102 / 105
第4章「先生としてって言ったけど」
7.いつも
しおりを挟むスマホを取り出すと、そこには、春樹の名前。
ひたすら二人になるのは避けてきたから、学校で話せないから、遂に電話か。
……何だろう。何の用があるのかな。
私は、そのまま、鞄の中にスマホをしまった。
「電話じゃない?」
「……電話だけど、今じゃなくて大丈夫」
そう言うと、琉生はそっかと頷いて、それから、ちょっとあたりを見回した。
「これからどうしたい? ここでどこか行ってもいいし、家の方にもどっても良いし」
「ん……琉生は、何かしたいことある?」
「うん。……ある」
「あ、あるの?」
ふふ、と笑ってしまう。
「じゃあ最初から言ってくれたらいいのに」
「琴葉がしたいこともしたいし。むしろそっち先にしたい」
「本も買えたし、ボーリングも楽しかったし。私もういいよ。琉生のしたいことって何?」
琉生は私を見て、にっこり笑う。
「ネクタイ、買いたくて」
「あ、そうなんだ」
「そんなにまだ持ってないからさ。付き合ってくれる?」
「うん、いいよ。どこで買いたいとかあるの?」
「あっちのデパート行って、良さそうなとこで選ぼうかな」
「いいよー」
二人で歩き出す。その瞬間、また電話が震えてるのに気づく。
……何なんだろう。もう別れてるのに。春樹が別れようって言ったのに。
なんだかすごくモヤモヤする。
ネクタイのあるお店を覗きながら、私はゆっくり息をついた。
「ごめんね、あの端っこで、少しだけ電話してくるね」
「あ、うん。ここで見てる」
「うん」
着信二件。どっちも春樹だった。
窓際に立って、下を見ながら、電話を鳴らす。
あれ以来、初めての電話。
……こんな気持ちで、春樹にかける日がくるなんて、思わなかったなあ……。
出なくてもいいよ、なんて思ってしまうけど、呼び出し音が鳴って少しで、繋がってしまった。
『もしもし、琴葉?』
「……森本先生。何か、用ですか?」
敢えて、名字で呼ぶと、春樹は少し黙った。
『……その……実家、どうしたかなと思って』
「――」
……分かってたけど。
多分それ、気にしてるんだろうなって。
「……あのね」
『――――』
「別れようって決めたのは、森本先生でしょ。私のことは、気にしなくていいよ」
『――――』
「……千里とか健司さんとか……一緒に来てくれたから、楽しかったし」
『そうなんだ』
ほっとした感じの返事。
――春樹がほっとするのも、おかしいよね。……何だか、自分の中が嫌な気持ちでいっぱいになりそう。
「……私の家族も、がっかりしないで済んだし。もう気にしないで。好きな人と、仲良くね」
そう言うと、春樹は黙った。
『琴葉、あの……』
「……私、一人で実家に帰るとこだったんだよ? 婚約者と別れて。今更、どうして気にするの」
『……ごめん』
「……私、もう大丈夫だから、きにしないで。電話も、しないで」
少し待って、何も言わない春樹に、それじゃ、と言って、電話を切った。
「――――」
なんかもう、意味が分からない。
はーもう。
春樹のこの心配は、優しさじゃないって、ほんと、分かってくれないかな。
すごく嫌な気分になってしまって、スマホを見つめる。
琉生が居た店の方を見ると、ちょうど琉生が出てきて、私を見つけたところだった。
戻らなきゃ、と思った時。
琉生が、早足でこっちに向かってきた。
「今戻ろうと思ってたんだけど……」
私も途中まで歩いていたところを、腕を取られて、窓際に戻る。
「琉生?」
「大丈夫?」
「……?」
「なにか嫌な電話だった?」
「――――」
心配そうな顔。
「……あんな遠くからも分かっちゃうくらい変な顔してた?」
「変な顔はしてないけど。……なんとなく」
ちょっと困った顔でそう言われて、私は少し俯いた。
「……春樹が、実家、どうしたかな、だって。良く分かんない心配してて」
「――――」
琉生は、ふ、と眉を寄せた。
「良く分かんないよね。ほんとに……」
何だかどうしようもない気持ちで苦笑した私に、琉生は首を振った。
「……森本先生、ほんとに琴葉が好きだったんじゃないかな。それで気になってるんだろうね」
「……」
「まあだからと言って、最後が最後だから、琴葉にとっては意味が分かんないだろうけど」
「……」
困ったように言ったと思ったら。琉生は私をまっすぐに見つめた。
