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第4章「先生としてって言ったけど」

10.誰にでも?

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 その後は、男の子たちも一緒にベンチに居たので、その女の子たちとは話さず過ごして、試合が終わると、琉生はすぐに着替えを済ませた。

「なあ、これ一緒に洗濯して。今日は持って帰りたくないから」

 琉生が服を借りた男子にお願いすると、その子は「汗すげーかいてたよなー」と苦笑して受け取る。すると、あの女の子が「私洗ってあげようか?」と手を出したのだけど。琉生は「もう頼んだから大丈夫だよ。な、任せた。今度何か奢る」と言って笑った。はいはい、と頼まれた男の子は頷いてる。

「琴葉、ごめんね、お待たせ。行こ」

 私の側に来て、そう言う琉生に、私は立ち上がった。

「琉生、今日一緒にご飯食べないの?」

 女の子の言葉に、琉生は、「また今度。今日は行くとこあるし」と私を見つめる。

 ――――女子の視線が痛い……。

「じゃあな。またやろ」

 そう言った琉生に、皆が笑顔。一通り話し終わると、行こ、と私に言ってから、ドアを開けてくれた。
 私も、さよならとだけ言ったら、男の子たちは皆、良い挨拶をしてくれるけど、女の子たちが微妙なのを、なんとなくまっすぐには見ずにドアをすり抜けた。
 ドアが閉まると、少し、ほっとする。

 ……色々考えたけど、やっぱり、あれに怒るのは大人気ないよね。うん。
 なかったことにしよ。うん、そうしよう。 と、自分に言い聞かせていると。

「ありがと、付き合ってくれて。めちゃくちゃ、楽しかった」

 隣の王子様は、めちゃくちゃいいお顔で、キラキラ笑って見せてくれる。少し気分が浮上した。

「良かったね、琉生、サッカー、上手だった」
「ありがと。一番頑張ったスポーツだからうれしい」
「そうなんだね」
「琴葉が見てくれてて、楽しかった。ごめんね、二時間も待たせて」
「全然。試合、面白かったよ」
「ほんと?」

「うん。皆元気で、感心しちゃった」

 そう言ったら、琉生は、「琴葉も元気でしょ」と笑う。

「私、あんな風に動けないよ」
「そう?」
「うん。ていうか、昼間のボーリングだけで、すでに腕が痛い……」
「え。大丈夫?」
「明日はもっと痛くなってるかも……」

 筋肉痛、遅れてやってくるんだよね。年というのか……。
 なんかそれは言いたくなくて、そこで止める。

「ちょうどお腹、空いてきたかも」
「そっか。ていうか、オレはもうめっちゃ空いた」

 笑顔で言う琉生に、「そうだよね。琉生は何食べたい?」と聞くと、琉生はクスクス笑った。

「勝ったの、琴葉だからさ。琴葉の好きなとこでいいよ」
「えーでも……」

「好きなとこ、どこでもいいよ。こないだオレがよく行く店に行ったから、琴葉がよく行く店とかは?」
「えーと……よく行くお店」

 ふっと、春樹と行ってたお店が浮かんでしまった。
 いや、あそこは……すごく美味しかったけど。でももう嫌な思い出のお店になっちゃったし……。

「どこか思いついた?」
「あ、ううん。私もほんとに、どこでもいいよ」
「――琴葉? なんか今思ったでしょ? 言っていいよ?」
「……よく行くお店はあるんだけど」
「どんなとこ?」

「学校の駅前の……レストランなんだけど」
「ああ。季節の料理、みたいな?」
「うん」
「入ったことないな。おいしいの?」
「うん。おいしい……んだけど」
「けど?」

 春樹とずっと行ってた店だし、別れたとこだし、なんかもう言いたくないけど。少し黙ったけど、琉生が、どうしたの?と聞いてきた。

「隠すほど大したことじゃないんだけど……」
 私はちょっと困りながら、琉生を見上げた。

「その店、よく春樹と行ってて……別にそれだけならいいんだけどね」
「うん」
「……最後、そこで、別れ話したから」

 私の言葉に、琉生がふと、考え深げにじっと見つめてくる。

「だからほかにいいとこないかなーと思っただけなの。ごめんね、こんな話、して」

 なんだか言わなくても良かったのになと思いながら、そう言った私に、琉生は少し考えてる。

「……あ。いいこと思いついた」
「ん?」
「そこに行って、おいしく食べて帰ろうよ」
「……え」

「そこで楽しく食べて帰って、嫌な場所じゃなくしよう?」

 ふ、と琉生が笑う。
 
「……そんなの、琉生は嫌じゃない? ごはん、楽しく食べたいし」
「だから楽しく食べよ? それに、琴葉の嫌な気持ち、飛ばせるなら、むしろ行きたい」

 そんなの、いいのかな? とすごく考えてしまう。

「――なんか私、琉生に、頼りすぎてる気がするんだけど……こんなことに付き合ってもらうの悪いし」

 困ってると、琉生はちょっと首を傾げた。

「え、そう? 頼られてる? 全然まだまだ、頼ってくれていいと思ってるけど。ていうか、学校ではどうしても、オレが頼ってるし」
「それこそ、頼られてる気がしないんだけど」
「え? そう??」

 二人で、きょん、とした顔で、顔を見合わせて。
 それから、お互い、口元を押さえて、ふ、と吹き出してしまった。

「ごはん、楽しく食べるくらい。何も悪くないよ。おいしいんでしょ?」
「……うん。おいしい」
「じゃあ楽しみ。行こ?」
「うん。ありがとう」

 心が。
 ほんわか。する。なあ……。


 琉生は。
 ほんとに、優しい。と思う。


 ――――さっきの女子の言葉には、ずーんとなったけど。
 

 ……誰にでも優しいから、皆、勘違い。かぁ。
 でも、誰にでも好きなんて、言わない……と思いたい。と思ってしまうの、だめだろうか……。





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