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第4章「先生としてって言ったけど」

9.そんなに、年上。

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 ――すごい。元気だ。


 電話の後、電車で移動してきて、駅ビルの屋上のコートにやってきた。
 サッカーと言っていたけど、今日やるのは、フットサルという競技みたい。

 さっき説明してくれたのだけど、普通のサッカーグラウンドの九分の一のサイズのコートで、五対五でやるらしい。
 ルールは大体サッカーと一緒だけど接触プレーはなしとか、色々あるそうな。
 とりあえずゴールに入れば一点っていうのは一緒だから見てて、と、とってもアバウトに最後言って、嬉しそうに琉生が走っていった。私は、コートの端のベンチに座らせてもらった。

 ……めっちゃくちゃ、激しい。
 絶対私無理だなぁと苦笑が浮かんでしまう。

 人数が、琉生を入れても九人らしくて、今は五対四で戦っている。
 結局シューズだけじゃなくて、Tシャツとズボンも借りて、着替えてて、本格的に参加してる。

 ――琉生、楽しそう。
 カッコいいなと思うけど、めちゃくちゃ若いなと思ってしまう。

 こないだまで大学生だもんね。
 一緒にしてる人達は、大学のサッカー仲間らしくて、皆も若い。

 というか、琉生って、ちょっと大人っぽい顔をしてるんだなーと、実感。
 一緒にいる子たち、ほんと若く……というか、子供に見えたりする位で。

 あの子たちと、琉生、同じ年なんだなーと思うと、またしても、んー、と思ってしまうけど。

 でも本当にカッコいいな。動きが早くて。上手。
 シュートを決めると、こっちを嬉しそうに振り返ってくるのが、もう、なんか。
 ……すごく可愛い。

 はー。出会いが王子さまと見違えたからなぁ。しかもスーツでばっちり決めてたし。
 四つも年下なんて、全然思わなかった。あの時は何も気にならなかったから、年を気にしなければ、全然普通に居られるのかなあ。……って、知ってからは、無理だな。
 自分がこんなに堂々巡りのことで悩むことになるとは……。

 結構割り切って、すぱすぱ決めてきたのだけど。これに関しては……。
 悩むってことは、もしかして、私は、琉生とそうなりたいから、悩むのだろうかと、ちらっと思うんだけど。
 
 難しいなあ……。

 と、その時。

「こんばんはー」
 女の子二人。男の子三人。ドアを開けて入ってきた。ドアのすぐそばに私のベンチがあるので、一瞬、その子たちが私を見て、ん?と不思議そう。

「あ、どうも……」
 なんとなくお辞儀をすると、その子たちも、どうも、とお辞儀してくれる。

「ちょっとタイム」

 琉生の声がして、プレイしてた皆もこっちに気づいて、駆け寄ってきた。
 琉生が私の隣に立って、ごめんね、と苦笑い。

「誰?」
 と聞かれて、私のことだよね、と言った男の子を見上げると。

「誰、とか言うなよ。オレが一緒に来てもらったの。琴葉さん、だよ」

 琉生は呆れたようにその男の子に向かって言った。

「琴葉ちゃん?」
「琴葉、さん。 ていうか、ちゃんとか馴れ馴れしい」

 む、と睨んだ琉生に、周りの男の子たちが一斉に、琉生を見た。

 ……ん? 何だろ。 どんな視線?
 と思った時。琉生が鞄から財布を取り出して、私を見た。

「飲み物、買いに行こ」
 腕を引かれて立ち上がると、「ちょっと行ってくる。やってていいよ」と皆に言った。
 歩き出すけど、なんか後ろから視線が……。

「私、来て大丈夫、だった?」
「何で?」
「なんとなく……?」
「全然、大丈夫。ていうか、オレは琴葉が応援してくれてると、すごい点が入るみたい」

 はは、と楽しそうに笑う琉生に、そっか、と微笑んでしまう。
 買ってもらったカフェオレを手に、さっきのベンチに一緒に戻った。今十二人になったから、一人の子がベンチに残ってて、あと女の子二人も座っていた。
 余ってた後ろのベンチに座ると、琉生も隣に座った。

「今日は琉生、来れないって聞いてたよー」
「そうだよー」
 前の女の子二人が振り返って、琉生にそう言った。

「用事があったから一回断ったんだけど、人数足りないって電話きたから」

 さっき買ったお水を飲みながら、琉生がそう答える。

「最近、サッカー部にちょっと参加してたんだけど、指導の方だからさ。自分もやりたくなって……付き合ってもらっちゃったんだよね」

 ふ、と笑いながら私を見てくる。

「そっかー、琉生、先生なんだもんな」

 男の子は、なんかすげーな、と笑う。
 先生って実際どう? なんて聞かれて、琉生が色々話してると、試合をしてた子たちから、琉生とその男の子に声が掛かった。

「行ってくるね」

 琉生が私に言うので、頷くと、楽しそうに走っていった。


 少し試合を見てたら。
 前の女の子たちが、ふと、こちらを振り返った。

「あのー……」
「はい?」

「琉生とはどういう関係、ですか……?」
「え。……と。先輩、かな。」
「あ、そうなんですか? あ、なんだー、こんなとこまで来るから、彼女かと……」
「いくつ先輩なんですか?」
「いくつ……四つ、ですね……」

 なんだか、ちょっと……ちょっとというか……敵意ぽいものを感じる。……気のせいかな。

「あ、そんなに上なんですね、良かったー」
「良かったって言い方」
「えーだって」

 楽しそうに笑うけど。
 ……えっと。


「琉生は誰にでも優しいから。勘違いする人多いから」
「まあ、そうだねー」
「でも、そんな年上なら大丈夫ですよね?」

「――――」

 って。
 ……ああ、なんか。すごく敵意を感じるこの子は、きっと、琉生のことが、好きなんだろうな。と。分かった。
 

 ここで、この年下の女の子たちに張り合う訳にはいかないし。
 というか、そんなのおかしすぎるし。


「そうですね」

 ゆっくり頷いて、微笑んで見せた。

「ですよね。良かった」

 そう言って、女の子たちは、また前を向いて、応援を始めた。すごく、楽しそうに。


 私は、ふ、とため息をついた。


 ――――おちつけー。
 学生出たばっかりの女の子たち。……なんなら、高二の、私の担任のクラスの生徒たちに近い存在だって、思おう。
 でもって、多分、琉生のことが好きだから、一緒に来た私に警戒したんだと、思おう。というか、きっと実際そうなんだと思うし。


 ……でも。

 そんなに年上、か。
 琉生と同じ年の子たちからは。そう見えるんだよなーと思うと。

 甘いはずの、カフェオレが。
 ……なんだか甘さを感じないような。


 変な感覚。

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