「森本先生、ほんともったいないことしたな~ってオレは思うよ」
「――」
「琴葉と結婚できないんだからさ」
「何、それ……」
「きっとあの人も思うんじゃないかな。 琴葉と結婚してればよかったなーって」
「……どうだろ」
苦笑いで首を傾げると。
琉生が、ぽんぽん、と私の頭に手を置いて、くしゃ、と撫でた。
「元気だして」
琉生を見上げると、琉生は、ふ、と鮮やかに微笑んだ。
「ネクタイ。一緒に選んでくれる?」
別に撫でられたから、とかじゃないけど。
なんだか嫌な気持ちでいっぱいになりそうだった気持ちは、何だか少し晴れて。
「……うん」
私が微笑んで頷いて、二人で歩き出した。
……なんだかな。四つも年下なのに。
先生としてちゃんと指導するとか、言ったのに。
いつも、とっても、助けてもらっている気がする……。
……最初に甘えまくったからかな。
12
お気に入りに追加
578
あなたにおすすめの小説
危害を加えられたので予定よりも早く婚約を白紙撤回できました
しゃーりん
恋愛
階段から突き落とされて、目が覚めるといろんな記憶を失っていたアンジェリーナ。
自分のことも誰のことも覚えていない。
王太子殿下の婚約者であったことも忘れ、結婚式は来年なのに殿下には恋人がいるという。
聞くところによると、婚約は白紙撤回が前提だった。
なぜアンジェリーナが危害を加えられたのかはわからないが、それにより予定よりも早く婚約を白紙撤回することになったというお話です。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
【完結】【R18】男色疑惑のある公爵様の契約妻となりましたが、気がついたら愛されているんですけれど!?
夏琳トウ(明石唯加)
恋愛
「俺と結婚してくれたら、衣食住完全補償。なんだったら、キミの実家に支援させてもらうよ」
「え、じゃあ結婚します!」
メラーズ王国に住まう子爵令嬢マーガレットは悩んでいた。
というのも、元々借金まみれだった家の財政状況がさらに悪化し、ついには没落か夜逃げかという二択を迫られていたのだ。
そんな中、父に「頼むからいい男を捕まえてこい!」と送り出された舞踏会にて、マーガレットは王国の二大公爵家の一つオルブルヒ家の当主クローヴィスと出逢う。
彼はマーガレットの話を聞くと、何を思ったのか「俺と契約結婚しない?」と言ってくる。
しかし、マーガレットはためらう。何故ならば……彼には男色家だといううわさがあったのだ。つまり、形だけの結婚になるのは目に見えている。
そう思ったものの、彼が提示してきた条件にマーガレットは飛びついた。
そして、マーガレットはクローヴィスの(契約)妻となった。
男色家疑惑のある自由気ままな公爵様×貧乏性で現金な子爵令嬢。
二人がなんやかんやありながらも両想いになる勘違い話。
◆hotランキング 10位ありがとうございます……!
――
◆掲載先→アルファポリス、ムーンライトノベルズ、エブリスタ
裏切りの代償
志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。
家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。
連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。
しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。
他サイトでも掲載しています。
R15を保険で追加しました。
表紙は写真AC様よりダウンロードしました。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
妻のち愛人。
ひろか
恋愛
五つ下のエンリは、幼馴染から夫になった。
「ねーねー、ロナぁー」
甘えん坊なエンリは子供の頃から私の後をついてまわり、結婚してからも後をついてまわり、無いはずの尻尾をブンブン振るワンコのような夫。
そんな結婚生活が四ヶ月たった私の誕生日、目の前に突きつけられたのは離縁書だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる