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第4章「先生としてって言ったけど」
4.癖
しおりを挟むイタリアンと中華と和食とお好み焼き、どれがいい?と聞かれて、笑ってしまいながら迷った末、お好み焼き、と答えた。
他のは一人でも入れるけど、お好み焼きはあんまり行かないから、と言ったら、そうだね、と琉生が笑う。
「夕飯、一人でお好み焼き行かないもんね」
「うん。行かない。駅前にあるんだけどね」
「外食、多い?」
「ううん。帰りがすごく遅くなった時は、買って帰ることもあるけど、大体簡単なものつくるかな」
「そうなんだ」
「琉生は? どうしてる?」
「外で食べたい時は、こないだ一緒に行ったお店行くかな。時間があれば作る」
「あ、あのお店? 千里と三人でいったところ?」
「うん。塩分とか減らして健康食作ってくれるから」
はは、と笑いながら、琉生が言う。
「じゃあもうほんとに、お家のごはんみたいになるの?」
「うん」
「いいなー、そんなお店欲しい」
「あんまりないよね、あんなに絡まれるの、最初はびっくりしたけど」
クスクス笑いながら、琉生がお好み焼き屋さんのドアを開けてくれるので、ありがとうと言って中に入る。ほんとにこういうの、スマートですごいなと感心してしまいつつ。
二人掛けのテーブル席。鉄板を挟んで向かい合った。
「そういえば昨日、同期の飲み会。楽しかった?」
「うん。竹田先生はなんかお兄さんみたいだし。山本先生も気が合いそう」
「良かったね。やっぱり一緒に新任になった同期って、ちょっと特別だから」
入って早々の色んな事、励まし合いながら乗り切るイメージがある。
教師って、授業だけしてればいいってわけじゃ全然なくて、勉強しないといけないことも色々あるし。
「でも、オレの担当は琴葉だから。どんな大変でも頑張れるし、楽しいけどね」
そんなことをさらりと言って、琉生は微笑んでる。
「あのね……何度も言ってる気がするんだけど、琉生はそういうの言い慣れてるかもだけど……私が慣れてないから……」
「ていうか、オレ言いなれてないってば」
「――――」
「こんなの女の子に、そうそう言わないよ」
「――――」
そうそう言わない、よりも。
なんか、もう、「女の子」とか言われると。なんだかとってもこそばゆい。
うう。……もうほんとに、いろんなことで、勝てる気がしない。
色々注文してから、メニューを閉じて、琉生が私を見つめる。
「そういえば、琴葉さ。癖、なのかな」
「ん?」
「ここに触る癖、ある?」
とんとん、と自分の胸元に触れて、琉生が言う。
真似て、自分の胸元に手を当ててから、あ、と気づいた。
指輪をかけてた、ネックレスに触る癖。
確かに何度か触れようとして、無いって思って、すぐ降ろしたり……してたかも。
「うん。……ちょっと、ある」
「自覚あるんだね」
琉生はクスクス笑う。
「無意識なのかと思ってた」
確かに前は無意識で触ってたけど、指輪がなくなってから、「触ろうとして無い」ってことに気づいてから、意識するようになったっけ。
「前は無意識だったけど……目立つ?」
「いや。目立つ、とかじゃないんだけど。なんか手を握るの、可愛く見えて。何回かしてるから、癖なのかなと思って」
そんな風に邪気なく、言われると。
なんだか少し、複雑な気分。
――――……。
手を握る癖、じゃなくて。
ネックレスにかかった、服の下の指輪に触れる、癖。
そんなのが癖になってるのは、別れてから知った。
「……ちょっと癖だから、直すね」
「ん? 直さなくてもいいけど」
クスクス笑う琉生。
「ううん。直す」
私がそう言って、ふふ、と笑うと。ちょっと不思議そうにしながらも、琉生も微笑む。
長い分、なんだか染みついて残ってる思い出とか、いろんなこと。
少しずつ、吹っ切ろう。そんな風に思う。
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