をしまってから、へたり込んでるオレの前にしゃがんで、真正面から見つめてくる。


「…………」


 首を横に振る。ドコも、痛くない。


 ただ、事態に、ついていけてないだけ。


「……ソラに手出すとか、馬鹿だなあいつ」
「一番弱そうだったから捕らえたんだろうけどねー。一番触っちゃいけないとこだよねー。馬鹿だわ」
「――――……ルカだけで一瞬だったね。オレ達、何もする事なかったし。拍子抜けすぎ」


 ゴウとリアと、キースがそんな風に言って、後ろで笑ってる。


「痛いとこ、ねえ?」

 ルカの言葉に、こくこく、頷いて。


「……たお、したの……?」

「ああ。 なんか……生意気に結界みてえの張ってたけど。それごとぶった切った」


「――――……」


 イベント的には……結構倒すのに苦労するやつじゃ、ないのかな。


 一瞬、て。


「……立てねえの?」

 ぷ、と笑って、ルカが、オレの頬に触れる。


「何か……色々――――……強烈すぎて」


 そこに落ちてる、デカい足も、怖すぎて。

 視界に入ってくる足にすら、怯えていると。


 次の瞬間。リアが、呪文を唱えたと思ったら、その足が一瞬で、燃え尽きた、というか。炎は一瞬しか見えなかったけど、灰みたいになった。


「――――……」


 軍隊連れてくより、4人の方が強い、て。

 …………分かった気がする。



「ソラ人質にさせれば、ルカ1人で魔王も倒せちゃうんじゃないの」


 リアが面白そうに笑ってるけど。 

 ルカはそれには答えずに、オレの手を引いた。



「立てねえの、お前」

 オレを立たせようとしたルカが、足に力が入らないオレに、クッと笑った。


「っしょうが、ないじゃん。 もう、何もかも、全部、ありえないような、ことなんだよっ……」


 掴まれたのも飛んだのも、あんな足が目の前に落ちてくるのも、落ちてく前の魔物の声すら、まだ怖い。


「別に悪いとは言ってねーし」

 笑いながら、ルカが、目の前に背中を見せてしゃがんだ。


「立てるまでのってろ」

「――――……え」

「めんどくせえな、早くしろよ」
「……あ、うん」

 ルカに手をかけると、すぐ立ち上がったルカに、軽々おんぶされてしまった。


「……お前、震えてる。――――…… ひっついてろよ」
「――――……っ……」

 3人に聞こえないように、囁いてくれたルカに。
 ……何を思ってそうしてるんだか分からないけど。

 なんか、胸が、ドキ、とする。



「……あり、がと」
「ん?」

「……助けてくれて」

 そう言ったら。
 ルカは一瞬黙って。それからクッと笑った。


「無理やり連れてこられて巻き込まれて、お前、被害者だと思うけどな」
「……それでも。 ありがと」

 言うと。
 ルカは、ぷ、と笑って。


「ん」
 と頷いた。






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